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プロローグ よくある異世界召喚

<我は自分の責に飽いたのだ。よって、貴様に我を滅ぼして貰いたい>


 唐突に、画面に現れチャット上で話しかけて(?)きたのは、私が二年程プレイしているMMORPG<アイリース>の魔王デルビア・デルフィードだった。デルビアは先週アップデートされたバージョンのラスボスと噂されており、メインクエストでは彼の現在と過去を中心に進んでいた。


 アイリースは完全無料で公開されており、かつ斬新なシステムにより、ネットでは一部の人達に絶大な人気を集めているゲームだ。


 だけど、このゲームにはいくつかの謎が存在してる。その中でも最たるものは、運営会社および開発会社が不明なことである。クレジットに表示されるアイリースというロゴ・運営されていると思われる会社は存在しないらしいのだ。


 どんなゲームにも少なからず、ガチャや月額利用料による課金が発生しないことには運営を続けていくことはできない。にもかかわらず、完全無料で二年間もサービスが継続している。


 さらに、このゲームの特徴であるAIシステムだ。AIと言っても、一般的に思い描かれるロボットのような人口知能を有しているわけではない。データの蓄積による行動の最適化、ようはプレイヤーのプレイスタイルに合わせてパートナーAIキャラを育成しながら冒険をすることができるというものである。これだけなら精度はともかく画期的とはいえないが、パートナーAIキャラだけでなく、一部のNPCや敵モンスターなどにもAI機能が搭載されているのだ。NPCや敵モンスターの一部は全プレイヤーからの影響を受けて、行動・セリフが変わっていくことがある。敵モンスターに至ってはどんどん強くなることがあり、ネットの書き込みではとあるギルドが総出で討伐に行ったが、逆に返討ちにあったケースも存在する。


 他にも、全プレイヤーから影響を受けるクエストがある。<国家クエスト>だ。プレイヤーが所属する国毎に長期にわたるクエストが発生する。これは国家の運命を左右するといっても過言ではないもので、一番不人気であった国は国家クエストに失敗し、滅んでしまっている。ゲームのシナリオをプレイヤーに委ねるのは運営の開発マイルストーンを大幅に狂わすと思うのだが、その後も特に影響なくアップデートは行われていた。


 私はそんなNPCや敵モンスターの変化を楽しみつつも、基本的にはソロ、たまに兄と一緒にプレイをしていた。パートナーAIは簡単なコミュニケーションも可能で、戦闘も過去のコマンドから学習して独自の行動をとるためソロメインでも飽きることはなかった。


 現在のゲーム業界でここまで複雑化、多様化されたゲームが完全無料でプレイできるのはなかなかに怪しと言わざるをえない。そのため、様々な噂がささやかれている。


 目の前の画面に思考を戻す。ラスボスAIが自律的に行動している?いや、何かのイベントフラグを立てちゃったのかな?だとしたら当たり障りない回答をするのが無難だろうか。


<言われずとも、私があなたを倒します。この世界の平和のために>


<ふむ。何か勘違いをしているようであるな。ただ、ようやく我の言葉は届いたのだ。一度、こちら側に来てもらうとしよう。少し酔うかもしれぬから、せめてしばらくの間は目を瞑っておれ>


 イベントにしては、いまいち要領を得ない内容だった。目を瞑る必要もないはずだが、なんとなく、そう本当になんとなく目を瞑ると、私の意識はぼんやりと薄くなっていくのを感じた。


◆◇◆◇◆◇


 ぼんやりとした意識が次第にはっきりしてきて、私はゆっくりと目を開けた。すると、先程までの自分の部屋とは似ても似つかない、何もない黒い空間に立っていた。そして、目の前にはデルビア・デルフィードと思われる人物が立っていた。


「ぅひゃっへあ!?」


 自分でも今まで出したことのない叫び声を上げて狼狽える私。


「貴様は中々に良い反応をする。突然のことで戸惑うのも当然であろうが、我が貴様をこの空間へと呼び出した。そして、アイリースの地へ召喚しようとしている」


「え?いや、えっと、ちょっと、何言っているかわかんないです、けど……?」


「戸惑うのも無理からぬことではあるな。が、現実である。我を見よ。我がデルフィード国の王、デルビア・デルフィードである。貴様の知る魔の王であろう?」


「は、はい……。確かにアイリースのデルビア、さんだと思います……」


 デルビアに言われるがまま、私は彼にしっかりと目線を移した。高校では同世代の異性に興味がなかった私だが、目の前の人物は長い黒髪と切れ長の目。落ち着いた雰囲気を持った青年で、ありていに言えばゲーム画面同様のイケメンだった。


「まだここはアイリースではないがな。我が魔力を他の世界に送っていた連結空間にすぎぬ。そちらの世界からも魔力に似た力が流れ込んでいて、アイリースに影響を及ぼしている。その影響の一端か召喚するためには条件が設定されているようなのだ。アイリースの世界を望む者であり、また召喚に対する承認がな。貴様、名をなんという?」


「私は、相沢まどかと言います。でも、ゲームの世界に召喚なんて……」


「ゲームの世界というのは我にもわからぬことだが、そんなことは些事だ。我がデルビア・デルフィードであり、我が言うことが真実である。さて、最初の問いかけに戻るとしよう。我を滅ぼしてはくれまいか?」


「いや……あの……急にそんなこを言われても、私にはよくわかりません……。現実味がなさすぎて、理解、できないですよ!それに私じゃなくたって、魔王なら沢山の冒険者が倒しにくるに決まっているじゃないです、か?」


「ふむ。難しく考えることない。貴様は今の世界より、アイリースの世界に浸ることを望んだ者だろう?なれば今の世界を離れ、アイリースの世界で貴様が元々目的としていた我を倒すことをすればよいだけだ。それにな、この世界の者では恐らく我を倒すことは不可能なのだ。大樹の理しか持たぬ者には、な」


「そんなの無理ですよ!普通の女子高生が急にゲームの世界に召喚されてやっていけるなんて思えないし、そもそもありえないし!しかもゲームのラスボスを倒すなんて!……たとえそれが可能であったとしても、この国の成り立ちとあなたは、デルビアさんはデルフィードの魔族の方々にとってなくてはならない存在ということも知ってます!それなのに、何故飽いたなんていうのですか!?本当は別の理由があるんじゃないですか!?私はゲームで冒険を続けて、あなたのことをもっと知りたいと思ってたのに!」


 アップデート後、私は寝る間もおしんでプレイしていた。メインクエストでデルフィード国の、魔族の成り立ちについての謎がプレイヤーに開示されていた。具体的にどんな脅威からか、どうやってかは未だわからないままだけど、彼が国と国民――魔族を必死に守っていたこと知ることができた。それなのに何故、倒してなどと言うのだろうか。色んな感情がごちゃまぜになって、つい言葉を荒げてしまう。


「ふむ。面白いな。貴様は我のことを多少なりとも知っているようだ。しかし、ゲームとやらで我の全てを知ることはできまい。語られるは所詮側面のみ。我の責を、思いを知りたいというのであれば、貴様の望む冒険の果てに我が元へ来ると良い。さすれば貴様の知りたいことを全て語るとしよう。その後、再び貴様に問おう。我を滅ぼしてくれまいか、と。しかし、元の世界に未練があり、アイリースに来ることを拒むのであればそれも致し方無いことであるが」


 私はあんな高校に通うよりアイリースの世界でパートナーAIと、兄と冒険をしている方が楽しいと思ってた。2年前のあの秋の時からずっと、学校では碌に人と接することなんてなかった。でも、家族とはすごく仲が良い。特に兄にはすごくかわいがってもらっていたと思う。AIに、アイリースに興味を持ったのだって、兄の影響だ。だから異世界に召喚されてラスボスを倒せだなんて素直に【はい】だなんて選択できる訳がない。


「私はやっぱり……」


「ふむ……今、貴様に繋がりがある者がおらぬかと探していたのだが……。ダガーウルフの群れに襲われているようだな。このままでは死んでしまうやもしれぬぞ?」


 私がやっぱり元の世界に返して、そう言おうとしたらデルビアさんは言葉を被せてきた。言葉を遮られたことと、その内容にしばし私は思考を停止させた。アイリースの世界で私に繋がりがある者……。ゲームとの繋がり……。つまり、パートナーAIが危ないってこと!?この二年ずっと一緒に冒険して、私が育ててきたウィズがっ!?


 どういう風に成長させるかすっごく悩んで、成長パターンを覚えさせるのにすっごく苦労したんだから!

彼を死なせることなんてできない!たとえそれが私の世界では関係なかったとしても、それだけはさせちゃぁいけない!!


「私を、その人の所へ送ってください!」


 私がそう叫んだ後、周囲に魔法陣が現れ、強い光を放ち始めた。


「あっ、やば」

いや、あの、いきおいってゆーか、ことばのあやってゆーか……。


「召喚陣が発動する前に餞別をくれてやろう。名工の作ではないが、ミスリルできたショートソードだ。貴様の世界の理をそのままにしておくことはできた。スキルは貴様が元の世界にいた時同様の行動で発動することはできるだろう。剣を持たぬ側の手で元の世界と同様の動きをしてみよ」


 あぁ、もうこの光止まってくれないだろうなぁ……。まぁ貰えるものは貰って、言われた通りやってみよう……。


 左手でキーボードをなぞるように手を振るってみた。するとキーボードそこにあるような感覚がした。そして、キーを叩く――ショートカットキー操作。確かなキーボードを叩く感触を感じ、剣を持っていた右手が自然と動いた。自分の動きとは思えぬ速さで振られた剣は、ゲームでのスキルを発動していたようだった。


「問題はないようだな。貴様に繋がりがある者を助け、力を合わせて我の元へ来るがよい。その時は貴様の質問に答え、望むのであれば元の世界へと返してやろう。それと、召喚の魔法陣は人間族の間では失われている技術だ。我に召喚されたなどと、軽々しく言わぬことだな。入らぬ誤解を生むことになるぞ。まどかよ、再び会えることを楽しみにしている。召喚魔法インストール!」


「恐ろしく不穏な魔法の名前なんですけど!?


 ―― ・・・・のインストールを開始します


 その言葉を最後に、私は光に包まれた。その瞬間から感じる浮遊感は数分にも及び、その間は強い光で一切周囲の状況を確認することはできなかった。やがて浮遊感の消失と共に光が徐々に弱くなり、一切の光が消失すると、そこはくらい森の中だった

 強い光を見ていた状態から暗闇に移動したからか、それとも森の中の光源がほとんど存在しないからか視界が悪く周囲に人影を確認することができない。さらに、人の気配というか木々の擦れる音以外には何も聞こえることはなかった。私はらしくないことを自覚しながらも叫ばずにはいられなかった。


「ていうか鞘がないし、何より私のウィズはどこにいるのよぉぉぉおおおおおおおお!」

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