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明日へ

「なるほど。魔法の原初か。それは、誰も触れて来なかったことだな。なぜだか分かるかい?」

「うーん・・・未知の物だから触れたくなかったとか?」

「ふっ。人はそんなに臆病ではないよ。人間の知的好奇心は時に道から外れたとしても満たそうとする。それほど業が深いのが人間さ」

「では、何で誰もが調べなかったのですか?」

「調べはした。だが、誰も何も分からなかったんだ。あと、調べた結果として行方不明になるものが多くいたのも一つの原因だろう。

 触らぬ神に祟りなしという訳ではないが魔法の原初に携わることを世界が禁止したんだ。それからは誰もがそれに触れようともしていなかった。

 いや、正確には表では触れようとしたなかっただな」

「表では?」

「そう。裏では世界が常に魔法の研究を推し進めて来ていたんだ。考えてもみたまえ。兵器として運用が出来る魔法を国が放っておくと思うかい?

 自国で研究してそれを独占することが出来たらどの国よりも優位に立てると考えるのが普通だ。そうして、100年余り各国が裏で研究を続けているのが現状という訳さ」

「そうなんですね。では、もう一つだけ。魔法が兵器として生まれた訳を知っていますか? 俺は、ある知り合いから悪魔に対抗するためと聞いたのですが」

「・・・ふぅん。なるほどねー。そうか、君が彼女の選んだ依代という訳になるのか。そういえば、君の名前をここまで聞いて無かったね。名前は?」

「神無 集です」

「神無だって・・・? あの退魔剣士として有名なあの神無かい?」

「えっと・・・そうですね。けど、俺はあの家を追い出された身なので」

「そうか。いらないことを聞いてしまったね。魔法が生まれた訳だったか。そう、それは確かに悪魔を倒すために生み出された兵器だ。

 私たち魔法が生まれた世代を新世代、魔法が無い科学のみがあった世代を旧世代と呼ぶのは知っているね?」

 そうだ。俺たち新世代は旧世代には無かった器官が体内に存在する。魔力炉。体内で魔力を精製することが出来るその器官を新世代全ての人間が持っていて空気中のマナと結合することで魔法が発動されるという訳だ。

「その新世代と旧世代の境目には空白の100年が存在する。どうだ? 面白くなってきただろう」

 茜さんは悪い笑みを浮かべている。新世代と旧世代との間に空白の100年が存在するなんて聞いたことが無かった。まさかその間に何かあったのか?

「その空白の期間は国のトップシークレットとされていて普通の人間では見ることが許されない。だが、私の腕なら見ることが出来る。

 どうする? 見てみるかい? と言ってもほとんど情報はないような物だと思うがね。何も資料も情報もない期間を知ることなんて出来はしない。だから、上っ面の情報だけならあるだろう」

「見てみたいです。それを俺は知るべきだと思うので」

「いいだろう。では、こちらの席へ来たまえ」

 俺は茜さんの隣へと席を移動する。そして、茜さんは背中に背負っていた鞄からパソコンを取り出すとキーボードを叩き始める。

 すぐに国の最高機密が眠っている場所へと辿り着いた。

「これが空白の期間があるとされる場所だ。私も見る気は無かったからここまで来るのは始めてだよ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 おや、これは―――まさか!」

「そんなことって・・・」

 俺と茜さんが見た資料には何も載ってはいなかったのだ。真っ白なファイルがただ1つだけあるだけでそこにも何も書かれていない。ファイル名は悪魔再誕とだけされていた。

 不気味なファイルに茜さんも俺も固まってパソコンの画面を見ていた。だが、次の瞬間に驚きの光景が起きる。

『見ているんだろう? 橘 茜、並びに神無 集。君たちがこのファイルにたどり着くのは想定済みだ。だが、まだ時期が早い。

 君たちにはまだやるべきことがあるはずだ。それを済ませる必要がある。それこそが我々にとって必要なことであり、君たちにも必要なことだ。

 そうそう、不知火 楓にも伝えておいてくれたまえ。約束の時間はもうすぐだから、と。聖魔杯で待っているよ』

 真っ白なファイルに次々と浮かび上がる文字に俺たちは困惑する。事前に打ち込まれた物ではなくこれがリアルタイムで打ち込まれた文章であるからだ。

『あ、君たちがここまで来たプレゼントを用意しておいたのを忘れていたよ。まぁ、皆に渡しているプレゼントなんだけどね。

 勘のいい君たちなら分かるだろうが。それでは、生きていたら聖魔杯で会おう。神無 集。世界が生き残るがどうかは君と楓の戦いにかかっている』

 その文章と同時にファイルを閲覧していたのが強制的に落とされる。プレゼント? 一体なんだそりゃ。

「・・・逃げた方がいいね。この文章が言っていたプレゼントとは―――」

「お客様。コーヒーのおかわりをお持ちしました」

 俺は突然現れた店員に視線を向ける。店員の片目がカウントダウンを刻んでいた。何だこれは? まさか・・・!

 俺は茜さんを抱きかかえると縮地の要領で一気にその場から離れる。ガラスを突き破って外に出ると元の場所を確認する。

 お客様ー! と店員が追って来ようとする。しかし、目のカウントダウンが0になった瞬間に人間だった物は爆弾となって店を跡形もなく吹き飛ばした。

「なんて奴らだ! 人間を爆弾として利用するなんて!」

「すまない。集くん助かったよ。それが、あいつらのやり方なのさ」

「あいつら? 茜さんは知ってるんですか?」

「ああ。けど、君はこの先を知らない方がいい。真っ当な人生を送れなくなるからな。それにだ、文章の先の奴が言っていたように君にはやることがあるのじゃないか?

 聖魔杯。そこで全ての点が繋がることになる。全てを知るためにはそれで勝つ必要が出てきたな」

「ええ。何としても勝ちます。人間を平気で殺すような奴らを俺は絶対に許しません」

 俺は決意を新たにしてその場を後にする。事後処理は私がやっておくからと茜さんが言ってくれたので、俺は不知火のところへと一目散に向かった。

 聖魔杯・・・。一体そこで何が起こるって言うんだ。


「やれやれ。まさかここまで派手にやるとは思わなかったよ。私が死んだらどうする気だったんだい?」

「それは無いだろ。夢幻の魔術師様ならな」

「私にもどうにもならないことはあるさ。まぁ、どうにもならないと思ったことは一度たりともないがね」

「さすがだな。それで? 神無家の落ちこぼれはどうだった? 使えそうか?」

「あのままでは使えないだろう。だが、ポテンシャルは大いに感じた。あれなら悲願を達成出来るだろう」

「そうか。なら、さっさと撤収するぞ。人が来たら厄介だ」

 そうだねと橘 茜は返事をする。先ほどまでの少女だった茜はそこにはいない。24歳相応の姿の女性がそこにはいた。

 黒髪をなびかせ爆発現場に冷たい視線を送る。黒のドレスから除く艶めかしい足に男であれば誰もが虜になるであろう。そして、その瞳から発せられる感情無き視線によって男は完全に落ちる。

 夢幻―――夢、幻の如く彼女は魔法によって姿を変える。もう、本来の彼女の姿は忘れてしまっている。

 世界の歯車はくるくると動き出す。ゆっくりとゆっくりと・・・。

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