第二十話 斯くして始まりの終端にたどり着く
クシーナが……、死んだ……? 『そうだな~残念だったね~』
俺は彼女を守れなかった
『だってチートじゃないし仕方ないだろ』
彼女が死ぬ理由なんて……、無いだろう? 『だって中古のビッチとかいらないですし』
ずっと一緒に居たいと思ったんだ…… 『このおっさんザコすぎ弱すきだろ』
彼女を幸せにしたかった 『チートじゃないと無理だって』
何故死んだ……? 『今どきチートじゃないとかゴミだな』
どうしてこんなことになったのかわからない……。
『はぁ?何でわかんねーの?』
『おっさん馬鹿なの?』
『これだから分かってねー奴は困るわ……』
『俺はやさしーから教えてやるよ』
――――― ――― 『そんなの、お前チートじゃなくて弱いからだよ』―――― ――― ―――
「アアアアアアアァアアアアァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
ゆっくりと彼女が死んでいく、笑顔で、涙を、流して……。
真っ赤な血が流れてゆく……、俺は、それを、呆然と見る……。
「ア~~~、スッキリしたぁ!やっぱ中古のビッチとかいらねぇわあああ!オレ様専用のヒロインが中古とかありねぇって!あはははははッッッッッ!!!」
何かが、遠くで、喚いている……、彼女の温もりは消えていく……。
「んじゃ、おぉっっっさんんんっ、俺のぉおお邪魔をぉおしたんだしぃいぃぃぃ!そろそろおおおしねやああああああ!!!」
なにか、赤い、紅い、モノが飛んでくる、ああ、俺は、また誰も『助けられなかった』んだな……。
「シュウゴ様!!!」
白いナニカが、俺の前に立つ。
なんだっけ……、これ……?よくわからない……。
でも、この白いナニカ、とても、大事なものだった、ような気がするな……。
「しっかりして下さい!シュウゴ様!貴方は何のために戦っているのです!」
何のため?何のためだっただろう、ああ、そうだ……。
「失くさないため……、守るため……、誰かを……、幸せにするため……」
白の彼女にそう答えたら、彼女は飛んできた炎の塊によって何処かへ飛ばされてしまう。
今度はどこから現れた人達が、煩く喚くナニカに向かって叫びだす。
「この化け物が!みんな!一斉に矢を射掛けるぞ!」
「おう!号令頼むぜ!」
「俺ら男の意地を嫁さんに達に見せてやろうぜ!」
「レーミクさんがやられた!助ける時間を稼ぐぞ!」
周りが騒がしいな……、今はクシーナが寝ているのだから少し静かにしてくれ……。
「MOBがさぁ……、いくら集まってもさぁ……、雑魚は雑魚なんだよなぁ……、うぜえええええええええしねええええええ!!!!!」
ああ、また朱い炎が飛んで行く……、その先にはさっき騒いでた人達がいて白いナニカと同じように飲み込まれていく。
「くそおお!呪め!ギャャアアア!!!!」
「嫌だ死にたくたくなァアアアアアアア!」
「ユーシア!アイしてるぞッッッッ!!!」
「アアア!助けてくれぇええええ!!!!」
そうして動く者は誰も居なくって、あの人達も静かになっって、世界はもう赤だけになってしまった……。
なぁクシーナ……、早く起きてくれないか?
俺さ……、君に伝えたい事が一杯あるんだ、だからまた話をしよう……。
「シュウ~~~~~ゴ~~~~!!!!!クシ~~~~ナ~~~!!!!!」
この声はきっとあの子だって解ってるのに名前が思い出せない、困ったな、でも俺の大事にしたいって思った子だ。
そう友達の娘だよ、なのにどうして、名前が思い出せないんだ?誰か教えてくれないか?
『シュウゴ、私の可愛いロリーエの事お願いね』
「ロリーエの事、しっかり頼むぜ?兄弟!」
ああ、そうだ!ロリーエだ!どうしてこんな大事な名前を忘れていたんだ!
「おぉお?ちょっとロリっぽいけど、まぁまぁイイカンジじゃねーか!まぁしゃああねええし、アレで第一ヒロインはだきょうしとくかぁあ!」
胡乱だ記憶が少しだけはっきりすると、黒い男が紅い炎を纏ってロリーエに近づいていく……。
「俺の好みじゃねーけど、まぁあ田舎だし、こんなもんしかいないだろうしなあ」
だけど身体は全く動こうともせず、ぼやけた視界に景色を写すだけだった。
『周護さん!貴方はチートに屈してロリーエさんまで失うんですか!?私はそんな貴方を見たくない!だからお願いです!どうか立ち上がって!』
何処か遠い場所から……、『声』が、聞こえたような気がした……。
『しゅうちゃん!頑張って!大事な人を守って!』
また誰か違う人の声がする、俺に立てって、守れって言ってくる……。
何処かから聞こえる声は、ありえない程の沢山のノイズにかき消されそうになりながらも、俺を必死に応援してくれていた。
『ここにも貴方を応援してくれる人達がいるんです、貴方の姿をちゃんと見てくれている人達がいるんです!』
大きな……、とても強い流れに逆らいながら、それでも懸命に何かを伝えてくれた。
俺の心に……、ほんの小さなが灯りが……、想いが灯った。
まだ儚くて僅か三十にも満たない小さな灯り達……。
数十万に及ぶ大きな流れの中で、取るに足らない僅かな灯火達。
それが俺に力を、その一つ一つが想いを与えてくれる、この大きな流れに逆らって欲しいと想いをくれる。
『周護さん、どうかお願いです、あの日貴方が誓った言葉を思い出して下さい……』
俺は、あの日レーミクと己の心に誓った想いを、願いを思い出す……。
『世界を救う英雄になる等と大逸れた事を言う気もない、だけど、ただ座して全て失う気はないと宣言する位しか今はできない。そんな子供の様な未熟な理想を掲げて宣言した愚かで小さな男で良ければ、どうか君の力を貸して欲しい』
そうだ、誰かを守ると決めたんだ、それを脅かすモノに抗うと誓いを立てた……。
『だけどこの手が届くなら、もし少しでも誰かを守れる力があるのなら、それを脅かすモノに俺は抗いたいと思うんだ、情けないけど、今俺が言える事なんてこれくらいしか無いんだ』
そう、ロリーエ、ゲンゾン、ズンケルさんに、こんな愚かな俺の理想に命を賭けてくれるレーミクに宣言した……。
『それでも今日掲げた理想を曲げる気はないし、身の丈に合わない願いを捨てる気もない我が儘な男なんだよ……、それでも諦めて付いてきて欲しい、それでもこの約束だけは絶対に裏切らないし後悔はさせない、だから最後まで付き合って欲しい』
だとしたら今の俺はどうだ?レーミクにも皆も、自分すら裏切っている……。
彼らの不幸に自分はどう思ったのか思い出せ!
『そんなの!誰も悪くない決まってるだぁろぉおお!お前ら、何でこんなに悲しいんだ!何でそんなに自分を責めるんだ!だれも!誰も悪くない!お前も!ロミーナさんも!クシーナも!ロリーエも!悪いのは呪で魔物だろ……。誰も悪くないよ……、誰も責められていいはずがない……』
俺の心に炎が灯る、小さな灯り達が俺に与えてくれた種火、それが俺の心の炉に火を灯してくれた。
「さぁて、ロリヒロインゲットするかぁ~!ニコポナデポでラクショーでしょー!あ~主人公って、チートって大変だわ~!!!!アハハハハ!!!」
呪持ちが下衆な笑いを浮かべながら、ロリーエに向かっている、彼女は後退っているが呪持ちに追いつかれてしまう。
「え……、誰……?いや……、こない……、で!嫌ぁ~~~~!!シュウゴ助けて!!シュウゴォ~!!」
ロリーエの悲痛な声が俺の耳に飛び込んでくる。
今、動かないと駄目なんだよ!!『僕』が今!ここで動かないと!『俺』は全てを失うぞ!
その瞬間
―――『俺』と『僕』が交差した――――
――――――――『ねぇ……。』
――――『大人になった僕……』―――――
『君は……、誰かを自分の大切な人達を助けてね?いつまでも僕のままで、何も出来ないままで赤の世界で閉じ込められて居ないで欲しい……』
―――――――――『僕は!大切な人を助けたい!だから!もう行ってくれ!お願いだから!』―――――
―――――――――――こうして『俺』は『僕』と永遠の決別をした。
「ウゥウウウウウウオオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!!」
俺の身体が何かに突き動かされて飛び出した、身体はまるで燃えるように熱く、心が呪に打ち勝てと叫んでいる。
目の前に居るアイツを討ち滅ぼせと俺の全てが猛り突き動かして、咆哮を
「もうこれ以上、何も、誰も!お前に傷つけさせてたまるかぁあああああ!」
「あ~うるせー、イイトコロなのになんなんだよ?MOB共がまだ居た……、ってうわああああああ!?!?」
油断しきった奴の身体に俺の渾身の体当が突き刺さり、錐揉みしながら吹っ飛んでいくのを無視してロリーエを抱き締める。
小さな身体がこんなに震えている、きっとクシーナを助けようと精一杯の勇気を振り絞って来たのだろう。
「遅れてごめんロリーエ……。」
「シュウゴぉ……遅いよぉ……。でも……、来てくれて、ありがとう……。」
彼女はまだ温かい、俺はまだロリーエを失って居ない、まだ俺の手から零れ落ちていない、失いたくないと心が叫ぶ。
「シュウゴ……、クシーナは……?」
クシーナの姿が見えないとロリーエが聞いてくる言葉に、俺は自らの不甲斐なさを滲ませて事実を応える。
「俺はっ、大事な人を!クシーナを助けれなかったッ!すまないッ……」
「えっ……?クシー、ナが?殺されたの?ねえ、シュウゴ嘘だよね……?嘘だよね?嘘って言って、お願い……」
「すまない……。間に合わなかった!足りなかった!気付くのが遅すぎた!覚悟が足らなかった!俺が弱すぎた!全ッ部!俺が駄目だったからだッ!」
「イィヤァアアアア!!!!クシィイイナアアアア!!!!!!!」
ロリーエは事実だと、クシーナが失われたと知って、胸の全てを吐き出そうとただひたすらに、そうしか出来ないとばかりに、俺の胸の中で哀哭する……。
泣き叫ぶ彼女を抱き締める俺の側にレーミクが倒れていた。
俺を見つけた彼女は、大きな火傷を負った顔に笑顔を浮かべ語りかけてくる。
「シュウゴ……、様、ご無事、で……、良かった、です……。」
その美しい身体を傷だらけにして、地面に横たわるが喜色を僅かに滲ませて、俺を見つめている。
銀糸の美しい髪は泥塗れになって、雪のように白い肌が炎に焼かれ無残に爛れ、その細くて綺麗な足は奇妙な方向に曲がっていて、俺が見惚れた蒼い瞳が涙を滲ませ俺を見つめている……。
左手にロリーエを抱きしめたまま、彼女に近づいて右手をレーミクに伸ばして彼女の手を握りしめる。
「レーミクっ!すまん!すまん……、情けない俺がっ、覚悟がまるで足らなかった俺がっ、君がこんな姿にさせてしまったっ……!」
彼女はそっと俺の手を握ってくる、その感触は俺が何度も触れた柔らかい感触ではなく固く炭化した物だった。
「シュウゴ様が、ご無事で、よかった……。私は……、大丈夫ですから……、心配しないで……。」
彼女は俺を守れた事を心から喜んでいる、彼女をこんな姿にしたのは俺が呆けて所為なのだというのに優しく微笑んでくれた……。
そんな彼女を俺はせめて早く治したいと思って治療をしようと、聖水を取り出そうとした。
「待ってろ!直ぐに治療をするからな!」
「そんなことより……、貴方様は……、シュウゴ様にしか出来ないことを……、成して下さい……」
そう言って彼女は苦しそうに呻きながら制止する、その瞬間に蒼い瞳が伝えたい言葉を、彼女が言っている事の意味を俺は理解する。
「シュウゴさ、まは……、わたしの……、英雄、です……。私に誓って……、ください、ました……、あの誓い……、私、信じて、います……、から……」
彼女に誓ったその願い、その誓いを忘れた俺に、彼女は信じていると言ってくれた……。
だからこそ、たとえ今からでも果たさねばならない。
その誓いを!願いを!その全てを!
それだけが神山周護が、自らに全てを捧げた女性に唯一報いることが出来る姿、彼女が望み夢見た姿だ!
「すまん……、やっぱり俺は駄目な主だな……、君に言われ無いと駄目みたいだ……。だから主としてレーミクに命令するよ……、死ぬな!そして俺のそばに居てくれ!」
「ふふ……、本当に、わたしのあるじさま、は、手の……、かかるひとなんですね……。わかり、ました……、あなたの、レーミクは、お帰りをまっています。はやく、むかえにきて、くだ、さいね……?」
彼女が意識を失う、俺は彼女が浅く呼吸をしているのを確認して彼女の命の灯火が消えていない事を確認してから、彼女との誓いを守るべく動き出す。
「分かった、すぐ帰るから、もう少しだけ待っててくれ!」
レーミクの手をそっと離して、俺の胸にいるロリーエに声掛ける。
「ロリーエ!聞いてくれ!レーミクを頼む!」
ロリーエの肩を強く揺すり、彼女に強い声で伝える、彼女は泣きながら俺を見て嗚咽混じりに俺に語る。
「ウゥゥ……、私もう、誰も、助け、れなかったわ……、だか、ら……、何にも、できないよぉお……。」
「いいか!ロリーエ聞いてくれ……。このままじゃ皆!全て失ってしまうんだ!俺はそんなの絶っ対に許せないし認めない!!だから……、その願いを叶えるために……、君の力を貸してくれッ!」
「できない!できないよ!シュウゴ!私なんにも出来ないわっ!」
俺の胸で弱々しく駄々を捏ねるロリーエ、俺は強く彼女を抱きしめて言葉と想いを吐き出す。
「頼めるのは、もう……、ロリーエしかいなんだ、頼む……。」
俺はロリーエの心に、俺の心のに宿った火を灯す、想いの火で彼女の心の奥の勇気を照らす、絶望に呪叩き折られて打ちひしがれた思いを照らして話しかける。
「俺が呪を倒してくる、だから、ロリーエは皆を治してあげてくれ!この聖水と聖灰を使って皆を助けてくれ!そうじゃないと皆死んでしまうんだ!」
「え……?あっ……、みんな、しんじゃう……、の?」
「ああ……、それを助けられるのはロリーエだけなんだ!お願いだ!皆を救ってくれ!」
ロリーエの嗚咽と震えが止まる、彼女の瞳に想いの炎が灯る。
俺はゆっくりと小さな身体を手離すと、先程レーミクから渡された聖水と聖灰を取り出してロリーエの小さな手にそっと乗せる。
その中から一つだけ聖灰を持っていく、これは後で必要になるだろう。
「ロリーエ……、色んな事が、感情が今、君の心の中で暴れてると思う……。だけど今は悲しむより先に成すべき事があるんだ。だから今は誰かの為に動いて欲しいんだ、ロリーエ……。できるかい……?」
「うん……、出来る……、だって、わたし、クシーナと約束したの……、シュウゴを支えるって……、だから!私、ちゃんと出来るわ!だって私はクシーナが!憧れの女が認めてくれた女だもの!」
彼女の瞳に強い意志が灯る、ああ、本当に彼女は強い女だ。
「ありがとう……。じゃあ俺は俺の成すべき事を、俺にしか出来ない事をしてくる。レーミクを、皆を任せたよ……、ロリーエ」
「シュウゴ……、私も自分のできる事をしているわ、だからちゃんと私の所へ帰って……、きてね?」
ロリーエが静かに俺の唇に口付けをして、優しく微笑んで俺を送り出してくれた、幼い彼女の口付けは自らがクシーナに初めて交わしたモノとそっくりだった……。
「じゃあ、行ってらっしゃい、シュウゴ……」
「ああ……、行ってくる。待っててくれ!」
俺は立ち上がり走りだす、目の前には黒い服を来たひょろ長い、人形のような顔をした男がフラフラとした足取りでこちらに向かってくる。
全身の力がその男に呪持ちに向かって行けと命令する、それに逆らうこと無くただ走る、俺の手には堅木の棍棒が握りしめられている。
そして漸く俺は、古い手記を思い出す。
同様の境遇に合った彼が己の半生を綴った手記、彼が残した想いが脳内に蘇る。
『普通の者がこれを見れば、オレを頭の螺子が外れた狂人と思うかもしれない。だがあえて言おう、呪持ちと出会った場合は相手がどんな姿であろうと容赦なく殺せ。そうでなければお前の周りの人間は傷つき、そして死ぬ。』
まるで今の状況を描いたような言葉、絶望を記した言葉が蘇る。
『お前にはソレを止めることが出来る可能性がある。だから迷うな、オレの様に大事な人を失って後悔の日々を送りたくなければ容赦なく殺せ』
彼が、心優しい彼が躊躇した結果がどうなった?思い出せ!
『妻を失った、友を人を失った、罪なき人々を守れなかった。』
目の前の失われた命、そして赤々と燃える景色に同調するように、俺の中に胸の中で何かが爆ぜるような痛みが走る。
『これがオレの生涯の後悔でオレの罪だ。だからお前もオレのように躊躇はするな容赦はするな、虚しい後悔に繋がれた哀れな男の言葉が、せめてこれを読む者の心に響くことを願う』
先人の言葉を思い出した身体と心は裂帛の気合を持って、彼の言葉の重さに弾かれるように飛び出し、胸の中で沸き起こる怒りと憎しみは獣の咆哮となって口から溢れだしていく。
「ウウゥゥゥッォォォオオオオッッ!!!!」
鋭く踏み込んだ左足が大地を削り、落とした腰は全身の筋肉をねじり上げ、その全てを源泉にして、両手で固く握り締めた棍棒は破壊の力を宿していく。
「クシーナを弄び、ロリーエを傷つけて、レーミクを傷だらけにして、村の人達を脅かして殺した貴様を俺は!俺は貴様を赦して、なるものかあああああああああ!!!!!!!」
鋭く振り抜く軌道の先にある奴の右足は、ひょろ長くて気持ち悪い。
「貴様のような奴がいるから!涙を流す人が!悲しみが!いつまでも世界が救われないんだ!何故そんな不遜な欲望を描くんだ!」
容赦なく気取った黒いパンツの中に隠された、奴の膝を打ち砕く。
肉と骨と筋を破壊する衝撃が棍棒を通って両手に脳に伝わってくる刹那、この惨状を作り上げた男と目が合った。
それはとても醜い欲望、悪意が漂う妄想に囚われた狂人の目だった。
「どうして己の欲望ばかりを人に押し付ける!何故自分で生み出そうとしない!そんな事をしても誰も幸せになれないんだぞ!」
「俺の足があああああ!!!右足があああああ!!!!テメェくそMOBのくせになにしてんだよおおお!!こんなイベントいらんだっろおおおおお!!!!」
燃え落ちる小さな村にある真ん中の広場、目の前にいる醜い男は、外面だけがいい少年の姿の男が悲鳴のような声で喚いていた。
「この苦しみをイベントだと?巫山戯るな!クシーナはそんな下らない事のために犠牲になったとでも言うのか!」
俺は血に汚れた堅木の棍棒を持ち、哀しみと怒りを湛えた瞳で静かに睨みつけて立ちはだかると、奴が俺に醜く吠えてくる。
「俺はなぁ!神様から超絶チートを貰ったんだよ!この世界の主人公になって好き勝手して生きて良いって神様にいわれたんだよっ!俺があんなにっ頑張ったのに親も手下も先生も!ぜえええんぶクソで、ほんとにクソみたいな人生だった!だからああ今んどはあああ無駄な事なんてぜっったいしないで、イージーモードで大金ゲットしてぇ、気に入った女でハーレム作ってぇ、鬼ツエーカッコイイ主人公で俺tueeeeして何が悪いんだよっ!?あたりまえだろおおおしゅじんこうなんだがらあああああ!!!!」
「そんな下衆で幼稚な万能感を満たすだけに世界の全てを、人の想いや願いを穢してもいいと思っているのか!?そんなもの許せないし、存在してはいけないんだよ!」
あまりにも自己中心的で醜悪な事を言う男、その左足に渾身の力で両手持ちの棍棒を振り下ろし、膝の関節をへし折り動きを止める。
俺の手に棍棒が伝える骨を砕いた感触、やはり好きにはなれなそうにないと思ったが、そんなものはコイツには関係ないと、俺は胸の中にこみ上げる吐き気と気持ち悪さを怒りで抑えこむ。
容赦はしない、この身勝手な悪意の塊に微塵の容赦もしてはいけない。
「ギャアアァァァ!!!!止めろ!俺は主人公なんだ!!ち、チィト!!!チートなんだ!!最強じゃないとダメなんだ!!お前みたいMOBが調子に乗ってんじゃねえぇええええ!!!なんでじゃまするんだよおおおおおお!!カスガ死ねよおおおおおお!!!」
酷く醜悪に喚く言葉。
「貴様が今感じている何十倍の痛みと悲しみが、この世界に貴様の手でバラ撒かれたんだ!その報いを!その痛みをお前は、受けなければならない!!!」
沢山の不幸を撒き散らし、多くの人を死に追いやった己の過ちに、どうして気が付かない?
何も理解をしない、理解しようとしない精神に不快感と怒りを覚えながら、這いずる奴の腕に向かって再び全力で棍棒を振り下ろし、奴の動きを止めて胸に足で体重を掛ける。
「ヒギィイイイ!!!!ヤメロォ!このクソガがぁああああああああああああ!!!俺が一体、何したっていうんだよおおおおおお!?!?!?!なんもしでねえええだっろぉぉおおおお!!!これからだろおおお!!これからハーレムでえ、ニコポデぇええ、ナデポしてええ、ヒロインにかこまれてやりまくるんだよおおおお!!!!」
この男は、この惨状を引き起こした張本人は、自分は何も悪い事をしてないとでも言うのか?
ソレはありえない、それだけは許せない。
こいつは呪を撒き散らし己の欲望塗れの妄想を具現化しただけでは飽きたらず、己が虚栄心を満たす為だけにこの村に災厄をもたらした。
この村で日々を慎ましく真面目に、小さな幸せを大事にして寄り添いながら生きていた人々を死に追いやり、失意と絶望の内に自らが滅ぼしたと気が付かないのか?
「この村を滅ぼしたお前の言うチートというものは、その本質は悪意の塊である呪だ。この世界を腐らし滅ぼす毒だ」
ならば俺が事実を教えて自らの罪を理解させてやる。
「そんなモノをありがたがって撒き散らして己の欲望の為に歪ませようとするお前を、この世界に住む人々を辱めて妄想の道具にしようとするお前を、俺は同胞の恥として殺してその呪を滅ぼさねばならん」
そうでなければ誰も浮かばれない、誰も納得すら出来ない、そして何より死んでいった誰にも申し訳すら立たない。
「そうでなければ、お前の欲望に擦り潰された人々の無念に報いることが出来ん!」
きっちりと理由は教えた、これで少しはこの男も自らの犯した過ちを理解しただろう。
俺はゆっくりと血塗られた棍棒を振り上げる。
「はぁああああああ!?!?なにいってるんだっおっさん!?たかが最初の村のMOB程度がいくら死んでもいいだろ!?俺は主人公でチートだぞ?!この村は、俺が英雄になるために襲われて、俺Tueeeeして、ギルドで俺が認められる踏み台になる為のぉおおお!たぁだぁの初期イベントだろうがよぉぉぉおおお!!!そんなもん考えればバカでも分かるだろうがぁあああ!!まだ最初のヒロインしか出てきてねーんだぞぉおお!!こんなんじゃハーレムじゃないっ!!おれはもっとすげえイベントがいっぱいあるんだよおお!!負けイベントなんていらねぇええええ!!!クソが離せよおおおおおお!?!おまえあたまいかれてるだろぉおぉぉ!?!??」
「……、そうか、貴様は理解出来なかったのか、残念だ……、同じ日本人として非常に残念だと思う……」
理由を教えてもなお、無様にのたうち回り暴れながら叫ぶ男は、俺の言葉の意味をまったくもって理解しない、いや理解したくないのだろう。
「おかしいだろうがぁぁあ!!!お前が死ねよぉォォお!!!!ファイヤーボール!ウォーターカッター!サンダーボルト!エアロアロー!なんで出ないんだよおおぉぉぉぉ!!!!!おかしいだろがああああああああ!!!!!!おまえしねよおおおおおおおお!!!!だれかおれをたすけろおおおおおおおおおおおお!!!」
折れていない方の腕をこちらに向け、何かゲームの魔法みたいな言葉を醜い悲鳴のように半狂乱で叫ぶ。
「お前は……、貴様の呪はここで終わりだ……。俺が、貴様を今!無に返す!それが俺が唯一同胞として貴様にしてやれるせめてもの慈悲だ!」
雑音の発生源でしかない男の頭に、俺の怒りの全てを込めて両手持ちで棍棒を振り下ろす。
その騒がしい頭蓋と頚椎を砕いて、この醜悪な物体に止めを刺した瞬間、辺りには酷く粘着質で鈍く重い音が響いて、呪持ち《チート》は絶命した。
「万が一転生出来たとしたら、次は呪に手を出そうとせずに真っ当に生きろッ!」
痙攣しながら崩れ落ち、黒い粘質な『何か』になって溶けていく男の成れの果てに一言呟てから、渡されていた聖灰を撒き浄化の祈りを捧げる。
「全ての穢れを浄化する白い炎よ……、皆の魂を正しい道に戻し導き賜え……」
俺のつぶやく言葉に呼応するように、辺りに白い炎が舞い上がり呪を浄化していく。
その炎は高く、高く舞い上がり、呪に囚われた人々の魂を開放して、正しい輪廻へと導く灯火となる。
その中の一人、厄災達の被害者、洗脳で心を犯されて囚われていた少女が、こちらに微笑みを浮かべながら
「ありがとう」
と、呟いた。
「すまない……俺は間に合わなかったっ!君を……、みんなを助けられなかったッ!」
大切な人を守れず、零れ落ちて逝く人々を、見送る事しか出来ない無力さに締め付けられる。
「シュウゴ……、ありがとう私に沢山の愛を与えてくれて……。私は今、凄く幸せなのよ……」
「嫌だ!クシーナお願いだ!逝かないでくれ、俺はまだ君に、ちゃんと愛してるとすら伝えられていなかったんだ……!」
またあの時と同じように、俺の胸が悔しさで張り裂けまいと鋭く痛む。
「貴方は自分を責めてるのね……」
幼子を諭す母親のように優しく囁き微笑みを浮かべた。
「なら私ね……、貴方が幸せになれますようにって祈りながら逝くわ。それが私の願いであり祈りよ」
彼女が俺の頬に触れようと手を伸ばし、彼女の手は俺に触れられないままに静かに消えてゆく。
「だって貴方は私の魂の恩人ですもの……」
その全てが悲しくて俺の瞳に涙を溢れだし、彼女の笑顔が滲んでしまう。
「俺はもっと君を幸せにしたい!そして二人で年をとって、お互い皺だらけになって、それでも一緒にいて、笑い合って……、君に、クシーナに愛してると言いいたいんだ……」
「ん、シュウゴ、それは私もきっと素敵だって思うわ……、絶対そうなっても貴方に愛してるって、そう私は囁いてると思うわ……、でもね……?」
その笑顔を守りたい。
「私の時間は残念だけどもう終わりみたい……、逝く前に出来ることなら貴方の涙を拭って上げたかったわ」
あの日、心から思った願いはもう叶わない、俺の小さ過ぎる手は彼女の全てを零してしまったのだ。
「でもそれは叶わないみたい、だからせめて私の代わりに貴方の涙を拭ってくれる人が現れる事も願わないといけないみたいね……」
薄れていく輪郭に少し困ったような微笑みを浮かべて、ゆっくりと彼女は消えて逝く。
「シュウゴ、あの子私の悪い所ばかり似てしまったから、きっと貴方しか受け止めれる殿方がいないと思うの……、だからロリーエの事、沢山愛してあげてね……。お願いよ?」
その欠片が、彼女の存在が白い炎に連れられて、ゆっくりと空へ静かに高く高く舞い上がる。
「貴方の進む道の行末が、どうか幸せでありますように……」
最後にそんな優しい願いの言葉を残して、彼女の全てが何もなかったように消える。
白い炎は全ての呪を焼きつくしてその役目を終えて消えてゆく、そこには呪も彼女の存在もなにもない。
そこにあるのは置き去りにされた、俺の遣る瀬無さと虚しさと後悔の慟哭だけだった。
かくして始まりが終りを迎えます。
この小説を応援してくれた方、周護さんの物語を読んでくださった全ての方に感謝します。
そして出来るなら、もっと多くの方が彼を応援してくれる事を願っています。




