表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/80

#37 再会

「ドナテッロ中尉が、ガエルさんに惚れてるらしいですよ!」


 エリーザさんが何気なく放ったこの一言が、全ての始まりだった。


「……ドナテッロって、誰?」

「あれ、知りませんか?駆逐艦6182号艦の機関科所属の、ぽっちゃりした体型のお方ですよ」

「ああ……もしかして、あの『オタク豚』と言われている、あの男のこと!?」

「そうですよ。さすがはヒルデガルド様!よくご存知で!」

「一度話したことがあるのよ。なんていうか、すごく陰気な感じで、嫌な方でしたわ」

「そ、そうなんですか?でもガエルさん、そんな人に好かれちゃったなんて……」

「それがですね、ガエルさんのことを毎日、後をつけてるらしいんですよ。司令部では目撃したって言う人が多いんですよ」

「なによそれ、気持ち悪い」

「と、とにかく、ガエルさんが何かされないように、注意しないとダメですわね」


 そのガエルさんを追いかける男の話題で盛り上がる雑用係。やれやれ、もしかしたらガエルさんにいい人が現れたかと思っていたら、なんとかなりやばそうな雰囲気の人物だった。気をつけないといけない。

 だが、ガエルさんの次の一言が、皆を一瞬、凍らせる。


「……会ってみたいな、その人に」


 それを聞いたヒルデガルドさん、当然のように猛反対する。


「ダメよ!ガエル。そんな男になんか関わったら、何をされるか分からないわよ!」


 うん、普段の私に対する発言からは感じられないほど、常識的な意見だ。私も、ヒルデガルドさんと同感である。


「ガエルさん 、ヒルデガルドさんの言う通りだよ。危ないって」

「でも、私のこと……好いてくれる男の人なんていなかったし……そんな珍しい人なら一度、会って話をしてみたい」

「ねえ、エリーザ。そのドナテッロ中尉ってどんなやつなのか、もうちょっと詳しく分からないの?」

「さあ……あまり人と接する人ではないらしいですよ。だから、人となりを知る人はほとんどいなくて……」

「仕事っぷりはどうなのよ!?」

「わりと真面目で、そつなくこなしてるらしいですよ。機関科でも、かなり重宝されてるって」

「仕事っぷりは悪くない、か。だけど、問題は性格よね。ほんと、どんなやつなのかしら?」

「私……会って一度、話してみる。そうすれば……きっとわかるかも」

「ダメだって!そんなことをすればあなた、どこに連れ込まれるか、分かんないわよ!?」

「どうせ私……戦さに負けて一度、連れ込まれてるから……気にしない」

「まあまあ、いくらなんでも軍籍を持ってる人が、そんなことしないでしょう。だけどガエルさん、もしその人から付き合ってくれって言われたら、どうするの?」

「うん……しゃべってみないと分からない。ただ……」

「ただ?」

「付き合うなら、私のご主人の……リリアーノさんに……許可を得ないと」


 ああ、そういえばガエルさんはリリアーノさんが買ってきた奴隷だった。未だにリリアーノさんを「主人」だと思っているらしい。

 というわけで、その辺りを含めてリリアーノさんのところへ相談に行く。するとリリアーノさん、あっさり承認してくれた。


「いいんじゃない。ガエルちゃんが積極的に人と会ってみたいなんて、珍しいわよね。いい機会だし、そのストーカーさんに会ってみたら」

「何ですか、ストーカーって?」

「そのドナテッロ中尉のように、気になる人を執拗に付け回してる人のことよ。時々やばいのがいるけど、司令部所属の人物なら、まあ大丈夫でしょう」


 うーん、ちっとも大丈夫じゃない気がしてならないが、ともかくリリアーノさんの許可が出てしまった。早速、ガエルさんはそのドナテッロさんと接触することにした。

 本人の希望で、2人だけで話してみたいと言うので、ガエルさんだけで接することになった。が、やはり危なっかしいので、司令部からレーザー盗聴器を借り出して、その会話を遠くから聞かせてもらうことにする。

 で、夕方。仕事を終え、1人でショッピングモールに向かうガエルさん。司令部の入り口付近の陰で見張っていると、その後ろに現れた小太りの男。あれが、噂のドナテッロさんか。

 その後ろから、雑用係4人が追いかける。「ストーカー」を「ストーカー」するという不思議な光景が、司令部の出入り口から始まった。

 すっかり日が暮れた宇宙港の街の中を歩くガエルさん、その後ろを一定距離を置いて追いかけるドナテッロさん。曲がり角に差し掛かり、ガエルさんがその角を曲がる。ドナテッロさんも後を追う。

 計画なら、ガエルさんがここで仕掛けることになっている。

 そして、曲がり角を曲がったドナテッロさんの前に、ガエルさんが立ちはだかった。

 双眼鏡を使って、その様子を見る4人。レーザー盗聴器を使い、会話の盗聴も行う。


「……変ですね。ちっとも会話が聞こえてきませんわ!壊れてるんじゃないの、この盗聴器!」

「しーっ!向こうに聞こえますって、ヒルデガルドさん」


 いや、壊れてるわけじゃない。さっきからあの2人、会話せずただ凍りついて向き合ってるだけだ。ガエルさんは寡黙な人で、普段からほとんど自分から話そうとはしない。一方のドナテッロ中尉も、急に目の前に現れたガエルさんを見て、かなり混乱しているようだ。

 なかなか動かないこの2人。均衡を破ったのは、ガエルさんだった。レーザー盗聴器が、2人の会話を捉える。


『……ドナテッロさん』

『……はい』

『少し……お聞きしたいことが』

『はい……』

『なぜ私の後を……ついてくるんですか?』


 いきなり核心的なところを突いちゃったガエルさん。大丈夫か、最初からそんなことを聞いちゃっても?


『……ずっとあなたに告白しようと、思ってたんです』


 が、相手もそれに応える。随分と分かりやすい応えだ。が、これが付け回していた理由?普通に話せば、良かったのでは。


『どうして……私なんかに、告白しようと思ったんですか?』

『……それはもちろん、可愛い人だなって、思ってるからです』


 なんとも無機質な会話が続く。どうもこの2人は、まともな会話ができないようだ。そういえば以前、司令部の接客マニュアルというのを見せてもらったが、あれに書かれた会話集のような、そんな機械的な会話が続く。


『あの……私、今まで可愛いと言われたこと、ないんです……』

『そ、そうなんですか?』

『そうなんです……だから、どの辺りを見てそう感じられたのか……ぜひお聞きしたいです』

『では……よろしければ、どこかのお店でゆっくり、お話しませんか?』

『はい……いいです』


 私だったら、こんな機械的で、こんな無機質に誘う男について行こうなどとは思わない。それにこの男、正直言ってあまりいい見栄えの男とは言い難い。

 だがこの短いやり取りで、ガエルさんなりに何かを感じ取ったのだろう。この2人は並んで、ショッピングモールに向かって歩き出す。

 雑用係の精鋭4人も、その後を追う。が、ショッピングモールの入り口付近の人混みで見失ってしまった。


「もう!なにやってるんですか!ちゃんと見てなきゃダメでしょう!」


 ヒルデガルドさんはお怒りだが、見失ったのはあなたのせいでもあるんだから、その怒りを私達にだけ向けるのは、ちょっと筋違いではないか。

 しばらく探したものの、どこに行ったか分からない。ああ、ガエルさん、大丈夫だろうか?

 で、諦めて帰ろうとした、その時だった。

 ショッピングモールを出ようとする私は、後ろから声をかけられる。


「探してる人物は、2階のカフェにいるぞ」


 この声、どこかで聞き覚えがある。私は振り向いた。

 忘れもしない顔が、そこにあった。私の中で一瞬、戦慄が走る。


「あ……ああ……」

「よぉ、久しぶりだな、占い師のお嬢ちゃん」

「……あなたはもしや、髭男さん」


 あの強盗事件の主犯格の人物が、どうしてここにいるのか?私は一瞬、混乱する。


「あら、お知り合いですの?」

「は、はい、でもこの人……」

「あなた!私達の探してる人物がどうとか言ってましたけど、ご存知なんですか!?」

「案内するぜ。こっちだ」


 髭男についていくヒルデガルドさん。リーゼロッテさんもエリーザさんも、ヒルデガルドさんの後を追う。慌てて、私も後を追った。


「ちょっと、ヒルデガルドさん。この人は……」

「なに!?今はそれどころじゃないでしょ!早くガエルを見つけないと……」


 いやあ、それどころだと思うんだけど。なにせこの人、元強盗だよ?

 だけど、ヒルデガルドさんはガエルさんのことで頭がいっぱいで、私の話を聞こうとしない。あの髭男の後を、何の疑いもなくついていってしまう。

 で、私達はショッピングモールの大きなカフェにたどり着く。


「ほら、あれだろ。窓際の、右から2番目の席」

「あ!いたっちゃよ!あそこ、ガエルいたよぉ~!」


 リーゼロッテさんが指す方を、3人は見る。ほんとだ、ほんとにガエルさんがいた!


「ねえ、何を話してるのかしら?」

「さあ……ちょっと待って、あれを使ってみる」


 私はレーザー盗聴器を取り出し、ガエルさんのあたりに当てる。


『ギャハハ!そうなのよ!私の彼氏!可笑しいでしょう!?』


 ……あ、しまった。隣の席の会話を拾っちゃった。私は狙いを変える。


『いけません!私には、地球(アース)122に、恋人が待ってるんです!』

『いいじゃないですか、200光年も離れた恋人より、近くの……』


 うーん、まるでドラマのような気になる会話が聞こえてしまったが、これも違う。目的の会話じゃない。


「おい、嬢ちゃん!」

「えっ!?あ……」

「これは、声の振動を受けたコンクリートなどの振動を拾う道具なんだ。だから、あの柱を狙うといいぜ」


 と言って髭男さんの指す方に、そのレーザー盗聴器を向ける。


『……なんですか……それは、知りませんでした』

『はい。でも気づいた時は、もういなくて。それで諦めていたら、2か月ほど前のある日、司令部の中であなたを見かけたもので。それで……』

『そうですね……私はあの後、リリアーノさんに買われたんです。でも、もしかしたら、あなたが私の……ご主人様だったかもしれないんですね……』


 会話の途中だが、リリアーノさんの名が出ている。紛れもなく、これはガエルさんとドナテッロさんだ。会話が続いている。何を話しているのだろう?


『それでドナテッロさんは、私のこと……ずっと……』


 ガエルさんがそう言った後、会話が途絶えてしまう。ただ向き合うだけの2人。

 うーん、どうしたんだろう。なんというか、話すきっかけを失ってしまったようだ。見つめ合うだけの時間が続く。


「あーっ!じれってえな!」


 それを見て、急に叫び出す髭男さん。


「ちょっと俺、雰囲気を変えてくるわ!」

「えっ?あの、ちょっと……」

「嬢ちゃん達は、ここで待ってろ!」


 そう言い残し、髭男さんは店の奥に入っていく。そして、ガエルさんとドナテッロさんのいる席にズカズカと歩いていく。

 ガエルさんの前に立つ髭男さん。一体、何を始める気なのか?私達は、レーザー盗聴器に耳を傾ける。


『よぉ!ここにいたのか、リエル!』

『……誰ですか……』

『もう時間だ。さ、行くぞ!』

『いえ……私、あなたのこと……知らない……』


 急にガエルさんの腕を引っ張りあげる髭男さん。ちょっと髭男さん、何してんのよ!?

 だが、それを見たドナテッロさんが叫ぶ。


『ちょっと!彼女に何てことするんだ!』

『はぁ!?誰だお前?』

『その手を離せ!』


 ガエルさんの手を掴む髭男さんの手を、ドナテッロさんが掴む。そして、ガエルさんから引き離した。

 ドナテッロさんは、髭男さんを睨みつける。この一触即発の状況に、カフェの中は騒然となった。

 すると髭男さんは、ドナテッロさんに向かって言った。


『おっと、すまねえ。よく似てるが、人違いだったわ。危うくおまえの恋人さんを連れてっちまうとこだったな、悪かった』


 と言って、ドナテッロさんの肩を2度叩き、そのまま店の外に出ていく髭男さん。

 髭男さんが去り、ガエルさんがドナテッロさんに言う。


『ごめんなさい、私……うまく言い返せなかった……』

『いや、僕ももっと早く庇っていれば、ガエルさんに不快な思いをさせずに済んだのに……』

『いえ……でも私……嬉しかったです。ナタール王国が滅んで……両親も死んで……私を庇ってくれる人なんて、現れなかったから……』

『じゃあ……僕が、庇ってあげますよ。これからも、ずっと』


 そして、ドナテッロさんはガエルさんの手を取る。ガエルさんも、手を握り返した。


「おい、どうだ。いい雰囲気になったか!?」


 髭男さんが戻ってきた。


「ちょっと!あなたいくらなんでもやりすぎじゃありません!?」


 ヒルデガルドさんが抗議する。だが、髭男さんは反論する。


「あそこで女をかばうことのできねえような男なら、あのガエルって嬢ちゃんを任せられねえ。そのまま腕引いて、ここに連れてくるつもりだった。だが、あの男は本気で庇ってきたぜ?ま、外野が心配するこたあねえよ。任せて大丈夫だろう」

「は、はあ……」


 なんと、そこまで考えて髭男さんは一芝居打ったのか?ドナテッロさんとガエルさんの方を見ると、もうすっかりいい雰囲気だ。ガエルさん、ドナテッロさんの顔を見ながら、頬を抑えてにやけてる。


「てぇことだ。そろそろ撤退するぜ」


 あの2人の状況を見て、髭男さんは立ち上がる。が、そこで私は急にこの人のことを思い出す。


「あ!そうだ!髭男さん、あなた、なんだってここにいるんですか!?あの時、捕まったんじゃなかったんですか!?」

「えっ!?捕まった!?どう言うこと?」


 私のこの一言に、皆一斉に髭男さんを見る。


「そういえばこの男、何者なんですか!?オルガレッタさんの知り合いだって……」

「知り合いですよ。この人、あの強盗事件の主犯なんですから」

「えっ……強盗……?」


 あの騒ぎを知るヒルデガルドさんやリーゼロッテさんは、事の重大さにようやく気付いてくれた。


「ちょっと!なんだってそう言うこと、もう少し早く教えてくれなかったのよ!」

「ヒルデガルドさん、ガエルさんのことばっかりで全然、私の話を聞いてくれなかったじゃないですかぁ!」


 私はつい、ヒルデガルドさんに怒鳴り返してしまった。そんな2人を制止する髭男さん。


「まあまあ、いいじゃねえか。今は俺もあんたらと同業者なんだからさ」

「へ?同業者?どういうことです?」

「あれ、言ってなかったっけ。俺は今、司令部で働いているんだぜ」

「司令部で働いて……ええーっ!?」


 と、言うわけで、今度は髭男さんの話を聞くことになった。雑用係4人と髭男さんは、場所を変えることにする。

 ショッピングモールの1階に下りて、私とキースさんがよく行くピザ屋に入る。そこでピザを1枚頼んで、皆で食べながら話をした。


「じゃあ、改めて自己紹介しようか。俺は、この占い師の嬢ちゃんを巻き込んだ元銀行強盗で、今は宇宙艦隊司令部、陸上特殊部隊第3科所属のトゥリオというものだ。よろしく!」

「トゥリオさんと言うんですか。でも、なんだって司令部に……」

「あの強盗事件で逮捕されてよ、弟は地球(アース)122に送還されちまったが、俺は技量を生かして、ここで働くことになったんだよ」

「そ、そうなんですか?でも、なんですか、その技量って?」

「まあ、いろいろあって俺はベーゼホルンの裏の人間に顔が効くんだよ。そこに司令部が目をつけた。で、その技量を生かし、特殊部隊で任務を遂行することを条件に、執行猶予ってことになったんだぜ」

「はあ……そうだったんですか」

「じゃあ、要するに犯罪者じゃありませんか!いいんですか!?あなたみたいなのが、この街をうろついてて!?」

「いやあ、ヒルデガルド様には言われたかねえぜ。そういう点では、あんたも同類だろ?」

「うう……まあ、そうですけど……」

「そういや、オルガレッタさんよ。先日、あんたが捕まって殺されそうになった時も、俺が裏で動いていたんだぜ」

「へ?そうなんですか?」

「通報を受けてすぐに、3人組の男が、ベーゼホルンの手前から馬車であんたを連れ去ったことを知った。それで俺は、その馬車を割り出して、その御者から行き先を吐かせたんだ。で、あんたがブロッセンベルグ監獄にいると知った」

「ああ、そういえば、ベーゼホルンにいる特殊部隊に私の行方調査の依頼を出したって、キースさんが言ってましたね」

「で、その後事件は解決。だが、解決した後も、俺はこの件で動いていたんだぜ」

「へ?まだあの後も何かあったんですか?」

「本当に、あの宰相と司教だけが動いていたのかってね。一応、裏まで確認しとかねえと、またあんたが狙われちゃうかもしれねえからな」

「そ、そうだったんですか……そんなことまでやってたんだ」

「で、あの3人組を捕まえた。事情を知るのは、帝都じゃあの3人だけだからな。そいつらをまとめて司令部の地下に連れ込んで、その辺の事情を探ったんだよ」

「あの、あれですよね。脳波読み取りっていう機械を使って……」

「まあ、そういうのも使ったけどよ。嬢ちゃんに、あれだけ酷い拷問をした連中だぜ?普通の尋問なんざあ、するわけにいかねえ」

「あの……ということはトゥリオさん、私が受けた、その、拷問のことを……」

「ああ、3人からきっちり聞いたぜ。洗いざらい、全部な」


 その言葉を聞いて、私は顔から火が出そうなほど恥ずかしくなる。あの出来事を知っているのは、あの3人の男と、死んだ宰相様と追放された司教様のみ。でもここにもう一人、その内容を知ってしまった人がいる。


「だからさ、あんたがやられたそのまんまの方法で、俺も尋問してやったのよ。結局のところ、黒幕はいなかったことがわかっただけなんだけどよ、あんたがやられた分はきっちり、やり返してやったぜ」

「はあ……そ、そんなことしてたんですか……」

「そうだよ。天井から吊るして、服を切り刻んでよ……」

「ああーっ!もう、いいです!その話は!」


 本人も思い出したくないあの時の内容を、危うくバラされるところだった。他の3人はピザをもしゃもしゃと食べながら、私とトゥリオさんの会話をじーっと聞いていたが、ヒルデガルドさんが尋ねる。


「だからあなた、あのレーザー盗聴器の使い方に精通していらしたんですね」

「そうさ。この短期間でみっちり訓練されたからよ」

「あの!トゥリオさん!強盗事件って、あのショッピングモールのすぐ横の銀行で起きた、あの事件ですよね!?警察が飛び込んできた時、どんな気持ちでしたか!?」

「ああ、この嬢ちゃんが、俺達は捕まるって占いをしていたからよ、もう覚悟決めちゃってたね。ああ、来るものが来たって感じでさ」

「ええーっ!?オルガレッタさんって、そげなとこで強盗を占っとったんけ!?」

「そうだよ。しかも、銃を突きつけられてるって言うのにこのお嬢さん、馬鹿正直に俺らは捕まるってことを言うんだよ。まったく、たいした度胸してるぜ」

「まあ、オルガレッタさんらしいですわね。だからあのデブ宰相なんぞに捕まっちゃうんですわ」


 ヒルデガルドさんにエリーザさん、それにリーゼロッテさんが各々、トゥリオさんに質問をしていた。

 だが、まさかこんな形で髭男さん、いや、トゥリオさんに再会することになるとは思いもよらなかった。しかもあの時も、裏で私の救出に動いていたなんて……

 私は2度、命を失いかけた。そして、2度ともある人物によって救われたことを知った。この人、品は良くないし、言葉も汚い、やることも乱暴だ。だけどそんな人だからこそ、私を救うことができたのだ。そんな不思議な巡り合わせの人物との再会を、私はピザとともに噛み締めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ