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第五話

 まどかが冒険者の登録申請が終わった頃、ウィズ達は別のギルド職員ワイルドボアの納品と、今回の顛末を報告していた。それを聞いている職員の顔は険しい。


「なるほど。森の浅い所にワイルドボアが多数出没していたと。しかも、ダガーウルフの群れも現れた上に、上位種に成長した。上位種はおそらくブレードウルフに進化したのでしょう。冒険者三名が殺され、大樹の系譜を吸収されたとはいえ、そう簡単にブレードウルフに進化するとは思えませんが……。森に何か異変が起こっているのかもしれませんね……。引き続き森の調査を依頼したいのですが、如何でしょうか。もちろんダガーウルフの群れが現れたとのことですから、危険度を顧みて前回の報酬の倍を出しますが……」


 冒険者が魔物を倒し、魔石を入手して成長するように、魔物と魔族もまた人族を倒すと大樹の系譜を吸収して成長する。通常の魔物は上位の魔物に。確認されたケースは極少ないが、上位の魔物が魔族へと進化することもあるという。ただし、進化するにはかなりの力を吸収する必要がある。下位の冒険者であれば大量の力を吸収しなければ本来は進化することなどありえない。


「ちょっと待ってくれ!今回はダガーウルフの襲撃を予測できていなかったとはいえ、三人も犠牲が出ているんだ!報酬が倍では割に合わない!それに調査する範囲も決めてないのに、受けられるはずがない!」


 冒険者登録が終わったまどかがウィズ達を見つけて近づく、そして小声でウィズに耳打ちした。


「ウィズ、すごく悪い顔してるよ?」


 極力表情に出さないよう努めていたウィズだが、何故かまどかの目は誤魔化せなかったようだ。彼の思惑は依頼料を吊り上げること。まどかが加わる前のパーティーでは割に合わない依頼であることは間違いない。が、今回は何と言ってもまどかがいるのだ。ダガーウルフの群れの中でも昨夜出会ったボスは上位種になっていた。そのボスを瞬殺してしまう実力者がいる以上、調査範囲が極端に広くない限りは依頼達成は難しくないと考えている。目でこれ以上喋らないようまどかを促し、ギルド職員に意識を戻す。


「そうですね……。冒険者がご自身の安全を重視するのは当然のことです。でしたら、前払いで前回の1.5倍をお支払いし、依頼達成の報告時に同額をお支払いするのでは如何でしょうか。前払い分で準備や臨時のパーティーメンバーを雇い入れることもできると思います。ギルドとしてはダガーウルフの群れを退けた実績のあるパーティーに依頼させて頂くことで、今回も十分に情報を集めて下さると考えています。ただし、調査の範囲は前回の倍。森の中央部、湖がある場所までを調査を依頼させて頂きたい」


「期間の指定はどうなりますか?湖までになると、野営も二日は最低でも必要です。調査自体は三日あれば十分だと思いますが、不足の事態があれば戻りが遅くなるかもしれません」


「そうですね、調査は一刻も早く依頼したいのですが……。森の中央部までいけばそれこそまたダガーウルフの群れに襲われるとも限らないので、十分な警戒も必要でしょう。それでは、準備期間も含めて10日間で如何でしょうか」


「わかりました。条件はそれで問題ありません。俺の独断だけじゃ判断できませんから、一旦仲間と相談させて下さい」


「わかりました。色よい返事をお待ちしています」


 エーレが全員分の飲み物を手配し、4人は奥の席を取り、早速依頼について話し合いを始めていた。


「今回の依頼はみんなも聞いていたと思うが、森の調査。調査範囲は前回の2倍くらいだ。依頼料は前回の3倍、小銀貨一枚と大銅貨五十枚!俺は受けたい。というか、受けるつもりでふっかけた」


「確かに魅力的な金額ね……」


「結構な大金なんだ?それが凄いのかわからないんだけど、パン一つの値段っていくらくらい?」


「店にもよるが俺達が普通に食べるようなパンは銅貨三枚くらいだな」


「テンプレ的には……銅貨の他に、大銅貨とか銀貨があったりする?」


「あるわよ。銅貨が百枚で大銅貨。大銅貨が百枚で小銀貨ね。その後は十枚毎に銀貨、大銀貨、金貨の順。まぁ金貨なんて私はみたことないけど」


「う~ん、物価は全然違うだろうし、イメージしにくいなぁ。銅貨が最小単位だけど、パンが三枚ってことは、日本円でイメージすると銅貨一枚が四十円くらいの価値かなぁ。で、小銀貨は百の百倍で、一万倍。小銀貨一枚と大銅貨五十枚は、六十万円!?すごい大金じゃない!?」


「うん、何を言ってるかさっぱりわからん。まぁ確かに大金だけど、準備の期間を含めて十日間、かつパーティーの人数で割るからな?今回だと俺達の他に二人、最低でも一人は冒険者を雇う。臨時で雇う場合は交渉次第だけど、割高になることもある。準備に金もかかるし俺達一人当たりの報酬は大銅貨二十枚くらいだ。それでもかなり実入りはいい」


 ウィズとまどかのやり取りを見ながらもエーレとおっさんはクエストの危険度と報酬のつり合いを考える。二人とは違った方向性からまどかも報酬について考る。


(なるほど。となると日給だと大銅貨二枚で大体八千円くらいか。命がかかっていると考えると、少し安い気もするけど…。物価の違いを考えるとそれでも高給なんだろうなぁ)


「とまぁそんなわけで、このクエストを受けたい。もちろん森の中央部までの調査となると危険も多い。まどかに色々と教えなきゃいけないこともあるだろうし、調査準備と合わせて、十分に期間は設ける。が、流石に危険なクエストを俺の一存で決めることはできない。みんなの意見を聞かせてほしい」


「クエストを受けたい気持ちは理解するけど、昨日は森の四分の一くらいの場所でダガーウルフに襲われているわ。中央の湖まで行けばもっと大きな群れや別の魔物に襲われる可能性も高くなるんじゃない?お金よりパーティーの安全が何より大事だと思うんだけど。まぁウィズの事だから、クエスト達成できる可能性が高いと思ってるんでしょ……」


「そこは正直まどか先生の戦力を頼りにしている」


「ははぁ。だからウィズ君はさっきあんなに悪そうな顔してたのね?でも、私一対多の戦闘ではまったく役に立たないと思うよ?」


「あのボスを一撃で倒しておいて、役に立たないなんてことありえないだろ?」


「んとね、正面切って一対一ならこの中で私が一番強いかもしれない。でも、一対多になったり、敵味方入り乱れての混戦になったら、私はほとんど役に立たないと思ってほしい。私はね、戦いの経験がないの。魔物と戦ったのは、魔物を殺したのは昨日が初めて。群れで襲われたら私は正直足手まといになるんじゃないかなって思う」


「昨日の惨状を見たら否定はできないな……。逆に一対一なら任せられるとも考えられるわけだ」


「不意打ちはNGだけどね。私は特定のスキルと魔法だけはすぐに使える。使うスキルを判断する時間さえあれば問題ないよ」


「あたしは遠目にしか見えていなかったんだけど、ボスを倒した時に左手で何かやってたわよね?大樹の系譜のでスキルを使っていたようには思えなかったんだけど、特殊なスキルを使ってたの?」


「こっちの世界のスキルや魔法をどうやって発動させるのか分からないけど、私は多分特殊。ってゆうか私しかできないスキルの発動方法だと思う。実際に見てみないと分からないと思うから、後で広い場所に移動したら見せるね。ギルドって、訓練場とかあるんでしょ!?あるよね!?」


「時々急に食い気味だな!?」


「あるわよ。後で訓練場押さえておくから、その時に見せてね。それで、さっそく冒険者としての心構えを一つ教えて上げる。自分の強みや弱点を他の冒険者に簡単に教えないこと。この町は気の良い冒険者ばかりだけど、中には仲間を襲うような悪い奴もいるからね。私も、まどかを襲っちゃうぞ!」


エーレは両手を上げ、ゆっくりとだが上からまどかに覆いかぶさるようなポーズをとっていた。


「きゃー!エーレ、正気に戻ってぇ!!」


 かしましくまどかはエーレに抱き着き、二人はきゃっきゃと騒いでいた。


「え?この2人はいつのまにこんなに仲良くなったでござるか?そ、それがしも混ぜてほしいでござるよ!?」


「死にたくなかったら止めといた方がいいんじゃないか?エーレもまどかも怒らせたらマジでヤバイぞ、たぶん」


「そ、そうですな……。しかし、ウィズ殿。まどか氏が一対一でしか戦えないとすると、それがしが魔術で複数を相手取ることも考えないといけませんな。盾役がいてくれると安心ですぞ。それに野営のことも考えるとやはり二人程パーティーに入ってくれると安心できますな」


「そうだな。盾役は最低限必要だ。言いたくなければ言わなくてもいいが、おっさんは詠唱句はいくつまで行ける?三句までは間違いないだろうが、広範囲系の魔術が得意かだけでも教えてほしい」


「ウィズ殿達には教えますが、他言無用に願いますよ?時間さえあれば四詠唱句まで可能であります。広範囲の魔術も問題ないでありますが、水系は使えませんな」


「まじかよ!おっさんはキャラはともかくとして、冒険者としてはかなり優秀だよな。頼りにさせてもらうよ」


 魔術の構成要素は、属性句、具現句、発動句、詠唱句から成り立つ。魔術が具現化する最小単位は属性句、具現句、発動句の三句である。詠唱句は魔術を強化するためものものだ。強化する内容は魔術師のイメージとそれを魔力に乗せる詠唱句の内容によって大きく変貌する。詠唱句が一句増えるだけでも威力・自由度が大きくなるため、二詠唱句ができれば一人前の魔術士と言われている。四句であれば各国の首都で活躍する冒険者の仲間入りができるだろう。


「っ!!」


 おっさんは褒められることに慣れていない。元々コミュニケーションが苦手であったおっさんはクールキャラを演じることで、様々なパーティーを組み、クエストを達成してきた。が、クールを履き違えていたため、コミュニケーションを取るにつれて距離を置かれてしまったり、素のキャラを出してしまったがゆえに煙たがられるなどして固定のパーティーを組むことができなかった。だが、ウィズ達は今までのパーティーと違うことをおっさんは感じていた。魔物に襲われていた時も、その後にまどかを見て一目ぼれした彼の素を見ても……、いや、ドン引きされていたが。それでも変わらずに接してくれる、彼にとっては初めてのパーティーだった。


 一方でウィズ達はキャラ的に雑に扱ってもよさそうなおっさんは接しやすかったし、なんだか憎めないでいた。何より腕の立つ魔術師と知古になれたことを幸運に思っている。


「あれ~?男二人もな~んか仲良さげじゃない?」


 姦しく騒いでいたまどかとエーレだが、落ち着いたのかまどかがこちらの様子を見て声を掛けてきた。


「そ、そんなことないでござるよ!?」


「誤解が生まれそうなリアクションとるなっ!?」


「あれぇ?おっさんそっちの気がある人なの!?」


「ち、違うでござる!それがしはまどか氏にひとめぼ……」


「うわぁぁあ!いぢるつもりが私に飛び火!?それ以上は言っちゃらめぇ!!」


 一つ騒ぎが終わったと思いきや、また騒ぎだす面々。四人で騒いでいる中で、おっさんはこのパーティーでなら自分の居場所が見つけられるかもしれない、そう感じているのであった。


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