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#47 指輪

「えっ!?地球(アース)023に行くんですか?」


 私は突然、コーリャさんからこんな話を聞かされる。


「そうですよ。ここから7000光年も離れた星ですが、ここよりも大きな街がある、ずっと進んだ星ですよ」

「でも、なんだって急にそんな遠くの星に行くのです?」

「なんでも、オルガレッタさんの力の解明をするには、ここでは機材が足りないそうです。それで、連盟で最も技術が進んだ星である地球(アース)023に行こうという話になったのですよ」


 地球(アース)023といえば、たしか連盟で最初に地球(アース)001に反旗を翻したという、連盟の盟主でもある星だ。そこに行けば、私のこの力の秘密がわかるかもしれないという。


「そうなんですか。でもそれだと、コーリャさんとはお別れすることになるんですか?」

「いえ、私も同行します。私はどこまでも、あなた担当ですから」


 それを聞いて、ホッとした。また知らない人ばかりの場所に行くことになるのかと思ったからだ。コーリャさんが行くのならば、行ってみてもいいかなと思った。


 私は、スモレンスク宇宙港へと向かう。ホテルから車に乗り、そのまま駆逐艦2140号艦へと向かった。

 赤茶色の船が見える。先端に「477-2-2140」と書かれた船に、私は乗り込んだ。

 再び私は、宇宙へと旅立つ。


「機関始動!出力20パーセント!」

「駆逐艦2140号艦、発進!」


 船体が浮き上がる。徐々に上昇する駆逐艦2140号艦。その様子を、私とコーリャさんは艦橋から眺めていた。

 眼下に街が見える。高いビルがたくさん立ち並ぶ街、スモレンスク。私のいた帝都も大きな街だったが、ここは本当に人が多い街だ。なんでも、人口が600万人を超えるという。せいぜい40万人の帝都など、小さなものだ。

 でも、そんな街と別れることになる。そして私は、連盟で最も進んだ星であるという地球(アース)023へと向かった。


「規定高度4万メートルに到達!」

「各種レーダーに障害物、認められず!進路クリア!」

「よし、これより大気圏離脱を開始する!両舷前進いっぱい!」

「機関最大!両舷前進いっぱーい!」


 ゴォーッという音とともに、駆逐艦は大気圏離脱を開始した。遠くに見える青く薄い層が後ろへ流れていくのが見える。

 それにしてもこの連盟の駆逐艦、心なしかうるさい。地球(アース)122の駆逐艦には何度か乗ったけれど、これほどうるさくはなかったように思う。そっくりだけど、ところどころ連合と連盟の船には違うところがある。

 それにしても私、捕まって眠らされていた時は、このうるさい駆逐艦の中で寝てたんだ。よく目を覚まさなかったものだ。

 しばらく艦内にうるさい音が鳴り響いたのちに、静かになる。外には青白い地球(アース)477が見える。

 連合だろうが連盟だろうが、人の住む星は青い。この澄んだ青い地球(アース)477も、どんどんと小さくなっていく。

 1か月ほどしか暮らしてないけど、ピザが美味しくていい星だったな。私はその星が見えなくなるのを見届けて、食堂へと向かう。

 前回はあまり他の人と会話をしなかったが、今回はむしろ積極的に話しかけてみた。食堂にいた人の何人かと、すぐに仲良くなれた。

 食堂の帰りには、主計科へと顔を出す。突然現れた私に、戸惑う主計科の人。


「あの、オルガレッタさん!なんだって、こんな部署に顔を出すんですか!?」

「何を言ってるんですか!皆さんは栄えある雑用係ですよ!もっと誇ってもいいです!」

「えっ!?栄えある……雑用係?」


 変なことを言う奴だという顔をして私を見る主計科のみなさん。この主計科のみんなとも、すぐに仲良くなった。

 こうして、地球(アース)477を出発してから、6日が経つ。


 ここは、白色矮星のある宙域。私の故郷である地球(アース)816に近い場所でもある。

 ぼんやりとした白い星が浮かぶこの星域を、私は部屋にあるテレビから眺めていた。

 すると、私の部屋の呼び鈴が鳴る。私は、部屋の扉を開ける。

 そこには、コーリャさんが立っていた。


「おはようございます、オルガレッタさん」

「あ、おはようございます、コーリャさん」


 いつものように、朝食のお誘いだろうか?だが、コーリャさんはこんなことを言い出す。


「あの、オルガレッタさん。今日はちょっと、大事な話があって来たんです」

「えっ?大事な話?」

「はい。とても大事な話です」


 どうしたんだろうか?顔が少し、強張ってる。いつものコーリャさんではない。

 まさかとは思うが、私の担当を外されることになったのだろうか?それは困る。コーリャさんでないと、この先心細い。

 だが、コーリャさんは意外なことを言い出した。


「あの、オルガレッタさん、私と付き合ってはいただけませんか?」


 一瞬、私はくらっときた。なんの前触れもなく、コーリャさんから告白された。


「あ、あの、コーリャさん、それはどういう……」

「もちろん、返事は今すぐでなくて、いいです。でも、私は本気なんです。いつかあなたに、これを受け取って欲しいとも、思ってるんです」


 そう言ってコーリャさんがポケットの中から取り出したのは、小さな箱だった。

 コーリャさんは、その箱を開ける。中には、小さな指輪が入っていた。


「これは……」

「これは、婚約するときに渡すものです。先日買いました。ぜひ手にとって、見てください」


 そういうとコーリャさんは私に、その指輪の入った箱を手渡してくれた。

 小さく、キラキラと光る石が載った指輪だ。そういえば、母も同じようなものをフェデリコさんから受け取っていた。ここでも、同じような習慣があるんだ。


「あの、お気持ちはとても嬉しいです……でも私、少し考えてもいいですか?」

「はい、いいですよ。私も急にオルガレッタさんにこんなことを……」


 コーリャさんが何か言いかけたとき、突然、大きな爆発音とともに、艦内が揺れる。


「……なんだ!?」


 コーリャさんは身構える。その直後に、けたたましい警報音が鳴り響く。


『艦内に異常事態発生!外壁破損の模様!全員、非常事態に備えよ!』


 緊張した声で艦内放送が入る。


「なんだ!?隕石でも衝突したのか?」


 コーリャさんが呟く。そして、周りを見渡すコーリャさん。


 だがこれが、私の聞いた、コーリャさんの最期の声となった。


 突然、コーリャさんが、私を突き飛ばす。

 そして、コーリャさんは銃を構える。


 だがコーリャさんは、私の目の前で、彼は何者かに撃たれる。頭と肩から、血しぶきが飛び散る。そしてそのまま、後ろへ倒れた。

 何が起きたのか、分からない。ただ、さっきまで私に告白をしていたコーリャさんは、私の目の前で、ただの血まみれの肉片と化してしまった。

 その直後、私の前に短い棒にまたがった人物が飛び込んできた。

 ヘルメットをかぶり、黒い服をまとったその人物は、その短い棒にまたがったまま、浮いている。

 手には銃を持っていた。明らかにこの人がコーリャさんを撃った人物だ。

 今度は私がやられる。そう思ったとき、その人物は私に尋ねた。


「オルガレッタ殿か!?」


 私は、応える。


「そ、そうです……」


 するとその人物は、こう言った。


「連合の者です!あなたを救出に来ました!」


 えっ!?連合!?この人の言葉に私は一瞬、混乱する。


「後ろに乗ってください!強行突破します!」


 私は言われるがまま、その人のまたがる短い棒の後ろに乗った。


「しっかり掴まってて!」


 そういうとその人は、短い棒を握り、ものすごい速さで飛び始めた。私はこの人の背中にしがみつく。

 血まみれの、物言わぬコーリャさんが、どんどんと離れていく……


「こちらカリーナ!目標アルファ確保!全員、撤収せよ!」


 ところで私は今、私は宙に浮いてすごい速さで通路を駆け抜けている。一体、どういう仕組みなのだろうか?

 おまけに、この人は女だ。声で分かった。なぜ女の人が銃を持って、敵の船に乗り込んできたのだろう?

 通路を抜けて、エレベーターのすぐ横の非常階段を全速で駆け抜ける私とこの人物の乗る短い棒。ある階の扉を開き、再び通路内を飛ぶ。

 その通路の先で、壁から何かが飛び出している。丸い円筒形の何か。その円筒形の中に、飛び込んでいく。


「全員揃ったか!?」

「いえ、あと1名!」


 その直後に、遅れてもう1人が飛び込んできた。それを見て、私をここまで連れて来てくれた人物が叫ぶ。


「ハッチ閉じる!撤収!」


 円筒形部分が突然閉じる。その直後に、ガリガリという音を立てて、この乗り物が動き出した。


「母艦に打電!オルガレッタ殿、救出成功!強襲艦はこれより離脱する、と!」


 カタカタと小刻みに揺れる。けたたましい機関音がする。おそらく、ものすごい速さでこの乗り物は飛んでいるようだ。

 私を乗せていたあの連盟の船、そしてコーリャさんから、離れていく。

 ふと私は、服のポケットに手を伸ばす。

 そこには、小さな箱があった。

 コーリャさんが最期にくれた、あの指輪。

 まだ返事もしていないのに、指輪だけが私の手元に、残った。

 それを見ていたら、私は急に悲しくなる。


「う……うわぁぁぁぁぁん!」


 黒い服を着た人達の前で、私は大声で泣いた。

 連合の、私の故郷の地球(アース)816に帰れる。

 母や弟、フェデリコさんにキースさんと会える。

 なのにどうして、私はこんなに悲しいんだろう?

 狭いこの船に、機関音よりも大きな私の泣き声が、響き渡った。

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