1話目
よろしくお願いします。
『君の隣で愛を囁く』というアニメを、皆さんはご存知だろうか。
乙女ゲーを原作としているので勿論主人公は女。舞台は中世ヨーロッパの街並みが広がるファンタジー世界だ。
主人公はとある出来事によりとある魔法学院を運営している学長に才能を見出され、ほぼ無理矢理魔法学院へと入学し、更に魔法学院の生徒自治組織『生徒会』に無理矢理入らされる事となる。
しかも、その生徒会のメンバーは主人公を抜かして全員が男。その全員がイケメンであるとなれば、主人公の動揺ぶりは容易に想像がつく。
太ましいど根性で何とか状況に適応してみせた主人公。主人公の真っすぐな瞳と正直な性格に、最初は否定的だったイケメン達も次第に心を開いていく。そして主人公はイケメン達と、時には喧嘩して、時には笑い合いながら、最高の思い出を作り上げていくのだ。
そして最終的には世界を滅ぼす存在である『魔王』と戦い、世界に平和をもたらすのである。
というのが、『君の隣で愛を囁く』というアニメの主なストーリーなのだ。
まあ、中々面白い。が、のめり込む程ではない。というのが、男である俺のこのアニメに対する総評だった。
ストーリーも結構急展開が多かったし、ご都合主義も多かった。作画やキャラクターデザインは中々目を見張るものはあったが、もうちょっとしっかりした脚本を求めたい所だ。
だが、主人公ちゃんや悪役である『カタリナ・フォーゼ』ちゃんが可愛かったのでその分は良かったと思う。イケメン達?はっ、ヤローはどっか行ってろよ。
と、ここで何故男の俺が乙女アニメを見て、尚かつ感想を頭の中で整理しているかと言うと。
まず勘違いしないで欲しいのは、俺は決してそっちのケはない。ホモぉな性癖は持ち合わせていないのでそこの所は理解しておいてほしい。俺が好きなのは勿論女の子だ。ぼいんよりもぺたんの方が好きな、ちょっとロリコン気質な所もあるが、まあ大方一般的な部類…だと思う。普通、だよね?
俺がこのアニメを見たのは、高校の先輩に強要されたのが原因だ。週末、何時も通りとっとと帰ろうとしていた俺だったが、たちまちのうちに知り合いの女の先輩に捕まえられた。そして二の句も告げない内に『君の隣で愛を囁く』のDVD版全てを押し付けられ、「見ないとち◯こもいじゃうから♪」という恐ろしい事を宣って去っていった。嵐の様な女とはまさにあいつの事だ。
去り際に『感想を400字以上でまとめてくる事!絶対だよ!』という言葉を頂いていたのだが、流石に文章にするのは億劫だったので頭の中で出来るだけ感想をまとめているというのが現状だった。
ちなみに、俺が一番好きなキャラクターは悪役である『カタリナ・フォーゼ』たんである。カタリナたんマジ天使マジ。
黒い長髪にまん丸い碧眼。薄桃色の頬に桜色の唇、小振りな鼻。何時もゴスロリチックなドレスを身に纏い、不敵そうに笑う。そして何よりも慎ましやかな胸!ちっぱい!中学生にしか見えない小柄な身体が尚良し!
端的に言うならば、俺のドストライクゾーンにホームランでハートを鷲掴みにされたのだ。カタリナたんマジ天使マジ。
カタリナたんは作中で悪役として描かれている。主人公ちゃんを虐めて虐めて虐め抜いて、主人公ちゃんとイケメン達のイベントを邪魔しまくって、最終的に死んでしまう典型的な悪役だ。アニメでもそうだったので原作の乙女ゲーでもそうなのだろうとちょいと調べてみた。
アニメでのカタリナたんは、主人公をいじめていじめていじめ抜いた挙げ句、悪魔に魂を売って主人公を殺そうとして返り討ち、悪魔に捕われて永久に悪魔に陵辱されつづけるという最悪のエンドだったのだ。
そんなの許せなかったので、乙女ゲーの数多に分岐するあらすじを全てチェックしたのだが。
結果的に言うと、カタリナたんは全てのルートにおいて死亡エンドを迎えていた。
時には魔物達に陵辱を受けて死亡。爆殺されて死亡。憐れに財産を全て失い路頭に迷い餓死。主人公に殺される。イケメン達に殺される。魔王に殺される…等々。ルートの数だけカタリナたんは死んでいた。何故。
この部分だけは不満たらたらで、ストーリー抜きで評価するなら最低ランクのFを烙印できる程だ。まあ主人公ちゃんも結構可愛かったので現時点での評価はCであるが。
俺は諦めきれず、ならばネットに投稿されている二次小説や同人誌ではどうかと調べ漁った。
が、結果は惨敗。二次小説ではやっぱり同じ様に、もしくは更にむごたらしく殺されて、同人誌では全て陵辱されている。一体どうしてだってばよ。
原因は明確だ。それほどカタリナたんは惨い方法で主人公を虐め抜いたのである。
内容は省くが、それはそれはもの凄い猛攻だったらしい。アニメではかなり加減して描かれていたが、それでも俺ですら軽く引くレベルの酷さだった。かなり加減してそれなのだから、原作ではもっと凄い事を主人公はされたのだろう。そりゃ同人誌でも二次小説でも陵辱するだろう。可愛かったので俺は全部許したが。
だが、やっぱりお姉様方はカタリナたん死すべし慈悲は無い状態だったらしく、ネットでのカタリナたんの総評は『カタリナ死んだwwざまぁ』、『カタリナマジうざい。殺しても殺し足りない』、『制作者は何故こんな不快な存在を作り上げたのか…』などなど色々と酷かった。
なのにキャラクターデザインはもの凄く可愛かったので、そりゃ陵辱同人誌作家達の絶好のカモにもなりますよ。ちくしょう。
カタリナたん…ああ、なんて可哀想な…。まだ年端も行かない少女には余りにも惨すぎる運命だ。なんて言ったってどの世界線でも死んでしまうなんて…カタリナたんどうしてすぐ死んでしまうん…?
俺は学校へ向かう途中で、先輩にカタリナたんへの愛をいかに語り、そしてカタリナたんへの意識を変えさせられるか思考していた。何としてでもカタリナたんへの愛を伝えなければならない。男には引けない戦いがあるのだ(キリッ)。
学校前の交差点に辿り着き、俺は信号が青信号になったので道路を渡る。頭の中ではカタリナたんの魅力と擁護点などをリストアップしてまとめあげ、いかなる答えでも確実に答えられる様に整理していた。この暑く燃え上がるパトスを伝える為には、一体どうすれば良いのだろう。ああ、カタリナたん…。
そんな俺の思考は、突如空気を裂く様に響き渡った騒音に瓦解された。
(えっ…)
何が起こったのかと辺りを見回そうとして、俺は右側、つまり車の進行車線に視線を固定した。
巨大な鉄の塊が迫って来ていた。
否、それはただのトラック。だが、その時の俺にとってはこれ以上にない必殺の処刑道具。
(カタリナたん…最後に、君の笑顔を見たかった…)
そう思った所で、俺の意識は途切れた。




