表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/80

#66 交流

 ファーブニルさんの背中に乗ってしばらく飛んでいると、哨戒機が飛んでくるのが見えた。多分、あれはキースさんの哨戒機だ。私は大きく手を振る。

 するとその哨戒機はファーブニルさんの周りをぐるりと旋回し、ファーブニルさんの真横についた。そのまま並走し、アルバーニョの街を目指す。

 山の麓の、森が切り開かれた場所にあるアルバーニョの街が見えてきた。その向こうには滑走路があり、2隻の駆逐艦もそこにいる。その街に、悠々と接近するファーブニルさん。

 地上にいるみんなはきっと、驚いているだろうな……なにせ、とても大きくて赤い恐獣が、哨戒機と並んでやってくるのだ。普段だったらあのレシプロ機ってやつを飛び立たせ、地上でも銃を構えて迎え撃とうとするところだろう。


 街の広場が見えてきた。そこに大きな旗が見える。多分、あそこに降りろってことのようだ。キースさんの哨戒機が先導して、その広場に向かって降りていく。そのあとをファーブニルさんはついていく。

 すごい人だかりだ。広場の真ん中には高めの舞台が置かれていて、その上に人が一人、立っている。おそらくあれは、イライアさんだ。

 そのイライアさんの前に降りるファーブニルさん。ズシーンという音と共に、地面が揺れ、風が巻き起こる。そして彼らをかつて恐怖のどん底に叩き落とした恐獣の親玉が、街の人達のど真ん中に立っている。


「私がこの街の代表の、イライアだ!」


 イライアさんが、ファーブニルさんに向かって叫ぶ。私は目を閉じて、ファーブニルさんの言葉を聞く。


「わしはファーブニル!人間達と和睦したく、やってきた、って言ってます!」

「オルガレッタ殿!その者の言葉が、わかるのか!?」

「占いの要領で体に触れると、なぜかこのドラゴンの言葉が読めるんです!」

「そうか、では、すまねえが通訳を頼む!」

「はい!」


 私は背中に乗ったまま、ファーブニルさんの言葉を伝える。それにイライアさんが応える。このやり取りが、1時間ほど続いた。


「……つまりだ、あんたらは海に新しい住処を移し、人は襲わない。だから、俺らもそのワイバーンっていう黒い恐獣を攻撃しないで欲しいと、そういうことだな?」

「……そういうことだ、と言ってます!」

「そうか。分かった。受け入れよう」


 それを聞いて、街の人から声が上がる。


「ちょっと待って下せえ!イライアさん、こいつはともかく、こいつの子分どもは俺らの仲間を散々殺してきたんですぜ!?」

「んなこたあ分かってる!だが、俺らだってこいつらを昨日、たくさん殺したところだ。お互い様だろう」

「だけど、信用できるんですかい?」

「もし信頼を裏切ったら、そん時は本当にぶち殺す!その覚悟で、こいつは単身やってきたんだ!ならば、言い分を認めてやるしかねえじゃねえか!」

「しかし……」

「しかしもかかしもあるか!あたいはこの街をさっさと元に戻したいんだよ!こいつらと戦うことが、俺らの目的じゃねえだろ!?」

「ま、まあ、そうだけどよ……」


 街の人の気持ちもわかる。ここには、家族や友人を殺された人達が大勢いる。あの恐獣のおかげでこの街から活気が消えて、生活に困っている人達だっている。


「よし!決まりだ!和睦ってことでいいな!?」


 イライアさんという人は、別にこの街の長ではない。長らしき人は足元にいる。が、なぜかイライアさんがこの街のことを仕切っている。不思議なものだ。


「じゃあ早速だが、そのファーブニルさんってのに手伝ってもらおうか!」

「は?手伝う?」

「この街を見てみろよ。あっちこっちに瓦礫が散乱してて、困ってるんだよ!あれを綺麗にしないと、街の復興が進まねえんだ!せっかくのでかい図体なんだ、手伝ってもらうぜ!」


 するとファーブニルさんは頷く。そして、イライアさんの後をついていく。

 私はその2人、いや、1人と1匹の後ろ姿を見守る。奇妙な姿だ。つい昨日までは想像もしていない光景が、そこにはあった。


「ご苦労さん、オルガ」


 キースさんがポンと私の肩をたたく。


「はあ~っ!なんとか仲介役を果たせたわ……でも、あの大きな赤い恐獣に捕まった時は、どうなるかと思ったよ」

「それはそうだろう。だって、あんな大きなドラゴンの口の中にいて飛んでいたんだろう?そりゃあ、生きた心地はしないだろうね」

「でも不思議ねぇ。あんなに大きいのに、人に対して優しいんだよ。ファーブニルさん。どうしてだろう?」

「さあ……もしかしたら、ドラゴンの姿に変えられた王子様、なんてことはないのかな」

「まさか。おとぎ話じゃあるまいし」


 さすがにキースさんのいう元人間説は、私には信じられない。もしファーブニルさんが元人間だったなら、心の中で素っ裸な男の姿で現れることはしなかっただろう。服を着て現れるはずだよね、きっと。


「ところで、オルガさ」

「なんですか?」

「……さっきから、ものすごく臭いよ。そういえばあのドラゴンの口の中にいたんじゃなかったっけ?」

「えっ!?私、そんなに臭い!?」

「駆逐艦に戻って、すぐにお風呂に入って着替えたほうがいいよ」

「うん、そうするわ」


 そういえばこの服も、あのファーブニルさんのよだれでヨレヨレになってしまった。仲介役は終わったし、もう戻ってもいいよね。


 私は駆逐艦に戻って風呂に入り、再び戻ってきた。すると、街の広場のど真ん中で、なんとイライアさんとファーブニルさんが一緒に飲んでいる。


「いやあ、やっぱりこれだけ大きいと仕事が捗るわ!助かったぜ!かんぱーい!」


 あのエールとかいうお酒の入った樽ごとファーブニルさんに渡して、ジョッキ片手にファーブニルさんをバンバンと叩いて喜んでいる。

 ファーブニルさんもそのエールが気に入ったらしく、ゴクゴクと飲んでいる。目の前には、豚の丸焼きが置かれていた。

 で、今度は恐獣との和睦祝いってことで、また広場で宴会が始まってしまった。大勢の人に、イライアさん、そして、建物ほどの大きさのあるファーブニルさん。

 ところで、そのファーブニルさんの頭には、帽子のようなものがつけられている。ある技術武官が、このドラゴンの脳波が読み取れないかと考えて取り付けた。

 スマホでも使われている脳波リーダーを使い、ファーブニルさんの意思を読み取る。これが大成功で、タブレットにファーブニルさんの言葉が表示され、それを読み上げることで意思疎通が可能となった。この装置のおかげで、私が言葉の仲介をする必要がなくなった。


「でさ、ファーブニル、あんたどんなやつが好きなんだよ!」


 イライアさん、なんとなくドラゴンに向かって、好きなタイプを尋ねている。

 まあ、ドラゴンだからね。多分、体が赤くて大きくて、トゲトゲした尻尾の彼女が欲しいっていうのかなぁ、などと思っていたら、意外な答えが返ってきた。


『わしは、イライアが好みだ』


 イライアさんが持つタブレット機から放たれたこの身もふたもない一言で、突然イライアさんの顔が真っ赤になる。


「おいおい!見ての通り、あたいは男勝りな女だぜ!?こ、こんなのがいいのかよ!?」

『いい。すごくいい。今すぐ手にとって、抱きしめてやりたい』


 脳波リーダーは容赦なくこのドラゴンの心の中の願望をさらけ出す。少し控えめな性格のファーブニルさんだが、そんなファーブニルさんから実に露骨な表現が飛び出す。


「ななななんて答えりゃいいんだよ!嬉しいというか、恥ずかしいというか……いや、なんであたいは恐獣にしか好かれないんだよ!?」


 などと言いながら、顔を真っ赤にしてバンバンとファーブニルさんを叩いているところを見ると、まんざらでもないらしい。

 2日続けて開かれたこの広場での宴会は、妙なカップルの誕生で幕を閉じた。


 さて、その翌日だが、2つの出来事が起きた。

 一つは、アルバーニョの街の人達との約束通り、西の海辺の方に小さな30匹の恐獣達が移動していくのが確認されたことだ。

 駆逐艦のレーダーでも捉えられ、哨戒機も同行し確認した。そこで生き残った30匹あまりの恐獣達の新たな生活が始まる。

 そして、もう一つの出来事は、我々を歓喜させた。

 緊急事態と聞いて、私とキースさんは駆逐艦6190号艦に向かう。艦内放送で、遂に我々が待ち望んでいた報がもたらされる。


「第19艦隊司令部より入電!現在、貴艦らのいると思われる地球(アース)の軌道上に展開中、返信を乞う、です!」


 ついに、はぐれていた艦隊と合流することになる。我々が遭難してから、すでに3日が経っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ