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人には優しくするもんだよね

茂みの中から熊が出てきた。”熊”というより”くまのぬいぐるみ”である。

「わぁ、くまたんだよ!」マシィがガスマスクをはずし駆け寄ろうとすると急いでレオナルドはそれを制止した。

「待て!くまのぬいぐるみが森で二足歩行だぞ!おかしすぎるだろ。」レオナルドの一声にあぁそうかと我に返る。この世の中は色んなものが混在している。もしかしたら何かの呪術、罠かもしれない。二人は警戒しつつそれの様子を窺った。するとその”くまのぬいぐるみ”は鼻をくんくんさせるとゆっくりとマシィが作ったきのこスープの小ナベへと歩いていった。

「れおたん、あの子おなかがすいてるのかなぁ。」”くまのぬいぐるみ”はじーっと小ナベを見ている。

「”くまのぬいぐるみ”がおなかなんてすくのか?」レオナルドが怪訝そうに眉を歪めると「すくよぉ。ほら、あの有名な黄色いくまさんだってハチミツ美味しそうに食べてるじゃない。」そういうとマシィはレオナルドの左手にあるきのこスープを取り”くまのぬいぐるみ”に渡そうと近づいた。危ないと止めるレオナルドを気にせず”くまのぬいぐるみ”の前に差し出す。するとそれを数秒間じーつと見つめるとおもむろにお椀を取ってきのこスープを一気に飲み干してしまった。

キラキラした目で見つめるマシィ。大丈夫か?と様子を窺うレオナルド。”くまのぬいぐるみ”はお椀を空にすると小ナベのスープも全部飲み干してしまった。軽くしゃくりをあげてモフモフしたおなかを擦っている。

「うわーめちゃかわいいー」うっとりしつつもそれを流れるようにマシィは記録している。するとポテッと”くまのぬいぐるみ”が横になった。

「く!やはりやばかったか!」助けに駆け寄ろうとするとマシィが止めた。「ちがうよれおたん!まったりしてるんだよ。」え?とよくよく見ると”くまのぬいぐるみ”はその場でごろごろしたりおなかをさすったりしている。手足をゆらゆらしている様子をマシィはうっとり見ているようだ。こんなほのぼのした様子を見るとレオナルドもいつの間にやら気が抜けていた。気がつくとマシィは一緒に横になっている。

「おいマシィ、そんなところで横になってたら風邪ひくぞ。」マシィへと歩こうとした瞬間レオナルドはガクッと膝をついてしまった。”!!力が入らない。しまった!術にかかったのか?!”マシィを見ると目は夢うつつである。なんとかマシィに近づこうとするも力は抜けてもうろうとするばかりだ。するとさっきまでごろごろしていた”くまのぬいぐるみ”がマシィの前に立っていた。マシィの元へ行こうとするもレオナルドはその場に倒れこんでしまい、ただ起こる事を見るしかない。

”くまのぬいぐるみ”は背中のファスナーを下ろすとそこから虹色の光が溢れ出していた。夢心地のマシィを掴むと勢いよく中につっこんでしまった!もうろうとするレオナルドの目の前にももふもふした足が止まる。声を出す間もなくレオナルドも背中の光の中に押し込まれてしまった。「うわー!」辺りは目まぐるしく色が変わり、落ちるような、飛ぶような、あるいは自分が歪むような感覚である。レオナルドは気がつけば無我夢中で先にいるマシィの足を掴んだ瞬間。”!!”ドサドサ

「あいたたたー。」どこかに体が落ち着いたようである。体をさするとゆっくりとマシィはじょうたいを起こした。すると眼下には町並みが広がっている。とっさに立ち上がりポシェットから双眼鏡を取り出して町の建物を確認しだした。「都だ。都があるよ!」双眼鏡を覗きながら驚いているマシィの下でもごもご動き出す。「とりあえず退いてくれ。」


地図と照らし合わせても合致する。どうやら二人は都の前まで飛ばされたらしい。狐につままれたような感覚。二人とも顎に手を当て考え出した。「もしかしたら・・・」先に口を開いたのはマシィだった。「もしかしたらあのくまたん”動くワープゾーン”だったのかもね。」「動くワープゾーン!?」レオナルドが大きな声をだす。「うん、昔の書物とか先人の日記とかでね熊に食べられたはずの村人がどこかから帰ってきたとか、穴から放り出されて気がついたら行きたい場所にいた、みたいなこと書いてあったのを見たことあるんだよ。幻術とか夢じゃないかって言われてるんだけど、人によっては”動くワープゾーン”なんじゃないかって捉えてた人もいて・・・でも確証のない話だから仮説でしかないんだけどね。」めずらしくしっかりした感じに話すマシィにも今起きたことにも驚いているレオナルドがようやくきり返す。「よくわからんが、あの”くまのぬいぐるみ”は悪いやつじゃなかったってことか?」「んー断定はまだできないけど、悪い子ではないんじゃないかな。もしかしたらきのこスープのお礼をしてくれたのかもしれないよ。」


にこにこしながら言っているマシィを見るとそれが本当はどうであれそれにしておこうという気持ちになった。

二人はまだ夢を見ているかのようにふわふわしている。


今日は旅を続けるにはもう遅い。


二人は明日都を目指すことにした。

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