咎の剣士
「シュウが強くなるために死んでくれ♪」
煉は一足飛びで不知火へと近付くとそのままの勢いで心臓を貫こうとする。
誰が見ても不知火が死んだと思った。当の本人も死んだと思ったのだろう。だから、思わず声素っ頓狂な声が出てしまった。
「ふぇ!?」
「何て声出してるんだよ」
「い、いや、まさか生きているとは思わなくて・・・」
「そうか。煉。俺は、お前を止める。これ以上、俺の目の前で誰かを傷付けさせない!」
不知火の胸に突き刺さるほんの手前で煉の刀は止まっている。いや、正確には止められたのだ。集が高速の刀の腹を横から素手で掴んで止めた。
煉は集の手を払いのけると訝しげに集をじっと見る。
「シュウ~。鬼神化はどうしたんだ?」
「鬼神化はもうしない。俺はもう鬼にはならないんだ」
「何言ってやがる!? 鬼神化しないだぁ~? だったら、てめぇの価値なんて一切ねぇじゃねぇか!
俺がどれだけ苦労したと思ってる?
鬼神化するシュウと戦うためだけに霧崎 朱里を死に追いやり、うるさい外野の神無共を殺したんだ。分かるか? 俺は、鬼神化したお前と戦いたいんだ!
あぁ、戦いたい戦いたい戦いたい!! 飢えてるんだよ。俺の血が肉が飢えてるんだ。求めてる。強き者との戦いを、一歩間違えれば死ぬという戦いを!!
なのに、だ。お前は鬼神化をしないという。鬼神化しなきゃただのクソッタレな雑魚のクセにだ!
クソがクソがクソが!! あぁ、もういいや。さっさと殺して戻るか。いい加減帰らないとあいつ怒ってきそうだしな~。楽しみが無い以上はいても仕方ねぇし。だから、死ね」
またしても神速の剣技で煉は集に斬りかかる。先ほどまでいた場所から瞬時に集の目の前に現れると上段からの斬り。常人なら死んでしまうような一撃。
だが、集は顔色一つ変えない。
「神無流 流水」
流れる水を相手にするが如く煉の太刀筋は集を捉えずに地面を抉る。何度試しても集を斬ることが出来ない。
「何がどうなってやがる・・・」
「まさか・・・! 集、君はマナを乱しているのか? そんなことが出来るはずが!」
「そのまさかだよ。神無流は魔に携わる全てに触れることが出来る。例え、それが空気中に漂うマナであってもだ」
世界の魔法使用量は年々増え続けている。しかし、空気中のマナが減ることは一向に無くならない。それはなぜか。マナが魔法を使用した際に出るカスだからだ。
魔法を使用するためにマナが必要だが、魔法を使用すれば必要なマナが放出される。この循環の中で今の世代は生きている。
だったら、その流れを乱された時、人はどうなるのか。呼吸のリズムを狂わされたように何もかもが狂う。
そして、全ての感覚までもが麻痺してしまうのだ。
「だから、煉は俺を捉えたと思っていても実際には捉えていなくて俺を斬れないでいたんだ」
「そんな技があるだと・・・! 神無の連中は使ってこなかったのに!」
「使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。その場には十分なマナが漂ってなかったからな。だけど、今は違う。不知火が魔法を打った影響でマナが満ちている」
集は刀を構えると煉へと攻撃を仕掛ける。煉は刀でその攻撃を受け止めるが、余裕だった表情が一変してしまう。
「今度は・・・一体どうなってる!?」
「煉の魔力を俺が奪ったんだ。神無には無い俺の技だ」
「魔力を奪うだと・・・。何がどうなってるんだ・・・」
煉は思わず膝を付いてしまう。魔力欠乏症。魔力の急激な減少によって体の機能が低下してしまう危険な状態のことだ。
それを意図的に集は起こしたのだ。本来ではあり得ない事を。
「俺は、魔法を使おうと努力をしていた。だが、何をやってもうまくはいくことは無かった。なぜなら、俺には魔力が存在して無かったんだ」
「魔力が無い? だが、私が見た限りだと魔法を使えていたと思うが」
「あれは、姉弟子の魔力が俺の中に残っていたんだ。それを俺は使って魔法を使っていたに過ぎない。だから、魔力が少なくなってきたら魔法は使えない」
「魔力が集の中に残っていた? 一体どういうことなんだ?」
「俺は―――姉弟子を殺した時に咎を背負ったんだ。それは罰でもある。俺は、魔力炉を姉弟子を殺した時に出てきた鬼によって傷付けられた。そして、魔力を生成することが出来なくなったんだ。その時に姉弟子の魔力が俺の魔力炉に入って残ったんだ。
魔力炉はあっても魔力を生成出来ない。魔法を使うことが全ての現代でそれは地獄に等しい。ま、俺は使いたいけど使えないって事実を知って、そうだったのかって納得出来たけど」
「そんな軽い物ではないだろう! 魔法を使いたいと憧れていたんだろう? 君は!」
「そうだよ。けど、使えないとは言ってない。俺が新たに得た力は相手の魔力を奪うことともう一つある。空気中にあるマナを魔力に変換して自らの物にすることが出来る。
みんなが自動的に回復する魔力を俺は供給する術を用いなければいけない。まぁ、だからこそ魔力を大量に使う魔法とかは使えないんだけどな」
「人と戦っている時にイチャイチャしてんじゃねぇ!! 魔力欠乏症? 空気中にあるマナを乱す? それがどうした。
そんなことを感じない圧倒的強さを持ってお前を倒ス」
先ほどまで弱々しかった煉は力強く立ち上がる。魔力欠乏症で苦しんでいた先ほどまでとは明らかに様子が違う。そのことに集は不知火の前へと出て構える。
「お前も知っているはずだ。魔法の起源を」
「悪魔だっけか・・・」
「そうダ。・・・見せてやろう。悪魔の力を!!」
煉は力を貯めるとその力を解放する。そこに現れたのは漆黒の翼を持った今までの煉とは違う何かであった。
「この力は・・・」
「はぁ~・・・。もうお前の技は一切効かない」
姿が消えたかと思うと集の目の前に突然と現れて斬りつける。それを受け止める。そして、集は魔力を吸収しようとするが、諦める。
「ぐっ・・・この魔力はさすがにまずいか」
「人間が蓄積していた魔力とは違った魔の者の魔力はどうだ? 人間の魔力炉では耐え切れまい。いくぞ!」
力を得た集ですら悪魔となった煉の攻撃を防御するので手一杯といった様子であった。不知火はそれをただ見ることしか出来ない。それがどうしようもなく悔しかった。
「私は何も出来ないのか・・・」
「不知火。お前の最上級の魔法で何とかならないか?」
いつの間にか不知火の横にまで来ていた集が不知火に問う。
「一番最上級の魔法だったら何とかなりそうだが・・・。魔力が圧倒的に足りないんだ」
「だったらこれならどうだ?」
集は不知火に手を向けると蒼い魔力を放つ。それは、不知火を包み込む。
「魔力が回復している!? しかも、最大値を超えて魔力が回復した! これだったら発動出来なかった魔法も発動出来る!」
「うし! それじゃあ、いっちょ悪魔退治といきますか!」
「ああ! お前が信じた魔法の可能性という奴を見せてやろう」
「頼んだぜ! パートナー!!」
集は不知火が魔法を放つまでの時間を稼ぐために煉へと走り出す。悪魔となった煉を止めるために集と不知火は2人で戦う。




