第一話 始まりの終端
結構前から書きたかった私の処女作です、ぼちぼち書いていきますので、どうかよろしくお願いします。
活動報告に各話についての小話なんかも書いていくので、良かったら見て下さい。
俺は古い手記を思い出す。
同様の境遇に合った彼が己の半生を綴った手記、彼が残した想いが脳内に蘇る。
『普通の者がこれを見れば、オレを頭の螺子が外れた狂人と思うかもしれない。だがあえて言おう、呪持ちと出会った場合は相手がどんな姿であろうと容赦なく殺せ。そうでなければお前の周りの人間は多くの人が悲惨な目に遭い傷つき、そして死ぬ』
まるで今の状況を描いたような言葉、絶望を記した言葉が蘇る。
『お前にはソレを止めることが出来る可能性がある。だから迷うな、オレの様に大事な人を失って後悔の日々を送りたくなければ容赦なく殺せ』
心優しい彼が、躊躇した結果どうなった?
『妻を失った、友を失った、罪なき人々を守れなかった』
目の前の失われた命、そして赤々と燃える景色に同調するように、俺の中に胸の中で何かが爆ぜるような痛みが走る。
『これがオレの生涯の後悔でオレの罪だ。だからお前もオレのように躊躇はするな容赦はするな、虚しい後悔に繋がれた哀れな男の言葉が、せめてこれを読む者の心に響くことを願う』
先人の言葉を思い出した身体と心は裂帛の気合を持って、彼の言葉の重さに弾かれるように飛び出し、胸の中で沸き起こる怒りと憎しみは獣の咆哮となって口から溢れだしていく。
「ウウゥゥゥッォォォオオオオッッ!!!!」
鋭く踏み込んだ左足が大地を削り、落とした腰は全身の筋肉をねじり上げ、己の全てを源泉にして、両手で固く握り締めた棍棒は破壊の力を宿していく。
鋭く振り抜く軌道の先にある気取った黒いパンツに隠された、奴の膝を容赦なく叩き折る。
肉と骨と筋を破壊する衝撃が棍棒を通って両手に脳に伝わってくる刹那、この惨状を作り上げた男と目があった。
それはとても醜い欲望、悪意が漂う妄想に囚われた狂人の目だった。
「俺の足があああああ!!!右足があああああ!!!!テメェMOBの癖になにしてんだよおおお!!こんなイベントいらんだっろおおおおお!!!!」
燃え落ちる小さな村にある真ん中の広場、目の前にいる醜い男は、外面だけがいい少年の姿の男が悲鳴のような声で喚いていた。
俺は血に汚れた堅木の棍棒を持ち、哀しみと怒りを湛えた瞳で静かに睨みつけて立ちはだかると、奴が俺に醜く吠えてくる。
「俺はなぁ!神様から超絶チートを貰ったんだよ!この世界の主人公になって好き勝手して生きて良いって神様にいわれたんだよっ!俺があんなにっ頑張ったのに親も手下も先生も!ぜえええんぶクソで、ほんとにクソみたいな人生だった!だからああ今んどはあああ無駄な事なんてぜっったいしないで、イージーモードで大金ゲットしてぇ、気に入った女でハーレム作ってぇ、鬼ツエーカッコイイ主人公で俺tueeeeして何が悪いんだよっ!?あたりまえだろおおおしゅじんこうなんだがらあああああ!!!!」
あまりにも自己中心的で醜悪な事を言う男、その左足に渾身の力で両手持ちの棍棒を振り下ろし、膝の関節をへし折り動きを止める。
俺の手に棍棒が伝える骨を砕いた感触、やはり好きにはなれそうにないと思ったが、そんなものはコイツには関係ないと、俺は胸の中にこみ上げる吐き気と気持ち悪さを怒りで抑えこむ。
容赦はしない、この身勝手な悪意の塊に微塵の容赦もしてはいけない。
「ギャアアァァァ!!!!止めろ!俺は主人公なんだ!!ち、チィト!!!チートなんだ!!最強じゃないとダメなんだ!!お前みたいMOBが調子に乗ってんじゃねえぇええええ!!!なんでじゃまするんだよおおおおおお!!カスが死ねよおおおおおお!!!」
酷く醜悪に喚く言葉。
沢山の不幸を撒き散らし、多くの人を死に追いやった己の過ちに、どうして気が付かない?
何も理解をしない、理解しようとしない精神に不快感と怒りを覚えながら、這いずる奴の腕に向かって再び全力で棍棒を振り下ろし、奴の動きを止めて胸に足で体重を掛ける。
「ヒギィイイイ!!!!ヤメロォ!このクソガがぁああああああああああああ!!!俺が一体、何したっていうんだよおおおおおお!?!?!?!なんもしでねえええだっろぉぉおおおお!!!これからだろおおお!!これからハーレムでえ、ニコポデぇええ、ナデポしてええ、ヒロインにかこまれてやりまくるんだよおおおお!!!!」
この男は、この惨状を引き起こした張本人は、自分は何も悪い事をしてないとでも言うのか?
ソレはありえないし、それだけは絶対に許せない。
こいつは呪を撒き散らし己の欲望塗れの妄想を具現化しただけでは飽きたらず、己が虚栄心を満たす為だけにこの村に災厄をもたらした。
この村で日々を慎ましく真面目に、小さな幸せを大事にして寄り添いながら生きていた人々を死に追いやり、失意と絶望の内に自らが滅ぼしたと気が付かないのか?
「この村を滅ぼしたお前の言うチートというものは、その本質は悪意の塊である呪だ。この世界を腐らし滅ぼす毒だ」
ならば俺が事実を教えて自らの罪を理解させてやる。
「そんなモノをありがたがって撒き散らして、己の欲望の為に歪ませようとするお前を、この世界に住む人々を辱め妄想の道具にしようとするお前を、俺は同胞の恥として殺し、その呪いを滅ぼさねばならん」
そうでなければ誰も浮かばれない、誰も納得すら出来ない、そして何より死んでいった誰にも申し訳すら立たない。
「そうでなければ、お前の欲望に擦り潰された人々の無念に報いることが出来ん!」
きっちりと理由は教えた、これで少しはこの男も自らの犯した過ちを理解しただろう。
俺はゆっくりと血塗られた棍棒を振り上げる。
「はぁああああああ!?!?なにいってるんだっおっさん!?たかが最初の村のMOB程度がいくら死んでもいいだろ!?俺は主人公でチートだぞ?!この村は、俺が英雄になるために襲われて、俺Tueeeeして、ギルドで俺が認められる踏み台になる為のぉおおお!たぁだぁの初期イベントだろうがよぉぉぉおおお!!!そんなもん考えればバカでも分かるだろうがぁあああ!!まだ最初のヒロインしか出てきてねーんだぞぉおお!!こんなんじゃハーレムじゃないっ!!おれはもっとすげえイベントがいっぱいあるんだよおお!!負けイベントなんていらねぇええええ!!!クソが離せよおおおおおお!?!おまえあたまいかれてるだろぉおぉぉ!?!??」
理由を教えてもなお、無様にのたうち回り暴れながら叫ぶ男は、俺の言葉の意味をまったくもって理解しない、いや理解したくないのだろう。
「おかしいだろうがぁぁあ!!!お前が死ねよぉォォお!!!!ファイヤーボール!ウォーターカッター!サンダーボルト!エアロアロー!なんで出ないんだよおおぉぉぉぉ!!!!!おかしいだろがああああああああ!!!!!!おまえしねよおおおおおおおお!!!!だれかおれをたすけろおおおおおおおおおおおお!!!」
折れていない方の腕をこちらに向け、何かゲームの魔法みたいな言葉を醜い悲鳴のように半狂乱で叫ぶ。
「お前は……、貴様の呪はここで終わりだ……。俺が、貴様を今!無に返す!それが俺が唯一同胞として貴様にしてやれるせめてもの慈悲だ!」
雑音の発生源でしかない男の頭に、俺の怒りの全てを込めて両手持ちで棍棒を振り下ろす。
その騒がしい頭蓋と頚椎を砕いて、この醜悪な物体に止めを刺した瞬間、辺りには酷く粘着質で鈍く重い音が響いて、呪持ちは絶命した。
「万が一転生出来たとしたら、次は呪に手を出そうとせずに真っ当に生きろッ!」
痙攣しながら崩れ落ち、黒い粘質な『何か』になって溶けていく男の成れの果に、渡されていた聖灰を撒く。
俺が浄化の祈りを捧げると、辺りに白い炎が燃え広がり呪を浄化していく。
その炎は高く、高く舞い上がり、呪に囚われた人々の魂を開放して、正しい輪廻へと導く灯火となる。
その中の一人、厄災達の被害者、洗脳で心を犯されて囚われていた少女が、こちらに微笑みを浮かべながら
「ありがとう」
と、呟いた。
「すまない……俺は間に合わなかったっ!君を……、みんなを助けられなかったッ!」
大切な人を守れず、零れ落ちて逝く人々を、見送る事しか出来ない無力さに胸が締め付けられる。
またあの時と同じように、俺の胸が悔しさで張り裂けまいと鋭く痛む。
「貴方は自分を責めてるのね……」
幼子を諭す母親のように優しく囁き微笑みを浮かべた。
「なら私ね……、貴方が幸せになれますようにって祈りながら逝くわ。それが私の願いであり祈りよ」
彼女が俺の頬に触れようと手を伸ばし、彼女の手は俺に触れられないままに静かに消えてゆく。
「だって貴方は私の魂の恩人ですもの……」
その全てが悲しくて俺の瞳に涙を溢れだし、彼女の笑顔が滲んでしまう。
その笑顔を守りたい。
「私の時間は残念だけどもう終わりみたい……、逝く前に出来ることなら貴方の涙を拭って上げたかったわ」
あの日、心から思った願いはもう叶わない、俺の小さ過ぎる手は彼女の全てを零してしまったのだ。
「でもそれは叶わないみたい、だからせめて私の代わりに貴方の涙を拭ってくれる人が現れる事も願わないといけないみたいね……」
薄れていく輪郭に少し困ったような微笑みを浮かべて、ゆっくりと彼女は消えてゆく。
その欠片が、彼女の存在が白い炎に連れられて、ゆっくりと静かに空へ高く高く舞い上がる。
「貴方の進む道の行末が、どうか幸せでありますように……」
最後にそんな優しい願いの言葉を残して、彼女の全てが何もなかったように消える。
白い炎は全ての呪を焼きつくしてその役目を終えて消えてゆく、そこには呪も彼女の存在もなにもない。
そこにあるのは置き去りにされた、俺の遣る瀬無さと虚しさと後悔の慟哭だけだった。




