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異世界はチートで大変なことになりました。  作者: 黒井 陽斗
違う世界の新たな生き方
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第十三話 快気祝い

 クシーナの情熱的な口付けが終わるまで、俺はただ嵐に揺れる小舟の様に彼女の情熱に為すがままになっていた。


 積年の思いの全てを吐き出して彼女は口付けに満足すると、今度は琥珀色した瞳を潤ませ、その柔らかい頬を薄紅色に染めていた。


 そして自らの唇を愛おしそうに撫でながら、嬉しさを身体全体表現する様に揺らすクシーナの姿は、まるで初めて恋をした乙女のようでとても愛らしいと思った。


 暫らく彼女は自らの喜びにみを委ねていたと思うと、なにか大切なことを思い出したのか、急に彼女は我に返り、真っ赤な顔して俺に謝り始める。


「シュウゴ、ごめんなさい……、今日は帰って……」


 訳もわからず俺は追い出されそうになったので、その理由を知りたい俺は彼女に聞いてみる。


「どうしてだ?なにか君を困らすようなことをしたのか?」


 俺の胸に手を当てて、真っ赤な顔して彼女が言ってくる。


「違うのよ……、これ以上、ね……、貴方と居たら……、私ね、きっと……、帰らないでって……、口に出しちゃうわ……」


 なんだろう、この可愛い女性は……。


「でも、ゲンゾン達に、そのね、今日ここに居るって何も言ってないでしょ?だから、みんな心配しちゃうから……」


 もちろん知的で勝ち気な彼女も素敵だが、今の彼女はなんというか……、とても心臓に悪いと思う、鼓動がおかしな速度になっている気がする。


「だからね、私、が、我慢してるから、早く帰って!私、嬉しすぎて……、子供みたいに貴方を求めちゃう、もう、ね、我慢するのダメになりそうなの……」

 

 何とか吐き出すように言いながら、さっきまで俺を押し返していた筈の力が抜けて、彼女は俺の胸に頬をすり寄せている。


「凄く……、は、恥ずかしいわ……、ごめん……、ね。こんな、小娘みたいな女で……、あぁ、もう!恥ずかしくて死んじゃいそう……」


 彼女は俺の胸で恥ずかしそうに頭を振る、ああ、俺もなんだか我慢が効かなくなりそうだ。

 

「わかった……、正直、その、こっ、これ以上、君の可愛い姿を見ていると、我慢できる気がしない……」


 でも確かに彼女の言うことは正しい、だからここは大人として、けじめとして帰るべきだろう。


「もぅ!シュウゴのお馬鹿ぁ!さっさと帰って!」


 羞恥の限界を超えて、真赤になったクシーナに入り口まで、一気に押されて扉を背中で開けて、外まで追い出される。


「じゃあ、名残惜しけど、もう、帰るよ、お休み、クシーナ……」


 こんな時にいい言葉が出てこない、呆れるほどそっけない台詞しか出てこなかった、モテる男ならばここで気の効いた一言くらい出てくるだろうに……。


「待って!シュウゴ!」


 そんな情けない自己嫌悪に浸っていると、彼女がそっと俺の胸に手を添えて潤んだ瞳で訴えてくる。


「あの、ね……、私、ちゃんと、我慢したから、ね……?お休みの、口付け、して欲しい……」


 そんな可愛すぎる彼女のお願いに、俺は耐え切れずに口づけを交わす、お休みの口づけには長く、恋人の逢瀬の終わりにしては少し短い。


 そんな時間を彼女と俺は共有して、その時が一秒でも長く続くように願いながら、ゆっくりと二人の唇が離れていく。


「ありがとう……、今日はシュウゴがくれた全てを抱いて、貴方を想って眠れるわ……、だから私、きっと貴方の夢を見るわ……」


 ダメだ!もう恥ずかしくて彼女の顔が見れない、俺は名残惜しさを振りきって彼女を引き剥がす。


「うん、ごめん!もう俺が我慢出来無なくなりそうだからもう帰る!可愛すぎる君が悪いんだ!じゃあおやすみ!」


 そう言って、彼女の返事も聞かずに逃げ出した。恥ずかしさで顔が真っ赤になってる。


 冬の夜風が火照る頬を撫でて気持ち良い、心臓が壊れそうなほど鼓動が高鳴って、息が上がるが構わず一気に走る、そうしないと彼女の所まで戻ってもう一度抱きしめて離せなくなる。


 そんな確信めいた予感を覚えたので止まらず家までひたすら走り続ける、すると辿り着いた庭にレーミクが待っていた。


「おかえりなさいませ、シュウゴ様。随分と、遅いお帰りでしたね、なにか、ありましたか……?」


「あ、ああ、ちょっとズンケルさんと話し込んでしまったね、少し悩んでしまってクシーナに相談していたんだ」


「そうでしたか、あまり遅くなられると、お二人も私も心配しますから、出来れば一言連絡が欲しいです……」


 確かに戻ると言っていた時間から考えれば、かなり遅くなってしまったので随分心配をかけたらしい、少し悲しそうな彼女の声に素直に反省して謝罪をする。


「心配をかけて済まなかった、さすがに遅くなり過ぎたと思う次から気をつけるよ」


「ええ、そうですね、次からはお願いしますね?」


 そう言って俺の手をそっと取り、中へ俺を連れてい行くレーミク、彼女の手は氷のように凍えている、その冷たさが気になって彼女に問いかけた。


「レーミク、君はいつから外で俺を待っていたんだ?随分、手が冷たいよ?」


「シュウゴ様が帰ってくるとおっしゃっていた、夕方にはこちらでお待ちしていました」


 夕方って、俺の帰ってくる一時間以上じゃないか?そんなに外で待っていたのか?どうしてそんな事をしていたんだ?そんな疑問が俺に湧いてくる。


「そんな、俺が帰ってくるのを、ずっと外で待っていたのか?この寒い中で?」


 俺の胸に飛び込んで来きた、レーミクは何時も突然甘えてくる。


「はい、お帰りが待ち遠しくて……、つい、お恥ずかしい限りです……」


 俺の胸に顔を埋めるといつも嬉しそうにしている、待たせた事のお詫びとして彼女が満足するまではそっとしておく。


「えっ……?なん、で……?」


 俺の胸の中で小さく彼女が何かを呟いたような気がする、その声を俺が確認しようとすると、ゲンゾンの大きな声が聞こえてくる。


「おせーぞ、シュウゴ!あんまり遅いんで、飯食っちまうトコだったぞ、全く……、何やってたんだよ?そんなトコで二人でいねーで、とっとと入って来いよ?ロリーエが作った飯が冷めちまうぞ?」


「あぁ、遅くなってすまん、ちょっと色々あってね、ズンケルさんと話が長引いちゃってね。さぁ、レーミク、君は身体が冷えてるし、風邪を引くといけないから中に入ろうか?」


 ゲンゾンにも心配を掛けたので素直に謝っておく、そして俺の腕の中に居る冷えきった彼女を温かい部屋へ誘導する。


 ロリーエにも遅くなったことを謝らないといけないな、折角の料理が冷めてしまう位、待たしてしまったしな。


「えぇ……、わかり、ました……」


「よっしゃ、お前も怪我が治ったしやっと一緒に酒が呑めるんだ!今日はとことん呑むぞ~!」


 楽しそうなゲンゾンと正反対のレーミク、もしかしたら冬の夜空の下でずっと外に居たから体調を崩してしまったのか?やはり少し心配だ、あとでちゃんと確認をしよう、そう彼女の体調を考えながら部屋に入り、ロリーエに遅くなった事を謝ってから帰宅の旨を伝える。


「ロリーエ、こんなに遅くなって済まなかった、ただいま、帰ってきたよ」


「遅いよ!シュウゴ、一体何してたの?私、すっごく心配だったのよ?こういうのはあんまり良くないと思うわ!」


 俺の顔を見るとロリーエの感情は爆発したようで両手を腰に当てお説教を始める、随分心配を掛けたらしい。


「全く~、お母さんも言ってたけど、男の人って、家で待ってる女のことなんて、本当になんにも考えてくれないの?」


 俺はそれを厳粛に受け止める、少し情けなくは思うけどこれは彼女の正当な権利だと思うので言い訳はしない。


「こんなに遅いと折角頑張って作ったご飯が冷めちゃうわ、こんなことばっかりするなら、もうシュウゴのご飯なんて、つくってあげないんだからね?わかった?」


「ごめんロリーエ、君の言うとおり俺が悪かった、次はちゃんと遅れないように注意するから許して欲しい」


 そう言って頭を下げると、彼女は溜息を一つして、いつもの笑顔で俺を迎えてくれる。


「もぅ!シュウゴは仕方なんだから~、しょうがないから許してあげるね!」


「ああ、済まなかったと反省したよ、色々とズンケルさんと少し長話をしすぎてね、話の内容が複雑だったから、帰るのが遅くなったんだよ」


「そうなのね、じゃあ今回は仕方ないけど、次からはちゃんと連絡してね?やっぱり遅いと心配になっちゃうわ、怪我も治ったばっかりだしね?」


 ズンケルさんの所で話した話の内容は子供のロリーエには流石に詳しく言えない、言いたくない内容なのである程度ぼかしておく。


「よし!話の続きは飯の後にしようや、ロリーエ飯を頼むぞ!ついでにシュウゴの快気祝いをするから酒頼む!」


「も~、またお酒なの~?ホント、大人の男の人って、お酒ばっかり欲しがるんだから!」


「俺もコイツもこの日のために、辛く苦しい我慢をしてたんだ!だから今日はとことん呑むぜ!」


「でもまぁ、今日は仕方ないから許してあげるわ、シュウゴはずっと我慢してんだしね、あ、ついでにお父さんもちょっとだけがんばったね~」


 どうやら今日もロリーエの父に対して口撃力は健在のようで、ゲンゾンに的確なダメージを与えていく。


「たく、少しは親父を敬えってんだ……、まったくよぅ……」


 俺は攻撃の手が自分から、ゲンゾンに変わったのを笑いながら席につく。


「んじゃまぁ、食い始めようぜ?糧を与える全ての物に感謝します」


 いつものゲンゾンの挨拶に、皆が続いて同じ言葉を唱えるはずが、レーミクが席に座ったまま呆けたように下を向いている、どうしたのだろうか?やはり寒い中に居たから体調が悪いのか?俺達三人がレーミクを心配する。


「どうした?やはり体調が良くないのか?もし体調が良くないのなら言ってくれ、我慢はしなくていいからね?」


「そうだよ?なんだかおかしいわ、元気ないみたいだもの、体調が悪いの?」


「おめぇが遅いせいだぜ、シュウゴ~?レーミクさん、どうした?どっか痛いのか?」


 三人三様の言葉で彼女の体調を心配する、すると我に返ったレーミクが辺りを見回し、状況を把握したのか申し訳無さそうに口を開く。


「すいません……、少し考え事をしてしまって……、体の方は大丈夫ですから、どうかお気になさらず……」


 そういって頭を下げるがどうもさっきから彼女らしくないな、やはり何かあったのだろう時間を作って話をするべきかもしれない。


「まぁ、悩み事の前に飯だな、それと酒だ、レーミクさんも一杯どうだ?」


「おい、彼女は若い女の子だ、あんまり酒を勧めるものじゃないだろ?」


 彼女は俺かすれば未成年だ、そんな子に酒を勧めるのはあまり気が進まないのでゲンゾンをたしなめる。


「一緒に飲めるのを喜んでくれるのは嬉しいけど、身体が出来きっていない若い子にそういうのはあまりよくないぞ?」


「そう固い事を言うなよ~?俺とシュウゴだけってのは、どうかと思うし、よかったら付き合わねーか?」


「では、私も頂きます、ロリーエさん私にもグラスを頂けますか?」


 そんな俺達の話に、彼女が俺を鋭い視線で見つめてゲンゾンに肯定の言葉を言ってくる。


「よし、そうこなくっちゃな!やっぱ酒は、みんなでワイワイやるのが一番うまいからな~!」


 どうやら仲間を増やした事で飲兵衛ゲンゾンはご機嫌らしいが、レーミクの俺を見る視線は、まるで打ち解ける前の様に鋭かった。


「も~、レーミクさんまで~?仕方ないなぁ~、わかったわ、ちょっと待っててね?」


 ロリーエは諦めたような声だしながら、葡萄酒ワインと酒器を用意しに奥へと消えていく。


 しかし彼女が酒を飲むと言ってくるのは初めてだ、どういう心境の変化なのだろうか?心配になって再度確認をしてみる。


「どうしたんだ?レーミクが、ここに来てから酒を飲むなんて、初めてじゃないか?


「主の怪我の快気祝いに従者の私が参加しない理由はありません」


「それに君は若いから、身体が出来ていないんだ。だから無理に俺たちに合わせる事は無いんだよ?」


「私はもう大人の女です、そのような心配はご無用です!」


 どうやら何か、彼女の機嫌を悪くさせるような事を言ってしまったようだ、良く解らないがここは謝ったほうがいいのかもしれない。


「本人が大丈夫だって言ってるんだから、いいじゃねーか!」


 そう思っていると、ゲンゾンが突っ込みを入れてくる。


「それによ~、頭の固い奴は女に嫌われるぜ~?だから、こういう時は一緒に呑めばいいじゃねーか!」


 どうやら飲む前からゲンゾンは気分が良くなる方みたいで、俺に味方が居ない。


 ロリーエが帰ってくれば味方をしてくれるとは思う、それまで説得は厳しそうだと思ってしまう、大の大人が中学生にも満たない少女を頼りにするのは、とても情けないとは思うが……。


「は~い、みんな持ってきたよ~、じゃあ飲み過ぎないようにね!特にお父さん!レーミクさんも無理しないで下さいね?」


「えぇ、ありがとうロリーエさん、私は大人の女、ですから、無理なんてしてませんよ」


 ロリーエの説得も決意の決まったレーミクには届かない、鋭い視線を向けて意固地になった彼女は俺の言う事を絶対に聞いてくれない、それは今までの付き合いで学習したのでこう思う、もうどうにでもなれ、と。


「よっしゃあ!今日は呑むぞ~、シュウゴ!レーミクさん!乾杯だ!」


「はい、シュウゴ様の快気祝いに乾杯ですね、さぁシュウゴ様?」


 二人は酒の入ったグラスを持って俺を待っている、ロリーエは諦めてしまったのか、我関せずとばかりに食事を始めてしまった、これはもう本当にダメだ、諦めとともに俺はグラスを掲げ二人と乾杯をする。


「じゃあ、乾杯だ、かんぱ~い!」

「よっしゃ!かんぱ~~い!!」

「シュウゴ様の快気祝いに乾杯!」


 三人それぞれの掛け声で乾杯の合図をする、そうして賑やかな夕食が始まった。


 ゲンゾンは陽気に歌いながら酒を呑み、レーミクはワインをちびちび舐めるように飲んでいく、時々渋そうにしてるので恐らく持て余しているのだろう、俺は酒はそこそこ強いのでゲンゾンと二人で杯を重ねていく。


 そうして夕食が終わっても、ゲンゾンと俺はまだ酒を飲んでいたがレーミクは最初の一杯で酔いが回ってしまったのだろう、仄かに赤みの差した顔で静かな寝息を立てて、横の席で眠ってしまった、やっぱり無理をしていたんだろうな。


 仕方ないので自分の上着を彼女の肩に掛けてロリーエの片付けが終わったら、彼女と二人でレーミクをベッドに連れて行くつもりだ。


「やっぱり、無理してるんじゃないか……、全く、どうしてこんな事したんだい?レーミク」


 眠った彼女の頭を優しく撫でてからゲンゾンと差し向かいで飲む、ようやく男二人になったので、先程言えなかった事を彼に伝えておくことにした。


「なぁ……、二人が眠りについた後、お前と俺で話したい、クシーナの事なんだ」


「あん?クシーナがどうかしたのか……?なるほど、な……、いいぜ?」


 俺の言葉に何かを察したのか、ゲンゾンが一瞬だけ雰囲気を変えた。


「んじゃ、まぁ、それまでは二人でゆっくり飲もうぜ?どうやらシラフで話す様な内容じゃ、ねぇんだろ?」


 それを無かった事にする為か彼は俺のグラスに酒を注ぐ、それを俺は飲み干した、隣でレーミクが動いたような気がしたので、椅子から落ちないように確認するがどうやら大丈夫だったので、ゲンゾンとの話に戻る。


「まぁ、二人に聞かせるような話でもないし、ゲンゾンと二人が良いと思ってね、こういう機会はそうあるものじゃないだろ?」


「ま、そうだわな、お互い子持ちみてーなもんだしな、そういう話は普段はやりにくいわな」


 その言葉を最後をに、俺たちはロリーエが戻るまで無言で酒を注ぎ合う、互いに二杯目が空になり、奥から戻ったロリーエに終止符を打たれる。


「おかえりロリーエ、今日はちょっとゲンゾンと話したいことがあるから、俺達はもう少しだけ起きているよ」


「そう、今日はまだ飲むのね、それだと体を拭くのは明日のほうが良さそうね」


 彼女は何かを察してくれたのだろう、この子は賢い子だ。


「今からレーミクを運ぶから、悪いけど二人は先に寝てくれないか?」


「うん、それじゃレーミクさんの事お願いね?」


 俺達の間に流れている空気が違うのを、気が付いたのだろう。


「済まないね、じゃあ俺が彼女を抱えるから、ロリーエは戸を開けるのをお願いするよ」


「わかったわ、それじゃお父さん、飲み過ぎて明日起きれないのはダメだからね?それじゃ、おやすみなさい」


「おう、おやすみ、ロリーエ、明日はきっと二日酔いだと思うから、軽めの朝飯頼むぜ」


 親子の噛み合っていない、お休みの挨拶を聞きながら、レーミク達の部屋に向かう彼女はぐっすり眠っているようで、これだけ動かしても身動(みじろ)ぎ一つする事が無い彼女をベッドまで運んで布団を掛けると、その寝顔に声を掛ける。


「全く……、酒が弱いのに、無理して飲む事なんて無いんだからな?お休み、レーミク」


 彼女の頬にかかる髪をそっと避けてやり、ロリーエにも挨拶をして部屋を出ようと声を掛ける。


「ロリーエ、今日は遅くなって済まなかったね」


「うんいいよ、だけど次は、もっともっと怒ると思うわ、でも今日は許してあげるわ」


「ああ、次がないように気をつけるつもりだよ、だから明日のご飯も美味しいのをよろしくね?それじゃ、お休みロリーエ」


「ふふ、私って怒るとすっごく怖いんだから覚悟してね?おやすみなさい、シュウゴ」


 そう言って笑って言ってくれる、どうやら彼女の方は大丈夫のようだと胸を撫で下ろし、彼女達の部屋を出ていく、ゲンゾンの待つ食堂に向かうと彼は腕を組んで、俺が戻るのをじっと待っていたようだ。


「ゲンゾン戻ったよ、済まないな、待たせたね」


「ああ、んじゃま、取り敢えずどうする?ここじゃまだ二人に聞こえちまうからな、どっか別の所で話をするか……?」


 この家は彼の言うように、隠し事が出来るほど静音性がない。


「うちはそこまで秘密の話をするような家じゃねえから、あいつらにも聞こえちまう、呑んで時間を潰すのもいいが、出来上がっちまったら話もできねぇしな」


 なので聞かれたくないのなら外にでるべきだろう、しかし外は寒いので長話するには厳しいと思う、そうして二人で悩み始める。


「きっと楽しくない話もせにゃならんだろうし、どうしたもんかねぇ……」


「そうだね、ここには飲み屋も無いし、話し合うには二人が寝てからの方が良い話題だしね……」


 村ではこういう時、話す場所は神社だったり、宿だったりするんだろうが、どちらに行くにも少々時間が遅いので酔った頭を二人で頭をひねる。


「よし、シュウゴ決めたぞ」


 暫く二人で悩んでいると、ゲンゾンが何かいい場所を思い付いた様だった。 


「俺とお前だけじゃなくてお前に合わせたい奴もいる、つーか、クシーナの話しならあいつも絶対聞きたいだろうし外で話すぞ、シュウゴの毛皮も今日出来たしな」


「その人はどうも俺が会った事がない人みたいだね、ゲンゾンがそう言うなら構わないがこんな時間に行くんだし、手土産に酒でも持っていくか?」


 手土産も無しで行くのはどうかと思うので一応聞いてみると、ゲンゾンは苦味のある笑いを浮かべて話す。


「いや、やめておけ、あいつぁ飲兵衛が嫌いだからな、そんなもん持っていったら俺がどやさちまうよ、だからなんもいらねぇさ……」


 それはロリーエに怒られて心底参ってる時にゲンゾンがする顔だ、今から会う人は威勢の良い女性なのかもしれない。


「俺はその人の事はよく知らないし、そこら辺はゲンゾンに任せるさ、それじゃあ準備をしようか?」


 なんだか少し落ち着かない、どうもこれからの話の内容を考えて緊張をしているようだ、その緊張で、互いに言葉数が少なくなってしまう。


「じゃあ出るか、小屋に行って毛皮を取ってくるわ、ちっと待っててくれ」


「じゃ、先に手洗いに行っておくよ、きっと冷えるだろうしね」


 庭に出てから彼が言った言葉に俺は軽口を返した。


「はは、違ぇねえな」


 二人で少し笑って互いに手を降ってから彼は仕事小屋へ向かう、俺もその間に用を済まして、庭先に戻る。


「ほれ、コイツがお前んだ、俺のお手製だ、今年取った冬毛の良いヤツだぞ?コイツは中々のモンだと自信があるぜ?」


 ゲンゾンが持って来たのは立派な熊の毛皮で出来た外套だった、恐らく一頭では足りないだろう二頭か三頭分は確実に使っている物だ。


「へへ、コイツぁ街で買うなら金貨3枚は固いぜ?コイツが俺からのお前の快気祝だ!ありがた~く使うんだぜ?猪の毛皮は丈夫だけど、ちと硬ぇしコイツは猟師にゃ最っ高だぜ?」


 彼はそう言って俺に毛皮を投げてくる。


「おい、金貨3枚だって!?ゲンゾン!そいつは幾らなんでも貰いすぎだ!?流石に気がひけるぞ……。」


「馬鹿野郎!ダチの命を守るモンだぞ?そんなもんくれぇ安いだろ!そんな細けぇ事を気にすんな、お前も手伝ってくれりゃ、そんくらいすぐに稼げんだよ、だから気にすんな。なぁ?相棒」


 見た目通り最高の毛皮だ、これなら冬の雪山でも十分暖かい、そう確信出来る出来栄えと質感の何処にも文句の付けようのない、本当に素晴らしい毛皮だった。


「わかったよ……、じゃあ早速使わせてもらうよ、相棒」


「おう、そいつを着たらビックリするぜ?そんで俺に感謝しろ!」 


 最高の贈り物を羽織ってみる、しっかりとした重さはあるが、それは嫌なものでなく、俺の身体をしっかり包み込んで、守ってくれて安心感を与えてくれる。


「最高だな、コイツに文句を付ける奴が居たら、そいつは物を知らない馬鹿だと思うよ」


「おう!その事は、俺が一番知ってるぜ!だから大事にしてやってくれよ?」


「ああ勿論だよ、ゲンゾンありがとう、最高の贈り物だよ」


 二人でそんなやり取りをして笑い一頻(ひとしき)り笑った所で、ゲンゾンが背中を叩いて俺を促す。


「んじゃま、そろそろ行くか、ロミーナん所へな」


 その言葉を皮切りに、俺達二人の夜の散歩が始まった、彼との話がどうなるかそれはまだ解らないので少し緊張していた。


 きっとゲンゾンも同じように緊張しているのだろうと不思議と足取りで感じ取れた、そんな暗闇を歩く男二人を、空の彼方で瞬く星達だけが静かに見つめている夜だった。

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