死靈の手
夏のある日
メイチェックの城下町を騒がせる事件が起こった。
連続殺人事件
死体はみな心臓を一撃でぶち抜かれ、その周りはなぜか湿っていた。
海で死んだ者の霊が彷徨い歩き、無くした心臓を求めて人々を襲っている。
新月の晩、日付が変わる瞬間にブロンロイト地区を歩いていると
突然、空気がヒンヤリとして次の瞬間には心臓を持って行かれる。
そんな噂話が、まことしやかに人から人へと囁かれていた。
そんなある日のこと……
シルバーハイブ亭
時刻は真夜中過ぎ、客は1人だけ
そろそろ店を閉めようとした時だった、その男が入ってきたのは。
その男は警備兵だった。
顔面蒼白、息も絶え絶え
慌てふためいて要領を得ない。
気付けがわりに差し出したウィスキーを一気にあおると顔に赤みがさし、生き返ったような雰囲気になった。
生唾を飲み込むと
「でた、でた、死霊がでた」
一気呵成にまくし立て始める。
男は
夜の見回りのため屯所を出て、絡みつくような蒸し暑い潮風にぐったりとしながらも商業街へと向かった。まっすぐにのびた通りは闇夜が包み、進めば進むほどその闇の中に取り込まれてゆくような錯覚を覚えた。死霊殺人が起きているためか人通りはまばらで、誰もが足早に通り過ぎてゆく。
息苦しい。
警備兵になって3年。毎日通っている巡回ルートが異世界に感じた。
シンシンと静寂と暗闇が支配する世界をわざと大股でドシンドシンと歩いてゆく。
何事もなく巡回も終わり、後は屯所へ帰るだけ、そんな時だった
急に寒気が襲ってきた。 かと思うと
どこかでシャラシャラという音が聞こえ、
悲鳴
慌てて駆けつける。
死体
闇夜の中で眼が光った。
そして甲高い笑い声
強烈な寒気に、全身の毛穴が総毛立ち、ドッと汗が吹き出す。
心拍数が跳ね上がった。
足首に何かが絡みつく感触・・・
走った
誰でもいい一刻も早く、生きた人間に会いたい。
どれくらい走ったのか心臓はバクバクいっている。
と、視界に飛び込んできた煌々と明かりがついた酒場に飛び込んだ!
「オレが居てよかったな」
シルバーハイブ亭に残っていたただ一人の客が言った。
「へ?」
「そうじゃなきゃ、ここにはエルフしか居ないから、また人間を探しに行かなきゃいけないところだったもんな」
「茶化すんじゃないよ。彼が言いたいのはそういう事じゃないだろ」
「スマンスマン、つい悪ふざけしてしまう。オレの悪い癖だな。」
それから客の男は急に真顔になった。
「それで兄さん、もう一度確認するんだが、死霊に出くわした時、
シャラシャラって音がして寒気を感じたんだね?」
「あ、ああ」
身震いし、かすれた声で警備兵がいった。
うなずき合うトゥラムと客
「それが何か?」
「それはね、お客さんの近くで誰かが冷気系の魔法を使ったってことだよ」
「死体の特徴からして十中八九、氷柱槍だろうな」
客は警備兵に2、3質問するとそのまま飛び出していった。
「あの、彼はいったい……」
あっけにとられながら警備兵が言った。
「彼はソーサラーハンター。その死霊の正体こそ、彼が追っている魔法使いかもしれないね
」