part6
『タイムマシン』
2077年に開発された過去への転送装置。
あらゆる都市伝説や未解決事件といった「迷宮入りの謎」を解き明かし、その年人々は連日報道されるその「種明かし」に釘付けとなった。
「タイムマシンっ!?」
後ろでミチルの肩を入れ直していた金髪オールバックに丸眼鏡の青年、相田虎丸は誰よりも早くその言葉に反応を示す。
虎丸はミチル達から相談者の女性の目の前に小走りで移動し、膝をついて座り込み肩を激しく揺さぶりながら問いただした。
「どんなだった?かたちは?おおきさは?かんしょくは?どこにそうちゃくした?いやそもそもそうちゃくするものなのか?かんかくは?はきけやけんたいかんはあったか?めまいは?かんそくしゃとやらにあったか?もどるにはどうするんだ?にくたいはどうなる?かこのじぶんのいしきは?かんじょうは?きどあいらくでひょうげんするとなんだ?それとそれと...」
「あのそのえっとそのゎたしそのえっとそのあの...」
怒涛の質問責めに対して女性はあたふたとしながら目を回していた。
普段ならそこでおいコラと虎丸にツッコミを入れるのがウキヨの役目だが、目の前の光景に気付かずに腕を組みながら眉をひそめていた。
――タイムマシンって...確か一般人の使用は禁止されている筈。なぜ彼女が...。
不審に思いウキヨは女性の目の前で膝をつきながらハァハァと興奮気味の虎丸の肩を外して横にどかし、女性に聞いた。
「あなたってお金持ちの家柄とかなにか?」
可能性としてあり得るのは政治や巨大企業のトップなど国の権力者。
彼女がその類ならば納得もいく。
悲鳴をあげて倒れる虎丸を横目に震えながらその女性は返答した。
「い、いえ、ゎたしの家はその、と、特に裕福ではないです。大学も奨学金を頼りに通ってますから...。えっとその質問のい、意味としては、な、なんでタイムマシンをゎたしみたいな普通の人に使えたのかってことですよね?」
女性は震えを抑えようと唇を噛み締めながらじっとこちらを覗く。
ウキヨが女性に対してコクリと頷くと女性は続けた。
「た、確かにタイムマシンを使えるのはその、国の偉い人達だけです。で、でもあるルートから頼むと使えるそうなんです」
「使えるそうなんですって、随分と他人行儀ない言い方ね?あんたが使ったんじゃないの」
本日2度目の肩を入れ直したミチルは小馬鹿にする口調でそう言い、あらあらと虎丸の肩を入れ直した。
女性は先程ミチルに正論という罵倒を突き付けられたこともありウキヨとはまた違う、悔しさや怒りが数滴混ざった恐怖を抱いていた。
「ゎ、ゎたしはただタイムマシンを使っただけでその、装置を頼んだのはその、ゎたしじゃないです」
「ほう、貴殿が頼んではいないと...。さすれば一体誰が頼んだのでしょうな。ささ、これでも飲んで一度落ち着かれよ」
青髭が紙コップに入れた常温の緑茶を女性に差し出しながら割って入る。
女性はぺこりと頭を下げるとゆっくりと差し出された緑茶を口に入れた。震えは止まり気分が落ち着いていくのを感じた。
その様子を見ながら青髭はウキヨにも緑茶を渡し、その際に軽くウインクした。
ウキヨも青髭に親指を上げてグットの素振りをし、女性に言った。
「そうだね、一旦落ち着いてから続き聞かせてもらおうかな。その前にあ、まだ自己紹介してなかったね。私はウキヨ、このでかいのが青髭で、あそこの関取がミチル、金髪がマルね、よろしく!」
簡単且適当でされど最も覚えやすいと思われるあだ名限定の自己紹介をすると、ウキヨは女性に笑顔で右手を差し出した。青髭はスカートの両端を摘み上げ足を交差しながら一礼し、肩を入れ直した虎丸は地べたに座り込みひゃははと笑いながら片手で手を振り、虎丸の近くでしゃがんでいたミチルも顔だけこちらを向きむすっとした表情で小さく「よろしく」と言った。
「よ、よろしくですその、ゎたしはドキ子、土岐土器子って言います。」
そう言うとドキ子はあわてて紙コップの持ち手を変えてウキヨの手を握った。
「ドキ子ね、うちも大概だけど中々レアな名前じゃない?」
「それちょっと思いました」
どっと二人の間で笑いが起きた。
ウキヨにとって女性と話すのはあまりないことであり新鮮な気分だった。
ドキ子にとっても先程までの針を刺すような殺伐とした空気から一変し、和やかな雰囲気になったことで緊張や怒り、恐怖と言った「負の感情」から少しずつ脱却し晴れやかな心持ちとなっていった。
それから数十分間、先程の笑いを皮切りに「猫の手」の部室からは笑い声と鈍い音が響いた。
時を同じく、葛飾大学4号館入り口。
太陽は沈み、辺りは一面人が作りし光によって支配されていた
男は走ってきたようで息遣いは荒く膝に手を当てながら呼吸を整えていた。
すると男のポケットからカランと音を立てて何かが落ちた。
男はそれを素早く右手で拾い上げ、エレベーターホールに向かう。
エレベーターに乗ると男は右手に持つ拳銃を背中にしまい7階のボタンを押した。