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あとがき

 四章について当初はここまで長大になるとは想像しておらず、実はもっと淡々と話が続くものになると想像していましたが、私の伝えたい事はやはりそうではないと思い、全て突っ込んで書いたので想定よりもかなり長いものになってしまいました。


 ロドルガ・ロドンダさん親子の話、ガルムンズさんや彼の率いる中隊の面々の熱意や誇り、沢山の奴隷を望む呪持ちの青年の願いによって管理局職員から奴隷商になってしまった職員の話、変えられた王都の現状、沢山の人々の思いや改悪されてしまった異世界に住む彼等のバックボーンをきちんと表現してあげたいと考えて、苦心して書いたのが四章の私の印象です。


 彼等をただのモブと呼ばれる存在ではない、彼等は自らの生を全うしようと日々を必死に生きていて、それぞれの思い、親子の愛情や男女の愛情、日々の何気ない幸せや優しさ、小さな喜びに満ちた日常が確かに存在すると私は感じています。


 その全てをたった一人の呪持ちの願いによって何度も破壊され、彼等が幸せになれない不幸の形へと傲慢によって壊され、無残に変化していく様を文章にする。


 これは私にとって非常に難しく、時に辛い作業でした。


 私は彼の地で起こる事実を語る語り部であり、大いなる存在の前では吹けば飛ぶような塵芥、異世界の全てを文字にして伝える事しか彼等を応援する術がありませんから、観測した結果が気に入らないと嘘をついてしまえば、あの世界に起こる真実を皆様にお伝えできないだけでなく、他者の願いの力によって周護さんに願いを集めることすらできなくなります。


 ただひたすら皆様から思いを集めようと願い、皆様に少しでも理解してもらえるように周護さんの幸せを願って彼の窮地を書くジレンマ、私も皆様と同じように次はどうなるのかと先の見えない展開にやきもきしていました。


 ある者は戦う誰かを護る武器を作るために、またある者は稀人という存在に憧れて、騎士達は無辜の民を護るために、息子を失い失意の中にある老人は息子の誇りと未来の為に、年端の行かない無力な小さな子供でさえ、与えられた今日という日を必死に生きる為に戦っている。


 改めて知った異世界の人々の願い、彼等の想いに導かれた周護さんは己の持つ力を限界を超えて絞り出し、自らが守りたいと願う全てを守ろうと支えてくれる人々の思いと感情に向き合ってくれました。


 ですが呪持ち達は異世界を自分の欲望だけで都合の良い様に捉えて、彼等の誇りも願いも生活すら非常に傲慢な願いで押し流していきました。


 放っておけばより多くの人が不幸になる悪夢のような現実、恐ろしい呪の連鎖を終わらせようと願う周護さんは徐々に悲しみと怒りと憎しみに囚われ、呪持ちに憎しみをぶつけ、転生神を名乗る存在、呪の原始であるチートを与える存在に対して致命的な心の隙を見せてしまいます。


 転生神の思惑通りに彼は呪への憎しみに囚われ、暴走して己の願いに邪魔である呪持ちに苛烈な攻撃を加える化け物へと姿を変貌させてしまう。


 呪いという深く暗い欲望の深淵を覗き、己が望もうが望むまいがに関わらず深遠から見つめられた精神は大きな負荷を背負い、醜い憎しみや怒りはどんな美しい願いでも醜く歪め、激しくすべてを燃やし尽くしてしまう災禍の炎となって、周護さん自身を呪いの近似値として囚えてしまいました。


 だからこそクシーナさんは周護さんに語りかけ、彼の願いと祈りの源泉である人々が己が望む穏やかな幸せ、皆が笑って暮らせる日々を守りたいと願った思いを届けようとしました。


 そうして漸く彼は自身の望む本当の願いの形を取り戻し、人は一人では真っ直ぐに進む事も覚束ず、怒りと悲しみで握りしめた拳はなにもかもを壊してしまう、だからこそ人は言葉を語るのだと周護さんは思い出したのです。


 呪持ちとなってしまった彼と彼女は元々は普通に日本で生きていた人間、彼等が呪持ちになった願いの源泉がとても悲しい物であると、周護さんは青年との戦い果てで彼と話し合い理解します。


 個人の願いと周護さんが願う世界の幸せがぶつかった瞬間、呪いによって隠された彼等の心の奥深くに隠された思いを知り、周護さんは己の願いのために自身の成功を願う青年を殺してしまった事実を深く受け止めました。


 自身に都合の良い世界を望んだ青年、己が打ち倒した厄災の元凶の呪持ちである彼の本当の姿は、ただ親に褒められたかったと願う大事な思いを何処かで失くし、歪んでしまった哀れな子供の姿だったのです。


 深い闇に隠されていた青年の本当の姿を見て、本当の敵は呪持ち等ではなく彼らが世界を破壊する様を喜ぶ転生神と名乗る存在だと周護さんは再認識し、もう一人の呪持ちである第三王女エレーラを乗っ取った存在と戦います。


 彼女は純粋に世界と、自身の言う「おっさん」と定義する男性を恨んでいる存在でした。


 周護さんは説得を試みますが、彼女が憎む「おっさん」に当たる周護さんの言葉は心を閉ざす彼女には届かず、思いは表面を流れてゆきます。


 己と周りの状況という二つの限界が周護さんに決断を迫り、皆を護るために彼女を殺める結果を導き出しました。


 呪持ち二人を救えず自らが殺した事実は彼の心に言いようのない虚無感を残す事となり、誰かを助けるために誰かを殺す結果に想像以上の苦しみを味わいます。


 彼はごく普通の日本の人間ですから殺人に対する耐性などありません、彼女が残した言葉は周護さんの大きな傷跡として今後も深く物語に関ります。


 憎しみの言葉というのは、それ程に深く心を傷つけていくのです。


 誰かに褒められたかった青年と世界自体が悪いと決断を下した女性、彼等の違いは今回の二面性の一つで、この二つの違う答がこれからの周護さんの戦いに様々な問題と決断を迫ると私は考えています。


 今回の戦いは呪いという大きすぎる力の前に。周護さん個人が持ちうる力が如何に無力で頼りない力であるかを畫く事も一つの大きなテーマであり、同時に彼を支えると決めた少女達も己の願いに対しての力不足を痛感し、彼の歩む道の困難さを理解し、周護さんの悲しみと苦悩の道を共に歩む為には自身も新たな力が必要であると感じる結果を残しました。


 大きな事を為す為には沢山の願いと思いを撚り集め、一本の道にしなければいけないと私は考えて居ますので、五章はこれまでに起こった事の総括や後片付け、そして少女達の成長を畫くのがメインの章になると考えています。


 異世界の人々と周護さんが交わした約束も多くなり、なにより周護さん自身の精神も摩耗していますから、たとえ仮初でも守り切った平和を謳歌して欲しい、彼に今最も必要な物は休息だと感じます。


 人生は苦しみだけではなく喜びや幸せが存在していて、それを抱きしめて辛い時を乗り越えていきますが、今の彼には悲しい事が多すぎ、精神が大きく磨り減ってしまいとても危うい状況で、次の呪が出てくれば確実に死に至るでしょう。


 五章はそんなボロボロになっている周護さんが癒されたり、様々な事で喜んだりする姿を多く書きたい、そして世界の人々が少しずつ立ち直る姿を表現したい、そんな風に思っています。


 彼はただの中年成りたての凡人であり、英雄然とした精神も戦いに向いた強固な肉体も優れた技量も持ち合わせない何処にでもいそうな日本人です。


 自身が願う全てを零さないように必死に自らの精神・身体・魂を擦り減らしながら食らいついているだけで、これ以上無理をすれば肉体も精神も限界を超え、その大きすぎる願いに潰されて破滅を迎える事は火を見るより明らかです。


 はっきり言えば今回の周護さんは限界まで己を燃やしていますから、彼の心の炉の中はべる薪になる精神力が底をついた状態、そんな状況で心の炎に想いを焼べれば己の何かを犠牲にせねばならず、自身が死に至るか己が大切にしたい大事に思う人々や想いを失ってしまい、源蔵さんのように憎みに染まり呪持ちを殺すだけの稀人という装置になって失意の内に死を迎える事になります。


 今回こうして周護さんが踏みとどまれたのは、彼自身が積み重ねた思いと微かな幸運、彼を好意的に思う意思を集めたクシーナさんの願い、そしてこの物語を観測して下さる皆様の優しさのお陰です。


 実はこの章で、周護さんが魔犬に食われ無残に死に絶える結末が朧気に見えていました。


 そんな彼の死のイメージを遠ざけ、今回の結末を引っ張ってこれたのは、この章で色々な方が彼やレーミクさんを心配してくださり、感想や活動報告メッセージなどで色々な言葉を投げかけて、彼等の未来が良い物になる事を願って観測して下ったお陰です。


 決してなろうは快楽や薄暗い感情では出来ていない、この物語には皆様の優しさが確かな形で存在していると、私はこの結果にとても満足と喜びを感じています。


 このような結果を迎えることが出来た今の私の考えは、周護さんの英雄譚を書き始めた去年五月とは物事の捉え方が変わったと感じる事が多くあります。


 外から眺めたなろうと内に入って眺めるなろうとでは違うのだと思い、そうした胸の内に起こった変化をゆっくりと楽しみながら、周護さんの祈りと願いを綴る物語の先を皆様に届けていきたいと考えています。


 ここまで読んで頂き本当に有難うございました、これからも異世界を巡って呪いと英雄達の願いの物語は続いていくので、この英雄譚に最後までお付き合いいただける事を願い、四章のあとがきを締めとしたいと思います。


 皆様の2018年が沢山の幸せに満ちた年であるように、今年最初の投稿に願いと祈りを込めて。                                      黒井陽斗

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