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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

分身・増殖ネタ短編/中編

安眠保証枕『サキュバスリーパー』

 最近眠りが浅くて、目が覚めた時に体がだるい。

 ベッドや布団の中に入ってもなかなか寝付けない。

 怖い夢、恐ろしい夢ばかり見続けて、寝る事自体が嫌になった。


 こんな悩みをお持ちの方に朗報!

 最新式の安眠枕『サキュバスリーパー』が、貴方を素晴らしい夢の世界へ誘ってくれます!

 

 最新の人間工学を駆使して生み出されたハイテク枕『サキュバスリーパー』の構造は、どんな体形の人にも最適。

 立っている間に酷使された頭や首を優しく包み、疲れをたっぷり癒してくれます。

 勿論寝返りをたくさん打っても大丈夫!貴方を待つのは心地よい夢の世界。

 『サキュバスリーパー』があれば、いつでも最高の寝心地と最高の目覚めが体験できます!


 ではここで『サキュバスリーパー』を愛用しているあの有名人に感想を聞いてみましょう。


 テレビドラマや映画で大活躍中、演技もスタイルも抜群な実力派女優の佐久(さく)蓮実(はすみ)さん。

 『はすみん』と呼ばれたアイドル時代から現在まで常に第一線で活躍を続ける彼女。今も昔も大忙しな日々の中で、その疲れを癒してくれる寝具は非常に重要なものでした。ところが――。


「なかなか私にぴったりの枕って見つからないんですよねぇ。色々試してみたのですが、逆に首が痛くなっちゃうものもあって困りましたよ……」


 ――自身にぴったりの枕に、どこを探しても出会う事が出来ない。毎日その悩みで苦しみ、逆に眠れなくなってしまうほどでした。

 日々の疲れを取ってくれる、最高の枕はないものか。そう願っていた彼女にとって『サキュバスリーパー』はまさに夢のような代物でした。

 『サキュバスリーパー』を購入してからというもの、毎日寝るたびにその日の疲れがあっという間に無くなるようになったのです。


「本当にこの枕に巡りあえてよかったと思っています。はっきり言っちゃいますと『運命の出会い』ですね。逆に寝心地が凄い良すぎて休みの日はついぐっすり寝すぎちゃうときもあったり……うふふ♪」

 

 今や『サキュバスリーパー』は蓮実さんと()()()()。あっという間に疲れを取ってくれる、彼女の最高の相棒です。


「この最高の枕『サキュバスリーパー』、私からも是非お勧めします!……なんて、うふふ♪」


 

 一流女優・佐久蓮実さんのお墨付き、最新技術を生かした夢の枕『サキュバスリーパー』。

 通常価格は○×△□☆円ですが、このCMを見ている貴方だけ、特別価格◇◇○☆☆円!◇◇○☆☆円!でお届けいたします!

 お電話は今すぐ――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「またこのCMやってるわね♪」

「本当だねぇ」


 とある町に暮らす夫婦が眺めているテレビの画面には、何度も放送され続けてすっかりお馴染みになった、最新式枕のCMが今日も放送されていた。商品の利点や特徴を大雑把に解説し、有名人や一般人の体験談を紹介し、最後に通常価格から大幅値下げして販売するという旨を伝える、典型的なテレビを使った通販CMである。

 普段なら見向きもしない内容であったが、この最新式枕に限っては珍しく夫婦揃って興味を持ち、放送されるや否や早速画面に表示された宛先へ電話を掛けた。夫も妻も、枕が古くなったせいで揃って寝つきが悪くなり、朝起きると首や頭が痛くなっている程にまでなっていたからである。そしてもう1つ――。


「うふふ、今日もあなたが大好きな『はすみん』が見れて嬉しいんじゃないの?」

「もう、からかわないでよ♪」


 ――夫がアイドル時代の『はすみん』こと女優の佐久蓮実の大ファンだった事も大きな理由だった。


 最初はその枕の効果に半信半疑だった2人であったが、いざ使ってみるとその効果は絶大だった。首や頭の痛みが取れたばかりか寝つきもよくなり、毎日ベッドに入るとすぐに心地よい夢の世界へ誘われ、あっという間に心地よい朝の目覚めを迎えるようになったのである。更に、ぐっすり眠ることで健康も促進されたのか、体脂肪率をはじめとした診断結果も良好な数値を記録していた。一流女優だけではなくごく普通のこの夫婦にとっても、まさに『サキュバスリーパー』は夢の枕だったのである。


 こんな素晴らしい枕を自分たちだけで独占するのは勿体ない。そう考えた夫婦は、近所の奥様仲間や会社の飲み仲間といった近所の人たちも積極的にこの枕を勧めていった。その結果なのか、はたまた『はすみん』の宣伝効果なのか、この町で『サキュバー・スリープ・ピロー』を購入、愛用している人がだいぶ増えているという。


「まさかこんなに皆があの枕を気に入るとはねぇ♪」

「見た目は普通の枕なんだけどね。うふふ、きっと『はすみん』効果じゃないかしら♪」

「もう、全く……そうだとファンとして嬉しいね、ふふ♪」



 この町から『不眠症』という言葉がなくなる日もきっと近いだろう――そんな話をしている中で、旦那はある話題を妻へ持ち出した。『サキュバスリーパー』の効果なのか、妻の体型もどんどん美しくなっているようだ、と。昔も今も愛する相手である妻のスタイルは元から旦那にとって最高の形であったが、ここ最近ますます良くなっていた。いつ見ても美しさが溢れている、最高のスタイルだ、と褒めたたえる旦那に、妻は顔を真っ赤にしながら笑顔を見せた。


「うふふ、そんなに言ったら褒めすぎよ♪」

「もう、そんな事ないって。ふふ、だって――」


 顔も体も心も、何もかも『はすみん』そっくりの素晴らしい姿になっているじゃない。


 その言葉を証明するように、妻――いや、あの枕を手に入れるまで、愛する『妻』の姿を有していた何かが微笑みを見せた。その笑顔、その声、そして胸の大きさを含めたその体型は、テレビ画面の向こうで笑顔を見せる『はすみん』こと一流女優の佐久蓮実と瓜二つであった。そして、嬉しそうな顔を崩さないまま、旦那のほうを向いた妻――いや、『蓮実』は悪戯げな口調でこう告げた。



「……もう、何言ってるのかしら♪そんなことを言ってる貴方だって――」



 今や身も心も立派な『はすみん』になってるじゃないの。



「……あら、そうだったわね、うふふ♪」



 そう告げられ、同じように笑顔を向けた存在もまた、あの枕を手に入れるまで有していた『旦那』の姿を既に失っていた。そこにいたのは、顔も声も体型も、体の各部のサイズも含めて何一つ寸分違わぬもう1人の『佐久蓮実』であった。

 きっとこの枕の効果のお陰ね、と互いに笑いあう夫婦――いや、2人の佐久蓮実の顔は、満足そうな笑みに満ち溢れていた。それはまるで、自分自身にとって最高の『夢』がまた1つ叶った事を喜び合うかのようだった。そして、そのまま2人はおもむろに互いの唇を合わせ、その感触を心行くまで堪能し続けた。周りに広がる光景が夢ではなく、紛れもない『現実』である事を確かめ合うかのように。


「……うふふ、蓮実♪」

「……うふふ、蓮実♪」


「うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」


 やがて、2人の美女が並ぶ部屋は、可愛らしさと美しさが混ざり合う笑い声に包まれていった。

 いや、この部屋、この家だけではない。彼女たちに合わせるかのように、町のあちこちから、女優の佐久蓮実の笑い声が聞こえ始めたのである。家の中からも外からも次々に絶え間なく響き渡り、何十何百、何千と重なり合い続ける声は、やがて町全体を心地良い音色で包んでいった。

 それはまるで、全ての命が『サキュバスリーパー』によって生み出される夢の世界に侵食されていくようであった……。 


「うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」うふふふふ……♪」…


<おわり>

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