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虹と飛行船

「パパ!お空におふねがうかんでる!」


 夕刻。ボクが夕飯の支度をしていると、庭で遊んでいたニアが家の中に駆け込んできた。

 夕飯作りを中断して庭に出てみると、遥か上空に複数の船。

 飛行船だ。


「ひこうせん?」

「そうだよ。懐かしいなぁ」

 本当に懐かしい。

 4年前魔王を倒すため冒険している時に、飛行船を乗り回していたことを思い出した。

 その時の飛行船は仲間の所有物で、今も現役で活躍していると聞いている。

 ボクは比較的酔いにくいタイプだったから良かったけれど、勇者に至っては常に青い顔していたっけ。

 

 それにしても、この辺を飛行船が通っているのは珍しい。

 もしかして何かあったのだろうかと思ったけれど、飛行船の帆を見て、それが商人の船だということに気が付いた。

 勇者がこの間遊びに来ていた時に、王都の商人が飛行船を使った魔境の見学ツアーを計画していると言っていたから、その一環なのだろう。

 かつては空にも魔物が出現して無暗に飛行できなかったのが、今は魔物の数も激減して安全になったからだそうだ。

 平和になったんだな、なんて他人事のように思っていたけれど、実際に目の当たりにすると実感がわき始める。

 ボク達が頑張ったから、こんなに世界が平和になったんだって。



「ひこうせんすごいねぇ」

「そうだね」

「パパはひこうせんのったことある?」

「あるよ」

「すごーい。ニアもお空とびたいな」

 パタパタと両腕を上下に動かしながらニアは笑う。

 機会があれば、仲間の飛行船に乗せてあげても良いかもしれない。

 ボクは、今どこの空を飛んでいるか分からない神出鬼没な仲間の事を考えた。


「ニアねぇ。おそらとべるようになったら行きたいところがあるのよ」

「ふーん、どこ?」

「それはねぇ」

 ニアがふふんと胸を張る。


「ママのところ!」


 以前ニアに、ママは今どこにいるのか、と聞かれたことがあった。

 いつか質問が来るとは思っていたけれど、急に言い始めたから驚いてしまった。

 理由を聞いてみたら、単純で。

 鍛冶屋のジムにはパパとママがいるのに、どうして自分にはパパしかいないのか、というところからだったらしい。

 ボクは考え込んでしまった。

 今の時世、両親がそろっている家族というのはとても珍しい。

 たいていは父親を魔族との戦争で亡くしているパターンが多いけれど、病気で早くに親が亡くなることもある。

 でも、ニアにはどのように伝えていいか迷ってしまう。

 ニアは魔王の娘だけれど、ボクは実際に魔王にしか対峙した事が無いため、ニアの母親の事は知らない。

 魔王と同じように死んでしまったのだろうか、行方不明になってしまったのだろうか、その辺も定かではない。

 結果的に、ボクの妻メリアと同じように亡くなったことにしてしまったのだけど。


『ニアのママはね、死んじゃったんだ』

『しんじゃったってなあに?』

『虹の向こうに行っちゃって、帰ってこられなくなっちゃうんだよ』

『ふーん』

『生き物は死んじゃうと、虹の向こうに行っちゃうんだ』

『パパもニアも?』

『………そうだね』


 ふとボクが考え付いた嘘を信じてしまったニアが、その後しばらく虹を見るたびに怯えていたっけ。

 帰ってこれないと言ったのに、何故行きたいと考えるのだろう。


「ママにあいたいの」

「………」

「パパもニアもいないから、きっとさみしがってるよね」

「………そうだね」

 ニアはニアなりに、母親の事を思っているみたいだった。

「でも、虹の向こうに行ったらパパもニアも帰ってこられないよ?」

「そんなことないよー」

 ニアに即座に否定されてしまった。


「だってパパは、むりっていわれてたのにマオウをたおしたでしょ?」

「……っ」

「じまんのパパねって、レーネおねえちゃんがいってたよ」


 無邪気にニアが言い放った一言が、とても重い。

 だって、魔王はニアの実の父親だ。それをボク達が倒してしまった。

 この罪はボクが死ぬまで背負わなくてはいけない。

 ニアが実の父親が魔王だと知ったらどう思うのだろう。

 自分の父親だと思っていた相手が実の父親を殺したなんて。

 きっとニアが知ったらボクを恨むだろう。でも、それでも構わない。

 下手したら殺されるかもしれないが、ボクの罪だ。甘んじて受ける覚悟だ。


「それにおじーちゃんも、世の中にむりなことはないっていってたの」

「………」

「いつかママにあいにいこうね、パパ!」

「………うん」


 ニアには真実を伝えることが出来ない。

 それはボクのエゴだ。正しいことではない。

 それでも、今のこの生活が愛おしくて仕方がない。

 だから、ボクは今日もニアに嘘をつき続ける。



 この先の事は、ボクにも分からないけれど、いつか来る終わりの日がずっと先でありますように。



 ボクは、そう願ってしまうのだ。

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