用件
部屋の電話が鳴り、私は受話器を取った。電話向こうの男が言う。
「私、ワンダーキャスト株式会社の塚田と申しますが、ご主人様はご在宅でしょうか」
どうやらセールスの電話らしい。
「いや、主人ならいないよ…」
私は適当にあしらい、電話を切ろうとするが、塚田と名乗る男も食い下がる。
「失礼ですが、ご子息様ですか?」
「…用件は何だ」
私の問いかけには構わず、塚田は続ける。
「ご主人様は何時頃ご帰宅されますか?」
「用件を聞いているんだ」
「ご主人…」
ガチャ。
埒のあかない塚田との電話を一方的に切った。
ご主人ご主人とバカの一つ覚えのように…、あいつは何を考えているのだ。曲がりなりにもセールスマンだろ。奴はもう少し礼節を学ぶべきだ。
「電話、誰から?」
ソファに座っている、この家の家主である女性が私に聞いた。
「セールスだったよ」
「そう。最近、セールスの電話が多くて嫌ね」
と、うんざりな様子の女性の膝の上に、猫の私は飛び乗り、大きくあくびをした。