#80 継承
あの大会戦から、8年が経った。
私は今、リビングにあるソファーの上で、タブレットで映画を見ている。
それは、ヴァニアさんが初めて主役を射止めたという映画だ。
『私は決して屈しない!人々のため、占いは続ける!』
『なんだと!?この、神への冒涜を働く者め!これでもくらえ!』
ひどい鞭打ち拷問シーンの後に、処刑場に連れていかれ、ついにはその身を火で焼かれようとしていた。が、彼女の「占い」で救われた大勢の人々が集まり、彼女は助け出された……最後の感動シーンで、思わず涙する私だが、それにしてもこれ……どこかで聞いたような話だな。
そんな私の横で、この映画をじーっと見つめる娘がいる。
娘の名はアンジェレッタ。もう6歳になる、私の娘だ。目をパチパチさせながら、その映画の最後のシーンを見つめる。
「なんでこんなにたくさんの人が、この女の人を助けたの?」
「それはね、占いでたくさんの人を救ったからなのよ。その恩返しに、今度はみんなが助けてくれたの」
「ふーん。そうなんだ」
だが、この幼い娘はすぐに別のことに興味が移ったようで、隣の部屋にささっと走っていく。
なお、3歳の息子のダレスは、リビングの床で遊んでいる。積み木に興味があるらしく、一生懸命に高く積み上げようと試みている。その側を、落ち着きのない姉が走るたびにそれが崩れる。努力が報われず、その度にこの息子は泣く。それの繰り返しだ。
私はまだ、雑用係を続けている。といっても、子供が2人もいるので、1日3時間限定だ。その間、この子らを保育所に預けて仕事をしている。
雑用係の面々も皆、子供が生まれた。エリーザさんも、とある駆逐艦の士官と恋に落ちて、結婚した。あんな性格でも、結婚したがる人が出るんだと感心したものだ。
弟のヘルムートとコスタさんにも子供が2人いる。偶然だが、どちらも私の2人の子供と同い年。ただし、2人とも男子である。
そういえばモレナさんだが、なんとトニーノさんと結婚した。意外な組み合わせだが、案外あの2人は気があったようで、いつのまにか付き合い、そして結婚する。
で、1年前に、地球122へと帰っていった。
帰った理由は、明白だ。
それは、私の占いの力が、なくなったからである。
このため、もはや私の影武者も不要となり、トニーノさんのこの星での任期が終了するとともに、一緒に帰っていった。
なお、キースさんはこの地球816艦隊に転属となり、階級も大佐となっていた。今は駆逐艦の艦長をしている。
反対に、この星出身でこの星を出ていった人もいる。
ヒルデガルドさんだ。ルチアーノさんとともに、地球122へと行ってしまった。
「私はビックなレディーになるんですわよ!?こんな田舎の星なんて、いられませんわ!」
などと大言をはいて、ルチアーノさんの帰任とともにこの星を出ていってしまった。
だが、あちらで店を開き、繁盛しているという。案外、ビッグになるという宣言は、実現するかもしれない。
もっとも、距離は離れていても、モレナさんやヒルデガルドさんとはメールでやりとりを続けている。2人とも、向こうで楽しくやっているようだ。
そういえば、ハンスさんとアドリーナさんはすでに子供が3人いるらしい。男が2人、女が1人。もう一人作ると息巻いているようだ。なんて元気な夫婦だ……
なお、母はもう1人、子供を産んだ。つまり、母にとっては4人目の子供だ。そう考えるとうちの母も、元気なものだ。
しかも今度はフェデリコさん待望の娘。司令部では頭の切れる冷徹沈着なフェデリコ少将閣下が、家に帰ればこの可愛い娘にぞっこんだと言う。
ちなみにその娘は、私の妹ということになる。その妹は、我が息子ダレスと同い年。そういえば弟の子供も同い年の息子がいるな。ここの家族構成は、だんだんとややこしいことになっている。
そういえば、私に娘のアンジェレッタが生まれた時に、占いの力を失った。その時、母が教えてくれたことがある。
なんと、母は昔、占いができたそうだ。
私が生まれたと同時に、占いができなくなったという。そして、娘である私に、その力が宿った。
そして、その力は今、娘のアンジェレッタにある。
3日前のことだ。私は、アンジェレッタに言う。
「アンジェレッタ、私のこと、また占ってくれる?」
「いいよ、ママ!」
そしてアンジェレッタは私の手を握り、目を閉じる。
そして、目を開いた。
「どう?何が見えた?」
「あのね、パパがママにね……」
そう言いかけたアンジェレッタは、突然走り出す。
「やっぱり、教えない!」
「あ、こら!アンジェレッタ!言いなさい!何があったの!?」
結局、この時は娘から、占いの結果を聞くことができなかった。気にはなるが、どうせたわいもないことだろう。
ところで、今日は帝都司令部で、地球816の防衛艦隊結成式がある日だ。
ついに地球816も1万隻の艦艇をそろえ、正式に防衛艦隊を名乗ることになった。これと同時に、地球122の庇護を解消、独立した星として、連合の一翼を担うこととなる。
キースさんも艦長として、その式典に出席している。いまさらではあるが、これで名実ともに、キースさんもこの星の人となる。
で、その式典は午前中は終わりのはずなので、そろそろ帰ってくるはずなのだが、我が主人はまだ帰ってこない。他の艦長らと、食事でもしてるんだろうか?
と思った、その時だった。
「ただいま!」
ドアが開き、キースさんの声がする。ああ、やっと帰ってきた。
「おかえりなさい、あなた。遅かったのね……」
玄関に向かうと、私はキースさんの姿を見て驚く。
白い軍礼服姿のキースさんだが、その手には、とても大きく白い薔薇の花束が握られていた。
私は思わず唖然とする。するとキースさんは、こう言った。
「いまさらだけど、今日からついに私も正式に地球816人だ。てことで、そのお祝いにこれを買ってきたんだよ」
「まあ、綺麗です!大きいです!それにしてもこんなにたくさんの白薔薇、よく見つけてきましたね」
「まあね、おかげでちょっと時間がかかっちゃって……」
と言いながら家に上がると、キースさんは私を抱き寄せる。
「ということで、今後ともよろしく、オルガ」
そう言いながら、キースさんは私に口づけをする。私も、キースさんの腰に手を当てて抱き寄せ、それに応える。
なんだ、アンジェレッタめ、あの時、この光景を見ていたんだな。どおりで素直に教えてくれなかったわけだ。
だが、アンジエレッタにも同じ時が訪れることだろう。その時のために、たっぷりとラブラブなところを見せ付けておこう。いや、もう見てるか。
(完)




