第六話 暴風圏内
飛び込んだ先は狂気に満ちていた、腐り落ちた自尊心と自己愛が質量を持って襲いかかる、重く焼けつくような攻撃性を持った空気が俺達の肌を焼く。
「アハハハハ!私は最強の悪役令嬢だ!私に従う奴しか正しくないんだ!私を没落させるようなクソヒロインは死んでしまえ!私を認めない糞王子は要らない!この世界は私のためにあるんだ!」
「身勝手な事言うな呪持ち!貴様などシュウゴ様が直ぐに滅ぼしてくださります!」
技など無く、ただ呪いによって狂化された膂力で剣を振るう第三王女で聖華騎士団団長のエレーラの姿をした呪持ちは、吹き荒れる暴風の理不尽さでレーミク達に襲い掛かり、彼女を押し切ろうとしていた。
「黙れよクソビッチ!お前らがどんなに頑張ってもただ煩いだけだ!私に絶対叶う訳無いんですぅ~!だからさっさと死ねよ!オラァ!」
狂気に汚染され人間の限界を超えた激しさで振りぬかれる剣戟、レーミクはその理不尽に騎士盾を両手で構え、降り注ぐ攻撃を冷静に捌き、呪持ちの隙を見ては盾で押し返し苦悶の表情を浮かべ耐えながらロリーエを庇って、これ以上の被害を防ぐ為に全力を尽くしている。
「私の居場所はシュウゴ様のお側です!殺される訳にはいきません!」
レーミクに庇われるロリーエは、呪の攻撃で重傷を負って倒れた従士の命を救う為にレーミクの盾を削るような激しい攻撃の轟音が鳴り響く中、溢れ出そうな涙を堪えて癒しの加護を降ろしていた。
今にも途切れそうな若い従士の意識を保とうと、目の前の消えかけた命の炎に彼女は声を張り上げて語り掛けている。
「死んじゃ駄目!お願い目を開けて!!貴方を待っている人が悲しむわ!貴方は生きなきゃ駄目よ!だから頑張って起きて!」
嵐のような攻撃がレーミクに集中している室内で、エレレファは呪持ちの引き起こす暴風の隙を狙い鋭さを持って精霊の弓を引き絞り、狙いすました一撃を放って呪持ちの行動を制限する。
「レーミク、ロリーエ、やらせない!精霊、お願い!」
彼女の声に応えるように森竜の遠吠えが鳴り響き、繰り出された矢は呪持ちの意識を二つに散らして、レーミクに貴重な反撃の機会を与えていた。
三人を迎えに出ていた中隊の面々は、襲いかかる聖華騎士団の少女達を抑えるべく剣を振っていた。
哀れな彼女達は呪い持ちの持つ狂気に引きずられ、精気のない瞳で操り人形が如き様相で暴れていた、中隊員の面々は彼女達を命を奪わずに無力化しようと細心の注意を払い対処していた。
「目を覚ませ馬鹿者!誇り高き聖華の騎士が呪なんぞに負けてどうする!」
この悪夢のような戦場で、ロリーエ、レーミク、エレレファ、中隊の面々は誰一人としてこの絶望的な戦力差の中でも諦めず、俺の事を信じて待ってくれていた。
「遅くなった!みんな無事か!」
張り上げた俺の声に、全ての人物が反応して視線が収束し、自らに注がれたのを感じる。
その狂気で彩られた部屋の中心の第三王女エレーラ、彼女の皮を被った呪持ちがゆっくりと暗く濁った視線をこちらに向ける。
悪意を周囲に醸しだすその姿は、呪に完全の乗っ取られたクシーナの最後を幻視させ、胸の中で怒りと痛みが沸き起こり、俺は呪持ちを睨みつける。
「あ?おっさん何者?私の邪魔するならお前も殺すよ?私はこの間違った王国の王族をぶっ殺して、私好みの男子を集めた私だけの逆ハーレムを作るんだ!おっさんなんて要らない!入ってくんなこのクソが!」
「巫山戯るな!貴様の勝手を許す気は無い!身勝手な欲望はここで止めてやる!」
俺が大声でヤツの気を引いてる内に、ガルムンズを筆頭に操られていた精華騎士団の女性騎士達を制圧に入る。
聖華騎士団は元の数が小隊程度の少ない騎士だ、不意を突かれなければ同数以上になった今、元の状態でも地力の勝るガルムンズの中隊に敵う訳が無い。
その中心である呪持ちが動かなければ、幾ら呪で狂化されているとしても精彩を欠いた操られた動きでは、精鋭である彼等の脅威になり得ない。
「私が話してんのに、私の手下共を攻撃するとか何やってんの!あ~~~~~ムカツク!やっぱおっさんは汚い!糞だ!こうやってセコい真似しかできない癖に、さっきから偉そうな事をいいやがってえええええ!ああああ!マジむかつくムカつくムカつくううううう!」
呪持ちが突然気が狂ったように絶叫すると、窓の硝子や磁器が共鳴して一斉に砕け散り、破片が部屋全体に降り注ぐ。
戦闘準備をしていた中隊の面々は、きっちりと鎧を着ているので大きな被害は無い、だが何の準備もしていなかったロリーエ達に容赦なく硝子の雨が鋭い牙を剥いて襲いかかる。
その脅威に精霊の弓に住まう精霊は襲いかかる破片を打ち砕き、レーミクが盾と自らの間にロリーエを抱えて庇うが、そのせいで無防備に晒してしまったレーミクの背中や肩に、大きな破片が微塵の容赦もなく深く突き刺さる。
「うっ!ぐぅ!ロリーエさん……、無事、ですか?」
彼女は漏れ出しそうな悲鳴を抑えて、自らの胸の内に収まっているロリーエの無事を確認する声を上げ、その安否を震える顔に問いかけた。
「私は大丈夫……、だけどレーミクさんが!」
レーミクの鮮血が自らに滴り落ちて頬を濡らす感触と、硝子の突き刺さった痛々しい姿を目の当たりにして、荒事に無縁だったロリーエは崩れそうに震えている、エレレファはそこに駆けつけ二人に叫ぶ。
「レーミク!動かない今抜く!ロリーエ、早く治す!」
ロリーエを叱咤してレーミクに刺さる硝子の破片を慎重に引き抜くエレレファ、三人は互いに助け合い支え合いながら戦っているが、この呪持ちをどうにかして彼女達から遠ざけないと近い内に均衡が破綻し、彼女達が殺されてしまうと理解した。
「貴様の相手はこの俺だ!掛かってこい、呪に塗れた愚か者!」
俺はその事実を遠ざけるために呪持ちの暴風圏に飛び込み狂気と対峙する、あのレーミクですら押されるような狂風の嵐、少しでも失敗を晒せばこの身体は容易に壊されるだろう。
俺には剣の才能も経験もろくに無い、だが彼女達を救う為に危険を覚悟で飛び込んだ。
「うるさい!ウルサイ、煩い!汚いおっさんが!しゃしゃってくるんじゃじゃねええええ!」
狂気に濁った視線がこちらを向いたと思うと、まるで車に轢かれたあの時の様な理不尽な暴力が、人の形を持って俺に襲いかかる。
奴の攻撃を正面からしっかり見つめて大きく体を動かして避ける、上手く躱せたが顔の直ぐ横を空気を引き裂く様な暴力が通り過ぎ、出鱈目な力が及ぼす破壊を想像し、嫌な汗が背中に一筋流れていく。
「はぁ?なんでおっさん、私の攻撃避けるんだ?アンタはここで私の剣で切られて死ぬ筈だろうが!空気読めよ!クゾジジィ!」
「貴様の攻撃に当たってやる義理はない!どうした!俺はまだ生きてるぞ!」
だが俺も完全に無策で突っ込んでいる訳ではない、先程から観察して思っていたが、コイツは熊や猪以下の力の使い方しかしていない。
威力があっても野生動物以下の単純で直情的な動きだ、その隙だらけの攻撃は未熟な俺でも目線や動きで少しは読める。
あの何百年も続いた絶望の終末の中、俺は何人も何百人もの歴戦の戦士達が己の人生を掛けて磨いた剣を幾度と無く見つめてきたのだ。
そして俺の直ぐ後ろに居るガルムンズの振るう剣を何度もこの身に浴びた、彼らの本物の剣技を知っている。
それに比べれば、コイツの剣はただ子供が駄々を捏ね振り回すだけ、剣術とも言えない拙技でしか無い、その起点さえ見破れば俺にだって勝機はあるはずだ。
レーミクが防戦一方だったのは、後ろにロリーエという人質を取られていたからに過ぎないのだろう、メルデで見た彼女の剣技は今浴びている剣よりもっと鋭く疾い技だった、このような幼稚な暴力に負けるはずがない。
「クソ!マグレで避けたからって調子のるんじゃねえええええ!このモブ男があああああ!あたしはヒロインに悪役令嬢でザマァするんだよおおおお!!!」
ここまで暴れ回って息すら切れない呪持ち、彼我の体力の差は歴然だろう、ただこうして避けるだけでは早晩殺されるのは火を見るより明らかだ。
何か有効な反撃の手はないかと命懸けの回避を繰り返し、俺は過去の出来事を必死で思い出して、何か使える手が無いかと考える。
「アハハハハハハ!どうせ避けるしか出来ないなら、お前が失敗して死ぬまでこうしてやるよ!私に偉そうに説教したのを後悔して死ね!」
呪持ちは言葉と共に、剣を振るう速度を上げてさらなる暴力をまき散らす、それはさながら暴風の様に荒れ狂い、俺の命を奪おうと容赦なく破壊の力を見せつけ、真新しい鎧に少しずつその爪痕が刻まれていく。
執拗に俺の命を強奪しようと呪持ちが作り出す暴風圏内、一瞬でも気を抜いてしまえば明確な死が待つ世界で生きる為に慎重に殺意を避けて行くが、徐々に体力と気力が削られ焦燥を覚えた。
その焦りと疲労は俺に致命的な失敗を生み出して、先程の絶叫で撒き散らされた瓦礫に足を取られ体勢を崩してしまう。
「しまっ……」
失敗した、そう思い確実に死ぬであろうその瞬間、俺は何かに導かれる様に身体を捻り上げて刀を振り、迫り来る死線に向けて抗った。
振りぬかれた刀は応えるように澄んだ音を鳴らし、俺の死を弾き返す。
その光景に奴は呆然となり、次の瞬間、呪持ちは烈火のごとく癇癪を起こし、再び俺へと向かってくる。
「なんで防いでんのおー!おっさんのくせに!モブの癖に!何カッコつけてんだよ!おっさんに見せ場なんていらんでしょおおおお!ライター何考えてんのぉオオオ!」
己の繰り出した当たれば確殺の攻撃が当たらない、呪持ちは自分より格下だと思っていた相手が凌いだ事に激高して叫ぶ。
怒りに支配された人の形をした獣が吠える騒音の中、脳内にはある一人の気高い剣士の姿が蘇り、彼の人生が鮮明に思い出される、彼の剣士はゆっくりと刀を術理を俺に見せつける。
「おっさん!よけんななああああ!!!!しねえええええ!!わたじの剣にあたれよおおおおおお!!!」
永遠とも思えた終末の中、数え切れない程の剣士達の技を何度も見た。
呪の餌食となり終末の闇へと沈んでいった剣技、刀を使った去なしの技、今の技は彼の技だと身体と心が理解した、剣士は静かに心の炉に触れ消えていく。
「そうか……、そういう事だったんだ……」
彼の術理の真髄に、彼の剣技の意味に、僅かに今、指先が届いたと確かに感じた、心の炉が炎を吹き上げ俺に語りかける。
『英雄よ、絶望を去なし撥ね退けよ……』
それは技を託した彼の声なのかもしれない、彼の残した誇りが与えてくれた僅かな理解、それが今、俺の身体を突き動かす。
彼の体の動きを踏襲し、呼吸を刀の使い方を擬え、相手を読む方法を倣う、終末の中で呪にそうあれと歪まされ、届く事が許されなかった術理の全てを、呪に届かせろと体中の細胞が声を上げた。
偉大な剣士に託された、彼の人生が集大成を全身全霊を以って模倣する、その術理は必ず呪に届くと強く信じて剣を振るう。
「なんで!当だらないんだよ!じねよおおおお!!!」
先程まで暴風だと感じた兇刃、その尽くが彼の術理で去なされ、一切俺に届かない。
「こんな!クソシナリオ!わたしはっ!みとめられるかああああああ!」
金切声を上げながら狂ったように腕を振る、その隙を見て奴の膝に狙いすました体重を乗せた前蹴りを放ち、呪持ちの膝を壊すように入れる。
厚く補強の入った軍靴が、狙い通り奴の膝の関節を破壊する感触を伝え、転がるようにその身を地面に崩していく。
「ギャアアアアアアアアアッ!!!!いでえええええ!やめろおよおおお!おんなに暴力とか恥ずかしくないのかよおおおお!!!」
先ほどまで自分が殺そうとしていた相手にコイツは、そんな事を言う資格があるとでも思っているのだろうか?全く理解が出来ない。
「貴様はもう女性でも何でもない、ただ世界に害を成す存在に自ら望んで成り下がったんだ!」
「意味が分からんこと言ってんなぁああああ!!私は悪役令嬢になって、糞な男にザマァアアって言いながら生きるんだあああ!!!そんで自分好みの可愛い男の子に囲まれて!キャッキャうふふがしたいんだよおおおおお!!!」
呪持ち達が語る考えは、まったくもって理解不能で不愉快な妄想だ、そう在りたいのであれば努力すればいい。
モテる女性というのはとても多くの努力をしている、外見を磨く事、化粧や服、言葉遣いだってそうだ、相手への気遣いだって欠かさないし、家事や料理だってそうだろう。
魅力のある女性は、何かを努力している。
男だって馬鹿じゃ無い、そういう努力を行えば見る目が変わるに決まっている、それは相手の事を知る努力や自分を磨こうする意思、人を不快にさせない考え方の勝利だと思う。
確かに見た目の美しさだけに心を惑わされる事だってあるだろう、人間である以上それは否定は出来ないと思う。
だが俺はクシーナのその内面に惹かれた、自らの不孝を恨まぬように、残されたロリーエが幸せになれるように、その涙を隠してそれだけを願って生きていた。
自らの幸せを諦めてまで進む路を選んだ高潔さに心を奪われた、その身に起きた悲しみに震える儚さに俺は心を動かされた、彼女のもつ暖かな優しさに心を癒やされた、だからこそ彼女に恋をした。
人として大事にすべき事の全てをかなぐり捨て、自分の醜い望みを吠えるその姿は、女性という気高い生き方への冒涜だ、それすら解っていないからコイツは呪という餓鬼道に落ちてしまったのだろう。
「煩いんだよおおお!説教すんなああ!わたしはエリートなんだよおお、選ばれた上級国民なんだよおおお!あんたみたいな、汚いおっさんに良いようにされるような安いビッチとはちがうんだよおおお!!」
呪持ちは醜い欲望を喚きながら、癇癪を起こした子供のように俺に剣を投げつけてくる。
こいつはもう、人間である事すら辞めてしまった、だからこれ以上何を話しても無駄なのかも知れない。
とどめを刺してやる以外、俺にはもうコイツにしてやれる様な事は無いのだろう、堕ちてしまった同胞を少し哀れに思い、迫り来る剣を天井に刺さるように跳ね上げた。
他の場所に飛ばすと誰かを傷つけるかもしれない、これでもう奴は呪いによって狂化した暴力しか残っていない。
静かに近づき、滅茶苦茶な軌道で振られる右手を振り下ろしで切り落とす、山の民の男が情熱と執念で打ち上げた刀は、するりと腕の肉を切り込み骨を断ち切って、彼等の想いの全てを呪に届かせた。
「アアアアアアア!あたしのうでがあああああ!!なにしてんだあああ、この人殺しいイイ!!!」
呪が人であるなら、俺はもうとっくにこの両手を血で穢した人殺しだといえよう。
だが、それでも世界を救うと誓いを立てた、そして哀れな呪の被害者であるヘスノの娘達を空へと還した、そして愛する人を見殺しにした咎人だ。
「貴様の言う通り、俺は人殺しだろう、だが、貴様の様に餓鬼道にまで堕ちたつもりは無い!呪に手を染めた哀れな同胞よ、地獄への介錯だ、受け取れ……」
「はぁ?!おっさん気が狂ってるぅ!?ひとごろしが偉そうなこと言ってバカなのしぬのオオオ!あたしを殺す気かこのボケエエエエエエおまえが死ねよこのクズ!ひとでなしいいいい!!!」
俺の語った言葉に目を見開いて呪持ちが身勝手な言葉を吠える、いや、自らを英雄だと言いながら同胞を殺すのだ、俺自身もこいつらと大差が無いのかもしれない。
それでも守ると決めた者、己を支えてくれた人々の恩に報いる為であるなら、血塗られた罪の道だと理解しても、俺はこの手を奴らの血で汚す覚悟がある。
「言いたい事はそれだけか、俺を恨んでもいい、だがこれは貴様が選んで望んだ事の結末だ」
業物を振るい、達人の技を模倣しても所詮は未熟な技だ、慢心せず細心の注意を払わなければ切り落とすのは難しい、静かに刀を上段に構え、息を整えて袈裟斬りで心臓を狙おうと意識を集中し振り下ろす。
「嫌だあああああ!あたじはザマァしてぎゃくハーをつくるんんだあああああ」
泣き喚く呪持ちに刀を振り下ろし肉を断ち切る寸前、横合いから掬い上げるような軌道で剣が現れ、刀を剣で止めた。
「シュウゴ殿!待たれよ、そこまでだ!」
金属同士が身を削り合う音の中、視線を横へと向ける。
目に映る鍛えぬかれた腕の先には、炎を連想させる赤髪の武人、ダグレス王子が俺を見つめていた、その意図が分からず彼に理由を問いかけた。
「なぜ止めるのか、理由をお聞きしても?」
俺達が言葉を交わす先、呪持ちは白目をむいて泡を吐き失禁しながら気を失った、暫くは放って置いても平気だろう、残心はしたまま彼の方を向いて、視線で話の続きを促す。
「呪に操られたと言えど第三王女だ、稀人が滅したとなれば国民も大きく動揺する、この者は封印を施した部屋で監禁し、折を見て病死した事にして片付ける」
彼は俺の視線に応えるように語った言葉、事実であるのだろうが何かが足らないと思い、更に質問を投げかける。
「それだけでは無さそうですが、他にも何か?」
ガルムンズも悩む様な表情で俺を見ている、どうやら彼でも判断が難しいようだ。
「ここはには色々な人の目がある、人の口には戸は立てられん、このまま殺すのは噂好きな者達に餌を与える事になると言うものあるな」
ダグレス王子の意見が正しい事なのか解らない、だがここで押し問答できる程の時間もない、任せるべきかも知れないが、やはり確証が欲しいと思い質問を重ねる。
「本当にそんな事が出来ると?その方法をお聞かせ願えますか?」
「ああ、その為に封印が出来る呪い師と呪を縛り付ける事が出来る聖骸布を持ってきた、これで愚妹を包んで縛り上げ、水瓶に封印を施して神宮の奥に封印するつもりだ」
襤褸切れ一歩手前の赤茶けた和服を目の前に差し出して彼は計画を語る、どうやらきちんと考えているらしいが、本当に上手くいくのだろうか?
やはり確信が持てず不安を感じてしまう俺の様子を見て、彼は更に言葉を重ねて説得しようとする。
「過去に王族が呪に堕ちた時も同じ様にしている、この国の第二王子として我が父の名に誓う、私を信じてくれないか?英雄よ」
そこまで言われればここは引くしか無い、呪も先程の振り下ろしで気を失って伸びている、差し迫った危機は無いだろう。
「分かりましたお任せしましょう、但しこれは魔獣ではなく呪だ、その扱いを間違えれば大変なことになる、その点を間違えないようにお願いします」
この結果で俺は皆に報いる事が出来たのだろうか?
そう考えながら、呪の身柄をダグレス王子に預ける事にした、下した決断が正しいのか間違っているのか、それは今は解らない。
だが彼の命を賭した報告のお陰で俺は自らの三人の巫女の命、そして俺に従ってくれたガルムンズ達を無為に死なせる事無く呪い持ちを凌げたと、改めて報告してくれたロドルガの献身に感謝した。
「シュウゴ様!目標の呪持ちを発見しました!」
張り詰めた空気が緩みかけた所で、詰め所に残っていた従士の一人が血相を変えながら飛び込んできた。
すっかり破壊された部屋に届けられた報告は、もう一人の呪持ちは未だに健在で王都は未だ呪の手の内で戦いは終わってなどいないのだと、緩みかけた気をもう一度引き締め、俺はその報告に耳を傾けた。




