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第六話

「さて、そろそろ真面目にやるぞ」


 一通り騒いだ一行は、ウィズの声で姿勢を正す。


「おっさんと話した結果、パーティーメンバーを最低でも盾役を一人、できればもう一人増やしたいと思う。が、まずは俺達の戦力確認をしたい。俺とエーレはともかくまどかとおっさんの力はわからないことも多い。戦力を把握してから全体の方針を立てる。まずはまどかだが、戦闘の素人で一対一ならスキルぶっぱでなんとなる。これでいいか?」


「はい、間違いありません、ウィズ先生!」


「いい返事です。単純な戦力としてはなかなか絶望的ですね」


「先生!私魔術も使えますよ!」


 ドヤ顔である。


「ほー。あまり期待してないけど、まどかくんどうぞ」


「なんか扱いが急に雑じゃない?まぁいいけど。さぁ驚け!ヒール、ミドルヒール、セイントプロテクト!魔術じゃないけど、補助系スキルで挑発!オーラガード!などなど!」


「は?素人が挑発って死ぬ気なの?いやいや、つーかオーラガードって聖騎士スキルの?」


 セイントプロテクトは味方の物理防御を一定時間上げる魔術で、オーラガードは自分を中心に一定の空間に対して、物理・魔術ともに威力を軽減するスキルである。魔術とスキルの大きな違いはどこから力を借りるか、である。魔術は世界を構成すると言われる精霊からであり、スキルは大陸全土を支える大樹からだ。


「そうです!私聖騎士なのです!」


 ドヤ顔再び。


「なん……だと……!この国にも五人もいない上級ジョブだぞ?戦士も回復術士もかなりに経験を積まなくちゃなれないのに、まどかが……」


「そうそうそういうリアクション待ってたのよ!テンプレっぽいぃぃ!」


「腹立つなぁ、おい!」


「ごめんごめんて」


「しかし、それこそ聖騎士なら一対多の戦闘ができないのはかなり残ね……、おかしいんだが?」


「ゲームの時のジョブが聖騎士だったんだけど、その時の設定がそのままこの世界で反映されているんじゃないかなって?」


「なるほど。わからん。何故疑問形だ。そもそもゲームってなんだ?」


 ネットゲームはもちろんのこと、パソコン、テレビもこの世界には存在しない。前提や知識の体系そのものが違うのであれば認識に齟齬が生まれるのは当然だ。そりゃあ異世界って概念も通じない。


「う~ん、説明が難しいなぁ。話が脱線しちゃうけど、せっかくだし私のこと話すね」


 まどかは元の世界が平和な国で戦闘の経験がないこと、ゲームでは聖騎士のジョブでプレイをしており、その時にショートカットに登録していたスキルや魔法のみ左手のショートカットキー操作だけで発動できることをクールタイムも含めて説明した。一点だけ誤魔化したのはデルビアのことだ。この世界で魔王がどういう存在なのかはわからないが、話をしたデルビアはそれほど悪い人物には見えなかった。もし魔王を絶対的に敵視していた場合、その魔王に召喚された自分が無事でいられるかも分からなかったからだ。


「ゲームって、お話しの中で疑似的に自分が主人公になれる世界っていったらいいかな?」


「ドラゴンを倒す英雄になれるってことか?」


「そうだね。ドラゴンを倒しに行くのは決まっていて、倒すまでの道のりは自分で決めることができるって言ったらいいのかな?もちろん途中途中で決まった出来事は起こるんだけどね」


「つまり、まどかがやっていたゲームの世界がこの世界とすごく似ていると。なぜかその世界にまどかは召喚されて、そのゲームの中と同等の力を持っている、と?」


「同等の力かは正直わからないなぁ。スキルだけは発動できるのは確認しているんだけど。そもそも戦闘経験がない時点で同等ではないと思うの。で、そのゲームの中で一緒に冒険していたのが、ウィズ、あなたなの。私が手塩にかけて育成していたんだから、私は言うなればあなたのお姉さんなのよ!」


「確かに経験の伴わい力は危ういからな。魔石だけ買う貴族様も対して強くないし……」


「スルーしたっ!?」


「いやぁよくわかりませんが、まどか氏はすごいということですな!」


「おっさん、ちょっと黙っててくれるかな?」


 エーレが笑顔でおっさんの顔を鷲掴みにする。。


「ぐっ、ぬ、ぬぉおっ!いだぁ!!」


「冗談はさておき、実際にどれだけまどかが動けるかは試しておく必要があるな。あとはおっさんだが、さっき聞いておいて悪いんだが、二人に教えてくれるか?」


(まどかはお膳立てさえできればこれ以上にない切り札にはなりうる……。どれだけ実践の空気に慣れさせることができるかが問題か……)


「もちろんですぞ!」


 おっさんはウィズと話した時以上に丁寧に説明をした。冒険者ランクはアイアンであること。詠唱句が四句まで可能であること。水系が使えないこと。得意な系統は火と土であること。得意な距離、魔物に近づかれた時にできること、今までのクエスト経歴などを話した。


 三人は改めて聞くおっさんの実力に驚いた。明らかにウィズとエーレより格上といえる。冒険者になって二年。ディスクの街では急成長株として注目されている二人だが、おっさんの経歴には遠く及ばない。詠唱句の多さもそうだが、グレイウルフに襲われていた時も攻撃を食らいながらも反撃に移る判断の速さはさすがの一言だ。後衛の魔術師であそこまで動ける冒険者は少なくともディスクの街には他にいないかもしれない。


「おっさんすごーいっ!」


「ふっ、私のじつり……、いや、その、それほどでも、ないでござるよ……」


おっさんなりのクールを演じようとしたのだが、まどかの真摯な目を見て、素で照れてしまう。


「本当にすごいわ。役割のしっかりとしたパーティーなら大活躍するんじゃない?」


「それがし、固定のパーティーには入ってこなかったでござるよ……」


「あぁ、うん。なんかごめんね?でもあたし達とはしばらく一緒にパーティー組むんでしょ?あたし達には遠慮いらないから。これからよろしく」


「あ、ありがとう、でござるよ」


「エーレはきつい時もあるけど、結構気の利く女なんだよ。あいつの言うとおり、おっさんは自然体でいてくれよな。俺達もその方が遠慮しなくて済むからさ」


「そうで、ござるな。わかったでござるよ」


「で、俺とエーレのことも説明しておく。冒険者ランクはブロンズで、俺は魔術も使えるが戦士だ。武器は一通り使えるが、詠唱句は実用的には一句まで、前衛から中衛までをこなす。自分で言うのもなんだが、器用貧乏だな。エーレは純格闘士。ブロンズのアタッカーとしてはかなり強力なはずだ。色んな意味で。一応エーレと盾役で誘おうと思ってる人の三人でオークを討伐したことがある」


 オークはゲームであれば討伐推奨は六人パーティーでLv10前後。三人であればLv15程度だろう。ウィズとエーレはLvでいうと15以上で20をいくかいかないかくらいだろうか。ワイルドウルフは通常Lv10前後で倒せる敵なのだが、ゲームでは群れで戦うことは基本的にはなかった。群れで戦うということはその分脅威度が上がるうえ、さらにボスは上位種だったのだから本当に危険な状況だった。


 一方まどかはというと、アップデート前のLVキャップから少しLVが上がっており、ゲームプレイ時の最終はLV52だった。


「う~ん、おっさんの時も分からなかったけど、冒険者ランクってどうなっているの?」


「下から順にカッパー、ブロンズ、アイアン、スチール、シルバー、ゴールド、ミスリルでランクが付けられてるわ。冒険者ギルドでクエストをこなすと評価されていって、一定の基準に達すると試験を受けてランクアップになるの。評価の方法は開示されていないんだけど、噂ではクエスト内容により評価ポイントが存在していて、達成時の状況や報告によって補正をかけてるらしいのよ。ただ、クエストのランクと冒険者のランクでもポイントは増減する仕組みになっているみたいで、アイアンランクの冒険者がいくらカッパー相当のクエストを達成しても評価されないようになっているらしいの。もちろん、お金は稼げるけどね」


「ランクは多いんだけど、実際にミスリルランクなんて二人しかいない。ゴールドランク以上の冒険者は大樹の御膝元ユグドラシルを中心に二十人くらいはいるらしい。シルバーやスチールは各国の首都でそれこそ何十人といるな。それ以外の有象無象、俺達みたいなのが各地でクエストを受けて、シルバーやゴールドを夢見てるってわけだ。ま、ほとんどの冒険者がブロンズ止まりでやめちまうか死んじまうって言われているけどな。俺達はまだまだ駆け出しだと思ってるが、おっさんは固定でパーティーを組めてればスチールでもおかしくないぜ」


「テンプレっぽい!」


「それがしのことはともかく、お二人はこの町では最近評判の冒険者ですぞ。噂ですが、一度も依頼は失敗しておらず、達成時の評価も高いとのことでそろそろ昇格試験があると聞きいていますぞ」


「へぇ!やっぱり二人も優秀なんだね!お姉さん鼻が高いわっ!」


「それ続けんのかよ……。実際に依頼を失敗したことはない。調査も納品も丁寧にはやってるつもりだ」


「へ~。じゃさ、三人はミスリルを目指して冒険者をしてるの?」


「そりゃ、まったく目指してないといったらウソになるけどな。そこまでうぬぼれちゃいない」


「あたしはランクについてはあまり考えたことはないなぁ。ウィズに付いて行くことだけで精一杯」


「それがしも目指す所はありませんな。不器用ゆえ、生きる術が冒険者しかなかったでござるよ」


「なるほど。わかりました。では、私不詳まどかが宣言致します。私達はミスリルランクを目指すします!」


「「「は?」」」


「冒険者になりたてどころかこの世界の常識も知らねー奴が何を言い出すんだ?」


「目標ぐらい高く持った方がいいじゃない?それに冒険者ランクが低くちゃ行けない所や、受けれないクエストもあるんでしょ?」


「そうだな。ランクは実績を反映してる。実績に見合わないようなクエストは受けさせて貰えないのは事実だ。それに伴って行けない場所もある」


「そうよね。だったらやっぱりミスリルランクに私はなりたい。私はこの世界を冒険したい。そしてデルフィード城に行きたいの」


「いや、お前それがどこだか分かって言ってんのか?」


「うん。魔王の城でしょ?さっきは言うか迷ったんだけど……。私を召喚したのは魔王なの」


「なっ!?お前まさか魔族なのか!?」


魔族と一言で言っても多種多様だ。魔族は基本的に何かしら魔物の特徴を受け継いでいる物が多数だ。多数だが、それだけでなく人間とほとんど変わらない姿の者もいる。ウィズが心配したのは、まどかが人間と外見だけじゃ区別がつかない魔族であるかもしれない可能性だ。もちろん本当に魔族であればそんな軽はずみに疑われるようなことは言わないだろうが。


「違う違う!私はもちろん人間だよ!?魔王はね、自分を倒してほしいって言ってたの。それで、なんでか私が召喚されて……。勢いで召喚されることを認めちゃった所はあるんだけど、色々と納得いかないんだ。だから、魔王を一発ぶん殴って、ちゃんと話をしたいって思ってるんだ。それに元の世界に戻る方法も魔王は知っているみたいでさ。そのためにはミスリルランクにはならなくちゃダメでしょ?」


「俄かには信じられない話だな……。それに、魔王に召喚されたのに、なんで森にいた?」


ウィズの雰囲気はさっきまでと違って険しくなっている。デルビアにも言われた通り、事実を打ち明ければ疑われるだろうとは考えていた。だから今までは経緯を説明していなかったまどかだが……。


「ウィズが危険だと知らされた。だから私を森に転移してもらった。本当は召喚されることを拒否できたんだと思う。それでも、私はウィズを助けたかった。元の世界で私はね、他の人達から、その、ちょっと浮いていたの。それで私は現実から逃げるようにアイリースの世界に没頭してた。そこでずっと一緒だったは、お兄ちゃんとウィズ。たとえ現実じゃなかったとしても、一緒に時間を過ごしてたあなたを見捨てたくなかった」


「……なんだよそれ。全然わけがわかんねぇよ!……もう一度確認するぞ?まどかは魔族、もしくは魔族の関係者じゃない。その上で魔王ぶん殴るために魔族の国に行きたいんだな?」


「そう。それで間違いない。今はまだ考えてないんだけど、元の世界に帰りたいと思ったらどちらにしろ魔王の元に行かなくちゃいけないし」


「……正直わかったとはいえない。けど、俺達はまだまどかのことを良く知らない。だから、見定めることができるまではその目的も否定しない。俺達はもう、パーティーだからな」


「そうね。あたしもまどかのことをちゃんと知りたい」


「それがしも、でござるよ」


「うん……。ありがとう、みんな」


そこにさっきまでの険しい雰囲気はなく、3人が微笑むようにまどかを見つめていた。そんな三人への感謝の気持ちでまどかは涙ぐんでいた。

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