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#74 監禁

 ハンス様が徐々に社会復帰をされ、このスフォルニア男爵家の抱えていた難題が解決されて、めでたしめでたし。

 ……とはならない。ここで一つ、私にとっては心に引っかかる事案が発生した。

 それは、「オルガレッタ式占い」なるものの存在。私以外にも未来を見通し、それどころかその先に起こることまで見通したその占い。ハンス様とアドリーナさんの人生を一変させた占いをやってのけた占い師とは一体、どんな人物なのだろう?

 私は、アドリーナさんに聞いてみた。


「アドリーナさんが言っていた『オルガレッタ式占い』なんだけど、どんな人がやっている占いなの?」

「うーん、そうですね、私が占ってもらったのは、中年のおばさんでしたね。他にも、料金によってイケメンな男性や綺麗な女性、そしてオルガレッタさん似の女性など、何人かいるんですよ」

「ええ~っ!?そのお店、占い師が何人もいるの!?」

「そうですよ。でもそのお店では、オルガレッタ様監修のもと、同じ占いができる人を何人か育成したと言ってましたけど。ご存知ないです?」


 なんだそりゃ?そんな話、当の私は知らないぞ。だいたい私が私の占い方法を他人に教えることなど、できるはずがない。それができるくらいなら、とっくにやっている。そして私自身を占ってもらいたい。

 とにかく、その占い店が気がかりだ。そこで翌日、アドリーナさんに連れて行ってもらうことになった。

 ルビアーノの中心街にあるビルの中に、その店はあるという。アドリーナさんによれば、連日大盛況で、多くの人が訪れてるそうだ。


「そりゃあ、オルガレッタ様のことは有名ですからね。拷問や処刑にも屈することなく、自らの信念を貫き通した奇跡の占い師。ドラゴンを気迫で説得した話や、地球(アース)816の帝国で皇族を救った話など、ネット番組のランキングでも連日上位に出てますからね」

「あ、あははは……そうなんだ……」


 技術や文化の優れた地球(アース)122だが、人の話の伝わり方は、我が帝都とさほど変わらない気がする。私、ちっともすごくないのに、どうしてそんなにまでして私の話を盛るのだろうか?


「あ、あそこですよ。あのビルの中にあるんです」


 無人タクシーの窓から、その店があるというビルが見えてきた。ビルの前で、タクシーが止まる。私は電子マネーで清算すると、アドリーナさんと共にタクシーを降り、ビルの前に立つ。

 そのビルの5階に受付があるという。2人は、エレベーターで5階へと上がる。

 エレベーターを出た途端、受付までの狭い空間に、びっしりと人が並んでいる。盛況だとは聞いていたが、これは相当なものだ。受付まで、何分かかるんだろうか?

 並んでいる人達は、どんな結果が出るのか気になっているようだ。そんな会話があちこちで聞こえる。


「でも、本当に当たるの?」

「私の友達は当たったって。近日中にいいことがあるだろうって言われたらしいけど、確かにその3日後に近所のスーパーで3等の景品が当たったって言ってたよ」

「へぇ、そうなんだ。すごいなぁ。私はなんて言われるかなぁ」

「まあ、占いといっても、要するに予言だからね、自分にとって都合の良いことばかりではないそうよ。でも、悪いことが起こると知ればそれを避けることもできるから、悪い出来事の方が参考になるって言われてるよ。他の友人は、旅行先で怪我をするだろうって言われて、出張を取りやめて難を逃れたっていってたわ」


 うーん、私の「占い」のことは比較的正確に伝わっているようだ。というか、ここの占い師も本当に私と同じように、未来が見えているのだろうか?


「でも、オルガレッタさんって人、すごい人気よね。それと同じ占いが体験できるって言うから来ちゃったけど、できれば本物に会ってみたいなあ」

「そりゃあさすがに無理でしょう。あのドラゴンを気迫で止めたって言う人だよ。私達なんて、その気迫で吹き飛ばされちゃうわよ」


 そんな気迫があるなら、私の前に並んでいるこの人達を吹き飛ばして、さっさと私の受付をしてもらってるところだ。その話を聞いて、私とアドリーナさんは苦笑いをする。

 で、並ぶこと30分。ようやく私の番が回ってきた。


「じゃあ私は、ここで待ってるね」


 アドリーナさんは私をここに送ってくれただけなので、占いはせずに外で待つことになった。

 というのも、ここの占いの料金は高い。占い師によるが、最低でも100ユニバーサルドル。私に似ているという人物だと、なんと一回で600ドルもする。かつて銅貨1枚で占っていた私からすれば、ここはあまりにも高額だと感じずにはいられない。


「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」

「はい」

「では、電子マネーを置いてください。その情報を基に、会員カードをお作りします」


 と受付の人が言うので、私は電子マネーを置いた。

 モニターを見ていた受付の人の顔色が変わる。私の顔と、モニターを交互に見比べている。どうしたのだろうか?


「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」


 そのまま店の奥に行ってしまった。なんだ?機械でも故障したのかな?


「あ……お待たせしました。ではこちらから、占って欲しい人物を選んで下さい」

「はい、それじゃあ……」


 私は、この店で一番人気と言われる、私のそっくりさんを選ぶ。お値段は最高額の600ドル。だが、私はなんとなくこの人の写真を見て、胸騒ぎのようなものを覚えた。だから、ぜひ会ってみたいと思った。


「では、こちらにお入り下さい」


 受付嬢に通されたのは、少し薄暗い部屋だった。その奥には、一人の人物が座っている。

 写真で見たとおりの人物が、そこにはいた。確かに、私そっくりだ。そんな相手も、自分とそっくりな人が現れて、驚きを隠せない様子だ。だが、すぐに冷静な顔つきになる。


「いらっしゃいませ……占いの館の館へようこそ」

「はい、お願いします」


 なんだか少し、暗い感じがする。部屋が薄暗いからだけではない。どことなくこの人に、何かを感じる。


「まず、ここでの占いの注意点ですが、何か特定のことを見る、例えば、金運がどうかとか、恋愛運を見て欲しいということはできません。あくまでも、近日中に起きる出来事を見通すものであるとご理解下さい。また、良い結果が出たとしても、行いによっては現れない場合があります。一方で、悪い結果ならば、事前に知ることで回避することができます。その辺りをご理解の上、占わさせていただきます」


 概ね、私の占いそのものを正確に説明できている。ということは、本当に私と同じで、未来を見通せているんだろうか?


「では、手を出して下さい」


 手を握って占うと言うあたりも同じ。だが、この時、私は一つ彼女に尋ねる。


「あの、手袋をつけてもいいですか?」

「えっ!?手袋?ええと、構いませんよ。では、手をお出し下さい」


 さあ、いよいよ占い開始だ。私は例の黒手袋をつけ、その手を差し出す。私のそっくりさんは、私の手を握る。そして、目を閉じた。と同時に、私も目を閉じる。


 ◇


 目の前には、妙に太った男が立っている。

 この私のそっくりさんは、その男に何かを訴えているようだ。

 だが、男は首を横に降る。そして、くどくどと何かを話し始める。

 それでも反論するこのそっくりさん。するとその男は、彼女の頬を引っ叩く……


 ◇


 私が目を開くのと同時に、彼女も目を開いた。彼女が言う。


「あの、あなたには何か悪いことが起きるでしょう。階段から落ちるところが見えました。だから、階段のある場所をしばらく避けた方がいいと思いますよ」


 まずは、彼女の占いの結果を聞いた。本当に起こる未来かどうかは分からないが、階段に気をつければ起こらないと念を押している。

 だが、変だ。もし私と同じ能力があるのなら、私の過去が見えているはずだ。そういう手袋を、私は今つけているのだから。

 彼女が占いの結果を話した後、今度は私が彼女に私の結果を伝える。


「あなた最近、誰かに脅されてますよね?」


 それを聞いた彼女は、ドキッとする。


「あなたから、太った男があなたの頬を引っ叩くところが見えました。私はこの手袋をつけると、過去を見ることが出来るんです。だからあなた、誰かに脅されてるんじゃないですか!?」


 この話を聞いた彼女は、しばらく黙り込んでいた。が、少し悲壮な顔で口を開く。


「あの、私、オルガレッタさんにそっくりだと言うことでスカウトされたんですけど、ここのオーナーが……」


 彼女が何かを言いかけた時、奥の扉が突然開く。

 出てきたのは、太っちょの男だった。彼女の中の光景で見た、あの男だ。


「初めまして、オルガレッタさん。わたくし、この店のオーナーをしております、ジョルジオと言います」


 数人の男と共に現れたその男。一人の男が、私のそっくりさんを部屋から連れ出す。私のことを心配そうに振り返る彼女は、扉の向こうに連れて行かれてしまった。

 ただならぬ雰囲気を感じる。私は、席を立とうとするが、男の一人に肩を押さえられて、再び席に戻される。


「あの……私に何の御用でしょうか?」


 すると、さっきまで彼女が座っていた席に、今度はその太っちょ男が座る。


「単刀直入に言いましょう。私と契約しませんか?」

「契約?なんのです?」

「この店で、占い師として働いてもらう。そういう契約です」


 そう言いながら、この男は紙を一枚、私の前に置く。


「ここに名前を書いていただくだけで結構ですよ。それで、契約は成立です」


 どう考えても、真っ当な契約ではないだろう。私は直感する。当然、私は断る。


「契約などしません!帰ります!」


 だが、男が2人がかりで私を押さえつけてくる。このジョルジオという男は続ける。


「契約を済ませていただければ、すぐにでも帰れますよ。さあ、名前を書いて下さい」


 しまった、と思ったが、もう後の祭りだ。おそらく受付で通した電子マネーから、私の正体を知ったようだ。本物が現れたと言うので、このオーナーがやってきたようだ。

 私はその契約書を読んでみた。そこには、オーナーが認めない限りは辞められないと書かれている。もし辞めたい場合は、数百万ドルの違約金がかかるとされている。

 おまけに、性的な業務もオーナーの意向次第で可とされている。どういうことだ?これを読む限りでは、やりたい放題じゃないか。おまけに高額な違約金。そんなもの、ポンと払えるわけがない。

 そんな契約、私はとてもするつもりなどない。私は自分の星に帰らねばならない。こんなところで働くことになってたまるものか。

 だが、私が契約しない限り、ここから出すつもりはないようだ。しばらくそのオーナーとのにらみ合いが続く。

 随分と時間が経った。お腹も空いてきた。するとこの男は、そんな私の前でサンドイッチを食べ始めた。


「あなたにも差し上げましょうか?サンドイッチ。ここに名前を書いて頂ければ、サンドイッチどころか、もっと豪華な食事をご用意いたしますよ」


 いやらしい男だ。こっちの空腹を見透かしている。だが、4人もの男に囲まれて、私はとてもこの部屋から出られそうにない。

 いつまで続くんだろうか?早くお屋敷に帰りたい……そろそろみんな、心配してるんじゃないだろうか?


 と、思った、その時だ。


 突然、ドアがバンッと開く。そして、何人かの男が入ってきた。

 この服装、間違いない、軍の特殊部隊の服装だ。彼らは入るや否や、4人の男と太っちょのオーナーに銃を突きつける。


「動くな!」


 そう言いながら扉の奥から現れたのは、フェデリコさんだった。


「フェデリコさん、どうしてここに……」

「キース少佐が知らせてくれた。オルガレッタ式占いをすると称する店から出てこないから心配だと、アドリーナという娘から連絡があったそうだ。それで、私がこの店にやってきたというわけだ」


 ああ、そうか。アドリーナさんが知らせてくれたんだ。私がいつまでも出てこないのを不審に思って、動いてくれたんだ。


「あ!オルガレッタ様!やっと見つけた!」


 そのアドリーナさんが部屋に入ってきた。いきなり私に抱きつく。


「ありがとう、アドリーナさん。大丈夫だよ」

「全然出てこないから心配して、ハンス様やキース様に電話したの!そしたらね、軍が動いてくれて……」


 さて、銃を突きつけられたジョルジオという男は、フェデリコさんに文句を言い出す。


「なんてことしてくれたんだ!軍が民間人に銃を向けるとは、ただで済むと思うな!」

「オルガレッタ殿の身柄の保証は、我が軍の最重要事項の一つだ。そのオルガレッタ殿を、あろうことか不当に監禁し、さらに無茶な契約を通そうとした。言い逃れできないのは、貴殿の方だ!」

「ぐぬぬ……」


 フェデリコさんは、私の前に置かれた契約書をそのオーナーに見せながら叫ぶ。

 遅れて、警察もやってきた。フェデリコさんに指示に従い、そのオーナーと4人の男らを連れ出す。

 店内は大混乱だ。突然、軍と警察が押し寄せた。さらにテレビカメラまでやってきた。窓の外を見ると、2台の装甲車両とたくさんの警察車両、そしてテレビ局のものと思われる車両が集まっていた。

 客は皆帰ったが、受付嬢達と、この店の占い師は一箇所に集められていた。警察の尋問を受けているが、どうやら彼らには罪は及ばないらしく、聞き取りが行われているだけのようだ。そこには、私のそっくりさんもいる。


「よかった!無事だったんですね、オルガレッタ様!」


 私の姿を見て、泣きながら抱きつく私のそっくりさん。私も思わず、彼女を抱きしめる。

 その姿を、テレビカメラが捉えていた。


「それにしても、随分と貴殿にそっくりな人がいるものだな」

「ええ、私も驚きました」


 私は、フェデリコさんに彼女がこの店のオーナーに脅されていたことを話す。


「……だろうな。調べてみると、この貴殿そっくりな女性は、法外な違約金をたてに働かされていたようだ。この店にとっては看板とも言える人物。手放すわけにはいかなかったのだろう」

「はい、私、実は2日前に辞めますって伝えたんです。この仕事、なんだか人を騙している気がして……するとオーナーが突然、300万ドルの違約金を要求してきたんです。そんなの払えないって言ったら、突然引っ叩かれて結局辞められなかったんです。でもその場面を、オルガレッタ様がぴたりと言い当てたんです。随分とオルガレッタ様にそっくりな人だなあと思ってましたけど、まさか本物だったなんて……その占いの力にも、驚きました」


 このそっくりさんによれば、ここにいる占い師は別に未来の光景が見えているわけではないそうだ。だが、ここの店の占いもさほど評判が悪いわけではない。私が並んでいる時も、よく当たるという声が聞かれた。一体、どういうことなのだろうか?


「簡単だ。良いことは、なるべく曖昧に話す。そうすれば、なんとなく良いことが起きると当たったように感じる。逆に悪いことが起きると話すときは、そういうことが起こるから気をつけろと注意する。その事象が起きれば当たったと感じ、起こらなければ、気をつけた結果だろうと思い、外れたとは考えない。それだけの単純なカラクリで、よく当たる店というイメージがついたのだろう」


 と、フェデリコさんは話してくれた。実際、この店の占い師に聞いてみると、占いをするテーブルの下に占いが出るようになっていて、その内容を話すことになっていたそうだ。うーん、これが「オルガレッタ式占い」の正体か。


 こうして、私の名を騙る占い店は、軍と警察の制圧という形で幕を下ろしてしまった。

 翌日、そのニュースがテレビやネットでデカデカと扱われる。

 そして、私とあのそっくりさんが抱き合うシーンは、こんな表現で紹介されていた。


「オルガレッタさん、『オルガレッタさん』を救い出す!」


 うーん、正確には2人とも救われた方なんだけど、あのそっくりさんを私が救い出したことになってしまった。いい加減だなあ、ここの星のニュースは。

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