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翌日の出来事

 翌日。

 キィ、と軋む音を立ててギルド内に入る。

 時刻は朝と昼のちょうど真ん中。

 俺がパーティ募集申請用紙へと書いた時間ピッタリだった。


「ふっふ~ん、流石は俺だ」


 まったく遅れていない。

 そのことを壁に掛けてある時計でも確認して気分が良くなる。

 幸先が良いって奴かな?


「うんうん」


 なんか良いことありそう。

 この先に行くのが少し楽しみだった。どんな子が来ているかワクワクする。

 ふんふん、と鼻歌交じりに歩いていく。

 すると誰も居ない受付でレジーチが暇そうにしているのを見つけた。


「お?おはよう、元気?」


「……」


「あれ?」


 返事がなかった。

 それどころかプイッと目を逸らされた。

 何で?

 もしかして元気じゃなかったのかな?

 首を傾げながら、レジーチの居る受付を通り過ぎていく。

 成る程……元気じゃなかったから、あえて返事をしなかった、ってことかな?

 うぅん、真面目だなぁ……

 頭の良い俺は言外の意図を察してしまった。

 別に大した意味なんかない挨拶で、どう返事したってよかったってのに……レジーチの口下手さと真面目さのせいとしか考えられなかった。

 頭の良い俺がその真実に辿り着くのはそう難しいことではなかった。

 だが、そこから俺は更に驚くべき事実に気が付いてしまった。


「レジーチって、もしかして……」


 その不器用とすら言える真面目さのせいで探究者から避けられているんじゃ?

 さっきだって暇そうにしていたし、間違いない。

 口下手なことが災いした悲劇だった。

 可哀想なことに、レジーチは探究者から誤解されているんだ。

 頭が良すぎるというのは考えもので、こういった嫌なことまで分かってしまうのだった。


「うぅん、そっか……うん」


 これからは俺がちょくちょく話しかけてあげよう。

 心の中でひそかに決意する。

 そうすれば誤解も解けるしレジーチの口下手も解消される。いいことずくめだ。


「ふっふっ、流石は俺だ」


 素晴らしい思い付きに再びふんふんと鼻歌を歌いながら歩いていく。

 ほどなくしてパーティ加入希望者が待つ場所に辿り着いた。

 申請用紙の写しが張ってある簡素な掲示板の前。入り口付近にある申請用紙の原版がある掲示板はもう少し見栄えがよかったかな?

 この街ではまず人目に触れる入り口付近にまず張り出して、パーティ加入希望者はこちらに来るやり方をしているようだった。

 そして、加入希望者は加入を希望する申請用紙の写しがある前へと居る決まり。

 

 昔オーベンのギルドでおっさんがそんなこと言ってたっけ?


 探究者をはじめた頃に少しだけ聞いたことを思い出しながらジッと掲示板の方を見る。

 するとそこには―


「あれ?」


 闇色の全身鎧に身を包んだ大柄な奴が一人。

 体格も身長も俺より上でどっからどう見ても男で……


「……可愛い、女の子は?」


 きょろきょろと辺りを見回してしまう。

 けれど、誰も居ない。

 俺が募集をした可愛い女の子が居るべき場所では……顔までフルフェイスで覆った、肌が一部も見えない鎧の男が堂々とで存在感を撒き散らしていて


 おぉ、カッコいい……


 堂々とした佇まい、泰然自若としたその姿に少し見惚れてしまう。

 が、意味が分からなかった。


 男? 何で男しか居ないの?


 募集したのって可愛い女の子なんだけど……何で?


 とはいえ、このままというわけにもいかない。

 とりあえずコミュニケーションを図ることとした。

 まずは笑顔が一番、和やかに会話しなくちゃね。 


「やぁ、あんた一人?他に人は?」


「……」


「あれ?」


 なんてこと思ったけど、反応がなかった。

 ちょっとだけ待ってみるけれど、それでも何も返ってこない。

 鎧男は腕を組んだ姿勢のまま、俯いた顔すら動かすことがなかった。

 

 見間違え、したかな?


 首を傾げ掲示板を確認する。

 でも、やっぱり鎧男は俺のパーティ募集の前に居て……となると、話しかけられてることに気付かったのかな?


「お~い!あんただよ、あんた!俺が話しかけてんのは」


 ちょっぴり声を張り上げる。


「お~い!聞こえてる?」


「……」


「お~い!お・お・い!」


「…………」


 それでもやっぱり反応がなかった。


 これは……もしかして、耳が聞こえない人? 


 そこで、ガシャッと金属音が響いた。


「我に、何か用か?」


 金属同士を響き合わせたかのような無機質な、不思議な声。


 か、カッコいい……

  

 生き物が発したものとはとても思えない声に圧倒されてしまう。

 身に纏う全身鎧も相まって、もうズルいほど格好良かった。


「何者だ?お前は」


 今度、俺もやってみたい。

 そんなことを考えている間に、鎧男から訝しげに質問をされる。

 そんな様も格好良かった。


「あぁ、悪い悪い。俺、ソージ・ファーマニス、あんたの後ろにある申請用紙を書いた人だよ」


「何?お前が?」


……あれ?あそこに張ってあるのは写しだから、元を書いた人が正しい?


 振って湧いた疑問に頭を悩ませているうちに鎧男が驚いたような声を上げる。

 それから鎧男は「そうか、お前が……」と納得するように呟いて、顔を上げた。


「我はザイラスだ、以降よろしく頼む」


「ん、おお、じゃあやっぱり俺とパーティを組みたいってことでよかったんだ」


「何を言っている?当たり前ではないか、張り紙の前に居るだろう?」


「あっはは、そうだよね」


 少し刺々しく聞こえる鎧男―ザイラスの声に、俺はウンウンと頷く。

 やっぱり俺は間違っていなかった。

 ちょっと気分が良くなる。俺に限って見間違えなんかあるわけない。

 反応がなかったのは聞こえていなかっただけだったということに違いなかった、うん。

 ちょっと前のモヤモヤがなくなって、更に気分が良くなる。

 ザイラスから何か刺々しいことを言われた気がするけれど、それもまったく気にならなかった。


「うん、じゃあザイラス。これからよろしくな」


「…………何やら肩透かしを食らったように感じるのは我だけか?」


「え?何それ?肩の鎧でも外れた?」


「むぅ、そういうことではないが……まぁいい、よろしく頼むぞソージ」


 よく分からない物言いに首を傾げながら、俺はザイラスの言葉に頷く。

 肩透かし、何を言っているのか分からないけれど『まぁいい』って言ってるんだからいいんだろう。

 きっと大したことじゃない。


「で、ここに居るのはザイラス一人?他に人は?」


 気にしないことにしてザイラスへと質問をする。

 ザイラスはそれに重々しく頷いた。


「見ての通りだ。我が知る限りここには誰一人として来なかった」


「あ~、そうなのか……うん」


 その答えでもう大体のことが分かってしまった。

 というか昨日の時点で、そもそも分かっていた。レジーチが遠回しに伝えてきた通りだ。この街には『可愛い女の子』が居ないから。

 街で擦れ違った人たちを見た感じ『可愛い女の子』が結構多く居たように思えたんだけど……皆、謙虚なんだな。

 ちょっと困ることだった。


「はぁ……皆、そんな遠慮しなくていいのにな。ランクも実績も不問だって書いたのに、何でかなぁ」


「随分な物言いだな、ソージ。お前はそんなに偉いのか?」


「え?」


 いきなりの喧嘩腰な口調だった。

 何で?

 そう疑問に思うのも束の間、ザイラスが慌てて両の手を振った。


「いや、今のは違う。気にするな。我が言いたかったのは随分な上から目線でお前は何様だ、という……今のも違う、気にするな」


「えっ、うん、そう言うならそうするけど」


 二回も言わなくていいのに……しかもわざわざ言い直してまで。

 気にするなっていうから気にしないけど……どうもモヤモヤする。

 でも考え込んでいるうちにザイラスの方は落ち着きを取り戻したらしく、腕組をしながら無機質な声を発した。


「ソージ、我が言いたかったことの続きだが……人が来ないのは明らかに別の要因だろう」


「えっ?そうなの?」


「うむ、少し考えれば、否、考えずとも分かることだ」


 ガシャリと鎧が嵩む音がする。

 考えなくても分かること。

 ザイラスはそう言うけれど、俺はその言葉に少し考えてしまった。

 別の要因。つまり……今ここにザイラス以外居ないのは『可愛い女の子』が街に居ないからじゃないということ。

 そこまで出ればザイラスの言う通り、頭の良い俺にはその先が『考えるまでもなく』分かった。

 

 女の子は待ち合わせに遅れて来る。



「あぁ、成程……」 


 真実は分かったけど、少し困る。

 俺には待っていられるような時間の余裕などなかった。

 金が、無い。


「……どうするかな」


「どうにも出来ないのではないか?」


 即座に茶々が入る。

 でも確かにザイラスの言う通りだった。遅れて来るのはまだ俺が姿も知らない『可愛い女の子』が自分でやっていることなんだ、どうすることも出来ない。

 探究者的な観点からすれば、そんな時間も守れないような奴はさっさと見捨てるのが当然なわけなんだけど……正直、惜しい。

 待っていれば『可愛い女の子』が来るんだ、惜しくないわけがなかった。


「くっ……」


 グッと奥歯を噛みしめて、苦渋の決断をする。

 こうなったら仕方なかった。


「とりあえず、あと少しだけ他に誰か来ないか待とう……そうだなぁ、時計が鳴ったら受付へ行こう」


「うむ、分かった。無駄だと思うがな」


 ぼやくように言って、ザイラスは壁に背をもたれる。

 その姿は歴戦の戦士を彷彿とさせる堂に入った仕草だった。

 その全身鎧の中には屈強な肉体が隠されていることを否が応でも連想させる。

 それに俺は、答えはもう大体分かっているけれど、思わずにはいられなかった。

 

 こいつ、何で俺のパーティ募集に来たんだろう?



…………………


…………


 針が動く。

 静けさゆえに際立つその音を俺はただ座って耳にする。

 俺とザイラスはただ黙って椅子に座り、時間の経過に身を任せていた。

 誰も来る気配もしなければ、足音もしない。

 そのことに少しばかり気落ちしながら、俺はチラリとザイラスの方を見た。

 カッコいい……カッコいい鎧姿だ。

 闇色の全身鎧-鋭角的ながらも局所に流麗な曲線を持つそれは、人を妖しく惹きつける危険な美術品を思わせる。

 その魅惑の鎧は俺が今まで見たどんな鎧とも似た部分がなく、どんな鎧よりも威圧感を受ける、そんな力ある品であった。


 これって、多分……いいや、十中八九一品ものだな


 俺にも覚えがあるから確信出来た。

 職人に頼み込んで作ってもらった特注品。それが容易に分かるほどザイラスの纏う全身鎧は洗練されていた。

 オーベンの武器屋で聞いたことがある。

 普通、職人が手ずから作ったとしても武具・防具の形状というものはある程度共通した型がある。

 それは万人に広く売り出すための普遍性を持たせたものであり、数多く売るための策略。色々と職人たちの特色を出すにしても、その前提としてある程度同じくらいの性能が得られないと大勢に対しては売れないからだ。

 職人にだって生活がある、売れる物を作るのは当たり前のこと。

 一人が求める物よりも、大勢が求める物を。

 それが大抵の職人がやっていくための常識だ。

 そして、そのようなものほど無骨で無難なものになる。

 そんなことをおっさんが言っていたのを思い出しながら、俺はザイラスから視線を外した。


「ふぅ~ん……」


 一品もの、か。

 ってことはやっぱ、腕に自信があるってことかな?


「何だ?その辛気臭い声は」


 ぼんやり考えているところに、ザイラスから無機質な声で問い質される。

 金属を響かせるような無機質な音。


「いや、何でもないけど……」


「ふむ、そうか」


 あっさりと納得して押し黙る。

 そんなザイラスをーーそんなザイラスが着ている鎧を見て、俺は背にある相棒の柄を軽く握った。

 俺の相棒……昔、使う武器に困って武器屋のおっさん、いや、正確には二軒目の武器屋に居るドワーフのおっさんに頼み込んで作ってもらった特注品だ。いつも俺が入り浸って話を聞いていた一軒目の武器屋に居るおっさんは「そんなもん作れるか!」と言って突っぱねたから……いけない、思い出したらちょっと嫌な気分になってきた。

 す~はぁ~、と軽く深呼吸をして気持ちを沈める。

 落ち着いたところで俺はまたザイラスの方へと視線を戻した。

 明らかに一品ものの、特別な鎧に身を包む大柄な男。

 こんな奴が『可愛い女の子』を募集した俺のパーティに加わろうとする理由は、考えずとも分かることだった。


 そう、こいつも『可愛い女の子』がたくさん集まるであろう俺のパーティに入ることで『可愛い女の子』と仲良くなりたいのだ。


 ハァ……とため息を吐きたい衝動に駆られる。

 俺も男だ、そんなザイラスの気持ちは分かる。でも、『可愛い女の子』を募集したというのに来たのが男だけだなんて。

 なんだかとても切なかった。


「ソージ、時間だ」


 溜息を噛み殺していると、ガシャと鎧が動く音がする。

 同時に時計が鳴る音がした。ザイラスが少し沈んだ気分で頭を抱える俺を見ている。


「あぁ、もうか……早いな」


「うむ、鳴るまで三つほどだったからな。こんなものだ」


 ザイラスが仰々しく頷く。

 周りには俺たち以外、誰も居なかった。

 そう、誰も……


「残念ながらお前の策は無駄に終わったというわけだ、だから言っただろう?無駄だと思うが、とな」


 追い打ちをかけるように、俺が考えている途中にザイラスが言い放つ。

 やけに喧嘩腰な言いぐさだけど言っていることは大体正しかった。何とも言えない。

 モヤモヤとした気持ちを吐き出すように、息を深く吐いて、固まった身体をほぐす。


「まぁ……来なかったものはしょうがないよなぁ。流石に時間が短かったかな?」


「ふっ、冗談を言う。きっといくら待てども誰も来ぬ、我の予想ではな」


「えっ?そうかな?流石に誰か一人くらいは来ると思うけど……」


 やたらと確信に満ちたザイラスの言葉に、尻すぼみになってしまう。

 実のところ、俺にあんまり女の子と話したことがなかったから、女の子のことは良く分からなかった。

 こうも自信満々に言い切られると、何か俺の知らないことを知っているんじゃないかって気分になる。

 いくら頭の良い俺でも知らないことはどうしようもなかった。


「うぅん……でもまぁ、それはそれとして誰も来なかったらザイラスも困るだろ?二人だけじゃ寂しいし」


「む?我は別に構わんぞ、二人だろうと特段不自由は感じぬ」


「あ、そう?」


 強がりだなぁ……ザイラスだってハーレム目当てなのに。

 ここに居る理由をとっくに見抜いている俺としてはそんな言葉しか浮かんでこない。

 でも、強がりってのも悪いことじゃなかった。

 悪い状況でも前を向いていようっていうことだから。

 俺にはザイラスの気持ちが簡単に分かった。『可愛い女の子』に囲まれたいという仲間同士だからかもしれない。

 少なくとも落ち込んでいるよりかはよっぽどいいことは俺にも分かっていた。


「うん。よし、じゃあとりあえず受付に行ってパーティとしての登録を済ませよう。で、その後は俺たちでも受けられるクエストを……あぁ、そういえばザイラスってランクは?俺は昨日ここで再登録したからランクは最下級なんだ」


「む、そうか。奇遇だな、我も昨日登録をしたばかりゆえ最下級だ」


「お、そうなんだ。じゃ、俺達でも受けられる最下級クエストを受領だな」


 方針は決まった。

 まずはこつこつと出来ることから、そうすればその内に『可愛い女の子』も入ってくるはず……これが最善の方法。

 異論もないらしくザイラスがゆっくりと頷いて、ガシャッと重々しく立ち上がる。


「うむ、我としても特に文句はない。何分、こういったことは初めてなのでな。よろしく頼む」


「あぁ……そういやさっき、昨日『登録』って言ってたからザイラスはこの街で初めて探究者になったんだな」


「うむ、そうなる。ランクや実績は不問、なのだから特に問題なかろう?」


「うん、そこだけ取り上げるんだったら……確かに何も問題はない、ね」


「ふふふ、うむ、そうだろう」


 俺の言葉にザイラスが満足げに呟く。

 ランクや実績は不問、それは確かに俺が申請用紙へと書いた言葉だった。

 その点だけで言えば、確かに問題は無い。

 問題は、ないんだけど……募集をしていたのは『可愛い女の子』

 どうしても微妙な気分になるのを止められない。

 が、そんな俺にザイラスは念を押すように口を開いた。


「分かってはいるだろうが、くれぐれもよろしく頼むぞ?その、出来る限り優しくな」


「あぁ、うん」


 初めてのパーティ、ということで自信がないんだろう。

 今までの経験をしっかりと頭の中で蓄えている俺にはすぐに当たりが付いた。

 とはいえ、実のところ俺もクエストの関係で何だかんだで二人や三人で行動をしたことはあるがパーティを組むのは初めてなので、大したことは言えない。


「まぁ、なんだろ?とりあえず二人で頑張ってこうよ。そうしていれば、そのうちきっと『可愛い女の子』も入ってくれるはずだしね!」


「うむ、そうか……」


「……あれ?」


 ザイラスが歯切れ悪く言葉を濁す。

 精一杯の言葉をかけたというのに反応はとても薄かった。

 こいつだって『可愛い女の子』を求めてやってきたはずなのに……?

 そこで、ザイラスの無機質な声が響いた。


「ソージよ、現在の状況はお前の望みとは遠く離れたものだろうな。だが、我が居るのだ。そんなに気を落とすな」


「………」


 もしかして、慰めてくれている?

 ザイラスの言葉に、俺は言葉を無くしてしまう。

 

 こいつ、何ていい奴なんだろう……


 俺はちょっと泣きそうになった。


 ○ ▽ ○


 受付。

 レジーチが仏頂面で書類へとペンを走らせていた。


「……はい、これでパーティ申請は受理されました」


「ああ、ありがと」


 お礼を言って、レジーチへ頷く。

 これで最下級ランクパーティが誕生した。

 これからばんばんクエストを受けなきゃ。


「じゃ、俺はこれで」


「いえ、まだ行かないでください」


 すぐザイラスのところへ戻ろうとしたところでレジーチに引き留められる。

 その手には一枚の紙が握られていた。


「ん?何それ?まだ何かあるの?」


「はい、申請者はバ……コホン、ソージ・ファーマニスさんですのでパーティのリーダーであるソージさんは、最後にパーティの名前を決めてください」


 返ってきたのは、説明的で事務的な堅い物言いだった。

 パーティの名前、ね。


 うぅん、それにしてももう知らない仲じゃないんだからもうちょっと気安くてもいいのに……不器用だなぁ


 軽く苦笑をしながら、俺はレジーチの差し出した紙を取る。

 その紙には俺の名前とザイラスの名前、それから二人のランクとパーティとしてのランクが書かれていた。

 ランクはどれも最下級の白、一番上は空欄になっていた。

 俺はレジーチからペンを受け取って、少し考える。


「ふぅんん、名前か、さて」


 といっても咄嗟には出てこない。

 俺はザイラスに「ちょっとこっち来て」と手振りで伝えた。


「何だ?何か問題でもあったのか?」


「あぁ、それは大丈夫、特に問題はないよ。パーティの名前を決めろってさ。ザイラスは何かある?」


「いや、我からは無い。ソージが決めろ、我はそれに従う」


 それだけ言って、ザイラスは元の位置に戻っていく。

 即答だった、迷う素振りなど一度も無い。

 格好いい……けど、俺が決めろって言われただけだった。

 相談した意味がなくて、ちょっと困ってしまう。


「うぅん……格好いい名前に……いや、こういうの変に気取ると人が寄ってこない、かな?」


 悩みながらもさらさらとパーティ名を書いていく。

 まず一番の目標を考えて、俺はありのままを空欄部分にそのまま記入した。


パーティ名『ザイラスと俺』


 書き終えた紙をハイとレジーチへと渡す。


「じゃ、これでおねがい」


「はい、わかりまし……」


 途中で言葉が途切れる。

 レジーチは一瞬だけ手をプルプルと震わせ、それから俺のほうを見た。


「これで、いいんですか?」


「うん、もちろん」


 俺が書いたというのに一体何の確認なんだろ?

 思わず、首を傾げてしまう。 

 が、そこで俺は何か『別の意図があるんじゃないか』と気が付いた。


「もしかして、何か問題あった?その名前じゃ申請通らないの?」


「いえ、そういったことはありませんが」


「あれ?そうなの」


 外れた。

 困ったように言うレジーチに、少し肩透かしを食らう。

 てっきり、遠回しに名前を変更してほしいと言っているのだと思ったが……幾ら俺の頭が良くても限界はある。

 今回に至っては流石にどういうことなのか俺でも良く分からなかった。


「……あの、ソージさん?本当にこの名前でよろしいのですね?」


「うん、もちろん」


 再度、確認をとるレジーチに力強く頷く。

 それにレジーチは諦めたような顔した。


「分かりました……これで大丈夫なら、これで登録をします。パーティ名の変更には特に制約はありませんので、いつでもお申し付けください」


「あぁ、わかった。ありがとう」


 渋々といった表情で書類の処理をするレジーチの元を後にする。

 その態度の意味するところ、レジーチは何も言わなかったけれど俺には分かった。

 発言の意図を汲むことができなかった俺を責めているのだ。

 ちょっとばかり良心が痛む。

 とはいえ、分からなかったものは仕方がないので頭の片隅へと追いやる。 

 

 まぁ、次だよ次、次がんばろう


 俺は終わったことは引きずらない前向きな男なのだ。

 だから、俺はこれからのことを考えながらザイラスの元へ向かった。


「終わったぞ~、ザイラス。クエスト受けに行こう」


「む、そうか」


 俺の言葉に、背を預けていた壁から離れこちらへと向かってくる。

 歩くたびにガシャガシャと重たげな音が鳴っていた。


「して、ソージよ。結局どのような名前にしたのだ?」


「ん?パーティ名?『ザイラスと俺』」


「む?『ザイラ・ストーレ』?……ふむ、よく分からん名だな。何か意味があるのか?」


「へ?意味も何も、名前の通りだよ」


「そうか……悪いが、我には分からん名だな」


 憮然と、無機質な声で頭を捻るザイラスを眺めながら、歩いていく。

 分からないわけはないと思うんだけど……何か勘違いしてるのかな?

 ソージに仲間が出来た、というお話でした。

 しかし、出来上がったものを見直すと直す箇所が幾つも見当たりますね。割と自信を持って、これでよしなんて思っても首を傾げる場所が後から後から……まだまだレベルを上げられる余地がある、素敵な発見ですねw でも人から指摘されると凹むという


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