#25 戦車
あっという間に、哨戒機はそのお城にたどり着いた。
その城にもたくさんの兵士がいた。2千もの兵が突然攻めてきたのだ、こちらも当然、応じざるを得ないだろう。
だがその2千の兵が突然、潮が引くように一目散に去っていった。宇宙艦隊が駆けつけたからだというのは分かるだろうが、それにしてもあまりにも大急ぎで去っていったから、不審に思っているのではないだろうか?
哨戒機が城の前に降り立つ。さすがに、ここの兵は哨戒機に向けて槍や剣を突き付けたりしない。哨戒機のハッチが開くと、大急ぎでその前に整列する。
「おう、あんたら、ようやってくれたわ!助かったわ!」
大声をあげて、哨戒機の方に歩み寄るのは、少し小太りで初老の、貴族にしてはやや粗末な服を着た人物。
だが、その人物に、私は見覚えがある。
そうだ、シュタットフルト男爵、あの社交界で唯一私が話した貴族の方。ここは、あの方の領地だったんだ。
「お初にお目にかかります。私、帝都宇宙港の宇宙艦隊司令部所属の、フェデリコ中佐と申します」
「あんた確か、ブロイセン皇子やフリードリヒ殿下の命をお救いしたと言う、あの人か!?」
「はい、そうです。もっとも私は、それを予見できたためお守りできたと言うだけにすぎませんが……」
「そうやな、あの占い師の姉ちゃんも裏では活躍しとったっちゅう話やしな」
「そういえば、ここにおりますよ、その占い師殿は」
「ええーっ!?ほんまか!?会いたいわぁ!どこや、その姉ちゃんは!」
フェデリコさんが手招きする。私は、すごすごと哨戒機のハッチから外に出る。
「おおう!占い師の姉ちゃんやないかい!あの社交界ん時以来やなぁ!」
「は、はい……ご無沙汰しております……」
それを見たフェデリコさんが、私に尋ねる。
「なんだ、顔見知りなのか?」
「はい、実は先日の社交界で話しかけられまして、それで……」
「そうか、そうだったのか」
哨戒機に乗っていた5人は、そのままそのお城の中へと案内される。
こじんまりとしたお城だが、その奥には応接間のようなところがあり、そこに通された。
「なんもあらへんところやけど、まあ座ってや。今、お茶を出すさかいに」
暖炉には煌々と火が灯っている。中には女官が数名、男爵様のお世話をしている。
「ところで、そこにおるんはあの時、殿下を暗殺しようとした、ヒルデガルド嬢やろ?」
ここで突然、シュタットフルト男爵はヒルデガルドさんを向いてこんなことを言い出した。
「は、はい、そうです……」
「やはりなぁ!わいも見とったで、壇上の殿下をあと一歩まで追い詰めた、あの瞬間を!いやあ、殿下には悪いけど、惜しかったな~!」
さっきは子爵様を追い詰めていたヒルデガルドさんは、今度はこの無神経な男爵に追い詰められる。
「そいであんた、公爵家を追い出されたって聞いたけども、ほんまか?」
「はい、その通りでございます……」
そんなことまで聞かなくてもいいのに……フェデリコさんもキースさんも、その場にいる皆は思っただろう。
「まあ、そういうことはあまり気にせんときや。わいも若い頃にな、このシュタットフルト家を追い出されたことがあるんやで。そんでもほれ、この通り、男爵家の当主をやっとるわな」
「えっ!?男爵様が、家を追い出された!?」
急に飛び出した、このシュタットフルト男爵の過去。思わず私は尋ねる。
「あの、家を追い出されたって……どういうことです?」
「わしな、これでも若い頃はどえらいワルやったんよ。放蕩の限りを尽くしてな、そいで父上がお怒りになって、ある日わしを勘当したんや」
「はあ、そうだったんですか……で、それからどうされたんです?」
「行くとこもあらへん、お腹も空く、もうどないしよう思うたら、領民が家に招いてくれたんや。そいで食べ物や飲み物、こんなダメ息子のために用意してくれたんやで。それ見たらな、もう泣けてもうて」
なんと領民に助けられ、この男爵様は命永らえたそうだ。だが、この地は肥沃なれど、さほど裕福な人々ばかりとは言えず、そんな貧しい生活の中からこの男爵様に食べ物を分けてくれたのだと言う。
「もろうてばかりやと悪い思うて、わしも畑仕事や街への仕入れ、買い出しを手伝ったんよ。そんな生活を、2年くらいしとったんや」
「はあ、2年もですか。大変でしたね」
「大変やったわ。帝都の連中には馬鹿にされるし、思うように作物は取れんし、食べるもんは粗末やし……そいでな、わし、思ったんや」
「何をです?」
「わし、ここの領主になって、もっとマシな生活ができるところにしよう思うたんや。それでわしな、ある日男爵家に戻って、父上に頼み込んだんよ。一生のお願いや、もう一回、機会与えてくんなはれ、ってな」
「はあ、それで男爵家に戻られたんですか」
「いやあ、最初は追い出されたわ。お前の言うことなんて、信用ならんて。ところが3度ほど頼み込んで、父上もしぶしぶ了承してくれたわ。それからわし、領民のために身を粉にして働いたんよ。以来、30年。畑作を広げたり、新しい特産品作ったり、やれることをやった。おかげで、昔よりはこの地も裕福にはなったわな。でもまだまだ、やれることがあるんやなかろうかって思うてな」
「ああ、それで先日は、帝都までいらしたんですね」
「そうや。平民くらいの人でも、貴族以上のええ暮らししとる街が帝都の横にできたって聞いて、帝都に行ったんよ。確かにあそこは、ええ暮らししとるわな。それで、どないしてあの街みたいなのをここに作ろうか、考えとるんよ」
「そうですか。それはいいですね」
「いやあ、そないな時にモルトケ子爵様が攻めてくるゆうんで、大騒ぎしとったんよ。あんたらが子爵様を説得してくれたおかげで、助かったわ」
「ええとですね、説得したのは、実はヒルデガルドさんなんですよ」
「えっ!?ほんまか、どういうこと!?」
「実はですねぇ……」
私とフェデリコさんは、ヒルデガルドさんと子爵様とのやりとりを話す。結局、あの子爵様に軍を引くよう決意させたのは、ヒルデガルドさんの一言が決定打となったことを、シュタットフルト男爵にお話しする。
「……そうやったんか。いや、ほんま、おかげで助かったわ。あの令嬢が、こないなところで活躍するとは、思いもよらなんだでな」
「いえ、私などはただ、フェデリコ中佐の威を借りただけのことで……」
「いやいや、そのフェデリコさんもオルガレッタさんも、あんたのおかげや言うとるやん。自分の手柄や思うて、もっと胸張ったほうがええで」
「は、はあ……」
「あんたも、今は苦しいかもしれんが、善行を積めばきっとええことあると思うで。あまり奢ったらあきまへんけど、多少は自信持って信じる道を進んだ方が、ええ結果を招くことなりそうやな。まあ、頑張りや」
「はい、ありがとうございます……」
正直、遠慮もなくズケズケと話すこの男爵様はあまり品がいいとは言い難い。けど、今のヒルデガルドさんに必要なことをたくさん教えてくれたような気がする。
「そういや、あの平原な。守ってくれて幸いやったわ」
「そうなんですか?でもあそこ、何もないところでしたけど……」
「いやいや、あそこは年に一度、この時期に大きな行事が行われるところなんやで」
「あそこで何が、行われるんです?」
「戦車大会や」
「せ、戦車!?」
「なんや、フェデリコ殿は、戦車知らんのけ?」
「フェデリコ中佐、戦車とは兵士が2、3人乗って、剣や槍、クロスボウなどで武装した戦闘用馬車のことです」
「ああ、なんだ……いわゆる戦車のことか」
「でも男爵様、その戦車の大会って、なんですか?」
「あのランゲン平原な、この帝国内でも広い平原やさかい、戦車を走らせるには絶好の場所なんよ」
「そうでしょうね、ずーっと平らですし」
「それで帝国の名だたる戦車使いが集まって、あそこで競技をするんよ。年に一度のこの時期に、帝国をあげた戦車大会。あれがな、この地では毎年ええ金になるんよ。そいで今年もな、早速帝国中に招待状を送って盛り上げようと思ってたところやったんよ。いやあ、子爵様の軍が引いてくれてよかったわぁ」
そんな行事があそこで行われていたんだ。通りであれだけ真っ平らで肥沃そうな土壌なのに、畑にしないで放置してあるのかと思った。
「あの……男爵様。誠に申し上げにくいのですが……」
「なんや、ヒルデガルドさん。どうかしたんか?」
「確かその戦車大会、今年から中止すると言う話が、皇帝陛下から申し渡されたと聞いておりますが……」
「えっ!?なんやて、中止!?」
ヒルデガルドさんのこの一言で、がらりとこの場の空気が変わった。
「ちょ……ちょっと待ってえな!中止って……もう帝国中に招待状をばらまいてしもうたぞ!?」
「あの、男爵様!その大会っていつ行われるんです?」
「あと6日後や」
「6日後!?すぐじゃないですか!」
「うわぁ……なんてことや……今さら取り消せんわ。これはまずい、なんとかせにゃならんぞ」
一難去って、また一難。なんとシュタットフルト男爵の領地で最大のお祭りごとが、今年は行われないことが判明したのだ。
ということは、せっかくたくさんの人が集まっても、ただの広い平原を眺めるだけの行事になってしまう。それでは集まった人達から顰蹙を買うことになる。そして、この男爵家領地の貴重な収入源がなくなることも意味する。
「えらいことやわ……とりあえず、6日後のやつはなんとかせにゃならんわ。どないしょう……せや!」
急に男爵殿は、私の方を見る。
「こないなときこそ、あんたの占いや。わしのこの先のこと、占ってくれへんか?」
「えっ!?占いですか!?」
「そうや、なんやええ打開策につながるかもしれへん。頼むわ、わしを見てくれへんか?」
「は、はあ……いいですけど、打開策につながるかどうかまでは……」
この男爵、無茶なことを言い出す。危機を脱するために、占って欲しいと言うのだ。それはいくらなんでも、無茶振り過ぎる。
あくまでも、少し先に起きることを垣間見るのが私の占いであって、助言や解決につながる何かを見通せるわけではない。誘拐や暗殺といった災いならば、私の占いを聞いて何か対策をすることができるけれど、今回のばかりは、どうしようもない。大勢の招待客に抗議される風景が、目に浮かぶ。
だが頼まれた以上、見るしかない。私は、悲壮な顔で見つめてくる男爵様の手を握って、目を閉じる。
◇
大勢の人がいる。
おそらく、招待したお客さんだろう。帝国中から招いたとあって、かなりの人数だ。
だが、誰も抗議しているようには見えない。皆、クレープやジュースなどを持ち、空を見上げている。
そこに、黒いものが横切った。すごい速さで空を通り過ぎたそれは、白い煙を吐きながら上昇していく。
あれは、航空機だ。確か……複座機とかいう航空機だった。
とその下をくの字に並んだ哨戒機が飛ぶのが見える。ゆっくりだが整然と飛ぶその姿に、お客さん達は楽しげな様子だ。
シュタットフルト男爵も、手に何か持っている。左手には白い湯気を立てるコップを、右手には……焼いた鶏のもも肉を握っているようだ。
男爵様も人々も歓喜して、空を仰いでいた……
◇
これはどういう光景なのだろうか?まったく理解できない。
「ど、どないやったんや、姉ちゃん!?」
男爵様が尋ねる。私は、見た光景をありのまま応える。
「空にたくさんの哨戒機が並んだ飛んでて、それを見た人々が歓喜しています。あと、真っ黒な航空機が、ものすごい速さで飛んでって……」
「何や、哨戒機って?」
「私達が乗ってきた、これです。これが10から20くらい飛んでたんですよ」
「何やそれ……けったいな光景やな……」
だが、それを聞いたキースさんが叫んだ。
「あっ!そうだ!そういえば……」
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それから6日後。
この日は皇帝陛下の誕生日ということで、帝都司令部はお休み。私達、雑用係は、あのランデン平原に全員集合していた。
「いらっしゃい!帝都で人気のクレープ、いかが!?」
そこには露店が立ち並び、クレープやチキン、チュロスにスープ、その他温かい食べ物や飲み物を中心に売る店が並んでいた。
「あんた、キース中尉がいなくて、寂しいんじゃないの?」
「そうですよね……恋人さんですものね……」
「えっ!?オルガレッタさんとキース中尉殿は、そんな関係だったのですか!?」
リリアーノさんとガエルさんが私をからかい、それを聞いたヒルデガルドさんが新たな事実を知ってしまったようだ。
そのリリアーノさんは、マルティーノさんと一緒に手を繋いで歩いている。リーゼロッテさんは、立ち並ぶ露店を見て回るため、あちこちを走り回っている。
フェデリコさんはといえば、向こうで母と一緒に歩いている。弟は……あれ?いないぞ?どこに行った?
「姉ちゃん!」
後ろから、声をかけられる。振り向くとそこには、弟がいた。
そしてその横に、誰かがいる。平民のよく着るベージュのワンピースを着た、弟と同じくらいの女の子だ。
「あれ?誰よ、その娘?」
「ああ、イルマだよ。そういえば姉ちゃん、会うの初めてだったっけ?」
ああ、そうだ、弟と将来結婚すると約束したという同級生がいるって言ってたな。彼女がそうなのか。
「あの……こ、こんにちは!」
初めて会う婚約者の姉に、緊張しているようだ。弟の腕にしがみついている。私は応える。
「こんにちは、イルマさん。私はこいつの姉のオルガレッタって言います。だらしない弟共々、よろしくね!」
「俺、だらしなくないよ、酷いなぁ、姉ちゃんは」
それを聞いたイルマさんは、少し微笑んだ。それにしてもこの娘、弟にべったりだな。弟はこの娘に、よほど好かれてるようだ。
「じゃあ俺、この辺を見て回るからさ!じゃあね!」
「ちょっとあんた!お母さんと一緒じゃなくていいの!?」
「大丈夫だよ、そこまで子供じゃないし」
そう言って弟とイルマさんは、人混みの中に消えていった。
「弟でさえカップルで来てるのに、哀れオルガちゃんは恋人のキース中尉と一緒にいられず、そっと涙するのであった……」
「泣きませんてば!キースさんはこれから大事なお役目があるんですよ!なぜそこで私が悲しまなきゃいけないんですか!?」
「あははは、冗談よ、冗談」
好き放題からかうリリアーノさんに、私は思わず反論する。そうだ、キースさんはこれから、この大舞台に出てくるのだ。
「私も一緒だよ、オルガレッタ」
と、また後ろから声をかけられる。現れたのは、イェシカだった。
「あれぇ!?あんたもいたの?」
「そりゃあいるわよ。ランベルトさんも出るんだもん」
「ああ、そうか。そうだよね。キースさんと同じ、航空隊だもんね」
「ちょっと、その娘、もしかして噂の、ランベルト大尉の恋人さん!?」
「ええーっ!?恋人だなんて……あの、助けていただいたお礼に、話し相手をしているだけですよ!」
「ふうん、話し相手なんだ……」
リリアーノさんがイェシカに食いついてきた。でもリリアーノさんの言う通り、もう恋人同士だよね、ランベルトさんとイェシカって。あそこまでいってて「話し相手」はないわ。
『もう間もなく、第1回 ランデン航空ショーが始まります!皆様、東の空をご注目ください!』
平原一帯に、女の人の声が鳴り響く。その声に従い、皆が東の空を見上げる。
何かが飛んでくる。全部で17機の哨戒機。来た、あそこにキースさんもいる。
『教官のキース中尉機を先頭に、帝国戦車隊による編隊飛行です!中央にキース中尉機、その右側にはコンラディン騎士、続いて……』
帝国戦車隊の面々を率いて飛ぶキースさん、いやあ、すごい。やっぱりすごいよキースさん。後ろにいるのは、帝国最強と言われたあの帝国戦車隊の騎士達が操縦する哨戒機。そんな騎士達を、堂々と率いて飛ぶキースさん。
「いや、迂闊だった。そういえばこんなイベントがあることを忘れていた」
またまた背後から誰かが現れた。今度は、フェデリコさんだ。
「帝国戦車隊は数ヶ月前から、哨戒機隊に変わっていたのだ。ただし伝統ある『帝国戦車隊』の名を残すため、哨戒機隊がそのまま『帝国戦車隊』と呼称されているのだ。だから、戦車大会は航空ショーに切り替える、そういう話になっていた」
「そうでしたね。あの場にそのことを知るキースさんがいなければ、大騒ぎになるところでしたね」
「まったく、司令部も帝国宮内省も、ちゃんとシュタットフルト男爵に連絡していなかったとは……まあ、あの場の貴殿の占いと、キース中尉が思い出してくれて、結果オーライだ」
クレープ片手に語るフェデリコさん。あの時、ヒルデガルドさんの言う通り戦車大会は中止となったが、その代わり航空ショーを行うことがすでに決まっていた。ただ、男爵様には知らされていなかった。それだけの話だった。
「あらあら、あなた、口元にクレープのクリームが付いてますよ」
「ん?そうか?」
「帝都司令部の幕僚たるお方が、みっともないですよ。ほら、こっち向いてください」
「う、うむ、すまない……」
母に口元を拭いてもらうフェデリコさん。こうして見ると、もうすっかり母とフェデリコさんは夫婦だな。私とキースさんもいつか、こういう関係になれるのだろうか?
「あら、オルガレッタ、頬を真っ赤にしてどうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ、お母さん」
「あそこを飛んでるキースさんのこと、気になるんでしょう。一緒に乗せて貰えば良かったのに」
「いや、そういうわけにはいかないでしょう!帝国戦車隊と一緒なんだよ!?率いているのは、騎士様だよ!?」
なぜかムキになって言い返す私。でも私も、できることなら一緒に飛びたかったかなぁ……
『続きまして、複座機隊5機による、曲芸飛行をご覧頂きます。再び、東の空にご注目ください!』
続いて、複座機と呼ばれる真っ黒な航空機が現れた。全部で5機。近づくにつれて、ものすごい速さで飛んでいるのがわかる。
すさまじい爆音とともに、あっという間に目の前を通り過ぎる。白い煙を出しながらみるみる上昇して、空中でくるりと模様を描いている。
これにはみんな驚いていた。速いなんてものじゃない。次々に技を繰り出す、5機の黒い航空機。その爆音と、くるくると動き回る複座機、そして煙で作られる模様に、人々は魅了されていた。
「あそこよ、あれのどれかが、ランベルトさんよ!」
イェシカが叫ぶ。
「へえ~!で、どれなの?」
「うーん、3番機だって言ってたけど、どれが3番なのか、分かんないや。ま、すごくカッコよかったよって、言っておけばいいかな」
必死に飛ぶ彼を前に、随分と軽いな、この女は。
「いやあ、盛況やわ~!戦車大会以上や!こないに人が集まると思っとらんかったわ!」
またまた背後から人が現われる。シュタットフルト男爵だ。
「そうなんですか?いつもはもっと少ないんです?」
「そうや。この航空ショーってやつは、帝都や地方の街からバスいうもん使って人を運んでくれるさかい、ぎょーさん来てくれたみたいやな。いやあ、嬉しいわ~!」
上機嫌な男爵様。手には、私が見た光景通り、温かい飲み物の入ったコップと、チキンを握っていた。そのまま男爵様は、他の客人に挨拶するため、去っていった。
つい数日前には戦場になりかかっていたこの平原は、大勢の人で賑わう航空ショーの舞台となっていた。
なおこの平原は、戦車が走る必要がなくなったため、地球122が借り受けて農場とすることでシュタットフルト男爵と合意したという。いずれここで取れた作物が、駆逐艦の食糧として供給されることになるんだそうだ。




