第十一話
「お、おまえは冒険者舐めてるんじゃないのかっ!そ、そんなひらひらした服きて、動きも全然ダメだしっ!」
「ん~?ククは何に怒ってるの?」
「怒ってなんかない!おまえが今回のクエストで足を引っ張るのが分かり切ってるからボクはやめとけって言ってるんだっ」
「でも、ククだって冒険者になって半年なんでしょ?」
「ボクはおまえと違って冒険者としての心構えもクエストだって何回も達成してる!一緒にするなっ!」
「おいクク。お前はいつから人にとやかく言える程強くなったんだ?いつも人を見た目で判断するなって言ってるだろ?それにまどかは回復術士だ。それだけで戦力になるのに、お前はそれを認めようとも理解しようともしない。俺達からすればどっちもどっちなんだよ」
まどかはあまり気にしてないようだったが、ククをたしなめるためにエヴィンが割って入る。
「とはいえ、ククの言い分も一理ある。気の持ち方もそうだが、嬢ちゃんはその恰好で森に行くのは危険だぞ。エーレ、今日の訓練はここまでにして、嬢ちゃんの買い物に付き合ってやれ」
森の中を突っ切るため、スカートは確かに危険だし、靴もしっかりとしたブーツなどがよいだろう。調査だけでなく今後も考えてまどかとエーレは買い物に向かう。
お金は当初のクエスト報酬と素材の売却分から出し、一通りの服を揃える。合間に出店で甘いものを購入して二人で食べるなど気晴らしも含めつつ、装備を購入することにした。
「私は回復術士になったけど、剣って普通に使えるのかな?」
ゲームではジョブ毎に装備できる種別が決まっていたし、レベル制限によって低レベルで強力な武器や防具を装備することはできなかった。アイリースの世界でも同様のことがあるのか気になったのだ。
「使うだけならもちろん可能よ。ただ、武器に効果が付与されていたりすると、本来の力を発揮させることはできないわね。『大樹の加護』を使うと武器の付与された効果を引き出すことができるんだけど、その武器に見合ったジョブであることと、系譜が成長をしていないとダメなのよ」
つまり、ゲームと同様に制限があるということだ。ただし、武器や防具そのものの基本性能は変わらない。ミスリルでできた剣であればその切れ味や硬度は高く、この付近の魔物であれば苦も無く切ることができるだろう。しかし、例えば魔術威力アップなどの効果が付与されていてもその効果を得ることができない。しかもこの世界ではダンジョンがから持ち出される武具には低くない確率で効果が付与されている。ゲームで言うインスタンスダンジョンでローグライクなアレである。
装備について理解した所で、二人は防具を揃えるために鍛冶屋へと移動する。武器はデルビアから渡された剣があるため、防具のみを購入する。第一に優先するのは盾だ。訓練で使用しているのはあくまで訓練場の備品である。まどかに合う物を見つけ、今後はその盾で訓練する必要があるだろう。本人のジョブ的、能力的に取り回しの良さを重視した手持ちの丸盾を購入した。木製の物をベースに表面全体が金属で覆われているものだ。外周部分が二重になっており、縁取りに草花の紋様が入っている。草花が購入の決め手だ。
後は系譜がそれほど成長していない者でも効果のあるマントを購入した。もちろん効果は高くないが、敵の攻撃に対する抵抗力があがるらしい。いわゆる防御力アップ効果だろう。まどかが気になったのは、ゲームの時のようなHPやMPはもちろんのこと、STRやVITと言った言葉も出てこないことだ。大樹の系譜である木を見てわかったことだが、この世界ではゲームのステータスのような数値化された強さが存在しないのだ。
「杖とローブでザ回復術士みたいな恰好を予想してたんだけど、これでいいのかな?」
買ったばかりのローブを纏い、盾を背負ってまどかが言う。存外、マントが重い。旅をする時にも使えるように設えられているのだろう。防寒にも使えそうな厚さと長さだった。盾も恩恵を得た状態で持ってみた時はそれほど重さを感じなかったのだが、素の状態だとこちらも想像以上に重い。金級は常時恩恵を発動できると聞いていたが、それは装備の重さをごまかすためかもしれないなと思った。
「こらっ!それは回りにあまり知られないようにしろってウィズに言われたでしょ!?パーティー間ももめ事はご免よ?決闘ならまだいいけど、陰湿な嫌がらせを延々と受けることだってあるんだから」
「うへぇ、それは嫌だね。ごめんごめん。以後気を付けまーす」
(自分の常識が回りとあまりにもズレていたら、やっぱり目立とうとしなくても目立っちゃうことはあるんだろうなぁ。ただまぁ小説に出てくる人達は学習能力無さすぎるよね。他の重要な場面ではなぜかすぐに学習しちゃうくせに。あれはいったいどういう理屈なんだろうなぁ)
◆◇◆◇◆◇
翌日もまどかとククの訓練に費やされた。まどかは新しい盾にわくわくしながら訓練に挑んだが、早くも盾に傷がついたこと嘆き、ウィズを猛然と追いかけていた。そんな一幕もあったが、基本的に訓練は順調で、まどかは盾を使った受け流しをひたすら繰り返し、パーティーメンバーの軽い攻めであれば全て受け流すことに成功したのだった。
「ヤバイ。やっぱ私チート召喚者かもしれない!?」
「は?こいつ頭おかしいのか?」
「アホなこと言うな。エヴィンさんが同じところを受け流ししやすいようにひたすらに攻撃してたことに気付いてないだろ?受け流し方を自然と覚えさせられたんだよ、お前は」
「むむ~!君たちちょっと失礼じゃないかねっ。でも言われてみれば確かにそうかも。最初は受けきっちゃってバランス崩したりしたけど、いつの間にか同じような動きをさせられていたような……。はっ!まさかあなたは転生者かっ!?」
最初にククが毒づき、ウィズが受け流しができている理由を告げる。まどかは一瞬反発するも新たな真実に驚愕をしていた。
「アホなこと言うな。この人はただただ新人の面倒見がいいただの冒険者だ」
「あぁ?お前喧嘩売ってんのか?」
「はっはっはっ。本当のことじゃん、エヴィンさん」
「はっはっはっ。ちょっと見ねぇ間に冗談が上手くなったな、ウィズゥ」
スキンヘッドに入れ墨がすごむとなかなかに迫力があるが、お互い慣れたものか肩を叩きあって笑っている。片方は痛みに耐えかねているような表情をしているが。
ククもある程度捌けるようになってきたが、近距離の捌きではまどかの方が盾を使用している分上手だ。しかし、ククは遠距離戦の才能が有るようだった。遠距離の特訓としてククが矢を放ち、おっさんが魔術を使用して打ち合う訓練を行ったのだが、当初はおっさんの魔術を幾度も食らい、攻撃する余裕すらなかったのだが、最終的には魔術は時折食らうものの、攻撃をすることができていた。もちろんおっさんには一度もあたることはなかったが。
そうして二人とも最低限の動きができると判断され、翌日はマンドラゴラの討伐へと向かうことになる。まどかにとっては初めての実戦だ。緊張もあるが、それ以上にわくわくしている。そして、一行はエヴィン、ククと別れ、前回から止まっている宿屋へと戻る。
「ご飯だぁぁああ!!!」
前日はエーレと買い物がてら買い食いをしていたが、今日はずっと訓練で腹ペコ状態だ。喜び勇んで食堂へと向かったまどかだったが、その顔に失望が浮かぶ。
「き、昨日、一昨日と比べて大分シッソデスネ?」
「あたしたちは場末の冒険者よ?この三日間クエストもこなしてないし、いつもいつも贅沢できるわけじゃありません!」
「そんなぁ~エーレ母さん……」
「場末、でござるか……。ぷ、くくく」
「おっさん?何がおかしいのかしら?」
エーレに甘えるように懇願するが無視をされ、一方でおっさんがぐ、ぬっと悲鳴を上げる。そうして質素ながらも穏やかに夕食の時を終え、翌日、まどかの初めてのクエストが始まる。
◆◇◆◇◆◇
翌日、まどか、ククとウィズがディスクの街から徒歩で一時間強の農村へと来ていた。冒険者は健脚だ。以前のまどかであればもう少し時間がかかっただろうが、大樹の恩恵を使用することでなんとか二人に付いて行くことができた。小休止した後、三人は依頼主である村長の元へ向かい話を聞く。
以前はほとんど目撃されることがなかったマンドラゴラが二週間ほど前から度々目撃されるようになったという。ついには先週、家畜が襲われ、殺されてしまったそうだ。その後、マンドラゴラはその場所に根付いてしまった。これの討伐と、他にももう一体目撃情報があるため、そちらも含めた二体の討伐をすることとなる。
「根付いてる方から片付けるぞ。隊列はまどか、クク、俺だ。ククが弓でマンドラゴラを攻撃。近づいてきたらまどかがそれを受け流して、後ろのククの所に移動させる。ククは俺の所まで引っ張ってくるんだ。その後は俺が止めをさす」
「ん~、私達の攻撃には期待してないってこと?」
「ちょっと違うな。訓練じゃない、人間を殺しにくる魔物との戦闘経験が大事なんだ。最初は怖さを知ることと、生き残ることが重要なんだよ。二人とも攻撃よりも自分を守ること、躱すことを第一に考えろ。ククは魔物と戦ったこともあるだろうけど、エヴィンさんと一緒だと一対一になることはなかっただろ?」
「そう、ですね。確かにボクは弓で敵を誘い込んだり、エヴィンさんの後方から攻撃をするだけでした」
納得した二人は作戦通りに行動を開始する。ククが弓で土に半分以上埋まって静止しているマンドラゴラに矢を当てる。すると遠目からでも耳を覆いたくなるような絶叫がこだまする。それに驚いている二人に対し、マンドラゴラが猛然と迫る。なんとか態勢を持ち直し、正面から向かい合うまどかだが……。
「はやっ!こわっ!?ちょ、えぇええ!?腕、すご、腕!?」
全身を鞭のようにしならせて、右、左と両方の腕(?)だか枝(?)だかを振り回してきたのだ。また、遠目で見たよりも体が大きく恐怖をより強くする。しっかりと盾で防御はできているが、訓練のように受け流すことがうまくできない。それも五度目の攻撃を受ける際にようやく受け流すことに成功し、マンドラゴラは目の前に現れたククにターゲットを移す。こちらは短剣しか持っていないが、下がりながらも二度の攻撃を受け流し、三度目の攻撃で攻撃を食らってしまうものの、ウィズへと魔物を引き寄せることに成功する。そして、ウィズは鞘に収まったままの剣でマンドラゴラを殴り、沈黙させる。
「おぉ!ウィズすごい!強い!さてさて、このにっくきマンドラゴラさんの魔石を取ってやりましょ~」
「おま、ちょまて!?」
まどかはうつ伏せに倒れているマンドラゴラをひっくり返し、そして……。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぎょぇぇぇええええええええええ????」
断末魔の悲鳴を浴びて、同じような悲鳴を上げてひっくり返るのだった。
毎日投稿できる人は化け物なんじゃないかと思う今日この頃。




