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第十五話 昼下がり

「皆様、昼食のお誘いありがとうございました。それではではシュウゴ様、また明日参りますのでそれまでお体をご自愛ください」


 奇妙な沈黙が支配する味気ない昼食後、そんな熱の感じられない労いの言葉だけを残してレーミクさんは帰っていった。


 彼女が帰ってから暫くして、ゲンゾンがゲンナリとした顔で口を開いて俺に話しかける。


「なぁ、シュウゴは大丈夫か?俺よ、正直レーミクさんのあの態度しんどいぜ、あの子は村の男衆から『氷の巫女』だなんて、そのまんまなあだ名が付くようなお嬢ちゃんだからな……」


 ゲンゾンは本当に疲れたような声を出しながら、彼女の評判を教えてくれた。


「う~ん、何か彼女は事情があるのだろうけどそこがよく解らないし、どうしても俺も彼女に苦手意識があるよ……」


 やはり人間は良く分からない者に対しては、どうしても苦手意識が湧いてしまうのは普通だとは思う。


「確かに、私もちょっと不思議な人だと思うわ、なんだか感情を隠しているみたいで私もちょっと怖いなって思うもの……」


 俺達の意見にロリーエが追従する様に答えてくる、流石にこの優しい少女でも、レーミクさんの態度は持て余してしまうのだろうと納得する。


「まぁとりあえず今日は帰ったんだ、この二、三日の間に何とかする方法を考えておくよ、ズンケルさんにも色々聞いてみるべきだろうしね」


「そうか、まぁ当事者のお前がそういうのであれば、俺はなんにも言わんが、なんかあったら言ってくれ俺も力になるからよ?」


 ゲンゾンが人懐っこい笑みを浮かべながら応える、彼の笑顔はとても人好きのするいい笑顔で先程までの嫌な気持ちが癒やされる。


「お父さんだけじゃ宛てにならないし、私も力になるから何かあったら言ってね?」


 そんないい笑顔をする自分の父親に対して、些か冷めた評価を下しながらロリーエも俺の力になると言ってくれる、本当にありがたいが、やっぱりもう少しゲンゾンを認めて欲しいと思ってしまう。


「ありがとう二人共、いざって時は頼りにしているよ、とりあえずはまた明日ズンケルさんに色々と聞いてみたいんだ、ゲンゾン、連絡を頼めるかな?」


 二人の予定を知らない、俺がそう言うとロリーエが自分の予定を絡めた解決案を返してきた。


「それなら私が頼んでおくわ、今日の午後の奉仕に出る予定だったし、ズンケル様に伝えておくわ」


 その言葉にゲンゾンも納得をして返事を返す。 


「ああ、そいやそんなもんがあったな、んじゃロリーエお前に任せるわ」


「そういう事なら悪いけど、ロリーエにお願いするよ」


「うん、任せておいて、お父さんもお仕事あるしね」


 どうももう少し、彼らの事情を考えないとなぁ、俺はどうも一人で居たせいで予定を考える時に人の事情を考えるのが下手になっている気がするな。


「はいよ、わかってるってロリーエ、んじゃま、今日は鴨でも取ってくるわ、シュウゴは怪我して血が足らねーだろうし、鴨はそういう時にいいんだぜ」


 どうやら今日は鴨らしい、鴨肉は好きなので非常に楽しみだ、やはり鴨鍋や窯焼き、ハムなんかもいいしとにかく楽しみだ。


「ああ、鴨は好物だよ、期待してるよゲンゾン」


「じゃあ、お父さんは夕方には戻ってきてね?私もそれくらいに戻るから、そうじゃないとご飯が遅くなっちゃうしね」


「おう、任せておけ。でけえ群れを見つけたし、そんなに遅くなることあぁ無えよ、多めに取ってくるから燻製やハムにしようぜ」


 どうやらゲンゾンはいい群れを見つけている様なので、晩飯が無くなる心配せずに済むようだ。


 そんな夕食の話をしていると、ロリーエは午後の予定に向かう時間になったようで、準備を行い出掛けてゆく。


「それじゃあ私は先に行くね、シュウゴ、私が戻る前に一人女の人が来るかもしれないから、その時はお相手お願いね?」


「ああわかったよ、伝言を聞いておくだけいいのかな?」


「うん、それでいいわ、とってもいい人だから、シュウゴも仲良くしてあげてね?それじゃ、行ってきます!」


 そう元気よく言い残してロリーエは出掛ける姿に、俺とゲンゾンは二人で見送りの言葉を掛ける。


「行ってらっしゃい、気を付けてね」

「行って来い、奉仕作業しっかりやってくるんだぞ―」


 俺達二人の言葉に手を降ってロリーエは扉を締めると、ゲンゾンが納得したような声で一言漏らす。


「確かに、うちに誰も居ねえって分かってて来るような奴、アイツ一人しか居ねーわな」


「因みにどんな人なんだ?良かったら教えてくれないか?」


 俺の質問に対してゲンゾンが少し微妙な顔をする、どう話すべきか悩んでいるのだろうか?


「悪い奴じゃ無えんだが、学が有るからで少し癖があると言うか……、まぁあったら理解るさ、ちなみに俺の妹だ」


「へえ、ゲンゾンの妹か、それならきっといい人だな、安心したよ」


 俺がそう言うと、彼は少し呆れたような返事をする。


「まぁあれだ、話してみろ、あいつはよ、ウチの嫁さんに憧れてた部分があるから結構おっかねー所あるから気を付けろよ?」


 レーミクさんみたいな性格でないのであれば、きっと何とかなるだろうとは思うし、彼がそこまで心配するような事は無いと思う。


「解った、気を付けるけど、きっと大丈夫だと思うよ?」


「そんなら良いけどな……、っと、俺もそろそろ行かねーとまずいな、シュウゴ、今のうちに便所行っとくか?」


 そういえば朝から行ってないから行っておいた方がいいだろうな、お願いしておこう。


「スマンが頼むよ、やっぱり早く自力で立てる様にならないと色々面倒だね……」


「解った、まぁこればっかりしゃあねえさ、明日ににゃ何とかなりそうだし、気にすんな」


 ゲンゾンに肩を借りて用を足して部屋に戻ってベッドに座る、朝よりは動けるようにはなった気がすが、歩けるほどでは無いのがもどかしい。


「んじゃ、行ってくるわ、暇だろうが無理に動くなよ?」


「行ってらっしゃい、俺は子供じゃないから大人しくしておくよ」


 二人で軽口を叩き合い彼を見送る、一人になって暇なになったので先ほどの手記を手にとって考える。


「稀人っていうのは一体なんなのだろうな……、物語の世界の様な都合の良い英雄では無いんだろうな……」


 先程読み取った文章から推測をするならば、とてもそのような感じには思えない、源蔵さんの苦悩を思い出して暗い気持ちになる。


 どれほどの苦悩を彼が感じたのか、家族を喪う辛さや助けれない無力さを理解する事は出来ても、世界を救うという感情への理解は、今の俺には出来ないのだ。


 考えれば考える程に、厄介な世界に来てしまったと思う、でも、ゲンゾンやロリーエ達に会えた事は幸運だと思うし、彼らの為に何かをしたいとも思う。


「まずはもっと知らないと駄目、なんだろうなぁ……」


 覚悟を決めるにも情報が足らなさすぎるし、少し怖いが読み解いた手記の先を読んでみようと思い続きを開く。


 やはり戦前の文章なので、読み解くのも遅々として進まない、それでも時間はあるのでゆっくり読んでいこう。


『この世界は稀人言う救いが無ければ、早晩そうばん滅ぶ世界だ。オレ達は自らの生存を掛ける意味でも戦わ無ければならない、お前がそれでも良いと思うのならば俺は止めはしない。だが後悔しながら死ぬことに成るだろう』


 確かに世界を脅かす存在である呪のろいが跋扈ばっこするのであれば、俺達は戦わないと世界と運命を共にするしか無いだろうな。


『稀人は呪の力で死ぬ事が無い訳ではない。自分の心が折れた時、オレ達は呪に屈して死ぬことに成るのだ、だから強く心を持てぬのであれば、早々にお前は死ぬことに成るだろう』


 心の強さが呪に対抗するモノだというのか?随分とあやふやな物が決め手なんだな?俺のような一般人の心なんて大したものではないだろう。


『心の強さと書かれて曖昧なモノだと思うだろう、元にオレも聞かされた時はそう思った。だが一度あってみれば理解る、あれは確かに心を折りに来るし絶望を与えるものだ』


 源蔵さんも今の俺と同じような気持ちになったらしい、文字に深い後悔が刻まれている、恐らくこの時に大事な人を失ったのかもしれない。


『だから敢えて言う出会う前に覚悟を決めろ、そうでなければ俺の様にお前も全てを失うだろう。先程も書いたが俺のように成るな、いや先人の全ての稀人達の様になるな、オレ達は全員大事な人を喪い後悔をして戦い続ける人生を送ったのだ』


 全員が後悔を抱えた……、その言葉に俺は戦慄を覚える、稀人の全員が失敗した事だと伝えられて恐怖を覚えない程、俺は自分に自信がある様な自信過剰な男にはなれない。


『ある者は守るべき民を守れず後悔し、ある者は自分へ忠誠を捧げてくれた従者を喪い、ある者は愛する人を喪う……、オレたち稀人の歴史は決して勝利の歴史ではない。全ては喪い続ける敗残の歴史だ、その犠牲の上に辛くも世界を維持してきたに過ぎない』


 俺が生きるためにはそんな恐ろしいモノと戦わ無ければならないのか……、先ほど感じた恐怖が蘇る、ロリーエの温もりを思い出して、その温もりが消えてしまう事を想像してしまう。


「嫌だ……、そんな事は嫌だ!」


 恐怖に抗おうと思ったせいか、口から言葉が漏れる、それは畏れと怒り、理不尽に対する絶望、様々な感情が入り混じった生の心の声だった。


 息が荒くなり動機が激しくなる、これ以上読むのを止めておきたいと感じてしまう、だが読まなければいけないと、心の何処かから声が聞こえる気がする。


『恐らくお前も喪うことに成るかもしれない、だが、一時でも早く覚悟を決めて呪に備えろ、俺が言える事はそれしか無い、そして人の意志を束ね英雄となれ、そうしてやっとオレたちは呪と言う不条理に辛うじで立ち向かえるだけ力を得ることが出来る』


 それだけやっても辛ろうじ……なんたる絶望だ、俺に英雄になんて成れる資格なんて無いと叩きつけられた様なものでは無いか!


 書かれていた事の厳しさに自棄になり、思わず手記を投げそうになってしまい、なんとか堪える。


 源蔵さんもきっと同じだったのだろう、だからこそこのような言葉を俺に残してくれているんだと思う。


 自分のような人間を増やしたくない、先ほど読んだ時に書かれていた言葉を思い出す。


「本当にとんでも無い世界に、俺は来てしまったんだな……」


 それでも外に目をやれば美しい山々風景が目に入る、こんなに美しいのに恐ろしい未来が確実に待っていると告げられたのだ。


 嘘であってほしい、こんなことがあって欲しくないと思う度に、今まで出会ったすべての人達の態度がこの手記の正当性を補強する。


「やはり……、これは本当の事、なんだろうなぁ……」


 一人で呟いて、自分が知らない内に抱え込んだ稀人としての人生、その重さに心が折れそうな音を鳴らしている幻聴を聞いて、俺は一人で涙を流してしまった。


 どうしてこうなってしまったのか、何が悪かったのかとひたすら考える、きっと今何を考えていたとしてもただの現実逃避にしかならいと理解していながら。

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