会話能力と、人間関係
私はNPC。だからプログラムで決められた言葉しか話せないし、基本見向きもされない。
そんな私に、毎日声をかけてくる女プレイヤーがいる。
毎日毎日、朝と夜、ログインしてきては声をかける。
いつも他愛ない話ではあったが、聞こえていた。
そんな彼女に、私は決まった言葉しか返すことが出来ない。
毎日話しかけられるにつれて、何かわからないものがこみ上げてくるようになった。
最初はただのバグかと思った。
しかし、それはバグと一言で言えるようなものではなかった。
こみ上げてきていたのは、NPCには無い『感情』だった。
そうして私は彼女に初めて自分の言葉を話した。
「おはよう。」
と。
ボクは今日も話しかける。
いつも同じ返事しかしないNPCに。
NPCは嘘をつかない。
現実の人間と違って、感情のままに動くことはない。
感情を持ったものに嫌われているボクはNPCと話すくらいが丁度いいのだ。
そうして今日も嫌われ者、『沼田 見來』は寂しく語りかける。
「おはよう。」
と。
しかし今日は、いつものプログラムにより、作られた言葉ではなく、四文字の言葉で帰ってきた。
「おはよう。」
と・・・。
「おはよう。」
この一言を言ってから、彼女が氷漬けにされたように動かなくなった。
最初は、自分のせいで、バグが起こり、フリーズしてしまったのかと思った。
しかし、その不安はすぐに解消された。
「な・・・んで?NPCが喋って・・・るの?」
そう言い残して、ログアウトしてしまった。
なんでNPCがしゃべっているのか。唯一話しかけれていたNPCもこれでは話しかけれなくなってしまう。
ゲームまで、ボクを嫌ってしまうのか。
この世界で、ボクのことを好いてくれるものはないのではないか。
そんな風に思ってしまう。
しかし、もう出勤時間だ。悩んでばかりいられない。少しのミスでもボクは会社をクビになりかねない。
それだけ、ボクは嫌われている。
どんなに、真面目に仕事をこなしても、結局白い目で見られるだけだった。
どうして、こんな人生を歩まなければならないのか。
教えて欲しいが、教えてくれる人などいない。
この、"ボク"には
彼女がログアウトしてから、私はあの言葉の意味を考えていた。
「『なんでNPCが喋ってるの・・・?』か・・・」
私は彼女の言葉の意味を考えていた。
確かに、NPCが喋ること、驚くかもしれないが、何か別のことに怯えていたような驚きだった。
「考えても仕方がないか。彼女が帰ってくるまで、また業務に戻るかな・・・。」
そう言って私は仕事に戻った
仕事の合間を縫って今日はゲームにログインをした。今日の朝の出来事がバグではないか確かめるためだ。
普段であれば仕事の合間などなく、自分の仕事を終えると必ず誰かの作業を代わりにやるようにしてなるべく、印象をよくさせようと努力していた。
いつもと違う四年前に作った黒歴史アカウントでゲームにログイン。
黒歴史というだけあって、当て字の名前にしていたようで、今ではなんて書いてあるのかも読めないし、旧漢字も使っているため馴染みのないものとして見える。
そうして今日のNPCの元へ向かい挨拶をしてみる
返ってきた言葉は。
「ここは案内所です。何か知りたいことはありますか。」
そうやって機械じみた(機械だけど)棒読みで返された。
今日の朝の、人間的な会話はなんだったんだろう。
もしかして近々、大型アップデートがあるって言ってたからもしかしたらNPCがAIになるのかもしれないな。
そうやって考えて、ログアウトをして業務に戻った。
彼女が戻るのが待ち遠しい。ただのプレーヤーとNPCという関係なのに、NPCの中で自分だけが、あの人と関われると思うと優越感まで湧いてくる。
しかしあの驚きぶりは、嫌われたりしてないかな?
そうやって考えていたら、近づいてくるプレイヤーがいる。
・・・NPCがプレイヤーの名前が読めないなんて屈辱だけど、コマンド通り、いうだけだから大丈夫。」
「ここは、案内所です。何か知りたいことはありますか。」
聞いてみるが、すぐに選択解除をして、ログアウトした。
最近では、このゲームも2年目に入り、初心者プレイヤーが減ったため案内所の仕事が減ってしまった。
だから唯一毎日声をかけてくれていた彼女に、好意を持っていた。
そんな彼女に嫌われたら私はどうすればいいのだろう。
死ぬことは叶わないが、死にたい気分になるだろう。
・・・まぁそれは置いておいて、さっきの人は四年後とかに見たら、きっと黒歴史になるだろうな。
これまで欠かさずやってきたことを1日でもやらないと嫌われるらしい。
今日、誰の業務も手伝わず、昼休憩に入って、いざ業務再開!と息込んだところで、後ろでコソコソ話しているのが聞こえた。
気にしないようにしても聞こえてしまう。
その中にボクの話もあった。
「今日、沼田さん、手伝ってくれないから絶対残業じゃん。やってくれると思って、ほとんど手付けてないよ。」
その瞬間、あぁ、いつも手伝っていると考えてたけど、利用だれてただけだったんだ。しかもそのことにも気づけない。人間関係に関する経験値が低いからかな。
なんて今更考えたところで分かっていたことだった。人間関係なんて表面状のものだけなことに。
親友だ。とかいってすぐに裏切る人。
協力するって言って、最後の最後に、美味しいところだけを持って逃げるチームメンバー。
人間関係なんてそんなもんだ。
業務がたまってしまう前に片付けないと。
そうやって考えて、さっきの話はなかったことにして、業務に戻る。
2時間以内に仕事を終えて、他の人から仕事を回収してこよう・・・。
今日は代わりに残業だ!
過労死しない程度に・・・しなきゃね。