第十二話
「そんなだから冒険者に向いてないって言ってんだっ」
「返す言葉もございません……」
ゲームの設定はもちろん、マンドラゴラの断末魔というのは日本のファンタジーでは割と有名な話だ。それは頭ではわかっていたつもりだったが、いざ自分が当事者になるとそんなことはすっかり忘れていた。初めての戦闘でそれなりに上手くやれた達成感と勝利の高揚感が成果を得ることを逸らせた。
すっかりしょげてしまったまどかだが、達成感を味わわせてやりたいウィズはまどかに魔石の取得を促す。ダガーウルフと違い、マンドラゴラは植物が魔物化したものだから吐くことなく取得することができた。
「今回は見苦しいものを見なくて済んでよかったぜ」
「なんのことです?」
「あぁ、あのな……。あぁあいや、それはさ、こないだダメって言ったろ?な、落ち着こうぜ?」
ククはまどか以外にはとても素直な少年だ。何の他意もなく質問をした。それにつられるようにウィズが答えようとしてところで、まだかは左手を振るい、同時に右手を剣に掛ける。
「覚悟はよろしくて?」
「なんでもないぞ?クク。さ~次の獲物を探しにいこ~!」
◆◇◆◇◆◇
二対目を見つけるのには少し時間を要した。目撃情報があった場所は開けた場所だったのだ。恐らく移動している最中だったのだろう。三人で手分けして探すことにし、しばらくしてククが発見した。彼はスカウトの身軽さを活かし、他の二人の倍近い範囲を索敵し、目の良さも発揮して土に埋まっていたマンドラゴラを見つけ出したのだ。
その後はさっきと同じ隊列で倒すことに成功する。今度は倒した後に絶叫が終わるまで耳を塞いで待ち、ククが魔石を取り出した。魔石の取り出しかたも丁寧ですばやかった。さすがに冒険者として半年を過ごしてきたのは伊達ではない。無事に討伐を終えた三人は村長に報告を行う。
「本当に、ありがとうございました。これ以上家畜が殺されては村が立ちいかん所でした。こちらがクエスト達成のメダルになります。そうだっ、よろしければ今晩のお食事を馳走させては頂けないですかな?もちろん夜は儂の家を好きに使うてくれて構いませぬ。儂はどこか他の者の家に泊まりますゆえ」
「いえ、俺達は明日も別のクエストがありますから。ご好意に感謝します」
達成の証に、三人は尊重から半分に割れたメダルを渡される。いわゆる割符の役割を担うものだ。
クエストは冒険者ギルドが直接発行する物は多くはない。領主が近隣の安全のために発行する物が半数以上を占めており、急をようすると判断した場合があればギルドが直接クエストを発行するといった具合だ。とはいえ、領主が発行するクエストは基本的にほとんどギルド長が領主館で話を受けて取りまとめるため、ギルドが発行しているといっても過言ではないが。
それ以外のクエストは商人の護衛であったり、個人的な研究や収集のためのもの、緊急性は高くないが困っている農村からのものがほとんどだ。これらはクエストの達成をギルドが判断することができないため、依頼主とギルドで一つのメダルを割った物をそれぞれ持つ。クエスト達成が認められたら冒険者に割れたメダルを渡し、ギルドの物と合わせて形が合えばギルドでもクエスト達成を認め、報酬を支払う仕組みだ。
討伐のクエストの場合はこれに加えて魔物の体一部を持ち帰ることも義務付けられている。冒険者ギルドが正式に発表したわけではないが、冒険者の間ではとある噂が流れている。依頼主を脅してメダルだけを奪われた事件が過去にあったらしい。その後、討伐されたはずの魔物が被害をもたらして事件が発覚したのだ。もちろんその魔物は討伐された。これもまた噂でしかないが、その後メダルを奪ったという冒険者たちを見たものはいないという……。
討伐のクエストでなくとも、同様にメダルだけ奪われる可能性はあるのだが、最後の噂が功を奏しているのか、それとも明るみに出ないだけなのかそういった話はあまり聞かないようだ。
そんなクエストについての話をしながら、三人は街へと戻る。相変わらずククがまどかに絡んだりしたのだが、まどかは近所の子供をあしらうように揶揄ったりしていた。そして冒険者ギルドで今回の報告を行い、メダルを渡して報酬を得る。報酬は大銅貨一枚と銅貨八十枚だ。
「今回の報酬って多い方?少ない方?」
「少し少ないくらいだな。村としては家畜が殺されているから、この報酬でも少なくない出費だと思う」
「そっか。報酬は多少少なくてもそれであの村が助かったなら、私はそれで十分嬉しいかな。それで報酬はどうわけるの?」
「最初に取り決めを行ってない限りは均等に分けるのが通常だ。ただし、明らかに多大な貢献した者、逆に足を引っ張った者には分配率が変わることもざらにある」
「そりゃそうだよね。それじゃ、今回の評価は如何でしょうか?ウィズ先生?」
「うむ。二人ともの想定より少しよいくらいだな。俺は四十枚貰うから、残りは二人で分けてくれ。その代わり!飯、奢れよな!」
「そ、そんな!?一番活躍したのは二体とも魔物に止めを刺したウィズさんじゃないですか!」
「ふぅ~!ウィズかっこいい~!ハグしたげる~!」
対照的な態度をとる二人だが、ウィズは二人の頭に手をかける。一つは宥めるように優しく。もう一つは遠ざけるように邪険にだ。結果的にはウィズの言う通りに分配し、夕食はいつもより少しだけ豪華にすることになった。いつもは四人だが、エヴィンとククも交え大通りにある冒険者に人気のお店に入った。
「さぁ、諸君!今夜は私とククの奢りだ!食べて飲んでくれたまえ!」
「おい!ボクはそんなこと言ってないぞ!?」
「お~クク。俺はご相伴に預かっちゃまずかったか?」
「いえ、そんなこと、ないですけど……むぅぅ……」
揶揄うようにエヴィンが割って入り、ククは言葉を詰まらせる。まどかはもちろん何も考えていないわけだが、ククはどちらかと言えば、堅実な冒険者だ。時に贅沢は必要だが、次の装備や宿のことなどを考えていた。そして憧れだけじゃ生きていけないこともしっかりと理解している。
「それじゃ、みんな飲み物持った?まどかの初クエスト達成をお祝いして、かんぱ~い!!」
「かんぱ~い」
エーレの音頭でみんなはジョッキを持ち上げ打ち付け合う。ククは果実のジュースだが、他のメンバーはお酒だ。この世界では特に未成年者への飲酒は禁止されていない。常識として子供に飲ますと悪影響だとは認識されているが。そんなわけで、まどはせっかくの異世界なのでお酒を飲むことにしていた。
「んんぅ~?あんまりおいしくない?なんか少し喉が熱いような……?」
「まどか氏は酒は初めてでござるか?」
「うん。そうなんだよね。私の国じゃ二十歳までは飲酒禁止されてたから。大人はみんなおいしいとか好きだっていうからどれだけ美味しいのかと思ってたけど、あんまり美味しくないなぁ。」
味は好みではなかったが、初めてのお酒で少し興奮していたことと咽が乾いていたこともあり、一気に酒を仰いで答える。ディスクの街はそれなりに大きな街だが、それでも片田舎であることには違いない。当然大通りにある店とはいえ、客の大半が冒険者で占める店だから、味よりも安さと量で酔えることを期待して人はやってくる。
「ふふふ。まぁそれがし達が飲むお酒はほとんど安酒ですからな。それがしは報酬のよいクエストをクリアした後などはたまにいいワインを飲むことがあるでござるよ。今日はまどか氏にごちそうになりますが、いずれそれがしがまどか氏にご馳走しますぞ。楽しみにしててくだされ」
「うん~。ふへへ、おっさんはやさしいなぁ?ギュッってしてあげようか?ギュッって!」
「はわわっ?はわわわわっ?やめ、やめるでござるよぉ!?ぶふっ」
「えぇ~れぇ?おっさん倒れちゃったよぉ?次はえ~れの番だよ~」
初めてのお酒で一杯で酔っ払ってしまったまどかはその後も他のメンバーに次々と絡んでいくまどかだった。そして、一番の被害者はククだった。
「なっ!お前またかよ!ちょ、やめろ!あぁっ!ちょ、ホントにヤダ!やっ、やめて」
「んふふ~。ククはかぁいいねぇ?ちょっとツンとしてても悪い子じゃないのはわかっちゃうし~。お~もちかえり~!」
「もぉ、やだぁ」
そうして夜は更けていき、翌日……。
「オエェェエエ」
まどかはたった一杯しか飲んでいないのに、見事に二日酔いになるのだった。そして、抱きつき魔の称号を得た。もちろんステータスアップ効果はない。




