生け贄は?
これは、あるパーティーの話だ。
それは、秋のことだった。街はハロウィンに向けて準備をしていた。怖いお化けの人形を飾ったり、パンプキンを顔の形に切り抜き玄関前や店の前においている風景が広がった。
そんな中、カイヤという男がリンという愛する彼女と友人に招かれて舞踏会に参加する事になった。それもハロウィンパーティーとして。
カイヤとリンは、スーツとドレスを買いに行った。カイヤは、リンのお気に入りの色の赤いネクタイをスーツと一緒に買い、リンはカイヤのお気に入りの色の水色のドレスと一緒に髪飾りを買った。
2人が外に出ると街の人達が何かに怯えていた。
「一体、何があったんだ?」
と街の1人に聞くと、
「ま…魔女だ。魔女が現れた!!悪魔と共に…あそこで…。」
と指を指した。そこは、今日行われるハロウィンパーティーの会場のお城だ。
「そんな!」
とリンは、口に手をおさえ、倒れそうになった。カイヤは、彼女の肩を支えた。その瞬間、目の前に緑色の煙が立ち込もり、中に女の人がたっていた。
「私の名は、エヴィーナ。今宵、この城で悪魔の儀式を行う。だが、その前にどうやらパーティーを開くらしい。だから、その中の1人を生け贄にし、儀式を行う。参加するものは1人残らず来い!!!来なければ即生け贄決定だ。」
と言って女は、消えた。
「リン、大丈夫か?リン!」
とカイヤが言うとリンははっとしたかのように起き上がり、
「大丈夫よ、カイヤ。心配かけてごめんなさいね。」
と言って起き上がった。
家に帰る頃には、ちょうどパーティーが始まる一時間前だった。カイヤはリンのことが心配になり、彼女の部屋に向かった。
「リン、大丈夫か?今日のパーティー、無理しなくていいぞ。生け贄には、俺がなるから」
とカイヤが言うとリンは、部屋から出てきて、カイヤに抱きついた。
「あなたを失うのは、絶対いや。だから一緒にいる。パーティーも出るわ。」
と言った。カイヤは、リンの顔を手で優しく包み、涙を拭い、キスをした。
「リンがそういうなら行こう。支度を始める。」
とカイヤは、リンに微笑みかけ、急いでスーツに着替えに行った。
リンも水色のドレスと髪飾りを取り出し、着替え始めた。
カイヤは、外でリンを待っていた。
「カイヤ、かっこいいね。」
とリンは、後ろから言った。カイヤが振り向くととても美しくきれいになったリンがいた。
「リンもとてもきれいだよ。」
とカイヤは、言い、リンの手を軽くキスをした。
「行きましょう。もうすぐパーティーが始まっちゃうわ」
とリンが言い、二人はパーティー会場である城に向かった。
中に入ると豪華なシャンデリアにオーケストラによる美しい音色が響き渡っていた。
「カイヤ、リン、ようこそ。待っていたよ。」
とカイヤの友人であり、主催者であるアレクが言った。
「アレク、久しぶり。」
とカイヤは、アレクに握手をした。
「今のところ何も起きていない。多分、城に入ったのは見間違えだろう。」
とアレクは、言った。
アレクと一旦別れ、ホールに向かった。天井は高く、もう踊っている人が多かった。
「お花が踊っているみたい。私たちも踊りましょ?」
とリンが言い、カイヤと共に踊った。二人は目を見つめ合い、幸せな一時を過ごしていた。だが、一曲終わろうとしたとき、急に明かりが消え、外で雷が鳴った。
「なんだ?」
と人々はざわついた。リンはカイヤの腕にしがみついた。カイヤはリンを抱きしめていた。そのとき、扉が開き、猛烈な風が吹き込み、魔女が現れた。
「どうやら、全員来たようだな。では、始めようか…」
と魔女が何か呪文を唱えた。すると頭上に何かが現れた。
「さぁ、まずは女を魅了する男に変えてやろう。さあ、どうなるかな?」
と頭上のものをスラッと身長の高い男に変えた。それは、女が好みそうな顔立ちだった。
「かっこいい…」
と男たちから離れ、その男の元へ走った。中には
「離れろ!あんたなんか嫌いよ!」
と先程まで仲良く踊っていた男に言う女もいた。カイヤは、リンも行ってしまうのではないかと不安になった。すると、リンは、カイヤの手を握りしめ
「言ったでしょ?一緒にいるって。」
とリンが言った。カイヤは、強く握り返し離れないようにした。それを見た魔女は、舌打ちをし、
「なら!男も魅了する女を出そう!」
と魔女が言い、頭上のものを女に変えた。それもまた、男が好みそうな顔立ちだった。男達は、女の方へ駆け寄った。
リンは、カイヤの様子をうかがった。だが、カイヤも行こうとせず、リンにくっついていた。
「ふん!ならこいつらを生け贄にしよう!」
と言い、先程までの男と女を悪魔に変え、寄ってきた者を食っていった。
「そこの2人は、なぜ離れないのだ!!」
と魔女は言った。
「見てわからないのか?愛しているからだよ。」
とカイヤは言った。
「そんな愛などすぐ壊せる。じゃあ、こうしよう。どちらかの命を奪おう。そうすれば食った奴らを返してやろう。」
と言った。カイヤは、リンの顔を見た。そしてリンの腕をそっと解き、魔女に近づいた。
「俺のを奪えよ。」
とカイヤが言った。
「ならあの女のことを嫌いになれ。そしてあの女もお前のことを嫌いにさせろ!」
と魔女は、言った。カイヤは、振り向いた。リンは、涙を必死にこらえていた。
「リン…。」
とカイヤが弱くつぶやくと、
「あんたなんて嫌いよ。そもそもあんたがこの舞踏会に参加するなんて言わなかったらここまでにならなかったのよ。」
とリンが言った。そして、
「あんたなんていなくなればいい。消えて!あたしは、別の男の所に行くわ!」
とカイヤに言った。カイヤは、ショックを受けた。
「ほーら!彼女もそういってるぞ!愛なんて2人にはなかったんだよ!」
と魔女は、カイヤをバカにしたように笑った。
「早く殺せよ!」
とカイヤは、魔女に言った。
「惨めね」
と魔女が言うと、カイヤの心臓辺りに長い爪をあて、呪文を唱えた。するとカイヤは、苦しみ始めた。
「さようなら」
と言うと魔女が消えると同時にカイヤの息も止まった。そして明かりはつき、食われたものもいつの間にか、元に戻っていた。そして何事もなかったようにしていたが、カイヤが倒れていたことに驚きを隠せなかった。
リンは、カイヤの元へ駆け寄った。彼の体は氷のように冷え切っていた。
「カイヤ…。ごめんなさい…。行かないで…。カイヤ…」
とリンは、泣いた。そしてリンは、カイヤにキスをした。そのとき、
カイヤの心臓から黒い影が出てきた。
「苦しい…止めろ、止めろ」
と叫びながら空へと飛んで行ってしまった。そして、
「うぅ…」
とカイヤがうめいた。
「カイヤ?」
とリンが声をかけるとカイヤは目を覚めて、
「泣くな、リン」
とそっと手をリンに添えた。
「カイヤ!」
とリンは、泣き叫んだ。周りからも拍手が起きた。カイヤは、立ち上がり、リンをきつく抱きしめた。
「ごめんなさい…」
とリンが何か言おうとしたがカイヤがキスをし、
「リンの本音じゃないことだってわかるよ?心配しなくていい。さあ、踊ろう!」
とカイヤは、優しくリンの手を握り、また美しい音色の中、二人は踊り始めた。
だが、誰も気づかなかった。そこに、アレクがいないことに…
その後、リンとカイヤの話が広まった。真の愛が魔女にも悪魔にも弱いと言い伝えられるようにもなった。
それ以来、魔女も悪魔も現れなくなった。
それは、アレクが生け贄、儀式を終えたからである。
死の儀式を…。