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第九話

 聖騎士になるためにどうすればいいか、そんな気軽な気持ちで考えた選択を即座に否定され、少しだけ、ほんの少しだけムッとしたものの、説明を求めることにした。


「なぜかな?ウィズ君」


「単純な話、盾役として弱すぎる。多分、イセカイ召喚が原因だと思う。普通にこの世界で生きていれば少なからず大樹の系譜は成長するもんなんだ。それこそ俺らぐらいの歳になれば村一番の力持ちだったり、村で一番足がはやかったりな。だから冒険者になってジョブにつけばそれなりに戦えるんだが、まどかにいきなり前衛は無理だ。まだ後衛の方が可能性がある」


 実に理にかなった解答だった。はっきりとした解明はされていないが、大樹の系譜は生き物を殺すことで成長したり、大気に含まれる魔力をいつのまにか吸収して成長すると言われている。そして人よりも高い身体能力を持って冒険者を始めることが多い。もちろん恩恵を得ていない冒険者も数多くいて活動はしている。が、それはちゃんと訓練を積んだ物だったり、狩りの経験がある者達なのだ。日本で平和に暮らしてきた女子高生ができるようなことではない。


「私って本当に異世界召喚者でいいのかな?めちゃくちゃ弱い気がするんですけど……?」


 スキルに関してはLV52相当のチートなわけだが、エヴィンとの訓練で実際にまったく歯が立たなかったまどかとしては自信を喪失している。


「パーティーを代表して言うと回復術士を選んでほしい。まどか自身がつかえる特殊なスキルが正直未知数だから、パーティーとしては理解できる範囲での治療ができることで相当に助かる。ただ、最終的に冒険者は自分自身で自分の道を決めるもんだ。俺の話を聞いてそれで選んだジョブならその意思を尊重するよ」


 まどかは確かにショートカットキーの検証は必要だなと思う。ゲームのMPを使用している可能性が否定できないし、MPを使用しているならその回復手段もはっきりさせないといざという時に何もできないかもしれない。人生で魔物どころか動物と戦った経験もない。そう考えると回復術士は聖騎士になるためには必須のジョブだし、悪くない選択のように思える。


「では、私は騎士になるます!」


「人の話聞いてた!?」


「嫌だなぁ~、冗談ですよ。回復術士になるよ。それが一番私がみんなのためにできることだと思うし。そうと決まれば早速神官さんの所に行こっ!」


 ウィズの背を押し、はやるように神官の下へと向かう二人。そして神官に回復術士になりたいことを伝え、適正を見た時と同様に祈りを捧げる。


「それでは、就職の儀を行います」


「ぶふっ!」


 思わぬ言葉に思わず吹き出してしまうまどか。神官は訝し気に目をやるが、構わず進めることにしたようだ。先程とは違い、宝石と思しき物を先端につけた杖を両手に持っている。そして、少しの間祈るとその杖をまどかの胸――正確には大樹の系譜の位置――の前に移動させる。


「大樹よ、この者に偉大なる力の恩恵を与えたまえ……」


 杖の先端が光ると、息ができないよう一瞬の圧迫が生まれる。圧迫は痛みの余韻を残すことなくすぐに消え、全身を淡い光が包み込む。すると、ふと体に力が湧いてくるのを感じる。


「うわぁ、何これ!今ならなんかすっごいことできるような気がする!」


「大体の奴がそれを言うんだよな。全能感を感じちゃう奴には先輩冒険者が袋にして思い知らせるわけなんだが、なんなら俺が教えてやろうか?」


「いやぁ、あははは。スキル全使用で迎え撃つ!」


「……。と、とにかくだな。せっかく回復術士になったんだから、大樹とラインを繋いでおこう。魔術士は精霊から力を借りて行使するんだけど、回復術士は大樹から力を借りて癒しや防護の力を行使するんだ」


「ほうほう。ゲームでは語られなかった設定だ。んと、ラインを繋ぐ?って言うのはどこでやればいいの?」


 大樹とのラインを繋ぐのは適正さえあれば難しくない。自分の大樹の系譜を大樹へと触れさせるだけでよいのだ。しかも、大樹の根は大陸全土に広がっているため、それなりに大きな街であれば見つけるのにも苦労しない。大樹の根がある場所にその恩恵に預かって街ができるのだから。そんな説明を道すがらしながら、二人は街の中心にある大樹の根がある場所へと向かい、無事にラインを繋いだのだった。人取りのことを追えると、空は夕暮れに染まっていた。


 もろもろ報告のため、冒険者ギルドへと戻る。他のメンバーは野営の準備に必要なものなどを買い揃えていた。エヴィンと挨拶を躱し、一行はウィズとエーレが宿泊している宿へと向かうことにした。


 夕暮れの道を帰る途中、まどかはふと夕暮れの空を見上げて立ち止まる。高いビルはない。見通せる程の広い空。そこに色々な匂いが混じって鼻をくすぐる。土の匂い。出店の食べ物の匂い。冒険者と思しき人の装備の鉄臭さ、少しすえた革臭い。今まで経験したことのない景色と匂いに、何故か涙が溢れてくる。


「まどか氏!?どうしたでござるか?どこか痛むのでござるか?」


「ん~ん。そうじゃないの。なんだか感動しちゃって。私、アイリースに来たんだな、って。それにちょっとだけ寂しくって」


 まどかの感慨に共感できる者など、この世界にはいない。だから、三人は何て声を掛けてよいかわからなかった。ウィズは黙って横を歩き。エーレはまどかの頭をそっと撫でて。おっさんは少しだけ、まどかの服をそっと掴むようにして。そうして三人はただまどかに寄り添いながら通りを進んで行った。


◆◇◆◇◆◇


「ご飯だぁぁああ!!!」


 朝から何も食べていないことに今更ながら気づいたまどかは、食事と聞いて跳ねるように食堂へと向かっていった。食堂は宿屋に併設されている。カッパーやブロンズ御用達の安い宿だが、店主が元冒険者であり、冒険者にとっては安い宿賃とボリュームのある食事が人気の宿だ。注文は先にエーレが行っており、あとは来るのを待つばかりだった。


「今日はまどかの歓迎と依頼達成祝いってことで、いつもより豪勢にしたわ!」


 しばらくして、料理が運ばれてくる。メニューは黒パン、くず肉と野菜が入ったスープ、サラダ、炒め物、ブロック肉の香草焼き、焼き魚だ。


「肉はワイルドボアか?川魚もあるし、豪華だな~」


「実は昨日のお肉を大将に融通したの。少しサービスしてもらったわ。さ、冷めないうちに早速食べましょ」


 できる女エーレは交渉も上手なようだ。軽くウィンクしてみんなに食事の開始を促した。


「いただきまーす」


声を合わせて唱和すると、皆で箸を突っつき合う。取り分けようかと思っていたまどかだが、そんなことでは食事にありつけないと悟ると、自身もせっせと箸と口を動かす。日本ではあまりない光景だが、冒険者たちにとってはきっとこれが普通なのだろう。そう受け入れることにした。ただ……。


「お肉がおいしいでござるな!」


「だな!肉汁のジューシーさ!程よく脂が甘くて臭みがない!」


「あら、魚も身が締まっていておいしいわよ?」


 おっさん、ウィズ、エーレが口々に感想を言っている中、一人だけうかない顔をしているまどか。


「パンが固い……。味が薄い……。お魚に醤油がほしい……」


 日本で育ったまどかは調味料の味に慣れすぎていた。アイリースでは醤油はもちろん存在しない。砂糖は無論のこと、塩ですら場所によっては輸送コストが高くなり、それに伴って高価となる世界だ。日本の時のような十分な塩気ではなかった。パンに至っては現代のパンとはくらべものにならない程固く、味もよくない。日本の食事に慣れていたまどかは物足りなさを感じる。が、疲れ果てた体は栄養を欲していた。結果的には男二人にも負けないほどがっつりと食事をしたのであった。


「ごちそうさまでした!味がちょっと薄いけど、美味しかった!」


 実際の所、食材はこの世界でもいいものだった。元の世界とまったく同じではないものの、肉や魚はほとんど変わらなかった。ワイルドボアの肉は猪肉というより、豚肉とほとんど変わらない。というより、ブランド豚レベルの素材だ。川魚は味こそ変わらないものの、大きさが桁違いだった。調味料の味に慣れてしまって最初は物足りなく感じたが、素材の味を楽しめるようになり、結果的に大満足だった。ただ、パンとスープは頂けない。単純にパンは固く、スープは味が薄い。


「ねぇ、アイリースにお米ってあるの?」


日本人が転生、召喚されて一度は考えるであろう、テンプレな一言をまどかは放つ。


「どこかの国の特産品で聞いたことがある気がするでござるが……」


「あたしは知らないなぁ」


「俺も」


「ああ!いつかお米が食べたい!!」


帰り道に感じた郷愁を食事でも感じるまどかだった。

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