part7
「え、えっー!?」
葛飾大学4号館7階704号室から驚きに満ちた声が館内全体に響いた。
声を上げた張本人であり、サークル「猫の手」の依頼者、ドキ子こと土岐土器子は右手を広げて口元に押さえて驚きの表情を見せた。
「ウキヨさんのお父さんって・・・あの絹田正幸さんなんですか!?」
絹田正幸とはタイムマシンの発明者である。彼の開発したこの装置のおかげで今まで「迷宮入り」に位置した「謎」はことごとく「証明」されていき、殆どがその立場から幕を引いた。
故にこの時代にとって彼の名は知らぬ者などいない――――要は超が付くほどの有名人なのである。
「うちから見ればただの変態親父でしかないけどね」
ウキヨこと絹田兎樹代はそう言いながらも少し頬を赤らめながら口元を緩める。
その横でウキヨに対し両手を広げてやれやれの仕草をする男が一人。
「ふっおれさまからいわせりゃ、そのへんたいぶりもあわせてあのひとのそばにいれるってのにぞんざいにあつかうウキヨたんのほうがきがしれないぜ」
金髪オールバックで丸眼鏡に革ジャンと不良なのかガリ勉なのかよくわからない容姿に子供のような幼稚な声でその男、マルこと相田虎丸は続けた。
「いちどだけおめにかかったことがあるがすごいぜあのひとは。それまでひかかがくなんてしんじたくもなかったが、おれさまはみたんだ。」
虎丸は目をつむり過去を振り返るかのように上を向きながら続けた。
「あのひとのしゅういやく15センチほどにまとうかがくではしょうめいできてないひかりかがやくオーラをな。ひとがまとうというよりしゅういのひかりにはんしゃしてみえるびじゃくなでんぱをはるかにしのぐかがやきとおおきさに、おれはそのときはじめてひかかがくをしんじた。まぁしんじたのはそのときだけだがな。そしておもった、このひとこそ、このひとこそがかみなるそんざいなのかとな!さらにかれがタイムマシンをはつめいしようとしたけいいがこれまたなけるはなしでな―――――――」
その後も虎丸は、最早聞いてるのはというより聞いてくれてるのはドキ子だけだというのに、話し続ける。その姿はまるで年寄りが昔の武勇伝を孫たちに伝えるように滑らかでいて止まることなく、長かった。
「もうマルったらいつもパパの話になるとこうなのよね」
そう言ってウキヨはおでこに片手を当てながらハァと深い溜息をする。
隣で聞いていた他の男二人(魔法少女コスプレイヤーと関取ボディのちょんまげ)も相槌を打ちながら続けた。
「全くね、男は寡黙な方が好感あるっていうのに。これだから一方的に擦り寄ってくる女達もすぐ離れてくのよ...まぁ女達も女達だけど。ホント、顔はいいのに宝の持ち腐れよね」
「そうですな、虎丸殿には我慢というものが足りないでござる。男たるもの女子に向かわば『語らざること』山の如しという言葉があるというのに」
「...ん青髭、あんたそれ『動かさること』じゃなくて?」
「あぁこれは失敬。拙者今のはかの信玄公から拝借した言葉を捩り使われた名作アニメ『恋煩いの武田さん』より引用させて頂いた次第でござる」
「何よその罰当たりなタイトル!?」
「フフフ、ミチル殿も是非にお勧めですぞ。簡単に説明するとですな――――――」
そういうと青髭は青髭なりにそのアニメの紹介を始めたのだが、虎丸同様に止まることは無かった。
かと言ってミチルはミチルで青髭の話を聞くぐらいしかすることが無いのでいやいやながらも、相槌を打っている。
その光景を見ながらウキヨは再度深い溜息をついた。
そして俯きながら腕を組み、今一度ドキ子の発言を振り返る。
――タイムマシンを借りてきた。
確かに彼女はそう言った。しかしそんなこと出来るなら当然ウキヨも周知しているはずである。
なにせその発明者が自身の父親なのだから。
虎丸の言う通り、確かにウキヨはタイムマシンについて父親と話す機会はあまり多くなく知識も豊富ではない。
但し訂正するとその豊富とはあくまで虎丸から見ればの話であり、彼のような昔から「発明家」と謳われる存在からするとの話である。
ウキヨ自身も、タイムマシンについて世間一般に言われている詳細程度、ないしそれ以上の知識は持っていた。つまりウキヨが父親とタイムマシンについて話す機会が少ないのは、その少ない時間でウキヨが聞いて理解できる範疇を把握したからである。
その知識を持ったとしても今回のドキ子の発言は非常に不可解な部分が多くあったのである。
――パパが私に内緒で一般人に使った?
一瞬その考えが脳裏を走ったがすぐに消し去った。
――いや私に秘密なんてするはずがない、もし隠すにもそんな情報すぐにマルのやつが嗅ぎつけるはず、ならパパが知らない所でってこと?...
うーんと腰まで長い黒髪をゴムを外しくしゃくしゃにする。
ガチャリ
誰もがその音に反応し扉に視線が向かい、部屋は一時の静寂に包まれる。
彼らの視線の先には一人の男が立っていた。
黒髪のパーマから見え隠れする二重の瞳に整った顔立ち、灰色の長袖シャツに肌色のストールを首に巻いている。
ウキヨがようこそと言いかけた刹那、男は青のジーパンの背中腰辺りから拳銃を引き抜き標準を合わせた。
そして一言、
「さよなら、ドキ子」
乾いた銃声音が館内に響いた。




