part2
季節は秋、夏の蒸し暑さから打って変わり、ほんのりと漂う冷たい空気がなんとも心地の良い秋風となり、赤黄色に染める木の葉の舞が一層にここ「葛飾大学」に秋を感じさせた。
ベンチで談笑に耽る男女、柔道着姿でランニングをしている集団、大学自慢の中庭広場ではどこかの研究チームが打ち上げで教授を囲みながら生徒がワイワイとバーベキューを楽しんでいる。
各々が自身なりの「青春」を謳歌している中、4号館7階704室の一室でも彼らなりの「青春」が始まろうとしていた。
「よーしそれじゃ、、部会始めるよ!」
フンと一度鼻息を鳴らすと女、絹田兎樹代は長い黒髪をきゅっと一つの束にまとめ凛とした顔つきで部屋全体を見回した。
部屋は12畳ほどの広さで、部屋には小型の冷蔵庫一台と「つまみ!」と書かれた名前通りの物が入った段ボール一箱に、所々錆が目立つパイプ椅子が無造作に6脚置かれているだけだった。
部屋には他に3名の濃い部員がいた。
一人は黒の革ジャン姿に金色髪のオールバックになぜか丸メガネと、なんとも言い難い風貌でひゃははと笑い体制を前のめりに座っていた。
一人はどこぞの魔法少女を想起させるピンクのコスプレ衣装に身を包み、とある中華の六大将軍さながらの図太い体格をした角刈り男で剃りすぎて青くなった顎をさすりながら、ドスンと座ると椅子が悲鳴を上げた。
そして最後の一人はベンチに座らず冷蔵庫近くの壁に背を預けて腰を落とし、燃え尽きたようにうなだれていた。
そしてつぶやくようにぶつぶつと
「ほんとなんてことをしてしまったのかしら、あたしなんてどうせダメな子よ、みんなに迷惑かけることしかできないダメダメな子。ちょっと魔が差したらすぐこれだもの、あぁあたしって最低よね、うんわかってる、別に気にしないで、いいのいいのほんとに、あたしなんて気にしちゃだめよ、あたしはいけない子なの、みんなに迷惑しかかけれないんだから、あっほんとに大丈夫だから、うん、全然平気、気にしないで、ほんと気にしなくて大丈夫だからうん、あのうん全然気にしなくて、、、うん」
ちらちらとこちらを見ながら尚もぶつぶつとつぶやくちょんまげヘヤーで小太りの男。
だがその姿を見て同情する者はこの部屋にはいなかった。
「ちょっとミチル!いい加減起きなさいったら」
「そだぞーみちる、いいかげんあきらめるこった」
「、、、残念ながら今回はミチル殿につく者はいないかと」
三者共に手を差し伸べてくれないとみるとその男、植草巳千流はハァと深い溜息を吐いた。
「はいはいわかったわよもうー、ホント血も涙もないわね、あんた達ったら!あたしがこーんなに反省してるのに」
そういうとミチルは頬をぷくーっと膨らませながら
「いいじゃない少しぐらい回収したって、また補充すればいいだけの話でしょ、むしろ経済を少しでも回していこうとするあたしの心意気に対し少しでも尊敬の念を抱いて見習うべきなのよ、もっと言わせてもらうとむしろちょっとの事であんな3発ものバケモノじみたパンチするあんた達の方がよっぽど恐ろしいわよ!鬼!悪魔!がに股女!」
自分に対する罪の意識を減らし尚且つ相手に罪悪感を与えようと必死に声を荒げた後、ハッと息を呑んだ。
すると、そうかそうかと頷きながらウキヨがゆっくりと近づいた刹那、おそらく壁から響いたであろう鈍い音の後にミチルの右肩はウキヨの右足によりグゴギグッと聞いたこともない音を立てて壁に少し食い込んでいた。
ヒィと後ろで2人が手を合わせてガタガタと震える中、食い込まれた本人に限っては一瞬意識が飛びかけた。
「最後の一言は二発目おかわりと受け取るとしてェ、あんたがこれまで一度でも買い出しに行ったことがあったかねコラ、毎度毎度青髭に買い出し行かせてるの知ってんだから」
「あ、青髭!あぁあああんたチチチクったの!ちゃ、ちゃんと買収金渡してるじゃない!」
「すっすまないミチル殿!拙者、お嬢には黙秘を貫く所存であったのだが、買い出し袋に『魔界熟女ブリキュア』のクリアファイル入れたままであった所見つかってしまいそれで、、、」
「あんたがあの類の文具なんて買うはずないものねェ」
メキと更に右肩に足が食い込む。
「あがァァァァァッ!」
「すまないミチル殿!!せめての償いで先程の流れでやった正拳突きは1割の力にしておいた、これで許されよォ!!」
「ふざけんじゃないわよォォォォォォォォ!!」
「そりゃこっちのセリフじゃーーー!!」
ミチルの肩は外れた。