第七話
「話が大分逸れたな。まどかの目標はともかくとして、まずは目の前のクエストからしっかりと達成していこう」
「え?ウィズも目指すんじゃないの?」
「いやなんでそうなる」
「でも師匠に会うためには上を目指さなきゃダメなんじゃなかった?」
「エーレ!ばっ!お前な!?」
「えー!?何々?ちょー気になるんですけど!?」
「ふふ。初恋の師匠なんですって。ちょっと妬けちゃうんだ」
「きゃー!何それ!?マカロンでしょー?って、それ私やないかーい!!」
「ゲームとやらの話はもうええわっ!話を戻すぞ」
「「はーい」」
「気に、なりますぞ」
「うるせぇっ!」
「そ、それがしだけひどいですぞ!?」
昨日出会ったばかりなのに、ひどく姦しく、ひどく心地良い。そんな気分に浸るパーティーだが、クエストが達成のために、ウィズがみんなの気を再度引き締めて話をまとめる。
ウィズは森の中腹まで調査が必要なこと、再度ダガーウルフの群れ、もしくは別の魔物に襲われるかもしれない可能性があること、そうなった時、おっさんとまどかが鍵になることを伝える。魔物の群れに襲われた場合は、盾役を中心におっさんが殲滅し、上位種のような強力な魔物が現れた場合はまどかが一対一でスキルで対処することを決める。
「盾役の当てはエヴィンさん?」
「そそ。タイミングのいいことに奥にいるみたいだしな。みんなに異論がなければ後で声を掛けにいくよ。野営の見張りと火の番を交代ですることを考えるともう一人、索敵強化のためにスカウト、もしくは前衛を厚くさせられればいいんだけど」
「戦力的にはどちらでも問題ないんじゃない?前衛はウィズが入ればいいし、どちらかに絞るよりも信頼できることの方が重要だと思う。昨日の失敗もあるし」
「おっさんは?」
「それがしはスカウトのほうがいいでござるな。早く敵を発見できればできるほどそれがしの準備も整うでござるよ」
「なるほどね。それじゃ……」
「ちょ、私は!?」
「スカウトの冒険者をメイン探すけど、拘らずに信頼できそうな奴を探した方がいい。準備期間は三日間を想定しているからその間にまどかへに色々教えつつ、準備をしよう」
「スルースキル高っ!?」
「「了解」」
「それじゃエーレ、エヴィンさんの所へ行くか」
「わかった。二人はどうするの?」
「まずは顔見知りの俺達だけでいいだろ。全員で行って警戒されてもつまらない」
「そうね。それじゃ行きましょうか」
不満顔のまどかと対照的に嬉しそうなおっさんを置いて、二人は飲み物を新たに一杯購入し、酒場の奥へと向かった。そして、買った飲み物を座っているスキンヘッドに入れ墨を入れた男の前に置いて声をかける。
「エヴィンさん、ここいいかい?」
「おうウィズ。気が利くなエーレ。まぁ座ってくれ」
「ありがと、エヴィンさん」
「で、さっきまであっちでがやがややってたみたいだが、旨い話か?」
「報酬はいい。だけど、危険がないわけじゃない」
「盾役の俺に話持ってくるわけだしな。それに危険のないクエストなんてありゃしねぇ」
受けるランク、依頼料が低い物でさえ油断できない、そう知っている彼をウィズは信頼している。自分自身そう考えているし、そのための準備も怠らない。そんな二人は冒険者として似ているのだろう。
「言えてる。興味は持ってくれてるみたいだし、さっそく内容を聞いて貰っても?」
「あぁ、この酒を飲む間はゆっくり聞いてやるよ」
「オーケー。森の調査を手伝ってほしい。浅い所だけじゃなく、中央の湖までだ」
「ん?確かに時間はかかるし、野営も必要で警戒すべきだろうが、あそこにいるのは変わり者の魔術師殿だろ?お前ら3人なら俺に声を掛けなくてもなんとかなるんじゃないのか?」
「いつもの森であれば、ね。昨日も森の調査に行ったんだけど、森の浅い所にワイルドボアがいた。夜にはダガーウルフの群れに襲われた。しかもボスは上位種。常ならありえないことが起きているんだ。森で何かが起きているとしか思えない」
肩をすくめて、軽い口調で言う。
「軽く言うことじゃねーだろうが。ま、お前らが無事でよかったよ。しかし、いつも出ない魔物の群れに、上位種か、最悪は……」
「エヴィンさんが考えている自体もありうるじゃないかってね。よっぽど運が悪くなきゃ最悪の事態にはならないと思ってるんだけど……。少なくとも湖までの調査となると三日は野営をしなくちゃならない。その間に魔物の群れに襲われる確率は低くないと考えてる」
「報酬は?」
「大銅貨三枚」
「太っ腹だな。乗ったぜ。お前らとも知らない中じゃないし、これが根性の別れってのも後味が悪いからな」
「サンキューエヴィンさん!後で残りの二人を紹介する。飲み終わったら来てくれ、それと……」
去り際、エヴィンへと耳打ちするウィズ。それを聞いて驚くエヴィンだがニヤリと笑って頷くのだった。
交渉を無事に終え、エーレはまっすぐに二人の席に向かい、ウィズは別の場所に立ち寄ってから席へ戻った。二人ともその足取りは軽い。何せ過去にクエストを一緒にをこなして実力、人柄共に信頼のできる人物をパーティーに入れることができたのだ。ウィズとエーレがお互いを除けばディスクの町で一番信頼している冒険者なのだ。
まどかとおっさんに交渉が無事終わったことを伝え、しばらく談笑しているとエヴィンが席へとやってきた。
「邪魔するぜ。ウィズから話は聞いた。俺はエヴィン、ジョブは騎士だ。魔術師殿はクエストは一緒に受けたことはないが、噂は聞いてる。が、そこの嬢ちゃん。お前さん初めて見る顔だな?今回のクエストは危険だと聞いてる。お嬢ちゃんのランクは?どれだけやれるんだ?足手まといを守るのはゴメンだぜ?」
エヴィンはスキンヘッドに入れ墨という強面で、まどかに詰め寄る。盾役として不自由ない大きな体も相まって、日本人の、ただの女子高生にとってはかなり恐怖する場面だ。
(この人怖っ!!でも、キタッ!これは噂の新人冒険者チンピラにからまれがち案件では!?)
エヴィンの巨体と恫喝じみた態度に若干怯えるも、同時に心の中で快哉を上げていた。しかし悲しいかな日本人の性か、強く出られず、少しキョドってしまう。
「えっと、先程冒険者登録したばかりです……。回復といくつかスキルを使えるので、一対一なら戦える、はずです……」
「はっ新人かよ!おいウィズ、さすがにこの嬢ちゃんはねーんじゃねーか?」
「そう言わないでくれよ、回復が使えるんだ。それだけでも貴重だろ?守るのが不安なら一度こいつの実力を見てやってくれないか?」
「ちょ!?ウィズ!?」
突然の事態に驚くまどか。おっさんも急な展開にオロオロとしており、エーレは嘆息を付きながらも自体を見守っていた。
「あぁ、ウィズが言うならいいだろう。嬢ちゃん、着いてきな」
あまりの事態に状況が呑み込めないまま、まどかは冒険者ギルドの訓練場へと連れだされる。他のパーティーメンバーも不安そうに続く。そして、ウィズはまどかの装備を手伝い、去り際に言付けする。
「まどか、お前がどれだけ動けるか見ておきたい。それと、スキルは俺が許可を出すまでは使用禁止だ。スキルを使う場合は一番威力が低いものにしろ。ダガーウルフの時のスキルじゃ危険すぎる」
「え?初手スキルぶっぱはダメなの……?う、うん。分かった……やってみる」
そうして、まどかとエヴィンが対峙する。方や気楽に構えるエヴィンと初手スキルぶっぱを禁止させられ、緊張感を漂わせるまどか。
「さ、嬢ちゃんいつでもかかってきていいぜ。俺からは五分は攻撃しないから好きに攻撃してこい」
獰猛な笑みを浮かべ、構えもせずに言い放つ。それを聞いたまどかは少し苛立ち、駆け出す。動きそのものは素人だが、運動神経と反射神経は良い方で、足も速い。一気に間合いを詰めて木剣を振り上げて叩き下ろす。
「おいおい、なんだそりゃ。遊びでやってるんじゃねーんだぞ?チャンバラごっこしてるガキどものがよっぽどましだぜ?おらおら、木剣に振り回されんな。もっとコンパクトに振れ!それができないなら両手を使って振ってみろ」
エヴィンは盾で受け、木剣をはじき返す。と、同時にアドバイスを行う。しかし、簡単に跳ね返されたまどかは頭に血が上っており、アドバイスが頭に入ってこず、がむしゃらに木剣を振り回す。そうして五分が立つとエヴィンが攻撃を開始する。手加減されたそれではあるが、まどかにとっては生まれて初めて木剣で攻撃されるのだ。一瞬体が強張るも、なんとか持ち前の反射神経で盾を使ってなんとか防ぐ。が、防御に専念せざるを得なく攻撃が一切できずにジリジリと後退させられる。状況に耐えられなくなり、ついに叫ぶ。
「あーもー!!私、チートなんじゃないの!?なんでこんな弱いのよっ!!ウィズー!!」
「オーケーだ。エヴィンさん!全力で防御してくれ!!」
ウィズが叫び終わると同時に、まどかは左手を振るい、ショートカットキーを起動する。
「シールド、バァッシュッ!!!」
キーを叩くと同時に、左手に装備した盾が下から上に救い上げるように振るわれる。エヴィンは咄嗟に反応し、盾を下向きに構え、光を纏うが……。まどかの盾がエヴィンの盾を破壊して吹き飛ばす。すぐに立ち上がろうとするエヴィンだが、脳震盪を起こしているのかふらつきながらようやく立ち上がる。
「くっう~、コイツぁ効くな……。ウィズにまんまと乗せられちまったわけか」
「ごめんなさい!大丈夫ですか?今回復します。で、ウィズに乗せられたって?」
まどかはミドルヒールを使った後、ウィズの今回の行動を知る。最初にエヴィンに話しかけに行った際、去り際にまどかを挑発して訓練させるように言い、自分は訓練場の使用許可を取りに行っていたのだ。確かに戦力の把握は必要だろうし、エヴィンにまどかの有用性を知らせるには効果的であったかもしれない。が、自分に知らせずにそんなことを企んでいたウィズを許せるはずもない。
「ウ~ィ~ズ~!!ソードスラスト・トリプル!!!」
「馬鹿!お前、それ死ぬから!!」
幸い、二人の距離が空いていたためスキルは不発に終わったが……。木剣を振り回してまどかはウィズを追いかけるのであった。