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#52 研究

「えっ!?地球(アース)001の人が来るんですか!?」


 司令部の一室で、フェデリコさんから聞かされる。


「そうだ。もはや貴殿の力の解明は、我々の手には負えない」

「大丈夫ですか?地球(アース)001って言えば、すんごく進んだ星だって聞いてますけど、こんな未開の星に来たら、何をしでかすか……」

地球(アース)001の人といえども、普通の人間だ。心配ない」


 そう、フェデリコさんは言うが、連盟にあれほど悪魔呼ばわりされている星の人間だ。普通であろうはずがないだろう。

 私の力を解明するために毎日のように占いをしているが、フェデリコさん曰く、地球(アース)122の技術武官ではもはや手に負えないという。

 なんでも私が占いをしている時に、なんらかの素粒子が出ていないかを計測しているそうなのだが、まったく検知されないとのこと。


「ああーっ!全く検知できないなんて、一体どうなっているんだ!?」


 とその武官はよく騒いでいるが、そんなこと私に言われても分からない。

 私はただ、その人の手を握るとその先の未来が見えると言うだけのことだ。何かを出しているつもりなど、まったくない。

 というわけで、私の力は、地球(アース)001の最先端の技を用いて調べられることとなった。

 で、その地球(アース)001の人がこれからやってくる。その出迎えで宇宙港のロビーに、私はフェデリコさんとともにやってきた。


「今日いらっしゃる方は、一体何をされている方なのですか?」

「私にもよく分からない。理論物理学で『時間』をテーマに研究しているそうだ」


 りろんぶつりがく?じかん?何を研究しているのか、皆目見当がつかない。ぶつりって、美味しいんだろうか?時間の研究ってことは、毎日、時計と睨めっこしてるの?

 などと考えていると、向こうから白衣を着て颯爽と歩いてくる人物が見えた。明らかに学者という雰囲気のその男性。あれが、地球(アース)001の人なのだろうか?

 その人がフェデリコさんのそばにくると、フェデリコさんはその人物に敬礼しながら尋ねる。


「失礼ですが、地球(アース)001の理論物理学博士、アキラ殿でしょうか?」

「そうですよ、私がアキラです」

「私は、地球(アース)122遠征艦隊所属の、フェデリコと申します」

「ああ、フェデリコ大佐ですか。お出迎え、ご苦労様です。よろしくお願いします」


 随分と丁寧そうなお方だ。なんだか印象とは違うな。


「で、こちらのお嬢さんは?」

「はい、こちらがかのオルガレッタと申す者です」

「あ、あの、初めまして!私は、ええと、地球(アース)816の帝都出身、オルガレッタと申します!」

「こちらがあの占い師の……先の時間を読めるという、お嬢さんですか」


 このアキラという人は私の方を向くと、手を差し出してくる。


「よろしくお願いします。あなたの話を聞きつけて、はるばる4300光年彼方にある地球(アース)001からやってまいりました、アキラと申します。よろしくお願いします」

「はあ、よろしくお願いします……」


 私はこのアキラという人と、握手をする。


「早速ですが、私にその占いというものをしてはいただけませんか?」

「はい、いいですよ。手を出していただけますか?」

「その場合、右手の方か、左手の方か、どちらがいいですか?」

「は?いえ、どちらでもいいですよ」

「そうですか、では、理論の右手で占っていただくとしましょうか?」


 ……急に妙なことを口走り始めたぞ。理論の右手?何を言っているのか分からない。

 が、ともかく私はアキラさんの右手を握り、目を閉じた。


 ◇


 丸いテーブルが見える。椅子に腰掛けているようだ。

 足を組んで、窓の外を眺めている。ここは司令部の一室のようだ。

 テーブルにはカップが置かれており、その中には紅茶が注がれているようだ。

 その紅茶を、この学者さんは手に取る。

 が、突然、その紅茶の入ったカップが手から落ちる。

 足に紅茶がかかる。熱い紅茶だったようで、大慌てで拭き取っている。かなり混乱しているようだ……


 ◇


 私は、目を開けた。


「どうでした?オルガレッタさん、何か見えました?」

「はい、アキラさんが、紅茶をこぼして足にかかり、大慌てで拭いてました」

「ほう……」


 それを聞いたアキラさん、少し考えてこう尋ねてきた。


「紅茶を持っていたのは、右手だったか?左手だったか?」

「は?」

「質問に答えて欲しい!とても大事なことなんだ!」


 さっきから妙に左右にこだわる人だな。私は応える。


「右手でした。ついでに、紅茶がかかったのは右足の太ももです。足を組んでいて、右足の太ももが上にあったものですから」

「そうか!そうだったか!」


 さっきから、よく分からない反応をする人だ。何がわかったんだろう?


「ならば、それは多分、私の頭の中に何らかの理論が浮かんだ瞬間なのだ!ファンタスティック!素晴らしい出来事じゃないか!」


 熱い紅茶が足にかかるという占いを聞いて喜ぶ人を、私は初めて目にする。武力をチラつかせて脅しにかかるような人でないことはわかったが、これはこれで、この先が不安で仕方がない。


「ではオルガレッタさん、少しお話を聞かせていただいてもいいですか?」

「は、はい」

「アキラ殿、ここでは何ですから、司令部へと参りましょう。車もご用意しております」

「分かりました、フェデリコ殿。では、参りましょうか」


 宇宙港の出入り口を出て、迎えの車が来る。それに乗り込む私とフェデリコさん、そしてアキラさん。

 車の中で、アキラさんと向かい合わせに座る。私は尋ねる。


「あの~」

「何です?」

「一つお聞きしてもいいですか?」

「なんなりと」

「先ほど、右手が理論の手とおっしゃってましたが、左は何なのでしょうか?」

「うむ、いい質問だ。左は情熱や感情といった、理論では説明のつかないものを扱う手なのですよ。ですから、感情表現には左手を、理論を考えるのは右手を使うと決めているんです」

「は、はあ、そうなんですか……」


 今ひとつこの人の感性が分からない。変なこだわりだ。私の占いは、右でも左でも変わらない。別に、どっちでもいいんじゃないだろうか?

 そうこうしているうちに、司令部へと到着する。車を降りて、応接室へと向かった。


「では、オルガレッタさん。あなたの占いについてお尋ねします」

「はい」

「占いというのは、どれくらい先の未来を見ることができるんですか?」

「はい、大体1日から10日までの未来の光景を見ることができます」

「ほう……占ったその日の出来事を見ることはできないんですか?」

「一番短くても4時間後でした。その日の光景を見たという経験は、ほとんどないですね」

「ほほう……実に興味深い……」


 などと様々な質問を受ける。でも、こんな質問で、何がわかるのか?


「あなたの占いは、手を握らないとダメなんですか?」

「いえ、肩でも足でも、身体であればどこでもいいんです。でも、足や肩を握るというのも変ですから、手を握っているんです」

「ふむ、そうか……」


 この調子で、いくつかの質問を受け続ける。

 その後、実際に私が他の人を占うところを見てもらう。技術武官が計測機器を見せて、アキラさんにあれこれと説明しているのが見える。素粒子が出ていないとか、そんな話をしているようだ。それを熱心に聞くアキラさん。

 そして、計測機器の様子を興味深そうに眺めるアキラさん。


「なかなか面白い話を聞かせていただいた。これらのデータと証言を矛盾なく繋げる理論が構築できれば、マダム・オルガの秘密がわかることになる。ではこれから私は、シンキング・タイムに入ることにしよう。ではみなさん、ご機嫌よう」


 と言うと、アキラさんはどこかへと去っていった。


「……なんだか、よく分からない人でしたね」

「科学者と呼ばれる人種には、変わり者が多い。気にするな」


 フェデリコさんはそう言うが、フェデリコさんだって相当な変わり者だと思うのだが。


 さて、この変な学者さんを相手にした後は、ショッピングモールにてキースさんと一緒にピザを食べることになっていた。

 2人でショッピングモールへと向かう。ピザ屋に着くと、そこにはあの変な学者さんがピザを食べている。


「あれえ?アキラさん、なんだってこんなところにいるんです!?」

「なんだ、マダム・オルガか。ご覧の通り、ピッツァを食べてるんだよ」


 そんなことは分かっている。だが、なぜかこの人がピザを食べてると妙な気がする。


「……学者さんがピザを食べるって、なんだか意外でしたので」

「おっと、それは偏見だ!学者だって、食べ物を食べなくては生きていけない。当然だろ?」

「まあ、そうですけど……」


 別にピザを食べて悪いと言うわけではない。が、なんと言うのだろうか、地球(アース)001という星は、地球(アース)122ですら凌駕するほどの力と技を持つ星だと聞いている。その星の人間が、こんなありきたりなものを食べてることに違和感を感じている、とでも言うのだろうか?


「ねえ、オルガ。この人ってもしかして……」

地球(アース)001からやってきた、学者さんですよ」

「ああ、やっぱり。変わった人だと聞いてはいたけど、確かにそんな感じがするね」


 キースさんですら「変わり者」だと知ってるということは、もう司令部内でも噂になってるんだ、この人。


「ところで、ピザを食べる時は左手なんですね」

「いいところに気づいた。何故だか分かるかい?マダム・オルガ」

「さ、さあ……」

「簡単なことだ。このピザの美味しさを、理論で説明できるかい?」

「は?」


 私が何気なく言った一言がきっかけで、さらにおかしなことを言い出したこの学者さん。


「い、いえ、理論でと言われても……」

「その通り!ピッツァの美味しさは、理論では説明できない!だから、感情と情熱の左手で食べているんだよ!」

「はあ……そうなんですか……」


 この人、もしかして食事は全て左手で食べてるんだろうか?不便なことだ。


「物事には、相反する2つのものが存在するんだよ。理屈だけではダメだし、感情や感性にだけ頼るのもナンセンスだ。この表裏一体の事象をうまく組み合わせて考えなければ、真理には到達しない。分かるかい、マダム?」

「え、ええ……」


 うーん、さっぱり分からない。ただ、この人の頭の構造が並外れていることはよく分かった。

 それにしても、妙な人と関わる羽目になってしまった。私が抱いていた地球(アース)001の姿からは大きく外れた人ではあったが、同時にまともな人からも大きく逸脱した人だと分かった。果たして私の力の秘密は本当に、解明されるのだろうか?

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