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#49 婚約

 帝都に戻って、2週間が経った。


 私は帝都に、そして帝都司令部で日々を過ごしている。

 だが今は、雑用係の仕事はほとんどしていない。私の仕事は「占い」だ。ほぼ一日中、占いばかりしている。

 占いだけでは気が滅入るから、時々棚卸し作業だけはさせてもらっている。が、駆逐艦への補充作業はしていない。勤務時間中は建物内から出られない状態だ。

 フェデリコさんが、私のこの力の秘密を解き明かすと決めてから、こういう生活に変わってしまった。


「でもフェデリコさん、私の力なんて解明して、何かいいことあるんですか?」

「この力を貴殿一人しか持たないから、貴殿だけが狙われる。ならばその力を解明し、普遍的なものに変えてしまえば、連盟も貴殿を狙うことがなくなるだろう」


 とおっしゃるので一応、私はそれに協力している。

 私の周りには、いろいろな機械が置かれている。ただ、地球(アース)477とは違い、占いの内容は記録されない。いまさら記録したって、私の占いがどれくらい当たるかはすでに皆が知っている。だから、占いをしている時に何が起きているのか?どんな物質がでているのか?ということだけが調べられている。

 だが、やっぱり落ち着かない。私は体を動かしていた方がいいなぁ……ただ人の手を握って光景を見るだけの仕事、かつて帝都の街の広場で占い師をやっていた私が言うのもなんだけど、私の性に合わない。

 そんな日々が続くも、夜にはキースさんの部屋に転がり込んで、ほかほかの夜を過ごす。

 そして、私が帰還してから2週間経った、ある日のこと。


「オルガレッタさん。ちょっといいです?」

「はい、なんでしょう?」


 その日は、キースさんの部屋にいた。キースさんの部屋のお風呂に入って、ちょうど髪を乾かしているところだった。明日は土曜日で、キースさんと一緒にショッピングモールへ行ってお買い物をすることにしている。

 キースさんは、リビングのテーブルの前に座る。私もその向かい側に座った。


「ちょっと、聞いて欲しいんだけど」

「はい」


 ちょっとキースさんの顔が、ややこわばっている。なんだろうか、こんな顔のキースさんは、あまり見かけない。


「オルガレッタさんもそろそろ、20歳ですよね」

「はい、そうですよ」


 帝都の夏はもう終わり、季節は秋だ。まもなく冬が来る。すると私は、20歳になる。


「これを、受け取って欲しいんだ」


 そう言ってキースさんは、私の前に小さな箱を置いた。

 それを見て思わず、どきっとした。この箱に、なんとなく覚えがあるからだ。

 そっと、箱を開けるキースさん。

 それは、やはり指輪だった。


「私と、婚約してくれないかな。オルガレッタさんが20歳を超えたら、結婚しよう」


 キースさんの話とは、婚約のことだった。そしてこれは、婚約指輪というやつだ。

 いつかはくるだろうと思っていたこの日は、突然やってきた。私としても、すでに覚悟を決めたこと。受けることは、もう最初から決まっていた。

 だが、私は思わずこう応える。


「キースさん!」

「はい」

「一晩だけ、待ってもらっていいですか?」


 それを聞いて、不思議そうな顔をするキースさん。おそらく、二つ返事で私がOKを出すと思っていたことだろう。私もそのつもりだった。

 だがなぜか、そうすることが今の私にはためらわれる。


「あのね、返事はね、とっくに決まってるの。キースさんのこの申し出を断るなんてこと、するわけがない。でも、ちょっとだけ待って欲しいんです。なんていうか、最近いろいろとありすぎて……」

「そう……」


 少し寂しそうに、その箱をしまうキースさん。だが、キースさんはにこりと笑って私に言う。


「じゃあ、一晩待つよ。私も突然、何の前触れもなくこんな大事な話を言い出したから、オルガレッタさんも困っちゃうよね」

「うん……ごめんなさい……」


 私はそう言うと、再びドライヤーを使って髪を乾かす。

 で、キースさんとの情事の後、私はキースさんの横で眠る。

 目を閉じるとそこに、不思議な光景が、現れた。


 ◇


 ここはまるで、雲の上のようだ。

 上は真っ暗、下はもやもやとした、白い煙で覆われた地面。

 私は、その上に立っている。

 だが、そこがとても恐ろしいところのように思えてならない。うまく言えないが、とてもこの世の場所とは思えなかった。そういう薄気味悪さを感じる場所だ。

 が、その気味の悪い場所で、向こうから人が歩いてくるのが見える。

 私は、鼓動が早くなるのを覚えた。何が現れたのか?とてつもない不安が、私を襲う。

 が、現れたのは人だった。薄緑色の軍服を着た男性。私はこの人に、見覚えがある。


「こんにちは、オルガレッタさん」


 声が聞こえる。私は、応える。


「は、はい、こんにちは、コーリャさん」


 にっこりと笑うコーリャさん。私も、微笑む。


「そうだ、コーリャさん。私、あの後、連合の方に帰ることになって……」

「ええ、知ってますよ」


 コーリャさんは応える。私は続ける。


「それで、コーリャさんが撃たれてるのを見たんですが、助けるまもなく連れて行かれ……」

「オルガレッタさん!」


 コーリャさんが、話を遮る。私は思わず、黙る。


「実は私、あまりここにいられないんです。私の質問に、答えてくれますか?」

「は、はい」

「オルガレッタさん、求婚されましたよね?」


 思わず私は、どきっとする。まるで、母の夢に現れた父の話のようだ。


「はい。でも、あ、あの、まだ私は……」

「いいですよ。私に遠慮などなさらなくても」

「でも私、コーリャさんの告白に、まだ返事もしてないのに……」

「で、オルガレッタさんにとって、その人は大事な人ですか?」


 私の言葉を遮り、次の質問が飛んだ。


「はい。それはもう、とても大事な人です」

「そうですか。それはよかった」

「でも、コーリャさん!私……」

「私はすでに死んだ身です。でも、死んだ人は生きている人には幸せになってもらいたいと願い、そしてその人がいつか死んだ後に、幸せの自慢話を聞かせてくれるのを楽しみにしている。あなたはそう、おっしゃってましたよね?」

「はい、確かに私、そんなようなことを言いました」

「では、私はその日が来るのを楽しみに待ってます。婚約者とともに、幸せになってください。そしていつか、2人揃って私に幸せ自慢を聞かせてください。約束できますか?」

「はい!約束します!コーリャさん!」

「では、その話を聞く日が、できるだけ遠い未来のことでありますように……」


 ◇


 私は、目が覚めた。ガバッと起き出す。

 突然起き出した私に、キースさんが驚いて目を覚ます。


「ど、どうしたの?」


 私は起き出して、部屋を出ようと玄関に向かう。


「ちょ、ちょっと!オルガレッタさん!?」

「キースさん!ちょっと私、部屋からあるものを取ってくる!」


 そう言って私は、キースさんの部屋を飛び出した。

 私は、部屋からあるものを持ち出し、キースさんの部屋に戻ってきた。


「ど、どうしたの、急に」

「あの、出たんですよ。コーリャさんが!」

「コーリャさん?誰です、それは?」

「あの、これからお話しすることを、黙って聞いてもらえます?」

「は、はい、いいですよ」


 まだ真夜中だが、キースさん共々起き出して、リビングにある机の前に座る。


「私、地球(アース)477に連れて行かれたその日から、ある人のお世話になっていたんです」

「はぁ、それがもしかして……」

「はい、コーリャさんと言う方です。連盟軍の作戦参謀をしている、大尉さんでした」

「そのコーリャさんが、どうしたんですか?」


 私は、連盟に連れて行かれ、そこで出会ったコーリャさんとの話をする。

 毎日のように街に連れ出してくれたこと、ビルの最上階で飛び降り自殺しようとした女性を助けたこと、そして、地球(アース)023に向かう船の中で、告白されたこと。


「そのとき、私にこれを見せてくれたんです」


 私は、小さな箱を取り出した。


「これは……」

「はい。コーリャさんがいつか、私に渡そうとしていた指輪です」


 これを聞いたキースさんは、少し驚いた様子だった。


「でも、ちょうどこれを見せられた時に、連合の特殊部隊の人が現れたんです。そこでコーリャさんは、撃たれました。私の目の前で」

「えっ……目の前で……?」

「血まみれのコーリャさんを置いて、私はその場を去りました。だから、それからどうなったかは、わかりません。でも……」

「……多分、死んだのではないか、と」

「はい。この指輪はその時、どさくさに紛れて、私がそのまま持ってきてしまいました……」

「オルガレッタさん、それは確かにそれはものすごいショックだったと思う。けど……」

「ところがです!その死んだはずのコーリャさんがさっき、私の夢に出てきたんです!」

「えっ!?夢の中に!?」

「はい、コーリャさんは、こう私に尋ねました。あなたの婚約者は、大事な人か、と」

「そ、それで、オルガレッタさんはなんと?」

「とっても大事な人ですって言いました。するとコーリャさん、それはよかった、と」

「そ、そうなんだ」

「で、私に言うんです。死んだ人は、生きている人が幸せになって、その人がいつか死んだ後に幸せ自慢を聞くのが楽しみだって!だからいつか、遠い未来に、その話を聞かせてくれって!」

「オルガレッタさん……」

「だから私、決めたんです!キースさんと一緒になって、ものすごく圧倒的にありえないくらいに幸せになって、2人そろっていつかコーリャさんにその自慢話をしてやるんだって!」

「……うん、そうだね。私はその人に会ったことないけど、オルガレッタさんが気に入った人だ。多分とても、いい人なんだよね」

「はい、とてもいい人でした!」

「じゃあさ、いつかその人に自慢できるような、そんな人生を、私と歩もうか」

「はい……」


 私は、キースさんにしがみついた。涙がボロボロと出てくる。そして、私は言った。


「遅くなっちゃいましたが、キースさん……私、あなたと結婚します!」

「はい」

「そして、子供をたくさん産んで、美味しいものをいっぱい食べて、楽しいことをいっぱいして……」

「ああ、その先のことは、またあとで考えましょう。とにかくオルガレッタさん、もう寝ましょうか」


 リビングの上には、2つの指輪が置かれている。一つは連合側の人間から、もう一つは、連盟側の人間からいただいたものだ。

 この2つの指輪をもって、その日の晩、私はキースさんと婚約をした。

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