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#70 故郷

「高度13000、速力1100、ルビアーノ宇宙港まで200。現在、定刻通りに順調に航行中」

「ルビアーノ宇宙港より入電。第149番ドックへ入港されたし、以上です」

「了解した。入港準備、対地レーダー作動!」

「対地レーダー作動!動作良好、問題なし!」


 地球(アース)122の大気圏に入り、キースさんの故郷であるルビアーノという街に向かっている。

 下を見ると、海が広がっている。そういえばキースさんの故郷は海のそばだと聞いていた。この先にある陸地にその街はあるのだろう。

 しばらくすると、陸地が見えてきた。近づくにつれて木々や砂浜が見え……るかと思いきや、現れたのはたくさんの高層ビルだった。

 連盟の星、地球(アース)477のスモレンスクも、高層ビルが立ち並ぶ街だった。が、こちらも負けず劣らずたくさんのビルが立ち並ぶ。

 海岸線だけが、綺麗な砂浜が残されている。そのすぐそばに、まるで壁のように立ちはだかる高層ビル群。そのビルの壁の上をゆっくりと進む駆逐艦6190号艦。

 やがて、ビル群の向こうにたくさんのドックが並ぶ宇宙港が見えてきた。徐々に高度を下げながら、そのドックの上を滑るように進む駆逐艦。


「ルビアーノ宇宙港への入港準備よし!微速下降!繋留ビーコン、捕捉!」

「第149番ドックまで、あと60……40……20……繋留ロック、接続!着底!」

「前後ロック、よし!機関停止!」


 ガシャーンという金属音が響く。その直後、ヒューンという機関出力が落とされる音が艦橋内に響いていた。

 窓から周りを見る。すぐ横にはたくさんのビル群。帝都などと比べたら、高層の建物の数も宇宙港の広さも段違いだ。ここはこの宇宙でも、最も発展している星の一つ。それがこの、地球(アース)122だ。

 この星は、宇宙が連合と連盟の2つに分かれる前から宇宙の進出を始めていた星の一つ。このルビアーノ宇宙港は、地球(アース)122の中でも3番目に古い宇宙港だそうで、駆逐艦300隻、通常型民間船を500隻、大型民間船10隻を収容することができるという。

 地球(アース)001によって今から190年ほど前に発見されて、それ以来、この宇宙港の交易を続けているという。だが、当初は地球(アース)001以外の星は、今の民間船のように、哨戒機についているような小型のビーム砲程度しか保有することができず、大型砲を持った地球(アース)001に対して軍事力的に圧倒的に不利な立場にあった。

 その状況を変えたのが、地球(アース)023という星だ。大型砲と駆逐艦の建造技術を盗み出し、密かに1万隻の艦隊を結成。その艦隊の存在に気づいた地球(アース)001は艦隊2万隻を派遣するが、半数の敵に大惨敗する。それがきっかけで、宇宙の動乱の時代が始まった。

 よく見ると、この宇宙港の向こう側には、大きな穴のようなものが空いている。元々はそこに街があったそうだが、170年前に連盟への参加を拒んだ地球(アース)122政府に対して、報復攻撃をかけてきた地球(アース)023の艦砲射撃の跡だという。

 現在は、海側周辺に街が再建された。だが、この星が連合に参加するきっかけとなった傷は未だに生々しく残されている。


 そして私とキースさんは、宇宙港のロビーにフェデリコさんと母、2人の弟、そして使用人のコスタさんとともにいた。


「それじゃあお母さん、私行くね」

「気をつけてね。あなた最近危なっかしいから、気をつけるのよ。

「分かってるわよ。そういうお母さん達も油断しないでね」


 母と弟達、そしてコスタさんは、フェデリコさんの実家に向かう。そういえば、母もフェデリコさんの両親にまだ会っていない。

 ところで、私はここに至る道中で、驚愕の事実を知る。

 なんとフェデリコさんは、ブリアニーレ公爵家の次男なのだそうだ。つまり、実家は公爵家だという。

 といっても、さほど領地があるわけではない。名ばかりの公爵家だというが、それでも貴族であることには変わりない。今は領地経営ではなく、いくつかの事業で公爵家を維持しているという。

 地球(アース)122は地球(アース)001に発見された時は、ちょうど私の地球(アース)816と同様、中世の星だったそうだ。このルビアーノという街は、ヴェルディニア王国の王都だという。今でもヴェルディニア王国は存続しており、王族も存在する。だが、政治は国民議会と、議会に任命された首相によって行われる立憲君主制だという。王家は象徴的存在で、貴族は事業化に成功した家のみが存続しているという。

 いやあ、そう言われてみればフェデリコさん、どことなく貴族っぽい喋り方してたよね。帝都で殿下や皇子、皇女、貴族にあってもまるで動じなかったのは、元々貴族だからだったんだ。

 ところが、驚くのはそれだけではない。

 なんと、キースさんの実家も貴族であり、スフォルニア男爵家ということが判明した。


「あの~、どうしてお2人とも、実家が貴族だってこと黙ってたんです?大事なことじゃないですか」

「いやあ、あえていうほどのものじゃないし。うちも男爵家といったって、領地も持たない名ばかりの貴族なんだよ」


 とはいうものの、貴族は貴族である。キースさんの実家のスフォルニア男爵家は、領地こそないものの、2つの事業を持ち昔からの屋敷も残る立派な王国貴族だという。


「ただ、伝統的に貴族の次男以下は軍大学に進んで星のために貢献せよ、ということになってるから、私はルビアーノ軍大学に行き、そこでパイロットになったんだ」

「そ、そうなんだ。じゃあ、キースさんは男爵様というわけではないんですよね」

「まあね。まだ父上が当主だけど、いずれは兄上が家督を譲られて男爵家の当主となることになっている。だけどね……」


 キースさんは何か言いかけたが、それ以上語ろうとせずロビーを歩き出す。


「さ、行こうか。私の実家に」

「はい、参ります」


 宇宙港の前で無人タクシーに乗り込み、街中を進む。

 高いビルの狭間をしばらく走るが、やがて3、4階建ほどの、まるで帝都にあるような石造りの建物が現れ始めた。

 そこはいわゆる貴族街だという。フェデリコさんの家も、この辺りにあるという。

 そしてタクシーは、ある屋敷の前に止まった。

 それは、フェデリコさんと母が帝都で頂いたのと同じくらいの大きさのお屋敷。周りのビル群と比べるととても古い建物で、壁の一部が(つた)で覆われている。

 うーん、緊張してきた。変な汗が出る。ただでさえキースさんの家族に会うということで緊張しているのに、ここは男爵家だ。未開の星の平民の私には、あまりにも敷居が高過ぎる。

 キースさんは門の呼び鈴を押し、中庭を抜けて扉の前にいると、誰かが出てきた。


「おかえり、キース」

「ただいま、母上」


 キースさんの母上様だった。キースさんの母親ということもあり、優しそうな顔立ちがよく似ている。その母上様が、私の方を見る。


「あら、こちらが奥さんのオルガレッタさんね」

「ははは初めまして!私、オルガレッタと言います。ええと、本日はお招きいただき……」

「そんなに緊張しなくてもいいわよ。さ、父上が待っているわ。いらっしゃい」


 屋敷の中に通される。キースさんは私の手を引いて、広い屋敷の中に導いてくれる。

 通路を歩く。壁に掛けられた絵画や、すみに置かれた彫像を見れば、ここが歴史ある建物だとすぐに分かる。我が帝都にあっても違和感がないくらいのお屋敷だ。ここが、あの高層ビル群が立ち並ぶ地球(アース)122の街中にあることを忘れさせる。

 が、窓の外を見ると、遠くにあのビル群が見える。紛れもなくここは地球(アース)122の大都市、ルビアーノだ。


「あなた、いらっしゃったわよ」


 リビングに通される。そこにいたのは、いかにも男爵様という身なり、風格の男性。だが、どことなくキースさんにも似ている。一目でキースさんの父上様と分かった。


「おお!来たか、待っていたぞ!」

「ただいま、父上」

「2年ぶりくらいか。しかも、少佐に昇進したそうじゃないか!」

「ありがとうございます。ですが、あれは途中で遭難した際に運良く住人と接触できたため。たまたまですよ」

「いやいや、運も実力のうちだぞ!?そして……」


 父上様は、私の方を見る。


「なんといっても、こんな可愛らしい奥様を連れてくるなんてな!キースよ、お前、立派になったものだな!あっはっは!」


 うわぁ……男爵様に見られてるよ。変な汗をかきながらも、私はスカートの裾を持ち頭を下げ、挨拶をする。


「わ、私はオルガレッタと申します。ええと……あの、お招きいただき、じゃなくて、本日はお日柄もよろしく……」


 ヒルデガルドさんに貴族の挨拶の方法を教わったことがあるので、実践を試みるも、まるでダメだ。やっぱり私は、ど平民だ。


「そんな硬い挨拶などいらぬよ、オルガレッタ殿。いや、本当に遠くからよくお越しいただいた。感謝する。途中、遭難したと聞いて心配していたが、無事でよかった」


 ニコニコと微笑みながら、私に手を伸ばす。私も手を差し出すと、がっちり握手をされる。


「わしはキースの父、バルトロメオだ。この王国の貴族ではあるが、遠慮なさらずとも良い。こんな形だけの貴族よりも、そなたの方がよほど有名人だぞ。ほれ、あれを見てみよ」


 テレビの方を指差すキースさんの父上様。

 壁に掛けられた大きなテレビに、私が映っている。

 一緒に映っているのは、戦艦ヴィットリオのパーティー会場にいた時にやってきたテレビ局の人だ。ああ、これ、そのとき撮られた映像だ。


「占い師オルガレッタ殿といえば、この地球(アース)122でも有名だからな。地球(アース)816の皇太子殿下や皇女を救った話、壮麗な帝国騎士と女性士官の劇的な出会いを予言、さらに悪宰相の拷問、弾圧にも負けず、堂々と処刑台にまで望んだ話は、こっちにも広まっとるよ。そんな勇敢な女予言師が、まさか我が息子と結婚するとはな。わしも鼻が高いぞ!はっはっは!」


 随分と話が盛られているな。私、そんなに勇敢じゃないんだけど。現に、キースさんのご両親様を前に緊張して変な汗が止まらない、チキン野郎だ。

 と、リビングでキースさんのご両親様と話をしていると、奥からもう1人、別の人物が現れた。

 顔が、どことなくキースさんそっくりだ。ああ、こちらは多分、兄上様だ。私はそう思った。

 だが、一目表情を見れば明らかに分かるほど、機嫌が悪い。どうしたというのだろうか?


「おお!ハンス!弟のキースが帰ってきたぞ!奥さんも一緒だ!挨拶していかんか!?」


 父上様が兄上様に声をかける。渋々、父上様のもとに来るキースさんの兄上様。


「ハンスです。よろしく」


 そう短く答えて、立ち去ろうとする。するとキースさんが兄上様に話しかける。


「兄上、元気でしたか?」


 すると兄上様、ムッとした顔でキースさんを睨むように言い放つ。


「有名人を嫁にできた運のいいお前よりも、元気であるはずがないだろう!」


 すると、父上様が怒鳴りつける。


「おい!ハンス!なんてことを言うんだ!」


 だが、兄上様は何も言わずに、その場を立ち去る。


「……まったく、お見苦しいところを見せてしまった。申し訳ない」

「い、いえ、大丈夫ですから。でも……何かあったんですか?」


 キースさんの実家であるスフォルニア男爵家では、私はとても優しい父上様と母上様に出迎えられる。

 その一方で、私はこの男爵家の影の部分を垣間見ることとなった。

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