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第十三話

 まどかの初クエスト祝勝会を開けて、森の調査クエスト開始日。一行は朝早くから街を出発し、森へと向かう。基本的に夜の森で人が活動することは危険だ。そのため、朝から行動し、夜は早めの野営を行う予定となっている。


「ぎもぢわるいぃ~。そして重い~」


 朝集合して、まどかが驚いたのはみんなが持つ大きな鞄だった。この世界に謎の亜空間バックはない。つまり、野営をするということは休む場所・食事の準備が必要となる。今回は少なくとも四日はかかる想定だから、六人分の食事となれば馬鹿にならない。


 それに加えて、冒険者は当然魔物と戦うための武器・防具を持ち運ばなければならない。まどかは剣、丸盾、マントと最低限だが、エヴィンは屈めば体が隠れそうな程大きな盾を持っている。普通の人間にはとても持ち運べそうにないが、そこは冒険者。大樹の恩恵を使い、荷物を運んでいた。


「荷物のことは昨日飯の時に行っただろ?自分のペースも知らないくせに一気飲みなんかするからだ。後でヒールを自分で掛けとけよ。ただし、回りに人がいなくなってからな」


「まどか氏、それがしも力持ちですぞ!つらくなったら言って下され!」


 ウィズが呆れたようにまどかたしなめる。おっさんはここぞとばかりにアピールだ。ローブを捲ってその細い腕で精一杯力こぶを作ってみせる。まったくといっていいほど力こぶはないのだが、実際にはまどかより多くの荷物を背負っている。ゲームとは違い、ステータスは数値化されてはいない。が、見た目に反して力が強いというのは、系譜を育てれば育てるほどステータスが上がっていくという証左だろう。


「おっさん、まどかを甘やかすな。冒険者になるって決めた奴が自分のこともできないようじゃ、早晩続けられなくなる」


 まどかはウィズの言いつけ通り、人気がなくなるまではなんとか堪えた。そして、小休止をとった際にショートカットでミドルヒールを掛ける。やはりというか二日酔いに特に効果はなかった。少しだけ悔しかったので、通常の魔術でヒールを使うと、少しだけ吐き気と頭痛が引いた気がした。


(二日酔いはスリップダメージだった?いやいや、バッドステータスでしょ……)


 回復魔術(ヒール)はゲームでは言ってしまえば『HPだけ』を回復する魔術である。ミドルヒールでは効果を感じなかったのに、ヒールで二日酔いが少し収まったことに違和感を覚えるまどか。これがアンチポイズンやアンチパラライズなどの魔術であれば納得できるのだが。


 違和感がぬぐえず、特訓の最中におっさんしてくれた講義の内容を思い出す。曰く、回復魔術は大樹の力を借りて、生命の力を促進する魔術と定義付けられているらしい。やや持って回った言い方に感じるが、現代風に言えば細胞を活性化させるようなものだろうと解釈している。同時に細胞分裂には限界があると聞いた記憶がよみがえり、少しだけ怖いなと思ったものだが。


 だとすると、ヒールもアンチ系の魔術も基本は一緒なのかもしれない。体への異常を回復させるという点においては。そう結論付けてまどかは違和感を振り払った。


「ねね、エーレ。さっき私がショートカット使った時、ククが驚いてたけど、言ってないんだ?」


「そうね。あなたの秘密は極力知られない方がいいというのもあるけど、あの子があなたに対してだけ敵愾心を持ってたからね。不用意に刺激したくなかったのよ」


「ふ~ん。敵愾心っていっても可愛いものだけど。でもどうして私にだけ強く当たってくるのかな?」


「まどかは気づいてないかもしれないけど、あの子はエルフなんだと思う。元々冒険者に憧れていた節があるみたいだけど、あの年のエルフ一人が人族の街で冒険者をやっているのって余程の事情があると思うのよ。そんな自分と比べて、どこかのお嬢様みたいな新米冒険者が現れて街の有名人とパーティーを組むことに納得がいかないんじゃないかしら?要はお嬢様の道楽とみられているのかもしれないわね」


「ん~わかるような、わからないような……。っていうか、私ってお嬢様っぽいかなぁ?」


「常識知らずで、身なりも綺麗だからそう見えるわ。私達だって最初はそう思ってたんだから」


「む~、いじわるだ~。それよりだよ!キミとウィズ君は付き合っているのかね?どうなのかね?」


「なななな、何、何を言って、そそんそそんなんじゃっ」


 まどかがエーレにちょっとした意趣返しをしてニマニマしている一方で、男達は前日に街で聞き込み調査を行った結果を共有していた。聞き込みの対象はここ数日で森に行った人と、森で採れる物を買い取る商人達だ。


「少々不確かな情報でござるが、一昨日にゲルガド殿らしき人物を見たという御仁がおられましたぞ。その話を聞いた後、冒険者ギルドにガルゲド殿が来たかをお訪ねしましたが、冒険者ギルドでは確認できていないそうでござる。その他は普段はあまり出回らないような素材を買ったと商人が言っておりましたな」


 ガルゲドはダガーウルフに襲われた際、殺されたはずの冒険者だ。他の二人と違い死体が見つからなかったが、状況的に死亡したと考えられていた。仮にあの時死んでいなかったとしたら、冒険者ギルドに、少なくとも街には帰還するはずだがそうしていないということは、見間違いか何か街に戻れない理由があるかだろう。


「ちょっとキナ臭いな。あとで顔を知ってるエーレには伝えておくよ。他に何か情報はあった?」


「森に近い村まで行って、木こりの奴らに話を聞いてきたぞ。やっぱり森の浅い所に普段見ないような動物や魔物をちらほらと見かけると言っていた。普段から魔物か動物か判断できない時はすぐに逃げてるようだから詳細はわからないと言って居たが、特定の場所に現れるというわけじゃないようだぞ。仲間内で色々な所で目撃情報が出ているようだ」


 魔物と動物の見分けが難しい生き物も多い。体躯が異様に大きい、体の一部が肥大しているなどわかりやすい特徴があればいいが、ダガーウルフのように爪が強力になっているような魔物は遠目では判断が難しい。ただ、簡単な判別方法もある。目を見ればいい。魔物は目が魔石のように真っ赤なのだ。ただ、大樹の恩恵を得られない普通の人間にとってその距離は致命である。だからこそ、木こり達は先人達の知恵通り怪しきには近寄らない。


「いよいよ怪しい状況になってきたな……。今回のパーティーは十分な戦力かと思ってたけど、こりゃ気を引き締めないとまずいな。ちょっと調査方針を考え直すか」


◆◇◆◇◆◇


 調査対象であるジュワの森はディスクの街から北東にある。森の東にはジュワ山脈と呼ばれる山脈があり、その山脈に沿うようにして縦長に存在している森だ。山脈からの湧き水によって森の中間地点に湖を作っており、そこからさらにディスクの街の方へ川を延ばしている。一行はその森の一番手前、南側にある入り口に昼前に辿り着いた。


 調査開始前に昼食を取り、食事をしながら変更を加えた調査方針を説明する。縦長の森を左右に分けて、往路復路でそれぞれ調査する。森の浅い部分の調査は二人一組で行い、湖の付近では危険が予想されるため、全員で行動することにする。


「前回の調査と周囲の村の話を合わせると、森に何か起こってるのは間違いない。湖に近づくにつれて魔物に襲われる可能性は高いはずだ。森の入り口とはいえ油断はできないから、二人の時に襲われたら無理せず他の仲間が来るまで、耐えてくれ。何か怪しい物を見つけた時も単独で調べないでみんなを集めてからだ。何かあった時の合図ように笛を用意した」


 手のひら大の笛をエヴィンとエーレに渡す。二人組の組み合わせは、ウィズ・まどか、エーレ・おっさん、エヴィン・ククだ。夜も同様に二人一組となって三交代で野営の番をする。


「何か質問や意見がある奴はいるか?」


「上位種のような魔物が襲われた場合と、それ以外の場合で合図は分けたいでござるな」


「そうだな。上位種と思われるような魔物に襲われた場合は、笛を長く一回。それ以外の魔物であれば二回。何か見つけて合流したい時は三回にしよう」


「了解だ。俺は問題ねぇ」


 その他、細々とした内容を確認し合い、質問が収まったと思った所で、おずおずとまどかが手を上げた。


「あの……、お風呂とかって、どうするの……?」


「はぁ?お前は何を言ってんだよ?野営って言葉の意味、わからないのか!?」


 ククがまどかに食ってかかっていた。


「っ!!いや……、だって……」


 まどか自身気が引ける質問だったことと、予想していたよりずっと強い口調でククが噛みついてきたため、しどろもどろになる。そこにウィズとエーレがフォローを入れる。


「旅慣れてないのはわかるが、ククの言うことはもっともだ。そもそも風呂なんて贅沢は普段からなかなかできるもんじゃないだろ。クエストの最中ならなおさらだ。森の中央まで行けば湧き水でできた湖があるから、魔物がいなけりゃ水浴びくらいはできるだろ」


「気持ちはわかるわ。体を拭うことはできるから、野営の時はあたしの所に来てね」


「そっか……。そうだよね。ごめんなさい。……あっ!洗浄するための魔法!とかないの!?」


「??それがし、まどか氏がイメージしている魔法がわからないでござる……。まどか氏が頼ってくれたのに……。くぅっ!精進が、足りぬっ!!」


気軽な気持ちでおっさんに聞いたまどかだが、おっさんは手から血がでるのかと思うほど手を握りして、痛恨の表情を浮かべて悔しがった。

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