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第十話

 翌日、エヴィンの紹介する冒険者と会うために冒険者ギルドへと向かう。その後はまどかの訓練を行う予定にした。クエストも受注していたが、翌日に延期する。単純に弱いからである。まずは体の動かし方を覚えて最低限の自衛ができなければ、弱いとはいえ魔物と戦うのは危険だし、森の調査クエストでも仲間の足を引っ張りかねない。訓練以外にもダガーウルフから得た魔石を使用して、系譜の成長を底上げすることにした。


「おはよう。エヴィンさん。その子が昨日言ってた冒険者?」


「おう、エーレ。クク、さっき話してた奴らだ。自己紹介しろ」


「ボクはククと言います。スカウトのジョブで冒険者になって半年ほどです。ランクはカッパーでまだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」


 ふと違和感を感じた。昨日のエヴィンは気難しい奴だと言っていたが、目の前の冒険者はひどく礼儀正しい。帽子を深くかぶって耳から後頭部までしっかりと隠れているが、容姿は中性的な顔立ちをしており、目はやや鋭いが端麗と言って差し支えない。年齢は十五歳にはなっていないだろう。年齢相応の身長で高くないが、全体的にとても細身で、隠密行動が得意なスカウトとしては適正も高そうだ。一言で言えば将来有望そうな冒険者にしか見えない。


 が、ふと気づいたことがある。時折、まどがに対して胡乱気な視線を送っているようだ。それが何を意味するかわからなかったが、今は捨て置くことにする。そしてパーティーを代表して答える。


「よろしく!俺は戦士のウィズだ。魔術もある程度は使える。こっちが格闘士のエーレ。俺達はブロンズランクだ。こっちが魔術師のおっさん。ランクはアイアンだが、実力はワンランク上だと思ってる。最後に、冒険者になりたてだが、回復術士のまどか。ランクはもちろんカッパーだ」


「お三方のお話しはエヴィンさんからも他の冒険者からも聞いてます!この街の有名な冒険者と一緒のパーティーになれることを光栄に思います!それで、今回のリーダーは誰がなられるんですか?」


「今回はウィズ達が俺達の雇い主だからな。当然ウィズがリーダーだ。こいつは頭が回るし、その場の判断力もいい。俺はククに一冒険者として助言はするが、今回のクエストについてはウィズに従ってくれ」


「エヴィンさん、俺がリーダーでいいのか?実力的にはエヴィンさんの方がいい気がするけど……」


「俺達は雇われる側だしな。それに、単純な力だけが実力じゃねーだろ?力だけでいったら多分おっさんが一番だ。それこそおっさんはどうなんだ?」


「む?そ、それがしもウィズ殿が適任だと思っていますぞ」


 パーティーのリーダーというのは戦闘における単純な力だけでは不十分だ。今回は調査クエストのため調査方法、範囲、進行状況の確認など考えることは多岐にわたる。戦闘も発生が想定され、押し引きの判断が必要だし、今回は実力がかなりデコボコのパーティーだ。まとめ役としての力量が必要だし、初顔合わせのメンバーが多いため、顔を繋げる役も必要だ。総合的にウィズがリーダーになるのは適任だろう。


「わかりました!ウィズさん、よろしくお願いします!」


「つーわけで、ウィズがリーダーで決まりだな。エーレと嬢ちゃんは元よりそのつもりだろ?」


 二人は頷いて、同意を示す。


「そんじゃ、反対意見もない所でリーダー、どうすんだ?」


「なんかエヴィンさんリーダーでもいい気がするくらいまとめてくれてるけどな……」


「年の功って奴さ」


「三十過ぎたばっかだろうに」


 人数集めに手間取らなくて済んだ分、日程には余裕があった。そのため、今日を含めて、三日間はまどかの訓練にあてることにする。二日間はエヴィンと自衛のための訓練。三日目はクエストで実践を積ませる。ククも同席させ、同様に経験を積ませる。手の空いたメンバーは事前準備や他に森にいった者への聞き込みなど行い、調査範囲を絞り込むことを決める。その後四日間で調査を行い、残り二日はバッファにする。


 詳細は後日打ち合わせることにし、まどかの特訓へと移ることにした。そして、上位種を倒して取った魔石をまどかへと渡す。エーレとおっさんの二人には事前に許可を取っていた。


「訓練に入る前に、この魔石を使って系譜を育ててくれ」


「え?これって一昨日倒した魔物の奴でしょ?いいの?それにどうやって使えばいいの?」


「そこからだよなぁ……。魔石に手を当てて、『経験値(エクスペリエンス)よ』と唱えればいい」


「ふ~ん。『経験値よ』!って、うわわわ!?」


 魔石が光を放ち、どんどんと小さくなっていく。そして、その光はまどかの系譜の位置へと吸収されていった。十秒程たった辺りで魔石は完全に消滅してしまった。


「ん~なんか何も変わった感じしないんだけど?」


「『大樹の系譜』を唱えてみれば成長具合がわかるよ。あとは戦闘になる前に系譜の力を発動させないと行けないんだ。その時は、『大樹の加護よ』と唱えると大樹の力を引き出すことができる。ま、物は試しだな。両方やってみろよ」


 まどかは言われるがまま、系譜を発現させる。すると、苗木だったはずの木が急激に成長していた。ウィズの物と比べると大きさは半分より少し大きいくらいまでになっているが、形は大分違う。ウィズの物は枝や葉っぱが多かったが、まどかの系譜にはあまり枝葉はない。それよりも木の太さはまどかの方が若干勝っているようだった。系譜を確認した後、大樹の加護も唱える。


「おー、おぉ!?すごい、なんか体が別人見たいに感じるんだけど?別人の体なんて味わったことないけど!!」


「系譜は俺と大分違っただろ?昨日も言ったと思うけど、ジョブによって成長する傾向が違う。あと、自分が成長させたい方向にある程度任意で成長させることもできるんだ。今はごちゃごちゃするだろうから説明しないけど、今後冒険者になれてきたら成長について考えてみるといい。それで、加護は一度発動すれば任意で解除するか大樹の力が尽きない限りその力を維持することができる。金級なら一日中維持することもできるみたいだけど、最初の内は無理しない方がいい」


「なるほど~。でもあれだね、今ならなんでもできる気がしちゃう!!」


「さぁそこであたし達の出番ね。自分が強くなるってことは相手も同じことができるってことだからね。それを今から教えて上げるわ」


 そうしてまどかとククの訓練が始まった。加護の維持を考慮して、まどかとククが入れ替わりで他のメンバーと訓練を行う。まどかは武器を持たず、盾を装備し自衛のみを鍛える。系譜の成長によってヒールとプロテクトを使えるようになっているため、休憩時間にはおっさんが魔術についての講義を行う。


 ククは基本は弓を、近距離では短剣を使用するため、相手をするメンバーが遠距離から近づいていき近寄られたら自衛の訓練を行った。冒険者になって半年、そしてエヴィンとパーティーを組んでいたためか基本は甘いながらもできているようだ。しかし、盾役とずっと一緒にいたためか自衛がひどく脆い。この二日間で二人とも自衛ができるようこってりと絞られることになるのだった。


◆◇◆◇◆◇


「あぁ~づかれだぁぁ~」


 数十分の訓練をククと交代で行うこと四回目が終わった所で、悲鳴を上げるまどか。息も絶え絶えに水を飲み、休憩する。どうやら魔術の講義も今は身に入らないだろうと判断しておっさんは後ろで待機することにした。そこに訓練の相手だったエーレが嘆息しながらまどかに話しかける


「まどか、だらしないわよ」


「だってさぁ~みんな鬼じゃない?鬼なんだよね?鬼でしょうが!!エーレはめっちゃ笑顔で、こっちは攻撃手段持たないでひたすらボコられるだけだし、ストレス半端ないんですけど!?」


「思ったより防いでくるから、なんだろうつい、ね?」


「つい、ね?じゃないよ!ちょっとかわいいって思っちゃったじゃん!」


 ぽかぽかとエーレを叩きながら笑い合う二人。その近くでおっさんが寂し気な目をしているが、二人は見ないことにして談笑し、その後は動きについて反省を行う。


「ところで私は攻撃の練習まったくしてないんだけど、大丈夫なのかな?」


「まどかは回復術士だからね。パーティーの安全は回復術士がいてこそ。だから、パーティーの怪我を治すのが優先だけど、何より一番に考えなきゃいけないのは自分自身の命よ。あなたが死ねば他の人も死んでしまうってことを忘れないで。特殊なのはあなたにはショーカットスキルがあるってことよね。いざって時には攻撃をしてもらうこともあると思うから、剣は腰に下げておいてね」


「は~い」


 死んでしまう。そう言われてもこの時のまどかにはピンと来ていなかった。日本で普通に過ごしていて命の危機を感じることは少ないだろう。冒険者のように日常に付きまとっているはずの死を、まどかは深く考えることができなったのだ。


 そして、ククの訓練が区切りがついた所で、交代となるが……。


「なんであんたみたいな素人がこの街の有名冒険者達と一緒にパーティー組んでるんだよっ」


 呑気に雑談しているように見えたのだろう。すれ違いざまにククはまどかに毒づいたのだった。


「おっと、少年。言うじゃないか~。おねぇさんはウィズのおねぇさんだから仕方がないのだよ~。それにこれでも初めてにしてよくできてると思うんだよね~。うりうり~」


 苛立ちを込めて言った言葉に対し、まどかはまったくの想定外の行動をとった。すれ違うククを後ろから抱きしめ、頭や体をウリウリと弄り始めたのだ。不意打ちに反応できず、少しの間されるがままになっていたクク。想像以上に柔らかい感触に尚も体をまさぐるまどか。


「や、やめ……。ちょっ!あっ、やめろよぉ!!」


 なんとか脱出するククだが、すでに息も絶え絶えだった。


「良いではないか、良いではないか~」


 調子に乗ってまどかはククを追いかけまわす。エーレがまどかに手刀を振り下ろすまで、二人の追いかけっこは続くのであった。

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