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#36 新人

 宇宙港の病院に、私は1週間、入院した。

 翌日には点滴も不要になり、私は病院をうろうろとした。

 どういうわけか私のことを知る人が多く、あちこちで話しかけられる。おかげで、看護婦さんや医師、それに他の患者とも仲良くなれた。

 ただ、私は一切、占いをしなかった。ああいうことがあって、しばらくの間、とても占いをする気にはなれない。もちろん、占いを求める人もいたが、傷があると占いができないなどと言って、体良く断り続けた。

 私の入院中、母やフェデリコさんにキースさん、リリアーノさんをはじめとする雑用係の面々、それにデーボラさんとエヴァルト殿も訪れた。

 そして、フリードリヒ殿下にアルベルティーナ皇女もやってきた。


「うむ、元気そうだな。激しい拷問を受けたと知って心配していたが、早く元気になれてよかった」

「ははははい!お、おかげさまでこの通り、元気にございます!」


 やはり皇族にお会いするのは、とても緊張する。変な汗が出る。ましてやここは病院、周りの患者が何事かと私の部屋を覗いている。注目されすぎだ。


「早く元気になって、帝国のため、地球(アース)816のために働いてくださいね」

「はい、皇女様!ありがとうございます!」


 後で聞いた話だが、この病院始まって以来の帝国皇帝の一族の訪問だったらしく、この時は病院中が大騒ぎとなったようだ。もっとも、騒いだところで何か起きるわけではなかったようだが。

 まったく、病院で安静にしなければならないというのに、変な汗をかいてしまった。だが傷はその後も順調に回復し、1週間ですっかり綺麗さっぱり治った。

 あの白いものは剥がされ、傷跡も全く残っていない。私はつい嬉しくなって、退院したその日にキースさんの部屋に押しかけて、素っ裸になって両手を広げて見せびらかす。


「見てください、キースさん!ほら、傷がまったくなくなりましたよ!やっぱり地球(アース)122の技はすごいですね!」

「あはは、ほんとだ。とても綺麗だよ、オルガレッタさん……」


 などと言いながら、キースさんは私をベッドに連れ込む。ベッドの中でイチャイチャしながらも、私の身体のあちこちを触って傷がなくなったことを丹念に調べるキースさん。別に、以前の状態に戻っただけなのだが、そんなことすら嬉しく感じられる。

 そしてその翌日から、私は司令部に戻ってきた。


「皆様、ご心配をおかけしました!」

「いいわよ、オルガちゃん。今日から今までの分を取り戻すべく、じゃんじゃん働いてもらうわよ!」

「あははは……あの、お手柔らかに、お願いしますね」


 そこで私は、あの新人と初めて出会う。


「あの、私、エリーザって言います!オルガレッタさんに憧れて、この司令部にやってきました!」


 彼女、歳は19と私と同い年。背丈も同じくらい。少し赤い色の毛をした女性で、顔は私よりも少し幼顔だ。

 すでにヒルデガルドさんが仕事を教えていたようで、艦内の補充作業は一通りこなせるようになっていた。

 平民の出だが、私よりも裕福な家庭で育ったようで、最近まで、弟も通うあの教室にも通っていたようだ。このため、すでにこの街のことや、こっちの文字も読むことができるという。

 期待の新人として迎えられたエリーザさん。

 だが彼女、少し遠慮がなさすぎるのが欠点だという。

 特に、ヒルデガルドさんは辟易していた。


「まったく、どうしてああも遠慮がないのかしら!?」


 何をそんなに怒っているのかと思ったが、話してみると確かに彼女、遠慮がなさすぎる。

 昼休みの会話で、いきなりこんなことを言い出す。


「そういえばヒルデガルド様!公爵令嬢から平民に落とされた時って、どんな感じだったんです!?」


 この調子である。これじゃ、ヒルデガルドさんが怒るのも無理はない。

 有名人が大好きで、新しものも好き、物覚えはよく、決して仕事をする分には悪くない人材。だが、この遠慮のなさが大いに欠点だ。

 今度は私に向かって、こんなことを言ってきた。


「オルガレッタさん!ブロッセンベルグ監獄に囚われて拷問されたって聞きましたけど、どんなことされたんですか!?」


 本人が一番思い出したくないことをずばずばと聞いてきた。これには、さすがのガエルさんやリーゼロッテさんも凍りついた。


「あはは……あの、私、あの時のこと、思い出したくないの……」

「そりゃそうですよね!すごかったらしいですよね、その拷問。なんでも、鞭でバンバン、身体を叩かれ続けたとか!」


 ああ~っ!もう!エリーザさんとは話したくないっ!なんだってこう彼女は、私の嫌なことを平気で言うのかしら!?

 そういえば、ヒルデガルドさんもエリーザさんから皇太子殿下殺害未遂のあの話を、根掘り葉掘り聞かれたことがあったらしい。ヒルデガルドさんの気持ちが、痛いほど分かる。


「でも、オルガレッタさん、一晩中続く拷問にもその信念を曲げることなく、ついに朝を迎えたそうですよね!」

「へ?そうなの?」


 なんだ、その話は?本人も知らない話だ。どういうこと?


「ご自身の信念を最後まで貫かれて、意志を曲げないオルガレッタさんを前に、悪徳宰相と悪逆司教はたじろいだ。が、とうとうあの悪徳宰相と悪逆司教は、そんなオルガレッタさんを謀殺するべく、罪をでっち上げて火炙り刑に処すことにして、大急ぎで刑を施行しようとなされた。だが、そんなオルガレッタさんを救うべく、宇宙艦隊司令部が号令をかけて駆逐艦300隻を使い空から圧力をかけて、ついにこの2人の謀略をくじくことになった。地球(アース)122のテレビドラマでも、そんな痛快な話はないですよ!まさに、正義の勝利ですね!」


 私はあの時、わりとあっさりと拷問に屈して、冤罪を認めてしまった。だが、それを知るものはほとんどいない。すでに追放されたか、死んでしまったからだ。だから、証言者のない部分は大衆の中で適当に作られてしまったようだ。

 うう……思い出したくない話ではあるが、あまり美化されているのも困る。どおりで病院でも、私のことを「英雄」と呼ぶ人がいたのか。なるほど、そんな話が出回ってたのね。


 とまあ、こんな調子で遠慮なく話すエリーザさんではあるが、そのおかげで思わぬ噂話を拾ってくることもある。

 とにかく、彼女は遠慮なく人に尋ねる。大抵の人は眉をしかめるが、それでも普通なら引き出せない情報を、引き出してくることがある。


「ええっ!?あのディエゴ少佐と、デリア少尉が……?」

「そうなんですよ。皆さん、意外だとおっしゃるんですよね」

「でも、デリア少尉といえば、おしとやかで有名な人。一方でディエゴ少佐といえば『ゴリ押し佐官』と言われるほどの強引なお方。その2人が付き合っているだなんて……本当ですか、それは?」

「はい!ご本人に、聞いて参りました!」

「……聞いちゃったんだ」

「はい、でもデリア少尉、顔を赤くしながらも、しっかり教えてくれましたよ」

「へえ、そうなんだ」

「自分でもおとなしい人間だってことを自覚していらして、それがどうも嫌だったみたいですね。それで、あの威勢のいいディエゴ少佐に惹かれて、とうとう告白したらしいですよ」

「ええっ!?しょ、少尉から告白したんですかぁ!?」

「するとあのディエゴ少佐がですねぇ……」


 早速エリーザさんは、誰かの恋話しを掴んできたようだ。こんな情報を仕入れつつも、ちゃんと自分の仕事もしっかりこなしているのだからたいしたものだ。

 しかし、どちらかと言うとエリーザさんを忌み嫌っているヒルデガルドさんだが、こう言う話をするときだけこの2人は顔を突き合わせて喋る。好奇心が強いという点でこの2人は一致しており、気が合うようだ。

 新しい新人の登場で、この雑用係も活気付いてきた。そしてこのエリーザさんによって、雑用係のある人物の人生は大きく変わることになる。

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