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偉大なパンケーキ

甘党には至高の食べ物

 パンケーキは偉大だ。

 生地自体に甘みが無いからサラダを添えて食事にもなるし、蜂蜜やホイップクリームを添えればデザートに様変わりする。

 第一見た目が可愛らしいから子供が嬉しそうに食べる。

 作り方も複雑では無いから、我が家では昼食の定番だ。



「ニア、そろそろ良いと思うんだけど」

「だめ!まだまぜるの!」

 ニアがたどたどしく生地を混ぜる光景を後ろから覗く。

 ボウルの中の生地は十分混ざり合っていて、もういい加減焼きの工程に入りたいのだけれど、ニアがボウルを抱き込んで離さない。

 ちょっと前まで赤ん坊だったのに家事の手伝いができるまで成長したのだな、と感慨深くなるのだけれど、いかんせん乱暴に混ぜるので生地がボウルからはみ出してテーブルを汚している。

 お手伝いしてくれるのは有り難いのだけれどこれじゃあ二度手間になるのだよな。

 こんなことになるなら、サンドウィッチにして具材を挟んで貰ったほうが後片付けが楽だったのかもしれない。

 そんなことを思っていることはニアには内緒だ。





 やっとニアも満足したのか生地の入ったボウルを手放したので、焼きの工程に移る。

 ボクがフライパンを温め始めると、ニアが足元にしがみ付いてきた。

「ニアもやくー」

「火は危ないから駄目だよ」

「むー」

「見るだけね」

 ボクはダイニングの椅子を引き寄せて、ニアをその上に乗せる。

 こうすればニアにもパンケーキの焼ける場面を見せることが出来る。


 生地を流してしばらくして、表面がブツブツとなってきた。

 パンケーキの難しいところは焼きの工程だと思う。

 タイミングによって焼き色が変わってしまうので、美味しそうな見た目にするのが難しい。

「ねー、パパ」

「うん?」

「ニアは4まいたべるのよ」

「え?そんなに食べられるの?」

「4さいになったから4まいたべるの!」

 4歳だからって4枚食べる必要無いと思うのだけど。

 その法則に従うならボクは35枚食べなくてはならなくなるじゃないか。

 ボクは表面がブツブツになった生地をひっくり返した。


 うん。上手く焼けている。





「飾りつけはニアがやってね」

「わーい」

 飾りつけはニアにしてもらうことにした。

 先程の飛び散った生地を拭き取ったテーブルに果物やチョコレート、生クリームを入れた皿を置く。

 本当は昼食だから野菜とかの方が良いのかもしれないけれど、今回は特別にデザート仕様。

 ニアの前には大きなパンケーキと、少し小さめのパンケーキ。

 4枚食べるのは流石に多すぎたから、いつもより大きいパンケーキを焼くことで妥協してもらった。

 ニアが夢中で果物を盛り付けているのを尻目に、ボクは窓の外を見た。

 

 清々しい程の快晴。小さな白い雲がぽつぽつと小島になって空を泳いでいく。

 長閑だ。

 こうやって穏やかな気持ちで空を見る事が出来るなんて、なんだか不思議だ。

 きっとニアと一緒にこの集落で暮らすようになって、心に余裕が出来たからなのだと思う。



「できた!」

「どれどれ」

 ボクはニアの横からパンケーキを見る。

 小さなパンケーキを見ると、上の方を生クリームで覆って、真ん中周辺にはチョコレートが3つ逆三角形を描くように置かれている。下の方には薄く切ったリンゴの赤い部分。

「ニアのかお!」

「よく似てるね」

 自分の顔をパンケーキに描いていたらしい。銀髪を生クリーム、ブラウンの眼をチョコレートで表現していて中々上手くできている。

「大きなほうはパパだよ!」

 大きい方を見ると小さい方と同じような配置をしてあって、髪の毛を模した部分には蜂蜜、眼を模した部分には葡萄がつけられていた。

 ボクの髪の毛の薄茶色と、紫の眼を見事に表現している。

「パパそっくり!」

「うん、ありがとう」

 ボクは半ば無意識に右目を覆っていた右手を退けて、大きなパンケーキの乗った皿を引き寄せた。

 

 

 ニアの前に置かれたニアの顔をしたパンケーキも、ボクの目の前に置かれたボクの顔をしたパンケーキも穏やかに微笑んでいる。

 できれば、いつまでもこのパンケーキのように笑顔で2人過ごしていきたい。


「じゃあ、いただきます」

「いただきまーす!」

 食事の挨拶もそこそこに自分の顔をしたパンケーキに躊躇なく齧り付くニアに、半ば呆れつつ。

「おいしい?」

「うん!」

 ボクの問いかけに満面の笑みで答えるニアを見て、ボクの顔も思わず笑顔になる。

 自分の顔を食べるなんて、ちょっと躊躇したけれど口に入れてみる。


 おいしい。


 人を笑顔にできるパンケーキは、やっぱり偉大だった。

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