#76 砲撃
地球122にとっては、170年ぶりの危機が発生した。
ルビアーノの街の上空を横切った艦砲のビームの筋。あれが地上に着弾すれば、この街の建物と生きとし生けるものすべては、一瞬にして蒸発して、その跡には巨大な穴が生じるだろう……
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私があの占い店を引き継いで、2週間が経った。
その間にも、残っていた従業員達が徐々に抜けていく。再就職先が決まったためだ。
残るはあと3人。モレナさんと、受付嬢の2人だ。
実はモレナさん、もう再就職先が決まってるそうだ。が、すぐに働けるわけではないところだそうで、しばらくはここで働くことになっている。
また他の2人も、もうじき内定がもらえそうだと言っていた。ここで私が占いを続けるのも、もうあとわずかなようだ。
「オルガレッタさん、どうなの、お店の調子は?」
「はい、母上様。あと2人の就職先が決まればおしまい、もうちょっとで私の役目も終わりそうです」
「そう。でも、難儀なことね。わざわざあなたを監禁した店で、わざわざタダ同然で働くなんて」
「でも、私の名前を使ったお店でとばっちりを受けた人を見てると、なんだか放っておけないんです。もう少しですから、頑張ります」
「そう。優しいのね、オルガレッタさんは。キース、大事にしてあげなさい」
「はい、母上。もちろん、大事にしてますよ」
キースさんの兄上様である、ハンス様も話に加わる。
「まあ、私もオルガレッタ殿のおかげで変わったようなものだ。母上の言う通り、オルガレッタ殿がキースの奥さんになれたことは、本当に良かった」
「そんな!ハンス様が変わられたのは、アドリーナさんのおかげですよ!私なんて結局、ただ占っただけで、何もできなかったし……」
「何をおっしゃいます!オルガレッタ様!あなたが私とハンス様にこの素晴らしき運命を呼び寄せてくださったんですよ!私はそう、信じてます!」
「わっはっは!まあ、なんにしてもこの広い食卓が賑やかになったものだ!わしゃ嬉しいぞ!」
ここにきた時には、朝食で大きなテーブルに4人しかいなかったが、今や6人に増えた。しかも、あのギスギスした感じもすっかりなくなり、和やかな朝食風景となる。
こうして接してみると、ハンス様もキースさんのように優しいお方だ。ふさぎ込んでいた時はおっかない人だと思っていたが、こうしてみるとやっぱり兄弟だな。
「それじゃあ、行ってまいります」
「気をつけてね」
私は軍が手配した車に乗って、あの店に出勤する。どうやらこの星域近辺に連盟軍の艦艇が確認されたらしく、軍が警戒しているそうだ。
おかげで物々しい出勤だが、占いが始まると、いつものような忙しさだ。ひっきりなしにやってくるお客さんを、私は順に占う。
この日も何事もなく終わる、帰り際にはモレアさんと一緒にカフェに寄って、それから帰ろう……この日も、そうなるものだと思っていた。
だが、その日の占いは、誰を占っても同じ光景ばかりが現れる。
それも、とんでもない事態を予想させる光景ばかりだ。
この街の空を、青白い筋が通り過ぎる。それを見上げる人々の姿。上空には、赤褐色の駆逐艦が1隻。対峙する、灰色の2隻の駆逐艦。
誰を占っても、こんな光景ばかりが出てくる。赤褐色の駆逐艦といえば、連盟軍の船だ。あまりにも同じ光景ばかりが続くので、私は護衛をしてくれている軍人に知らせる。その軍人さんは、早速司令部に連絡をする。
「どういうことですか!?敵の船が、このルビアーノ上空に現れるってことですか!?」
「うん、そうとしか思えない。でも、本当に起きたら、大変なことになるよ!」
「でもここには司令部があって、そう簡単には入り込めないと思うんです。その駆逐艦はどうやって、街の上空まで侵入してくるんですか?」
「さ、さあ……よく分からないなぁ」
そんなことを聞かれても、私に分かるわけがない。とにかく私は、見たとおりの光景を占った人にも知らせる。
その光景のいくつかに、時計が見えた。それによれば、日付は明日で、時間は午前11時5分前後。
この知らせは、早速その日の夜のニュースに流された。軍は、不要不急の外出を控えるようにと呼びかける。が、テレビに出てくる専門家という人達は、私の占いに否定的だ。
『我が地球122の鉄壁のレーダー網をかいくぐって敵艦が侵入するなど、どう考えてもあり得ないことです。ましてや、この一件で軍はより一層警戒を増している、余計に我が地球122に入り込む余地などない!残念だが、この占いとやらは、どうあがいても実現されないのではないか』
専門家の意見の多くは、私の占いは当たらないというものだった。敵艦が現れても、大気圏外で捕捉されて撃沈されるか、拿捕されるのがオチだというのが彼らの意見だ。
『いや、そもそも敵艦が現れるんですかねぇ……私が以前から申し上げている通り、そのオルガレッタという占い師の言葉の信ぴょう性も、この際はちゃんと調査した方が良いのではありませんか?軍ほどの組織が、あんな娘の流言に惑わされるなど、あってはならぬことですよ』
という人まで現れる始末だ。私本人が言うのはなんだが、この専門家達の言う通り、私の占いが外れてくれることが、本当は一番いい。
だが、これほどの大ごとにおいて、私の占いが外れたことはない。今までがそうだった。
ただし、その結末まで私は知らない。そのあと、街がどうなってしまうのか?軍がなんとかしてくれるのか?それとも……街が焦土と化してしまうのか?その先のことまでは分からない。
軍は警戒レベルを上げる一方で、私の占いへの賛否両論が飛び交う中、とうとう翌日を迎えてしまった。
朝。私は窓の外を見る。
少し薄曇りの空だが、何かが起こるとはとても思えない空だ。
スマホのニュースを見ても、テレビを見ても、昨日とさほど変わった話はない。ただ、どこも通常の番組を打ち切って、敵艦侵入に備えて特別番組を続けていた。
朝食を終える。食卓には5人しかいない。そういえばキースさんは昨日の晩から帰ってこない。軍司令部は厳戒態勢を敷いており、キースさんも巻き込まれている。
朝食を終えて、再びテレビを見る。時計を見ると、10時を過ぎたところだ。だが、まだ何も起こらない。
ニュースを見てても、何かが起きる様子は見られない。平穏な空が映っているだけだ。
『敵艦が姿をあらわすまで、あと1時間を切りました。が、レーダー網にはまったく敵艦が捕捉されていないとのこと。これは、オルガレッタさんの占いは外れたと考えたほうが妥当なようですね……』
『あのような信ぴょう性の低いものに頼って、軍を動かしてしまった。これは司令部の責任問題になりそうな案件ですな……』
テレビでは、私の占いはハズレだったという論調が増え始めていた。それに伴い、軍の責任論にまで話が及んでいる。確かに敵艦が今から大気圏に突入しない限り、このルビアーノに到達することはできない。民間船のルビアーノ周辺2000キロ以内の大気圏突入が制限されている今、一隻でも突っ込んでくる船がいれば、すぐに捕捉されてしまう。
だが、このルビアーノ周辺に侵入する宇宙船は1隻もない。やっぱり、私の占いが外れたんだろうか?私の中に、罪悪感のようなものが生まれ始める。
しかしだ、今までこのレベルの占いが外れで終わったことはない。きっと、何かが起こる。どこからか敵艦が現れると、私はまだそう、感じていた。
と、その時だった。突然、軍から緊急事態が発表される。
『大変です!たった今、軍司令部より発表!敵の駆逐艦1隻を発見!場所は、ルビアーノの東20キロにあるカストレガーラ山の麓!』
これを聞いたテレビのスタジオは騒然となる。思わぬところから出現した敵駆逐艦の情報に、スタジオ内も混乱気味だ。
『ど、どういうことですか!?大気圏外からの侵入を、軍は見逃してしまったのですか?』
『いえ、どうやらすでにこの星に入り込んでいたようです!山麓の深い森の中に潜んでいるところを、軍の哨戒機が発見したとのことです!これを受けて、軍は航空機隊、および駆逐艦に出動要請をかけた模様です!』
そうか。まったくもって盲点だった。宇宙船だから、宇宙からくるものと思い込んでいたのが間違いだった。この連盟艦は、すでにこの星に降り立っていたのだ。だから、いくら空を見ていても現れないわけだ。
だが、連盟の駆逐艦がここを訪れた目的は分からない。もしかしたら、また私を拉致するためにきたのか?それとも、全く別の目的があったのか?
ともかく、その敵駆逐艦を破壊するため、司令部の部隊が発進したとニュースは伝える。
『敵駆逐艦が、動き出しましたようです!こちらの動きを察知したのでしょうか!?』
私は時計を見る。10時40分。ということは、もうすぐ、あれが起きる。
「母上様!私、外に行ってきます!」
「あ、オルガレッタさん!どこへ行くの!?」
母上様を残して、私は外に飛び出す。
私は走った。無人タクシーに乗って、街の中心部にあるいつもの占い店に向かう。
街のところどころに、軍の装甲車が止まっていた。敵駆逐艦発見の報を受けて、軍が派遣したようだ。
そして、店のあるビルの前に着く。私は無人タクシーを降りる。
そして、空を見上げた。
スマホを見る。時間はすでに、11時5分をまわっていた。
そして、その次の瞬間。
空には、青白い太いビームが上空を横切る。その直後、あの雷音にも似た砲撃音がゴゴォーンと鳴り響いた。
どう見ても、あれは駆逐艦の砲撃だ。私が占いで見た通りの光景が、この空に広がっていた。
スマホからはネットニュースが、この砲撃の瞬間を映像とともに知らせる。地球122にとっては、170年ぶりの危機が発生した、とニュースキャスターは叫ぶように報道する。
それは、地球023が報復のためにこの星の主要都市に砲撃を加えた事件、それ以来の出来事だということだ。
ルビアーノ上空を横切った、艦砲のビームの筋。この星の大気圏内でビームが発射されたのは実に170年ぶりのこと。あれ1発で、帝都の半分を灰にできると言っていたが、ニュースでもその威力について報じていた。もしあれが地上に着弾すれば、この街の半分ほどの建物と生きとし生けるものは一瞬にして蒸発し、その跡には巨大な穴が生じるだろう、と。
それを聞いた住人が、パニックに陥る。皆、騒ぎ、当て所なく走り始める。しかし、建物の中に入ろうが、あの砲撃から逃れることはできない。恐怖に震えるもの、軍の不始末だと罵るもの、抱き合う人や座り込む人など、道路も建物の前も、錯乱した人々で埋め尽くされてしまった。
『皆さん!落ち着いて下さい!我が軍が、この街の上空で敵駆逐艦を排除すべく作戦行動中です!』
軍人らが装甲車の拡声器で、市民に冷静になるよう呼びかける。が、上空に赤褐色の駆逐艦が現れて、ますますパニックが助長されてしまう。
「おい!あんなところにいる敵を、どうやって排除するんだ!?」
「あのまま攻撃をしたら、私達の上に落っこちてきて、下敷きになって犠牲者が出るだけじゃない!」
「そもそも、軍はオルガレッタさんの予言を聞いていながら、どうして発見が遅れたんだ!?」
装甲車にいる軍人達が、周りの人々から責められている。そう言われたって、この人達も今、必死になって事態を収拾しようとしてるんだ。文句ばかり言ったって、何にもなりやしない。
それで私は、その装甲車に向かう。集まった大勢の人をなんとかかき分けて、装甲車のそばにたどり着いた。
「あの!すいません!拡声器のマイク、貸してもらえます!?」
そんな私を見つけた兵士の一人が、私に尋ねる。
「あ、あれ!?もしかしてあなた……オルガレッタさん!?」
「そうです!ちょっとマイク、貸して下さい!」
すると周りの人達が、私に道を開けてくれた。私は装甲車にたどり着くと、その上に登ってマイクを手に取り叫ぶ。
「みなさーん!聞いてくださーい!私は占い師の、オルガレッタです!」
混乱状態だった群衆は、一同こちらを振り向く。私は続ける。
「私は、あの敵駆逐艦があらわれるところを、確かに占いの光景で見ました!だけど、その後に惨劇が起こる光景を、私は一切見ていないんです!つまり、私の占いによれば、皆さんの誰一人、怪我をすることなく、この事態が収まるはずなんです!大丈夫です!だから今は、軍を信じて、冷静になって下さい!近くのカフェで、コーヒーでも飲みながら、この情勢を眺めていて下さーい!」
私は思いつく限りの言葉を並べて、とにかく叫んだ。それを聞いた群衆は、静まり返る。そして、口々に言い始める。
「そう……だよな。オルガレッタさんが言うんなら、間違いないよなあ」
「そうよね、この事態をぴったり当てた奇跡の占い師が、大丈夫だって言うのだから、きっと大丈夫よ!」
すると、さっきまでこの場を覆っていた悲壮感は消えて、楽観的なムードが漂い始めた。
「ねえ、オルガレッタさん!私と一緒に写真撮りませんか?」
「せっかくだから、みんなであそこで撮りましょう!」
だが、今度は楽観的になり過ぎて、お祭り騒ぎのようになってしまった。装甲車を降りた私は、引っ張りだこだ。
私が「カフェでコーヒーでも飲みながら」なんて叫んだものだから、近くにあったカフェが一斉に周囲の人達にコーヒーを配り始める。私にも一杯、届けられた。
何人かの人と一緒に、写真に収まる。コーヒーカップ片手に応じる私。
だが、まだあの赤褐色の駆逐艦は、空の上にぽっかりと浮いたままだ。危機が去ったわけではない。
確かに私は、占いで悲惨な光景など見てはいない。それは本当だ。だがそれは、そんな光景を目にする人々が一人も生き残らなかっただけということなのかもしれない。決して、大丈夫だという証拠にはならない。
一体どうやってあの駆逐艦を、人々を傷つけることなく追い出すことができるのか?そんなこと、そもそもできるのか?大丈夫だと太鼓判を押した私自身、この先のことがわからない。
ただ、あのパニックを抑えたいがために、でまかせを叫んでしまったに過ぎない私。この先に何が起きるのか?それは私が一番知りたいくらいだ。
などと考えていると、数機の黒い航空機が空を横切る。あれは、複座機だ。上空を旋回し、あの駆逐艦の背後に回り込む。
また、連盟の駆逐艦の前に、2隻の灰色の駆逐艦が迫ってきて、その駆逐艦と対峙している。
何かが始まるようだ。コーヒーを握りながら、私も人々も、じっと空の様子を見つめる。
突然、駆逐艦の後ろで細いビームの筋が見えた。あの数機の複座機が攻撃を仕掛けたようだ。その直後、爆発音が響く。
そして赤褐色の駆逐艦の中ほど、ちょうど機関があるあたりから、煙が上がる見える。
ネットのニュースでは、複座機4機が敵の駆逐艦の噴出口を同時に攻撃し、そことつながっている機関を破壊したと伝えていた。
機関を失った駆逐艦は、徐々に高度を下げ始める。だがこのままでは、真下にいる人々や建物に被害が及んでしまう。
と、その時、対峙していた2隻の駆逐艦が全速力で前に飛び出してきた。そして落ちる敵駆逐艦の真下に潜り込み、そしてその駆逐艦を受け止める。
そのまま目一杯エンジンを吹かして、赤褐色の駆逐艦を運び出していく。やがて、ここからは駆逐艦の姿は見えなくなった。
スマホの画面を見る。ネットニュースでは、その先の様子が映されていた。2隻の駆逐艦が動力を失った敵の駆逐艦を、ルビアーノの街の外まで運んでいくのが見える。
そして、その駆逐艦が発見されたという、人気のないカストレガーラ山の麓に来ると、2隻の駆逐艦は左右に分かれて、その駆逐艦を叩き落とした。
その落下音は、ここまで響いてきた。ガガーンという大きな岩でも落っこちたような音が、街中に鳴り響く。
が、それは、この街から脅威が排除されたことを知らせる音でもあった。
「やったーっ!助かったぞー!」
あちこちから、歓声が上がる。装甲車の兵士や周りの人々から、私は握手を求められる。もう、お祭り騒ぎだ。
しばらくその騒ぎに巻き込まれていたが、その後、周りの人に見守られながら、その装甲車でスフォルニア家のお屋敷まで送ってもらうことになった。別れを惜しむ人々に、手を振る私。
こうして、砲撃による大量虐殺の悲劇は、未然に防がれた。
そして、翌朝。
「はぁ~っ……」
私は、ニュースを見ながら、ため息をつく。その様子をキースさんがみて尋ねる。
「どうしたんだい?稀代の英雄さん?」
「も~やめてよ~!英雄だなんて!私、とても後悔してるんだから!」
「後悔?なんで?」
「だって私、大勢の人の前で嘘ついちゃったんだよ!?結果的には無事に済んだけど、そんなこと占いであらかじめ知ってたわけでもないのに、大丈夫だってみんなに言っちゃった……」
「でも、それであの場の大混乱を収めることができたんだろ?もし、オルガがそれをやらなかったら、混乱によりけが人や死人が出ていた可能性だってあるんだよ?正しいことをしたんだ。何も気にやむことなんてないさ」
「そうかなぁ……」
ニュースでは、昨日の事件のことが報じられている。
駆逐艦に残されたデータから、どうやら敵の駆逐艦は3日前にはすでにこの星に侵入していたようだ。ただ、駆逐艦の乗員は落下時に全員死亡したため、ここに来た目的が何だったのかまでは分からない。
あの敵艦の噴出口をピンポイント攻撃し、動力を失ったところで味方の駆逐艦2隻ですくい上げて街の上空から追い出すという作戦は、フェデリコさんが考案し、実行したという。私の占いの話を受けて、前日から上空に駆逐艦が現れた場合に備えて考えていた作戦らしい。
そして、私が装甲車に乗って、マイクで群衆に呼びかけているところも、報じられた。誰かがその様子をスマホで撮影していて、それをテレビが何度も流していた。
『いやあ、オルガレッタさんの占いの正確さと、その後の勇気ある行動!彼女こそ本当の英雄ではないでしょうか!以前から申し上げている通り、彼女のこの献身的な人柄こそが、彼女を英雄たらしめる要因だと私は思っている次第です!』
なーにが「以前から申し上げている通り」だ。この専門家さん、昨日は私の占いの信ぴょう性をもっとちゃんと調査したほうがいいって、私のことを疑っていた人じゃないか。よくまあ、たった1日で自分の意見をころっと平気で変えられるものだ。
で、当の本人は、昨日群衆の前でついた嘘で悩んでいる。結果オーライだったから良かったけれど、正しい行いだったかと言われると、とても胸を張って言い切れない。この映像が流されるたびに、私は落ち込んでいる。
すると、キースさんが突然、私を抱き上げる。いわゆる「お姫様抱っこ」をされる私。思わず、ドキッとする。
「な、何するんです!?キースさん!?」
「英雄のオルガが落ち込んでちゃあ、この家が暗くなってしまう。だから、少し元気になってもらいますか!」
「えっ!?元気にって……ななな何をするの!?」
「そうだなぁ……このままベッドに連れ込んで、めちゃくちゃにして……」
「ええ~っ!?まだ朝だよ!?ちょ、ちょっと朝からそれは……」
「はっはっは!冗談だよ!それよりもオルガ、そういえばこの星に来て、一度もピザを食べていないだろう?」
「あ!そうだ!そう言われてみれば、ピザ食べてないわ、私!なんということ!?」
「実はね、この街のピザの美味しい店を知ってるんだ。昨日の騒ぎのおかげで、今日は私も休みになったし、2人でその店に行こうか!」
「はい!行きます!行きましょう、その美味しいピザ屋とやらに!」
と、それを聞いていたアドリーナさんが割り込んでくる。
「ええーっ!?オルガレッタ様って、ピザが大好きだったんですか!?それじゃ、私も連れて行ってください!」
「だったら、私も行かなきゃな」
「そうね、じゃあ、みんなで行きましょうか!」
「わっはっは!そうじゃな、どうせなら家族みんなでたくさん食べるぞ!」
ということで結局、スフォルニア男爵家の屋敷にいる6人全員で、そのピザ屋に押しかけることになった。
確かに、キースさんオススメのピザ屋だ。チーズが濃厚で、とても美味しい。平穏さが戻ったこのルビアーノの街の一角で、私は久々に食べるピザの味を堪能していた。




