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第四話 族長の家

 あれから一時間経って何とか体を動かせるようになった、一連の行動で遊園地のどんな絶叫系よりも俺の内臓と脳は深刻な痛手を受けたんじゃないかと思う。


 冗談抜きで内蔵を掻き回された気分になった、あんなので平気になるにはかなりの訓練がいるよ……、俺が見聞きした話なら戦闘機の対G訓練とか戦車の悪路走行の訓練くらい酷いんじゃないかな……。


 未だに吐き気が少しするけど気合で抑えて族長に会いに行こう、大分待たせてしまったがエレレファを先頭にして族長の家の階段を登る、吊り橋のような構造なのでまた揺れる。


「シュウゴ様、大丈夫か?」


 エレレファが俺を気遣ってくる、落ち着いたと言ってもまだ本調子とは言いづらいので彼女の気遣いは正直有り難い。


「ああ、少しはマシになったけどやっぱり気持ち悪いし、ここは足元が揺れるから落ち着かないよ……」


 そんな事を言いながらも階段はもう半分だ、高さで言えば二十メートル位は登ったと思う、四十メートルの高さにある族長の家……、ではない。


 彼女達が家と言っている建物は、実は彼女達ニュルヘスノ一族の神聖な場所、神殿だった。


 木や草の蔓で作られたであろう丈夫な縄で、丁寧に木々を纏め上げて作られた神殿、虚の形を計算に入れたのであろう、まるで大精霊樹がここに建てなさいと、ニュルヘスノの民に言っているように、床は虚が段差になっている部分をうまく活用して作られいる。

 

「シュウゴ様、私達ここ入れない、先は一人で進む」


「私達、下で待ってる」


「族長、話長い」


「ご飯、作るから、楽しみにしてて」


 四人は、少し不安そうに俺に告げてくる、やはり心配なのだろう。


「大丈夫だよ、俺は君たちを嫌いはしないから、安心して待っててくれ」


 言葉だけではきっと伝わらないだろう、だから俺は彼女達一人一人を抱きしめておこうと思った。


「シュウゴ様、暖かい」


 寒がりなエレレファは、俺の胸は暖かいのか嬉しそうだ。


「おお!、なんか嬉しい」


 エミミフィは、元気な声で驚く、彼女は何時も元気だな。


「シュウゴ様、少し体、固いな」


 エシシヒャは、どうやら俺の体が固いと思うらしい、彼女達の体は柔らかいしそうかもしれない。


「シュウゴ様、少し胸、苦しい」


 エススニャは俺の抱きしめた力が強かったのか不満を上げる、俺は抱き締めるのが上手く無いらしい。


「今はこれで精一杯だけど、帰ってきてからちゃんともう一度、君たちを嫌いになっていない事を証明する、だからそんな不安な顔で待っていると言わないでくれないか?」


「うん、分かった、でもまだ少し不安……」


「困ったな、そう言われると俺はここから進めなくなりそうだね……」


 彼女達の不安を少しでも解消したいが、俺には彼女達に安心を与える術がない、いや一つあるかもしれないな、試してみる価値があるかもしれない。


「よし!じゃあ小指を出して?指切りをしよう、これは俺の世界での約束だよ、交わした約束を破った相手を酷い目に合わせていい決まりがある、とても恐ろしい約束の方法だ」


 針千本、魚の方でも針を千本飲ませる方であっても、どちらも恐ろしい話だと俺は思う。


 でも彼女達にはその意味が通じないろうし、酷い目に合わせると言うしか無いだろうと、そんな風な事を考えていると、エススニャが声を上げる。


「それしってる!前の稀人様、言ってた!」


 ああ、源蔵さんか、確かに族長というなら話に聞いたり、長生きの方なら子供の頃に会った事があるのかもしれないな。


「それをしよう、だから信じてくれないか?」


「分かった、それする」


 そうして彼女達の白磁の様な指と俺の不格好な小指を絡める、なんというか人形遊びをしている気分になるが、彼女達の温もりは本物だという事を忘れてはいけない。


「指きりげんまん、嘘ついたら針千本、の~ます指切った」


 俺が歌いながら彼女達と指切りをすると、嬉しそうにしてくれている、きっとこれなら大丈夫だとは思う。


「じゃあ、行ってくるよ、またあとでね?」


 笑って彼女達に言うと少しだけ、先程より緊張と不安の緩んだ顔で、口をそろえていってらっしゃいと言って貰えた。


「行ってらっしゃい、シュウゴ様」

「行ってらっしゃい、待ってる」

「行ってらっしゃい、信じてる」

「行ってらっしゃい、約束守って」


 そんな四人の期待と不安を背中に背負って先に進む、神殿自体を光苔がぼんやりとした青白い光で照らしている為かそう暗くはないが、やはり自然の虚で足元はそんなに良くはないので注意が必要だろう。


 この前に何があるかは分からない、だけどきっと恐ろしいことにはならないだろう、そう考えて先に進むと行き止まりに突き当たる。


「行き止まりか……、ここに族長がいると聞いていたけど、奥に来すぎたのかな?」


『お久しぶりです周護さん、私はここにいますよ』


 脳内に直接響くような声が聞こえてくる、俺はこの声に聞き覚えが……、ある。


「きっと久しぶりと応えるべきなんだろうな、あの時以来だね、俺に大事な事を思い出させてくれたのは君だったのか……」


 壁の上の方に少しだけ窪んだ所に、石化したような女性の姿が見える、彼女が声の主だと俺に何故か直感出来てしまった。


『私はもう動く事は叶わないので、こちらまで来てもらうことになりましたね、こうやって顔を合わすのは初めてですね、はじめまして周護さん』


 彼女は嬉しそうな声を俺の脳内に響かせる。


「ああ俺も会えて嬉しいよ、君にお礼を言わないといけないと思っていたけど、何処に居るのかすら見当がつかなかったんだ」


 呪と戦う為の気持ち、俺の心の炉に小さな種火をもたらしてくれたのは彼女だった。


『私はもう、呪が全身に回っていますから、こうやって大精霊樹の精霊と一つにならないと自我すら保つことは出来ません……』


「そうなのか……、姿を見て何となくは覚悟していたけど、本当にどうしようもないのか……?」


 彼女の姿はまるで大理石を磨きあげた像のように滑らかで美しい、それは何者かが作り上げた彫刻のような姿だ、動けないと言われた時点で、そうなのではないかと覚悟はしてしていた。


 だが、実際本人の口から聞くのは本当に辛い、俺が彼女を救う為にできる事は何もないと言う事だから。


『周護さんが気にすることではありません、私はもうこの姿で五千年過ごしています、貴方の前の源蔵さんどころか、最初の稀人頼久様だって知っている、物凄く古いお婆ちゃんなんですよ?フフフ……』


 そんな少女のような声で彼女は笑う、彼女は呪いによって人としての輪廻の枠から外れてしまったのだ。


「辛く……、ないのか?」


『最初は少し……、それこそ何で私がと世界を恨みそうになりました、ですけどね、あなた達稀人を見ているとこう思ったんです、私達の為にこの世界に縁もゆかりもない人達が必死になって、悲しくても辛くても戦っているのに、私は何で恨んでいるのだろうって』


 優しく静かな音色、でもその声には芯のある強さを感じる。


『それに私には彼女達がいます、私の可愛い娘たち……、同じ呪に繋がれてしまった哀れな娘たちがいます……、あの子達がせめて輪廻を巡れるように、精霊樹の雫を残してあげないといけないんです』


 精霊樹の雫は魂の治療に必要な霊薬、ではないのか?


「俺が聞いたのは、魂の霊薬だと聞いたが……、もしかして違うのか?」


『違いはしません、ですが彼女達に使う理由が違うのです』


 理由が違う?どうしてだ?疑問を口にする前に、彼女は続きを語りだす。


『私達森の民は、最初の呪に因って操られた一族なのです、その呪は一族自体魂魄のあり方、つまりは生き物としての理を、魔物のそれに変えてしまったのです、それを人として止めるのが精霊樹の雫なのです……』


 彼女達が、魔物?エレレファが?嘘だろ?エススニャが恐れていた事は……、俺に信じてるってエシシヒャがいってたのは、エミミフィが待っているのは俺が、彼女達を……。


『そうです、もし彼女達が精霊樹の雫を飲んでも耐え切れなくなった時……、その時は貴方の手でお願いします……、そうすれば、少なくとも森の民としては、生まれ変わる事ができるから……』


 嘘だろう、そんなの嘘だろう!どうしてそうなるんだ!


「何故だ…?俺達が、稀人が居ない時だってあったろう……、その時は、その時はいったいどうなって……?」


『その場合は次の稀人が来てくれるまで……、貴方達が来るのを願いながら精霊樹に抱かせます……』


「そんなことをしていたら、俺達が間に合わなかったら、どう、なるんだ……?」


 居ない時代だって絶対にある、そして間に合わない時だって……。


『私には、これだけしか言えません……。精霊樹の森は、私達森の民の魂の牢獄であり……、緩やか破滅を待つ為だけに作られた、私達森の民が生きる事を許された、ついの棲家なのです……』


「嘘だ!巫山戯るな!こんな、こんな残酷な……、こと、あるか……!あっちゃ、いけない、だろう……」


 間に合わなければ封印され、いつか来る稀人に殺されるのを待つのが唯一の救いで、それすらも本当の意味では救いにすらならない、ただの繰り返しで……。


『それでも周護さん、私は貴方達稀人に感謝しているんです、私達が、まだ人でいられているのは、貴方達稀人が私達に流してくれる涙のお陰なのです』


 有り得ない程の重荷を背負った森の民が、作り物の体でも、心からの、本物の笑顔で俺を迎え入れてくれていた。


 そんな彼女達に、ただの一つ報いる事ができない俺達の流す涙に、一体何の価値があるというのだ……。


「俺達の涙……?こんな何も出来ない無力な俺が流す涙に、重すぎる呪の前になんの意味があるっていうんだよ……?」


『あなた達は皆、私達のために涙を流してくれます、それは本当に暖かくて……、男の人が私達を思って苦しみを少しでも理解しようとして流してくれる涙……、それだけが、私達森の民の哀れな魂を潤してくれる、私達にとってそれは唯一の救いなんですよ……』


 無力な、本当に救うことも出来ない俺でも、君たちに希望を与えられると言うのか?救いにもならない介錯をするくらいしか出来ない、自らの無力さに流す涙じゃないか!


『もうひとつは私達の末娘をエレレファを……、周護さんの側に置いて下さい……、貴方達、稀人が居ない時間、精霊樹で眠っている娘達は、その記憶を幸せな夢として見ますから……』


「夢?夢を見るのか?眠っている間ずっと?」


『森の民は……、稀人が来るまで眠りにつきます。その間、ただ世界を恨まないように、これ以上魂が呪に侵されない為に、貴方達との幸せな夢を見るのです、その夢の元、貴方達が末娘を愛した記憶をずっと……』


 どうしてだ?普通に恋をすればいいじゃないか!


「なぁ……、何故、普通に恋をしない?他の民なら仕方ないが、森の民同士なら恋の一つくらい出来るんじゃ……、ない、のか……?」


『私達に降り注いだ呪は原始の厄災、魔王の言葉を借りるとすれば……、白百合の呪と言うそうです……、それは最初に居た男は全て死に絶え、次は女しか生まれなくなる呪です……』


「なっ?まさか、人間として、種族として基本すら……、君達は、奪われた……。そう、言うのか……?」 


 馬鹿な!人としての営みすら奪うというのか!怒りが俺の胸を焼こうとして止まらない、なんて残酷さだ……、酷すぎるだろう、そんなのって、あるのかよ……。


『この五千年間私達のみの出産で男児が生まれた事は一度もありません……、稀人との子で僅かに数人が生まれましたが、その子等は世界の為、神社に預けられています……』


「どうしてだ?ここで、一緒に暮らせば、いいじゃないか?」


 世界の為と言われて想像してしまった、絶対に否定して欲しい答が浮かんでしまった、まさか……。


『次代の巫女を生む種としての仕事をしています……、私達は呪に近しい存在ですから、その血と稀人の血が混ざれば巫女を作りやすいのです……』


 俺の嫌な予感が事実だと彼女の口から肯定されてしまった、巫女を作る為の道具……、そんな風に言われるような存在……。


 巫女も!彼女達の息子たちも!悲しすぎるだろ!おかし過ぎるだろう!ふざけるなよぉ……、なんだよ、おかしいだろ……、どうしてこの世界はこんなにも救いがないんだ……。


「なぁ……、俺は本当にそれだけしか、君たちにしてやれないのか……?」


『可能性は低くて、本当に雲をつかむような、僅かなものですが……、一つだけ可能性が有ります……』


「何か手があるのか……?それは一体何だ!頼む、教えてくれ!」


 俺に出来る事があるなら、こんな胸が張り裂けそうなほどの理不尽を不条理を覆すことが出来るというのなら、俺はそれを叶えたい……。


『貴方がこれを聞いたら、又……、後悔と苦悩を貴方に与えます……。それでも……、それでも聞きますか?私は貴方に苦悩を背負わせたいとも欲しいとも思わないのです、きっと後悔をさせてしまうと思います……』


「構わない、教えてくれ!知らずに後悔をするより、今は知りたいと思うんだ……」


『解りました、ではお話します……、聞けば貴方は私を恨むでしょう……、貴方にはその権利があります、貴方の愛した方クシーナさんは今、貴方の世界に語りかけています、世界の希望を繋ぐために……』


 精霊樹に磔られた彼女、その白磁の肌は一つも動いていないのに、表情が無かったはずの顔が後悔と苦悩で歪んで見えた。


『貴方の絶望、貴方の哀しみ、貴方の喜び……、その全てが貴方の世界の誰かに届き、貴方の世界の誰かが貴方を救いたいと願ってくれれば……、かすかな希望があります……』


 元の世界に俺の全てを届ける?一体どういうことだ!?


『ですがクシーナさんは自らを捧げて、世界を繋ぐ新しい理の礎になりました……』


「クシーナが?どうしてクシーナがそんな事をした、何故だ?」


『御免……、なさい……。私はクシーナさんに全てを話してしまいました……、過去の稀人達の運命を、そして貴方が歩むであろう、道を……』


 彼女はまるで悪い事を大人に話す子供のように、なんとか絞りだすように謝った、後悔しているのだろう、自らの選択を……。


『話を聞いたクシーナさんは世界を繋ぐ為、人の輪廻を捨てて、理の礎になったのです……』


「クシーナは……、彼女は君を、森の民を見ていられなかったのも、あるんだろうな……」


 彼女はそんな人だ、人一倍女の辛さを知っている、弱くて……とても強い、俺の愛する人……。


『もう二度と、彼女が転生する事はありません……、いずれ、その理は、呪に食い破られて消滅するでしょう……』


 そして俺を支えて行きたいって言ってくれた人……、その二つが、彼女に決心をさせたんだ……。


「きっと……、君の決心の発端は……、俺の為だろうな……、君は馬鹿だよ……」


 そう、二度とクシーナは転生しない、彼女が生まれ変わったならもう一度会いたいと思う事すら、決して許されない、永遠の決別なのだ……。


「俺達、もう二度と会えなくなるんだぞ!どうして!どうして、そんな事をしたんだよ!クシィナァアアアア!!!」


 きっと彼女は笑って言うだろう、貴方のためだと、だがそんなもの、君のいない世界など、俺は!


『御免なさい!御免なさい周護さんっ!この時しかっ、今しか無かったんです!』


「何故だ!どうして今なんだ!何故今じゃなきゃいけなかった……!」


『貴方に恨まれると私は思っていました!もし私が憎いのなら恨んで下さい!憎んで下さい!でも、本当に……、全てを覆せる時は……、もう、この今しかないんです……』


 俺の肩にに重たく何かが伸し掛かった気がした、それが何なのか、今の俺では理解できない、だがきっと凄く大事なモノだとだけは分かってしまう。


「どうして今なんだ……、なぁ、教えてくれよ……」


 足の力が抜けて膝から崩れてしまった、壁にぶつかって倒れてしまった。


『今、この世界は、ほんの僅か、貴方の世界が繋がっているのです……、それは本当はあり得ないことなんです……』

 

 世界が繋がる……、そんな事がどうしたっていうんだ……、世界が違うならなにもできやしないだろう……?


『クシーナさんは、あり得ない事実を奇跡に変える為、自らを理に変えて貴方のいた世界へ語り掛けました、その言葉を聞き届けてこの世界の事を、クシーナさんが愛した貴方の事を、何とかして他の人に伝えようとした人が居たんです……』


 俺の動揺を他所に、彼女は言葉を重ねていく。


『そして、貴方の姿を見てくれた人達のを想いが、無限のような呪になんとか逆らって、貴方の行く末を照らしてくれようとする想いが集まったんです、それは弱くて小さな、まだ微かな奇跡です……』


 俺の心の炉に灯された三十にも満たない奇跡の種火……、その奇跡が俺の中で燃え続けている。


『ある願いが言いました貴方に頑張ってほしいと、別の願いはシュウゴさんたちと一緒に喜んだり悲しんだりしたい、そんな風に願ってくれた想いの力……、この大きな呪の満ちた世界には小さな奇跡かもしれません……』


 白磁の彫刻の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた、それは青白い光の中で儚く砕けてしまう。


『それでも、貴方を思うクシーナさんと、周護さんが呪を抱えたクシーナさんを自ら進んで愛してくれた……、そんな偶然が呼び寄せた……、掛け替えの無い……、最後の奇跡なのです……』


「最後の……?奇跡」


 頭の中にこびり付くような不安、短い言葉に何故か言い様のない寒気を感じてしまう。


『そうです、もうこの世界に稀人を呼べる正の力は残っていません……、このままでは貴方は最後の稀人になってしまうんです……、もう、この世界は、呪いによって破壊しつくされています……』


「どうしてだ!この世界はまだこんなに美しい!この世界の人々はこんなにも素晴らしい人たちばかりなのに!どうしてだ?」


 この世界は未だ正しく生きている、この世界が破壊されて死を待つ世界だと、俺には信じられないし認めたく無い。


『この世界がまだ美しいのは、神々がその身を削って支えているのです……、正の力は信仰によっても生まれます、そして正しい人々からも……、ですが、もう呪から世界を守り、人を救う為に与える量の方が多いのです……、私達もその一つです……』


「そんなバカな……、君たちを活かす為、神はその身を削っているのか……?」


 神々を削る、どうしてそんなことになる?正の力は信仰で生まれるのだろう?足らないって、足らないってなんだよ……、そこまで呪は……、正の力より強力なのか……。


『ええ……、私達は、望んでいません、そんな事、私達は望んで無かった!!あの方の腕で緩やかに破滅の刻を迎えれられたら……、それで……、それだけで良かったのに!』


 彼女の魂の叫び声が、俺の全身を駆け巡る、その痛みが、哀しみが全身に響いて俺は苦悩や悲哀、そんな遣る瀬無い感情を白磁の彼女と共有する。


『私達に希望を捨てないでと、子供達を幸せにできない神様でごめんなさいと残して……、稀人を呼ぶ穴を無理やり開け……、あの方は……、私達森の民の神は贄になりました……』


 俺が、今感じている苦しみ痛みを、何十年も孤独の中で耐えて抱えていたのか……。


『その穴も、神が自らを捧げて開けた希望も……、貴方と源蔵さんを呼ぶだけで潰えてしまったのです……』


 呪いの力は強大で……、その一翼を担ってるのが俺たち日本人で……、そして彼女の神を贄して呼び出されたのが俺……、重いよ、重すぎる……。


 俺が最後、そして世界の運命すら、委ねられたなんて……、さっき肩に伸し掛かった何かの正体、それは……、世界だった。


『もはや神を犠牲にしても開けられないと思っていた穴が、偶然にもあちらから僅かだけ開いたのです、そして私の手を通じて託したのが貴方の胸に宿る奇跡の種火……、この奇跡を絶やさない為にクシーナさんは魂を懸け、輪廻を捨てました……』


「だから、最後……、そうか、俺は最後なんだな……」


 俺がさっき抱えてしまった世界、その重さに耐えきれなく潰されてゆく、惨めな自分を幻視した、そして惨たらしく全て失うと思ってしまった。


「誰でも良い……、少しだけでいいから何をどうすればいいかを、教えててくれよ……」


 俺は一体どうすればいいのだろうか……、そう考えた瞬間自らの前に、絶望に縁取られた破滅の未来がゆったりと全てを飲み込もうと口を開き始めた気がした。



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