婚約破棄でいいのですね?
改稿させていただきました。
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ここは王の謁見の間。
私、サリー・カタリア公爵令嬢は国王陛下に召集をかけられ、この場にいる。同じように召集されていた王太子である第一王子が時間になっても現れず、ピリピリした空気が流れている。
予定時刻から四半刻ほど遅れて王太子がやってきた。呼び出しをかけられていたのは王太子だけなのだが何故か王太子の側には学園にいた平民の女と側近候補と呼ばれていた子息2人がいた。
国王陛下直々の召集だったにもかかわらず遅れてきた。しかし、王太子はまるで自分が何もしていないかのように歩いてくる。
ごく少数のものしかこの場に集められていない。この場にいるほとんどの者が王太子の態度に眉を寄せ、冷ややかな目で見ている。王太子はそれに全く気づいていない。
王太子は陛下に謝罪もせず、前に立ったと思ったら、私に向かってこんなことを言ってきた。
「サリー・カタリア!貴様との婚約を破棄する!」
王太子の言葉から分かるとは思いますが、私は王太子の婚約者です。昔から人の話を聞かないとは思っていましたが……。TPO知ってるんですかね? KYにもほどがあるでしょ。
あ、ほら、国王陛下も唖然としてるじゃないですか。王妃様、真っ青です。
「……い!……おい!聞いているのかサリー・カタリア!」
そんなに大きな声で叫ばれたら嫌でも聞こえます。
「はい。聞いてますよ。で、婚約破棄でしたか?」
「そうだ! 貴様は公爵令嬢という立場を使ってマリアを虐げていただろう!」
「虐げる? 私は分をわきまえなさいといっただけですわ。平民の身分で婚約者のいる高位の者へ近づくのは良いことではありませんでしょう?」
「そ、そんな……平民がそんなにお嫌いなのですか?」
王太子殿下の後ろで涙を浮かべながらマリアという平民の少女が言うと
「貴様! なんて酷い言葉を!」
と王太子が同調する。
頭、大丈夫ですか? ついに、言葉の意味も理解できなくなりましたか? もう、重症ですね。婚約者がいるんですよ? 他の者といちゃついている方がよっぽど酷いと思います。不誠実にもほどがあることも理解できないんですか。
「殿下、私は当然のことを申し上げただけでございます」
「反省の色もないのか! こちらには、貴様がマリアにした嫌がらせについての証拠が上がっているんだぞ」
「証拠ですか?」
「ああ、貴様がマリアの教科書や制服を破り捨てたり、学園で皆に無視をするように命じていたことなどの証拠がな」
教科書や制服を破り捨てるような幼稚な嫌がらせを公爵令嬢はしないでしょう。私が本気で嫌がらせするなら、すぐに学園をやめさせて辺境にでも送るわ。
無視に関しては私が命じたのではなく、バカ共にみんな関わりたくなかっただけ。だいたい、王太子が気に入ってる女を無視しろと私が命じたところで王太子の方が地位は上なんだから無視する訳ないでしょう、普通。それでも、無視するって相当ってことですのに、分かっていますのでしょうか?
「証拠もなにも私はそんなことしてませんわ」
「まだ、しらばっくれるつもりですか?」
王太子と同じように前に立っている侯爵家の嫡男が私を軽蔑した目で見ながら言ってくる。
「ほんと、ありえないよ。女としてどうなの」
そう言ってきたのは騎士団長の家の嫡男である。
いやいや、しらばっくれてるのはあなた達でしょう。証拠全部でっち上げなの知ってますからね。
ほんと、ありえませんわ。人間としてどうなのでしょう?というか、何であなた方まで前に立っているのですか。陛下に呼び出されていない者がこの場にいる時点でおかしいのに前で一緒になって断罪もどきに参戦しているなんて頭が悪いにも程があります。これが側近候補なんて大丈夫なのかしらこの国。
私は溜息を吐いた。
「……分かりましたわ。婚約破棄いたします」
「やっと理解したか、己の醜さを。貴様もマリアを見習え。……父上、婚約破棄の承認を」
陛下は殿下の発言に絶句していたようで固まっていた。マリアと目が合うと、ゆっくりと瞬きをして辛そうに息子である王太子を見ながら口を開いた。
「……婚約破棄を認める」
王太子殿下はそれを聞き、口元に笑みを浮かべる。そして、マリアの手を取った。
「婚約破棄は出来た。マリア、私と結婚してくれないか?」
マリアは涙を浮かべ微笑む。
そして、こう言った。
「お断りします」
「「「は?」」」
王太子含め取り巻き3人の声が同時だった。
あ 3人がポカン……としている間にマリアは壇上を降りて国王夫妻の元へ行き、こう言った。
「これにて試験を終了とさせていただきます」
「……あ、ああ」
国王は曖昧な返事をする。自分の息子が愚かな真似をするとは夢にも思っていなかった様子だ。隣の王妃も青ざめている。状況を理解しきれていないようだ。
「え、な、なんなんだ……」
王太子が混乱しながらマリアに問いかける。
「簡単なことです。これは貴方様の王族の素質を試す試験だったのです。私は試験の惑わし役であり試験官だったのです」
マリアは先程までの儚げな少女の雰囲気は無く淡々とした様子で説明していく。
「し、試験?」
「はい。流石に今の状況ぐらいは理解できますでしょうか? 貴方様は間違えたのです」
「ち、父上……本当なのですか?」
「ああ、王太子は必ず通る道だ。私も王太子だった頃にあったことだ。私はその時、婚約者だった彼女を取った」
「は、母上……」
王太子殿下が縋るように王妃様を見つめる。
王妃様は悲しげに顔を歪めると、彼から目を逸らした。
「そ、そんな……。私は婚約者であった彼女を取ればよかったのですか?」
王太子殿下は陛下に問う。
そんな王太子殿下を見て、私は口を開いた。
「別に私を選ぶ必要はありませんでした」
「……は?」
「ですから、私を選ぶ必要はありませんでした。貴方様はマリアを選んでもよかったのです」
「では、何故私は次期王失格なのだ!」
「王とは国を守る者です。どんな手を使っても。私を選び、マリアを退ければ誰かに惑わされることはないと言うことになります。しかし、マリアを選び、私と婚約破棄することでも、王の資質は測れるのです。今までの王の中には惑わせる役の少女を本気で口説き落として、婚約者には交渉をし上手く婚約破棄した人物がいました。その王は交渉能力、つまり『外交』での資質があったのです。また、ある王はすぐに少女が惑わせる役であることを見抜きましたが、その少女を好きになり、口説き落とし、婚約者と婚約破棄しました。婚約破棄の内容は貴方様と同じでっち上げなの罪でしたがそれがでっち上げと分からないレベルの隠蔽がされていて、役だったと知らなければ皆騙されるものでした。つまりはその王は『周りの人に弱みを作らない』という資質があったのです。分かりますか?貴方はどちらでもなかった。真実を見抜く能力も無ければ、嘘を本当に変える能力もなかった。ただ自分の我が儘を通すだけだったのです。それでは国は守れないのです」
「国を守るのは王妃もだろう! 何故、貴様は私を助けなかった!」
「何度も言いましたわ。『今、自分に為すべきことを考えてください。』や『私も殿下を支えますから殿下もどうか国の為に出来ること見てください。』と言いましたわ。それに対して貴方様は『貴様のような権力欲しさに目が眩んだ女の言うことを聞くか!』や『性根の醜い女の支えなどいらん!』などの言葉を返し、私の言葉には耳を傾けてくださりませんでしたわ」
「試験のことに気づいていたなら言えば良かったではないか!」
「それは試験のことを話すことを誓約によって禁止されていたからです。学園に入る際にする誓約にこのことが含まれていたようで伝えることは不可能でした。王太子が自分で気づかなければならなかったのです」
「そ、そんな……」
陛下が発言する。
「王太子は第一王子から第二王子に変更する」
「そんな!父上!第二王子は側室の子ですよ!正しい血を継ぐ者が王になるべきでしょう!」
「試験に落ちた者は二度と王太子になることは出来ないのだ。お前には爵位を与え、公爵位についてもらう」
王太子いえ第一王子は真っ青になり呆然としている。
というか、先程から後ろの2人は全く発言しませんわね。
「ねぇ、察しはついていると思うのだけれど貴方達も次期側近としての試験だったのですわ。」
2人の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「お二方共、お家からの書類が届いているから、読ませていただくわ。まず、侯爵家から。この婚約破棄を実行した場合爵位の継承は次男とし、長男はヘライナに派遣するものとする」
「そ、そんな……」
ヘライナといえば気候が厳しく食物も育てられず人が住んでいない辺境だ。
「次に、騎士団長のお家からのものを読ませていただきます。婚約破棄を実行した場合、爵位は次男に継がせるものとする。長男は遠征隊に加わるものとする」
「い、嫌だ。遠征隊なんて……」
遠征隊といえば魔物の多い危険区域に行くため亡くなる者も多い。
第一王子はまだブツブツ何かを言っている。
私をじっと見て
「元はと言えば貴様のせいだ。貴様が私をしっかり支えなかったせいだ」
そう言って私に剣を向けてきた。
「っ……。」
私が目を瞑るとガキィィンと大きな音がした。
私の体に痛みはない。そっと目を開けると目の前に青年が立っていた。
「大丈夫ですか? サリー嬢」
「え、ええ。大丈夫ですわ」
青年は第一王子の剣を弾き飛ばしたようで第一王子は衛兵に確保された。
第一王子はまだ何かを喚いていたが謁見の間から連れ出された。
青年は国王夫妻の元まで行きました。
「父上、ただいま戻りました」
「……第二王子レイアントよ。よくぞ戻った。これより王太子はお前になる精進して励め」
第二王子は第一王子の2歳年下で私と同い年だ。隣国に三年前より留学していたようで、先ほど帰国したようだ。
「は。次期国王として精進致します」
私も陛下の元まで行くと
「陛下。この度は申し訳ありませんでした。私は第一王子を支えられませんでした。私の力不足でした」
「いや、サリー嬢のせいではない。まさか、あれ程まで第一王子が愚かな真似をするとは思わなかった。サリー嬢、第二王子の婚約者になってはくれないか?」
「いえ、私は第一王子を支えられなかったのです。王太子妃に相応しくはありません」
「しかし、長年の王妃教育が身についている者はそなたしかおらん。それに王妃の資質試験に合格しているではないか」
そう、私は王妃の資質試験に合格している。この国には王の資質試験があるように王妃の資質試験がある。学園には皆4年間通う。王の資質試験は学園卒業までの1年間で行われているのに対して、王妃の資質試験は入学してからの1年間で行われる。この国では試験の期間、受ける者や学園の生徒は試験についての記憶を消され試験を受ける。私にもマリアのような者が近づいてきたがどこかの調査員かと思い、調べ上げ王家に報告した。惑わされなかったことと諜報能力の高さから合格となっていた。
「サリー嬢」
第二王子が私に傅く。
「どうか私と結婚していただけませんか?」
その時、私は初めてしっかり彼の顔を見た。
「っ……」
私は息を飲んだ。彼だ。でも、もうずっと会っていなかったから彼なのだという確証はない。
第二王子は困ったような笑みを浮かべ、でも瞳は力強く私を見ていた。
あぁ、やっぱりあなたなのね。
「……はい」
「うむ。サリー嬢は第二王子レイアントの婚約者とする!」
国王陛下は箝口令をしき、その場はとりあえず解散となった。
◇◆◇◆◇◆
ここは王宮のはずれにある。ハーブなどを育てる園芸用の部屋。
そこには2人の姿があった。
「ほ、本当にレイなの?」
「うん。そうだよ、リー」
「知らなかったわ。第二王子だったなんて」
「言ってなかったからね」
私はレイアントいや、レイと幼い頃に出逢っていた。
私が5歳の時第一王子との婚約が決まった。それ以来王妃教育を受けるため王宮に通っていた。私は広い王宮を休憩時間を使って探索するのが好きだった。ある日、王宮のはずれにある小さな部屋を見つけた私は中に入って植物がいっぱいあるのを見てワクワクした。奥へ行ってみると1人男の子がいた。男の子はここの管理を手伝っていると言っていた。その日はここにある植物について話して帰った。それ以来、そこに集まって他愛もない話をするのが私の楽しみとなった。私達は互いにレイ、リーと呼び合っていた。
ある日、レイがいつものように話しているはずなのにどこか上の空になっていた。
「レイ、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
レイは優しく笑って言う。
「嘘つかないで! 大切な友達のことくらい分かるよ!」
「……リーには敵わないなぁ。なんかね、僕は生きているだけで邪魔らしいんだ」
「っ…誰がそんなことを!」
レイは困ったように笑った。
「レイ!! 少なくとも私にはレイが必要だよ! レイがいなければこんなに植物の勉強出来なかった! こんなに楽しい時間出来なかった! 」
レイはキョトンとして
「…あははっ。ありがとう、リー」
レイは笑っているのに泣くという器用なことをしてみせた。
その後レイは元に戻っていつも通りの日常になっていった。
「レイ? いる?」
その日、そこには誰もいなかった。
今日は都合が悪くなったのかなと思ったが次の日もそのまた次の日もいなくて、会うことは無くなった。
その時、私は悲しかった。そして同時にそれが初恋であったことに気づいた。それが10歳の時の話だ。私は王太子の婚約者としてその気持ちに封をして必死に頑張った。彼のことを忘れるために。
「どうして、あの時急にいなくなってしまったの?」
「実は君の父君、公爵殿に会うのを禁止されてね」
「え? 父様に?」
「君の父君は現王妃の家と王家の癒着に気づいていた。兄上が自力でそれを振り切る力があればよかったのだけど王妃の家の守りは強固で、王になれば傀儡になってしまうのは分かっていたんだ。それに兄上自身国庫の着服をしていたり、女関係が荒かったりしてたんだ。だから、僕を王に立てようとしたんだ。僕と公爵が内密に話していることを知られないために君との接触も禁止された。王は王妃のいいなりになっているから、僕の安全のためにここ3年は隣国に行っていたしね」
「レイを王に?」
「そう。僕の母は中立派の貴族だからね。僕は初めは王位なんて別に欲しくなかったんだ。でも、君がいたから王になろうと思ったんだ」
「……え?」
「だって、君の父君は君を王太子の嫁にするというから。君を手に入れるためには王位を継がなければと思ってね。色々な所に手を回したよ。隣国にもコネを作れたし、これでやっと君に言えるようになったんだよ」
「あらためて言うよ。リー、君が僕を必要と言ってくれたように僕にも君が必要なんだ。君が好きだよ。愛してる。どうか、僕と結婚して下さい」
「はい……私も貴方を愛しています」
私はかつてレイがしていたように笑いながら泣いていた。
◆◇◆◇◆◇
私は昔のようにここに来るのが日常になっていた。今日はレイが先に待っていた。
「リー、大好きだよ」
レイは私の名を愛おしむように呼んでくれる。
「レイ、私も……す、好きよ」
「絶対に離さないから」
「貴方が王の資質を見る試験で惑わされないといいけど」
レイアントは第一王子と2歳離れているため、1年後に資質試験が行われる。試験のとき、王太子は王の資質試験についての記憶を消される。周りの者もそれを教えることを誓約で禁止されるため、王太子は実力で乗り越えるしかない。
「僕はもう君に惑わされてるからねぇ」
「っ……」
「顔、真っ赤だね、可愛い」
レイはいつも私に言葉をまっすぐ伝えてくれる。恥ずかしいけど嬉しい。
私は耳元で囁いた。
「レイ、私も貴方に惑わされているわ。だから、絶対離さないで」
耳元から顔を戻す
「ふふ、レイも顔真っ赤ね」
2年後、王の資質試験に合格した現王太子、レイアントは婚約者の彼女と結婚し、仲睦まじく過ごし続けたという。
2人は賢王夫妻としても名高いが、夫婦仲の良さから理想の夫婦としても有名である。
第一王子…昔からいろんな女と遊んでいた。国費を勝手に使ったり、平民を虐げたり、色々やっていた。王妃に操られていた面もあり可哀想な人でもある。
第二王子レイアント…サリー溺愛・外交、嘘、人を味方につけるなど色々な才能を発揮した。
サリー…レイアント溺愛・歴代王妃で一番賢いと言われる賢妃まで登りつめた。
マリア…平民だが、演技力や頭の回転の良さで国に仕官するまで登りつめた。サリーとは昔会っており、その時よりサリーを溺愛している。
王の資質試験…試験の間は試験についての記憶を消され、他のものもそれを伝えることを禁止される。
〜サリーとマリアの後日談〜
「マリア、あの時は試験だったとはいえきついことを言ってしまってごめんなさいね。」
「いいえ、協力すると言ったのは私ですし。第一王子はダメ人間でしたからサリー様には相応しくありませんでした。第二王子に変わってホッとしています。」
「そ、そう。でも、マリアが昔会ったあのマリアだとは全然気づかなかったわ。」
「それはそうですよ。気づかれないようにしてたんですから。あ、私、王太子妃付きになりましたのでよろしくお願いしますね。」
「本当!嬉しいわ。」
「試験官やってよかったです。サリー様の婚約者を変えることは出来たし、サリー様付きになれたし、一石二鳥でした!」
「逞しいわね…。」
「平民は逞しいのですよ、サリー様。」
2人の笑い声がその場には響いていた。
終わり
王の資質試験についてのご指摘、ありがとうございました。設定がゆるく、分かりづらい書き方で申し訳ありませんでした。最後まで読んでいただきありがとうございます。