彼女は不死身だという
「実はさ、私って不死身なんだよね」
ふっしーは突然にそう言った。
「え…。ふっしー、頭大丈夫…?」
この暑さにやられておかしくなってしまったんだろうか…。私はふっしーのおでこに手をあてて熱を測る。
「んー…。熱は無いみたいだね?」
ふっしーは私の言葉に頬をふくらませムッとした表情を作った。
「私、ほんとに不死身なんだってば」
「あー…、そういうこと。…今回はそういう設定なのね」
ふっしーはファンタジー小説が好きだ。魔法があったり、超能力が使えたりする世界を妄想しては、いつも私に話して聞かせるのだ。
「じゃあ、私は回復魔法が使えるということで」
私、怪我とか病気とかをぱぱっと治せる魔法とか、かっこいいと思うんだっ…!
「いやいや、設定じゃないってば!…しかも、不死身の私がいるのに回復系の魔法を使うなんて、すごい効率悪くない!?」
ふっしーは、不死身がいるんだから防御は自分任せて攻撃魔法を使った方が効率よく敵が倒せると言っているみたい。
「ううん!私は回復魔法が使いたいから、効率悪いと思うならふっしーの能力設定を変えればいいんだよ!」
ここは譲らないからね!!
「…話聞いてた?私の能力はノンフィクションだよ!!」
「あ〜っつい…!今日も暑いっ…!!」
私は手に持っている下敷きをパタパタと動かし、顔に風を送る。
高校生最初の夏休みが明け、暑さが緩むどころかさらに強く照りつけてくる太陽。
「そうだね…。昨日よりも暑いね…」
力ない足取りで歩く私に同意を示すのは、私の親友である伏見加奈子、通称ふっしーである。
「私…溶けちゃいそう…」
「…なっちゃん、人間はそんな簡単に溶けないよ」
…ふっしー、人間は簡単に死んじゃう、弱い種族なんだよ…?
そう、その証拠に…私は今まさにアイスのようにどろどろと溶けてしまいそうなんだよ…。
「魔法が使えたら、氷とか無限に出せるのにね…」
ファンタジー脳のふっしーはすぐに魔法が使えたら…とか言う。
「…ふっしーもまだまだだね…」
「じゃあ、なっちゃんならどうするわけ…?」
「ふふん。私なら、季節を操って涼しい春とか秋にする!」
胸を張りドヤ顔をキメたが、ふっしーは呆れ顔。
「なっちゃん…。なっちゃんって夏生まれじゃない…。誕生日来なくてもいいの…?」
ふぁっ!?…いや、それはだめだっ…!私の誕生日まであと数日…。今年は両親に好きなバンドのCDを頼んであるから、楽しみにしてるのにっ…!!
「やっぱ今のなしっ!!」
ドヤ顔を引っ込めて勢いよく考えをとりさげる私。
「…っ!…じゃあ、魔法を使って夏休みを延長するっ!!」
これは名案だと叫んでみたけれど、呆れた視線は消えてくれない。
「な、何が不満だっていうの…!?」
「なっちゃん…。そんなことが出来るんならさ、昨日私の宿題をうつさなくてもよかったよね…」
うっ…!そんな、現実を突きつけなくても…!!魔法が使えたらって言い出したのはふっしーなのにっ!!
「…昨日は、ほんとにありがとう…。私、ふっしーがいなかったら宿題終わらなかった…」
昨日、夜遅くまで付き合って、宿題を写真に撮ってLINEで送ってくれたふっしーには、ほんとに感謝してます…。ありがとう…。
「まぁ、なっちゃんは親友だからね。いつでも協力してあげる」
ふっしー…!!私はいい友達を持った…。
「それでね、なっちゃん。私はっ…!」
「夏木っー!夏休みの宿題見せてっー!!」
ふっしーが何か言いかけたけれど、突然のクラスメイトの呼びかけに遮られてしまった。
「えー…?いいけどさー…」
宿題提出って今日なのに、まだ終わってないとかバカなの?
「自分のことは棚に上げてよく言うよ…」
口に出してないはずなのに、ふっしーは呆れた顔で私を見つめた。…もしかして、ふっしーはテレパシー能力を持ってるの…?
*
放課後、私はふっしーと校舎の屋上にいた。
「それで、ふっしーが不死身なのってリアルなヤツなの?」
…確かに嘘みたいな話だし、簡単には信じられないけれど。
「うん、そうだよ。なんなら証拠見せようか?」
証拠…?
「普通の人なら死ぬようなことをして見せればいいんでしょ?」
まあ、理論上はそうですけれども…。
「いや、死ぬようなことをしないでよ」
危ないじゃん。ふっしーはそんな私の話には耳をかさず屋上の端に歩いていき、フェンスに足をかけた。
「ふ、ふっしー!?何をするつもりなのっ…!!」
こちらをふりかえり、ふわりと笑う。
「ちゃんと見ててね」
まさか、本気なのっ…!?
「ちょっと、待ってっ!?」
グイッッ!…ドサッ。
制服を掴んで思いっきり引っ張ると、ふっしーはべしゃりと地面に倒れた。
「…なっちゃん」
私が思いっきり握りしめたために、ふっしーの制服がぐしゃっとなっている。
…いや、だってさぁ!
「危ないことするからでしょ!ほんとに死んじゃったらどうするの!!」
「…私、死なないし」
本気で心配したのに、ふっしーは死なないから大丈夫だ、と言う。
「ちょっと怪我はするかもだけど、大丈夫だから…」
「やめてよ!」
それで、死ななかったとして、意識不明で目覚めないとか縁起でもない!!
「…なっちゃん、泣いてるの…?」
思わず涙が溢れてしまった私に、ふっしーは戸惑った顔をする。
「しかた、ないじゃない…。ふっしーが死んじゃったらって、怖かったんだから…」
「…ごめん」
「もう、しないでよね…」
後書きまで読んでくださってありがとうございます!!
不定期更新ですのでご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしければブックマークなどして頂けると嬉しいです!
また連載始めやがった…!とか思わないでくださいー( ̄▽ ̄;)
他の連載作品はエタってるわけではないですから!ちょっと更新できていないだけなのです!!(←言い訳)
書く気はあるので待っていてくださいね!!