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アニラブ-animal love-  作者: もふじ
日本狼編
9/11

日本狼編 出会い

今回は友情(友愛)のお話です。

 ある暑い暑い夏の日。太陽はギラギラと輝いて、森を明るく照らし、道には葉と葉の間から差し込んでくる太陽の光のおかげで、影の芸術ができている。木々からは、音楽のように葉擦れの音、鳥の声が聞こえてくる。他の動物たちの声も。俺は木の枝に座って、両耳に手を当て、自然の音楽を聴く。

 今日もいい音だ。

 音を聞いていると、遠くから声が聞こえてきた。その声は少しずつ近づいてくる。

 この声は……、人間の子供!?

 俺は慌てて木から飛び降り、その場から逃げようとする。

 ……いや、待て。何で逃げる必要があるんだ? その時のために、人に化けているのに……。

 俺は自分の手をジッと見つめる。肌色の皮に、五本の指、完璧に人間のものだ。それをグッと握りしめる。

 俺の本当の姿は人間ではなく、日本狼。日本狼は絶滅したと言われているが、本当はそうではない。自分の身を守るために人に化けて、身を隠しているのだ。この地域では狼は神として祀られて、狼は大切に扱われていた方らしいが、だからと言って、俺たちが目の前に現れても恐ろしくないということではないらしい。だから何度か猟銃で撃たれそうになったことも多々……。

 そんな恐ろしいのは、耐えられない。

 ブルッと身震いをさせると、俺はまた木に登って木に背中を任せ、枝に座る。子供の声がはっきりと聞こえるようになってきた。

 それにしても、何で人間の子供がこんな森の奥に……。

 俺はそんなことを思いながらも、ふわぁーと大きな欠伸をする。


「オオカミ様ー。オオカミ様いますかー?」

 !?

 俺はつい体を起こして、子供を見てしまう。子供の性別は男で、まだ10になったばかりくらいに見えた。手には市販の肉を持って、きょろきょろと周りを見渡しながら歩いている。

 ……何がしたいんだ、あいつ。親も何してんだよ、危なっかしい。あんなの狼じゃない奴も寄せ付けるぞ。今まで何で無事だったんだ。

 少年はちょうど俺のいる木の前で、ため息をついて立ち止まる。服で汗を拭った。俺は木の上から少年の持っている肉を見てみる。パックからは肉汁が溢れ出てきていた。きっと長い間、狼を探し回っていたのだろう。

 こいつ、何も考えずに進んでいるんじゃないだろうな。帰れないなんてことないだろうな? まあ、俺には関係ないか。暗くなり始めたら諦めるだろう。

 俺は少年から視線をそらし、もう一度昼寝をしようとする。少年は俺に気づくことなく、そのまま森の奥に進んでいく。また、大きな声で狼を呼び始めながら。子供の足取りだからか、とても遅く感じた。


 ……。



「おい」

 少年は驚いて、後ろを振り向いた。視線が合うと、少し沈黙が続く。少年は状況を理解していないようだが、俺はお構いなしに口を開く。


「何で狼を探してるんだ?」


「何で木の後ろに隠れているのですか?」

 しかも遠いと呆れたように俺を見ながら呟く。俺はゆっくり少年から顔ごと視線をそらす。

 俺と少年との距離は木の3本分、15mくらいだ。


「いいから、質問に答えろ」


 俺が顔を赤くさせながらも言うと、少年はあはっと笑顔を見せた。


「えっとですね、じいちゃんがいつもオオカミ様のおかげで畑が動物達にあらされないって言ってたので、お礼をしようと思いまして!」

 少年は肉を前に突き出して、弱々しい顔でふんわりと笑う。俺は少年の笑顔で少し安心して、恐る恐る少年の前に向かう。俺が目の前に立つと、少年はまた笑った。

 なんか、すぐに壊れてしまいそうなやつだな。 それに、ちっさい。

 俺は無意識で押し付けるように少年の頭を撫でる。すると、少年はすごく嬉しそうに笑みをこぼす。

 ……なんか腹立つ。

 俺は少年にデコピンをした。少年からしたら、理不尽だ。分かってはいるが、したくなった。

 少年は赤くなった額に手を当てて、不機嫌そうに頬を膨らませ、俺を見上げている。

 俺は他所を見ながら少年に向かって、手を差し伸べる。少年は首を傾げてその手を見つめてから、疑問の目をこちらに向けてくる。


「ほら、肉よこせ」


「え?」

 少年の手から肉の入ったパックを取って、一切れを口の中に入れる。少年はギョッとして、俺の服の袖をつかむ。


「だ、ダメですよ! それはオオカミ様のですし、人間が生で食べては!」

 少年はキュッと服を握り、肉を平然と食べている俺の様子を見て顔が青ざめっていく。俺は少年の様子を見て、少し考えてみる。

 さて、どう言えばいいのだろうか。人間の姿のままで狼だと言っても、信じてもらえないだろう。だからと言って、元の姿に戻るのも……違う気がする。

 考えていると、肉が飲み込めるサイズになってゴクンと飲み込む。少年はその様子を見て、余計に慌てて、吐いてくださいと言いながら俺の背中をバンバンと叩く。

 あー、面倒だな。


「いいんだ。 これは狼のための肉なんだろ?」

 俺はあぐらをかいて座り、仕方なく耳と尻尾だけ出して見せた。少年は、はっと驚いた様子を見せ、固まってしまう。

 ほら、実際会ってしまうと、皆怯えてしまうじゃないか。だから、人に化けていたのに……。こいつが、悪いんだからな。

 俺はもう一切れ、肉を口に入れる。


「オオカミ様だー!!!」

 少年は急に俺に飛びついてくる。

 うぐっ!!

 まだ肉を噛み切れていないのに、ゴクンと飲み込んでしまった。


「なっ、何をする!」


「オオカミ様ー、オオカミ様ー!」

 少年は満面の笑みで俺に抱き付いたままだった。俺は少年を離れさせようとするが、中々離れそうにない。

 何だよ、こいつ。変な奴。俺の正体が分かっても、こんな態度の奴は初めてだ。

 俺は諦めて、抱き付かれたまま、残りの肉を食べてしまう。


「美味しいですか? オオカミ様!」

 少年は俺が次々と肉を食べる様子を見て、目を輝かす。これに美味くないと言ったらどんな顔になるだろうか。まあ、美味い方だから言わないが、正直物足りない。


「……鹿の生肉の方が美味いな」

 少年は「鹿の生肉」と俺の言葉を復唱した。

 あ、さすがに怖がらせてしまったか。

 少年の方に視線を向けると、手を顎に添え、少し考えているように見えた。俺は黙ってその様子を見る。


「うーん、僕には鹿を捕まえることはできませんね。すみません」

 そう来るとは思っていなかった。俺は予想外の言葉につい苦笑いをしてしまう。

 こいつ、俺の予想を全て外してきやがる。まぁ、いやじゃないし、少し嬉しいかな。

 

 クスッ


「そりゃあ、子供には無理だ」

 俺はハハッと笑う。ですよねと少年は言って、照れた様子で頭をかく。

 まぁ、他の奴は死んでしまったり、出ていってしまったりして、俺ももう鹿は捕まえられないけどな。

 俺がため息をつくと、少年は不思議そうに首を傾げる。俺は誤魔化すように少年の頭を撫でる。


「少年、そろそろ帰れ。こんな森の奥に来てしまったら、帰るのは夕方になるぞ」

 少年が来た方向から考えて、村まで俺で約1時間かかる。人間の子供となると、もっとかかるだろう。

 というか、何時間狼を探していたんだ? 食べた肉も温かったし。

 少年は急に立ち上がって、自分が歩いてきた方を振り向く。少年は顔をサァッと青ざめさせながら、こちらを向く。


「帰り道、分かりません」


阿呆(あほう)め」

 俺が真顔で即答すると、少年はしゅんとなって俯く。俺は無造作に頭を掻きながら深いため息をついて、仕方ないなーと言いながら立つ。


「ついてこい、少年」

 俺は耳も尻尾も隠して、人間の住処に向かって歩き出す。少年はしばらく呆然として、俺の背中を見ていたが急いでついてきた。

 嫌な予感が当たってしまったか。

 チラッと少年の方に視線を向ける。少し笑みがこぼれていた。少年の笑顔を見ると面倒に思っている自分が阿呆のように感じてしまう。またボリボリと頭を掻く。

 ……まあ、いいけど。


「しかし、少年。お前はあまり見ない顔だな」


「へ? オオカミ様は人間の顔を覚えているのですか?」

 少年は首を傾げながら、俺を見上げる。少し声の抑揚が上がった気がする。あぁと返事をしながら頷く。


「森の見回りのついでに、ちょっとな」

 俺の言葉に少年はパァッと表情を明るくする。つい、予想外の反応に驚いてしまう。

 ……何故今ので喜ぶ。

 

「オオカミ様は森の見回りとかしてるのですね!」


「あ、あぁ……?」

 少年はさらに表情を明るくし、嬉しそうに、やはり! すごいなーと言って憧れの目線を向けてくる。

 こいつ、狼に期待しすぎなんじゃ……。狼にこの態度じゃ、他の動物の恐ろしさも全然分かっていないだろう。というか、森の恐ろしさなんて考えたことがないんだろうな。 分かっていたら、一人でこんな所来ないか……。

 ため息が出てしまう。


「僕、この夏からこっちで住むことになったんです」

 少年を見ると、少年はへなっと笑っていた。今まで何度もこの少年の笑顔を見せられていたが、今回のはいつもの笑顔よりぎこちなく見えた。何か隠し事をしているのだろう。別にそれはどうでもいいのだが……。

 こいつ、いつも笑って誤魔化してるな。

 この一瞬で分かった。いつもへらへらしているのは、本当につらい時などに笑えるようにするため。人間は本当に複雑な感情を持っていて、面倒だ。


「……まぁ、ここは空気もいいし悪くないところだ。いい生活を過ごせるだろう」


「え!? また、来てもいいんですか!?」


「え、そんなこと言ってな……」

 少年は俺の言葉を聞かずに、一人で盛り上がっている。この流れには一生ついていけないだろうと思った。俺は諦めて、深いため息をつく。

 全くこいつは……。

 俺は少年の興奮を止めるように、少年の頭の上に手を置く。


「言っておくが、俺のことは他の者には秘密だぞ? 少年」


「雪です!」

 少年は目を輝かせながら、ふんっと鼻を鳴らす。

 

「は?」

 急に冬の季語を出されて、困惑してしまう。少年は「だーかーらー」と言いながら、俺の方に1歩足を踏み出してくる。


「僕の名前! 雪って呼んでくださいよ! オオカミ様」

 くださいと口調では頼んでいる形だが、目というか少年の周りの空気からは言えと命令されている気分になった。深いため息をつく。

 全く、人間というものは我儘だな。


「……雪、内密にすると約束できるか?」


「はいっ!」

 雪は嬉しそうに笑顔を見せる。俺は前髪をかき上げて、雪を見る。

 後は……。


「そのオオカミ様もやめろ。お前以外に狼だとばれたら、厄介だからな」

 腕を組んで雪を見ると、雪は首を傾げた。


「でも、僕オオカミ様の名前知りません。教えてください」


「ない」

 俺の言葉に雪は呆然として、俺を見る。そして、ブルブルと首を振る。


「いや、ないはずがない! です!」

 雪に必死に迫られるが、俺は雪からサッと視線をそらす。


「知らん、あったかもしれんが忘れた。400年以上前の話だからな」


「え……」

 雪の動きが固まる。俺は雪を見て首を傾げ、雪の目の前で手を縦に振ってみる。まばたきすらしない。

 固まってしまった。どうしたものか……。

 俺が頬を掻いていると、雪は膝から崩れて、ぺたんと座り込んでしまう。

 俺は呆然として雪を見下ろすことしかできなかった。


「オオカミ様って、本当に大神様だったんだ」

 雪は両手で顔を包み、動揺しているのか何度もまばたきをしている。

 大神って……あぁ、そういえば400年前もそう呼ばれたっけな。急に老けなくなったと思ってたが、そういえば祀られた時からか。正直人間には興味がなさ過ぎて気づかなかった。ほー、なるほどね。大神のこともあって、こいつはやってきたということか。面倒なことをしてくれたもんだ。


「僕が名前を決めちゃってもいいのですか?」

 雪は慌てた様子を見せながら聞いてくる。今までとは違って、声は小さいし体に力が入っている。俺が人間に祀られている狼と知って、緊張しているのだろう。俺はハハッと笑う。


「今更何を焦ってるんだ? 別に構わん」

 雪は本当ですねとと言って照れくさそうに笑うと、楽しそうに考え始める。

 やっと、元通りか。手間かけさせられる。

 時間がかかりそうだから、歩きながら考えさせることにした。雪はブツブツと呟きながら歩いている。俺は周りを見渡しながら歩く。昼寝が少ないからか、何度もあくびが出てしまう。少し待つと、雪はハッと何かを思いついた様子を見せ、俺の裾を引っ張る。


「黒ってどうですか?」

 

「却下だ」


「えー!?」

 雪は肩を落とし、また名前を考え始める。

 何で時間をかけて出てきた名前が、黒なんだよ。

 俺は肩を震わせて、笑ってしまう。雪はぶすっと頬を膨らませてこちらを見ている。俺の首元を見て、あっと声をあげた。

 ?


夜月(やつき)! 夜月はどうですか?」


「黒から夜月とは、急に洗練されたな」

 黒でもいいんですよと言って、雪はじと目で俺を睨む。

 ははっ、これ以上は止めておいた方がいいようだ。


「最初は綺麗な黒色の髪だなと思って、その後は首元に月の痣があって……」

 俺は痣があるところに手を持っていく。

 あぁ、これか。これも、祀られるようになった時に……。痣で狼ってばれるかもしれないと思って、襟巻きで隠してたんだが……。よく見てるな。

 

「よし、じゃあこれから、夜月と呼べ」

 雪は嬉しそうに、大きく頷いた。

 これで、もうばれることはそうないか。

 少し考えながら歩いていると、村が見えてきた。村は夕日に照らされ、茜色に染められていた。

 ほぅ、やはり夕日は綺麗なものだな。

 雪は表情を明るくして、少し前を走っていく。


「む、村だ!」

 本当は不安だったのか、雪の瞳から涙がこぼれる。俺は、ふぅと息を吐く。

 まだガキだもんな。一人で森になんか入るからだ、阿呆め。


「雪、早く帰れ。心配してくれる人が待ってるんだろ?」

 雪は大きく頷いてニッコリ笑うと、村に向かって走っていく。夕日に照らせれて影を作りながら走っていく光景は芸術的だった。雪が遠くなっていくのを見ると、俺も帰ろうと村に背を向ける。その時、雪はあっと大きな声を出す。振り向くと雪の満面の笑みが見えた。


「オ……夜月様ー! 明日も会いましょうねー!」

 雪はそういうと、満足したのか俺の返事も聞かずに、さっさと走って帰ってしまった。


「嘘だろ?」

 俺は雪が消えていった方を見て立ち尽くすことしかできなかった。正直明日はゆっくり昼寝をしようと思っていた。頭をかいてから、ため息をつく。

 昼寝場所、もっと村に近いところにするか。

 俺は昼寝場所を探しながら森の奥へと帰るのであった。

友愛って兄弟の情愛でもあるんですね?! 


(冬なのに真夏の話。違和感)



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