part9
サークル「猫の手」の部室で予想だにしないカミングアウトがあった同時刻。
「お待たせしましたー!」
「ほれ、土器子殿」
「ぁ、ぁりがとうございます」
土器子は龍作から受け取ったコーヒーを両手で持ちながらフーフーと飲み口に息を吹きかけ冷ましている。
しかしその口元は依然として震えていた。
その姿を横目に見ながら虎丸は気付かれない程度に軽く舌打ちをする。
カウンター席に三人、土器子を挟む形で座っていた。
先ほどの襲撃後、二人はウキヨからの指示で大学から離れた場所で、連絡があるまで待機していた。
「にしても龍作よぉ。ウキヨたんにすこしはなれたばしょでまつようにいわれたから、”きっさてん”でもはいるかとはいったけど、なんかこう…ほかにもあったんじゃねーか?」
「何を言う、虎丸殿!喫茶店といえばココしか無かろうに、ね!ミルキーたん!」
「ハイ!ご主人様♡」
「はいそこそこ!そのかいわからちがうからね、ただの”きっさてん”じゃないからね」
「ただの喫茶店じゃないとは失礼な。ここ「メープルシロップ」の何がご不満でござるか、ね!ミルキーたん!」
「ハイ!ご主人様♡」
「ふまんもなにも、さっき土器子ちゃんがおちつけるばしょにいどうさせようってなって、それがなんでおれさままでおちつけなくなるとこはいっちゃうんだよ!」
「む、拙者はあくまで土器子殿の心情を最優先に考えこの店を選んだまでのこと、先ほどの様な悲劇に遭われた後にわざわざリア充どもの巣窟に足を踏み入れる覚悟を決めるなどあんまりじゃあないでござるか、ね!ミルキーたん!」
「ハイ!ご主人様♡」
「さっきのかれしみただろ、土器子ちゃんのみためふくめてどうみてもデートで”zutaba”とかよりそうじゃねーか。あとその”ミルキーたん”ちょっとやめろ、こっちもはずかしくなってくるから!」
「何を今更、虎丸殿もウキヨ殿に”たん”づけで呼んで…」
「ミルキーたん!ココアおかわりッ!」
「ハイ!ご主人様♡」
龍作の言葉を塞ぐように大きな声で注文する虎丸。
クスクスと真ん中の席から小さい笑い声が聞こえた。
龍作と虎丸はバッと土器子に振り向く。
「ぁ、すみません。つい…」
「…だいじょうぶか?」
「ぁ、はいなんとか…二人のお話聞いてる内になんだか震えも止まっちゃいました。心配して頂き、ぁりがとうございます。」
土器子は二人にそれぞれペコリと挨拶した。
「いや拙者達は何も…」
「そうだぜ土器子ちゃん、むしろ土器子ちゃんもアイツにひとこといってやっていいんだぜ」
「いえいえそんな、ここも素敵なお店だと思いますよ」
「土器子殿、分かってらっしゃる」
龍作は泣いた。
「ぁ、でも普段は虎丸さんの言うとおりで”zutaba”とか行きますよ」
虎丸はガッツポーズし、龍作はまた泣いた。
その様子にあたふたする土器子の前に先ほど注文したココアと龍作が頼んだ特性オムライスが到着した。
ーーーーーー
「「おいしゅうなーれ☆萌え萌えキュン♡」」
気づけば龍作は満面の笑顔でメイドと共にオムライスに魔法の言葉をかけていた。
その様子にあははと少し苦笑いをする二人。
「お二人を見てると羨ましいです。」
土器子はポツリと言った。
「そうか?」
「はい、何かこぅ自分の好きな事にまっすぐというか…そうゆうのって…少し憧れます。」
「うーんまぁおれさまはあそこまで、はじらいをかくさずいきてるつもりはねえけどな」
虎丸は言いながら今まさにドリンクに魔法の言葉をかけ始める龍作に目をやる。
先ほど部室で絹田博士の話をしていた時の虎丸を思い出しながら、土器子はハハと軽く笑う。
そして少し微笑みながら続ける。
「私はいつも周りの目を気にして生きてきました。純と付き合うようになってからは尚更です。ぁっ、決して純が悪いとかそういうのじゃないんですよ、昔からそうなんです…他人の顔色ばかり伺って…ホント自分が嫌になる」
土器子は目を伏せながら、コーヒーを一口すすった。
「周りの目…ですか」
気付けば龍作はオムライスを平らげ、口をナプキンで吹きながら呟いた。
「拙者もウキヨ殿達と出会うまではよくそれに苦しんだものでござる。」
「ぇぇ!龍作さんがですかッ!」
土岐子は目を丸くして龍作を見る。
「あぁたぶん、おれさまたちのなかでもぶっちぎりにじゃねぇか」
虎丸の言葉に土器子は丸くなった目をさらに丸くする。
「そうでござる。だから土器子殿の気持ちも分からなくもないでござるよ」
龍作は笑って答えた。
一体何がどうなってこんなにも変われるのだろう…
土器子はいつの日かに見た、多重人格者の特集で出演者がVTRを見てる時の顔に自分も今まさになってないか鏡があれば確認したくて仕方がなかった。
「「ピコン♪」」
その時、龍作と虎丸のケータイから同時に着信音が鳴った。
「お嬢からですな」
「あぁ」
虎丸は文面を読んで下唇を噛みしめた。
「土器子ちゃん」
虎丸は真剣な眼差しで土器子を見つめた。
「さっきのヤツが土器子ちゃんと会いたいんだと。けど別に無理することないぜ。ぶっちゃけ一生会わなくていいと俺様は思うけどどうする?…決めるのは土器子ちゃんだ」
虎丸の普段の子供じみた話し方から変わって穏やかで大人びた話し方に、土器子は驚き一瞬頰を赤める。
「行きます、行かせてください。皆さんにこれ以上迷惑はかけられませんから」
「…そっか、わかった」
こうして三人は再び葛飾大学4号館7階704号室に足を運ぶのであった。
「順調そうね」
「あぁそっちも上手くやったようじゃない」
虎丸達が出て行った後の店内でメイドと男の客が会話をしている。
男はゴソゴソと着ているジャケットから無造作に電子タバコを取り出し旨そうに一服する。
「嬢ちゃん連れてここに来た時は、正直ヒヤリとしたが…」
男は煙を吹くとニヤニヤしながら続けた。
「考えてみろ、ありえんでしょう」
「そうね、無謀すぎるわ」
メイドはそういうと厨房に戻っていく。
店内には男の他に数名の客とメイドがいた。
しかし彼らは誰も話さない。動きもしない。
「悪いな、絹田」
男はニヤニヤしながら呟いた。




