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#48 連合

 私を連盟の船から救い出してくれたのは、地球(アース)760という星からきた「魔女特殊部隊」だと言う。

 その星には、女性の100人に1人が「魔女」なのだという。

 ただ、魔女といっても、物を浮かせたり、空を飛ぶ能力を持つだけの人物のようだ。呪ったり、火や水の魔法をかけられるわけではないらしい。だが、その能力を活かして、要人救出に対応した特殊部隊を数年前に創設したそうだ。

 その特殊部隊によって私は救出され、地球(アース)816の星域へとたどり着いた。

 小惑星帯(アステロイドベルト)において戦艦ヴィットリオに移乗した私は、フェデリコさんと再会する。


「しばらくぶりだな。元気だったか?」


 相変わらず、そっけない人だ。私は応える。


「はい、あちらでは、とてもよくしていただいたので……」

「そうか」


 私の応えに短く返事をするフェデリコさん。


「フェデリコさん」

「なんだ」

「一つ、お聞きしたいことがあります。私はあそこで、連合が過去に何をしてきたかを聞かされました。あれは、本当のことなんですか!?」

「……地球(アース)003の悲劇のことか?」


 あれ?フェデリコさんもあの悲劇のことを知っているようだ。


「フェデリコさん、その話を知っていて、どうして皆に隠していたんですか!?」

「隠してなどしていない。この通り、スマホでも簡単に調べることができる」


 そういうとフェデリコさんは、スマホを取り出して私に見せる。そこには、私があちらで見た地球(アース)003という星の変わり果てた姿が映されていた。


「この話ならば、皇帝陛下をはじめ、皇族も貴族達もご存知のことだ。ただ、貴殿がそれを知る機会がなかった。ただそれだけのことだ」

「えっ?そうなんですか?」

「付け加えるなら、連盟もこれと同じことをやっている。我々の地球(アース)122でも170年ほど前に、地球(アース)023の砲撃を受けて、8000万人もの人命が失われた。その砲撃跡は、今でも地球(アース)122表面に残されている」

「そ、そんな話は知りませんでした……でも、どうして?」

「当時は、180の地球(アース)があった。そして、宇宙戦闘艦技術を奪うことに成功し、局地戦で地球(アース)001に勝利した地球(アース)023が、地球(アース)001からの解放を掲げて『銀河解放連盟』を樹立し、他の星に参加を呼びかけた。このあたりの話は、聞いているだろう」

「はい、聞きました」

「そのとき、すぐに同調した星は100あまり。ところが、80ほどの星が連盟への参加を決めなかった」

「どうしてですか?」

「事情はいろいろある。地球(アース)122の場合は、地球(アース)023よりも地球(アース)001に近いため、地球(アース)001の報復を恐れて中立を宣言したのだ」

「はあ……そうなんですか」

「ところがそれを聞いた地球(アース)023は、地球(アース)122に1000隻の艦隊を派遣して、予告もなしに突如、我々の星に砲撃を加えてきた。20もの都市が一撃で、灰塵と化してしまった。そこにいた住人8000万人と共に」

「そ、そうだったんですか……」

「同じ悲劇は、他のいくつかの星でも行われたようだ。全部で6億から7億もの人命が失われ、それをきっかけに地球(アース)122を始めとする60の星が、地球(アース)001に救援を求めた。そしてそれが基で『宇宙統一連合』が設立された」

「じゃあ、連盟も悪魔じゃないですか!あれだけ連合のことを悪くいっておいて、自分達も同じことをやっていたんですね!」

「その通りだが、話はそう簡単ではない。ところで今、823ある地球(アース)の内、連合と連盟それぞれいくつあるか、知っているか?」

「いえ、知りません。半々くらいですか?」

「連合が448、連盟が374、中立星が1だ」

「ええーっ!?連合の方が多いんですかぁ!?」

「170年前にこの宇宙が2つに分かれた時、連合が60、連盟が120だったとされている。そこから見れば、いかに連合がその後、自身の陣営を増やしていったかが分かるだろう」

「そうですよね。でも、どうしてですか?」

「まず、未発見の地球(アース)を探し続けた。この宇宙に、直径1万4千光年の円状に人の住む星、地球(アース)が分布することが分かっていた。推定で3000の星があると考えられているから、その未発見の星を探し出して、自身の陣営に組み込む。両陣営合わせて年に4、5個の星が見つかっている。この地球(アース)816も2年半前に、そうやって発見されたのだ」

「はあ、そうでしたね。2年くらい前に突然、帝都上空に灰色の船が現れて、帝都が騒然となりました」

「軍事占領ではなく、あくまでも『同盟』としてその星を組み込む。その星を育てて、艦隊を保有してもらい、我々の軍事作戦に参加できる星に変える。この地球(アース)816も、その途上にある。だが、連盟とて我々と同じように未知の星を探して組み込んでいる。だから、これだけではこれほどの差にはならない」

「じゃあ、一体どうして……」

「連合は『防戦』に徹することにしたのだ」

「は?防戦?それはつまり、守りに入ったということですか?」

「そうだ」

「……あの、普通は攻めた方が陣地を広げられるものなのに、守りに徹した方が自身の陣営に属する星が増えたと言われても、いまいち繋がりません。どういうことなんでしょう……?」

「逆に考えてみるといい。我々が連盟の盟主である地球(アース)023を数十万隻の艦隊で攻める。おそらく、あの星を制圧することができるだろう。この瞬間に、連盟は崩壊する。連合の勝利だ」

「はい、そうでしょうね」

「だが、その時は第2、第3の連盟ができる。連合の中にも、その強引な軍事作戦に疑心を抱いて、その新しい陣営に参加してしまう星が出るかもしれない」

「そ、そうですね。もし地球(アース)023をめちゃめちゃにしちゃったら、いろんなところから恨みをかいそうですよね」

「そうだ。その恨みというのが問題だ。だから恨みをかわないために、防戦に徹するんだ」

「はあ」

「我々が防戦に徹すれば、攻めてくるのは当然、連盟側だけとなる。だが、他の星に攻めるというのはとんでもなく負担がかかるのだ。艦隊の維持やその星までの補給線の確保、それらを維持するための費用の増大……これが続けば、攻める側はいずれ疲弊してくる。そして、いずれ連盟から連合へと鞍替えし始める」

「そんなことが……」

「実際に起きているんだ、この宇宙では」


 フェデリコさんから、衝撃的な事実を聞いた。連盟から連合に鞍替えする星があるのだという。


「我々連合側は、よほどのことがない限りは連盟の星を攻めることはしない。攻めてくるのは決まって連盟側だ。だから我々は、少なくとも連盟側から恨まれることはしていない。それが戦略上、どういう意味を持つか分かるか?」

「で、でも、連盟側にも恨みに思う者はいます。いくら防戦とはいえ、連合との戦いで死んだ兵士の家族や恋人からは恨まれるんじゃないですか?」

「いや、最終的には、そうはならない。我々にではなく、連盟側にその恨みが向けられることになる」

「なぜですか?」

「攻めるという決断をしなければ、その兵士は死ななかった。そう考えれば、その恨みとやらは、攻めると決断した者、すなわち連盟の軍部に向けられる。実際、連盟から連合に鞍替えした星では、そういう事態が深刻化したところが多い。連盟から抜けようと思えば当然、連合に流れざるを得ない。そう仕向けるのが、我々の戦略なのだ」


 フェデリコさんのいうことは、ごもっともだ。確かに攻めないということは、恨みを持たれる心配が少なくなる。


「もっとも、この戦略には未だに異論が多い。特に、地球(アース)001の中には、強硬論が根強くあるのは事実だ。しかし、これだけ増えてしまった連合をまとめ上げるために、この専守防衛に徹するという戦略はいまさら変えようがない」

「はあ……」

「だいたい170年も経って、いつまでも地球(アース)001が他の星を武力制圧する星だと決めてかかっているところに、連盟の戦略ミスがある。地球(アース)001は大きく変化しているし、新参星が増えた連合にとって、武力侵略など思いも寄らない。それに、あの地球(アース)003の悲劇を教訓として、大気圏内への砲撃を最高刑を持って禁止している。星の表面への砲撃は不可能となった。そのあたりは連盟も同じだろう。ただ、恨みというものは170年経っても消えない厄介なものだということだ。我々はそれを逆手にとって、連盟の切り崩しと陣営強化につなげているのだが、おかげで宇宙が平和になるには途方もなく時間のかかる。恨みなんてものは、いたずらに増やさない方がいい」


 そういうとフェデリコさんは、私への尋問を始めた。連盟のどこに連れていかれたか、どのような扱いを受けたか、などである。


「……最後に、私をかばうように亡くなった方がいるんです。たとえ連盟の方であっても、あれだけ良くしていただいて、しかも最期に私に……」


 尋問の終わりに近づいた時、私は救出直前のあの光景を思い出し、思わず涙が出る。フェデリコさんは言った。


「貴殿も相手のことを思うと辛いだろう。そのことを忘れろなどとは言わない。だが、この先にある地球(アース)816での生活のことを考え、前に進むのだ。時間は、未来にしか向いていない。私から貴殿に言えるのは、それくらいだ」


 淡々と述べるフェデリコさんだが、これはこれでこの人の優しさなのだろう。下手な慰めの言葉よりも、よっぽどか目が覚める。


 そうだ……前に進まなきゃ。


 フェデリコさんの尋問を終えて、部屋の外に出る。

 部屋を出たすぐそばに、懐かしい人が立っていた。

 2か月前、もう決して会うことができないと、諦めていたその人。キースさんだ。

 大粒の涙を出しながら、私はキースさんの胸元に飛び込む。キースさんも私を抱きしめる。

 ああ、帰ってきた。私は連合に、地球(アース)816に、帰ってきたんだ。

 私が拉致されてから、すでに2か月が経っていた。もはや二度と踏めないと思っていた帝都の地に、私は降り立っていた。

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