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アニラブ-animal love-  作者: もふじ
うさぎ編
7/11

白うさぎ編

ある家で住んでいる真っ白なうさぎの物語。

 平日の3時半ごろ。その時間になると、私はいつも玄関に向かいます。


「ただいまー」

 その時間になると、大好きなお友達の利香ちゃんが小学校から帰ってきます。そして、私の姿を見ると嬉しそうに笑って抱っこをしてくれます。私は利香ちゃんの抱っこが大好きなのです。……それのために、待っているっていうのは利香ちゃんには秘密ですよ?


 でも、今日の利香ちゃんは少し元気がないです。いつもならもっと大きな声でただいまって言うし、私を抱っこするとすぐにランドセルを部屋に置きに行き、お友達と遊びに行きます。私としては、一緒に入れる時間が長くなるし嬉しいのですが、利香ちゃんの元気がないのは嫌です。

 どうしたの?

 私は利香ちゃんを見上げ、首を傾げる。利香ちゃんは少し寂しい顔を見せると、やっと自分の部屋にランドセルを置き、ベットに座った。


「あのね、アーちゃん。あたしね、涼太君と喧嘩しちゃったの」

 私の名前はアイと言います。利香ちゃんはアーちゃんとニックネームで呼んでくれているのです。

 涼太君というのは、利香ちゃんの好きな子です。普段の利香ちゃんは素直な子なんですが、涼太君の前だと素直になれないそうです。まぁ、素直になれなくても仲良くやっていたみたいですけど……。

 喧嘩しちゃったのか……。


 利香ちゃんの話では、涼太君はいつも冷静であまり感情を表情に出さないらしいのですが、今日は真顔で冷たいことを言われてカッとなってしまったそうです。涼太君にも悪気はないのでしょうけど、難しいですね……。


「今日、せっかくあそぼって言ってくれたのに。どうしよう」

 利香ちゃんはもう泣きそうな顔でお気に入りのスカートをギュッと握った。

 利香ちゃん……。

 私は利香ちゃんの膝から飛び降りて、玄関へ一目散に向かう。利香ちゃんは私の行動に驚きながらも後を追ってくる。


「アーちゃん、お外に行きたいの?」

 利香ちゃんは、玄関のドアの前で立ち止まって振り向く私を、首を傾げながら見る。

 私の声は利香ちゃんには届かなくて、伝えることができなくて、とてももどかしい時があります。今もそう。大丈夫だよって、きっと仲直りできるよって言ってあげたいのに伝えることができません。

 でも、何もできないわけじゃない。そばにいること、それに私をきっかけに仲直りもできるかもしれない。力になりたい。言葉を交わすことはできなくても、私はずっと利香ちゃんの友達だから……。

 利香ちゃんは、ひょいっと私を抱き上げてガチャっとドアを開ける。


「ママ! ちょっとアーちゃんとお散歩行ってくる!!」

 家を出ると利香ちゃんは走り出す。皆がよく遊んでいる公園を通り過ぎて、川沿いにある桜並木道。桜の花はもうすでに散っていて、緑の葉をつけている。桜並木の10本目の木のところに利香ちゃんと同じ年くらいの少年が立っていた。黒い短髪で、あまり表情が見えなくて少し目が鋭いけど、どこか優しそうに感じだ。利香ちゃんはその子を見るとピクッと立ち止まってしまう。

 あれが、涼太君か……。よしっ。

 私は利香ちゃんの腕からするりとすり抜け、涼太君の方へと走っていく。


「あ、アーちゃん!?」

 涼太君は利香ちゃんの声に反応して、私が涼太君の方に向かっているのに気付いた。私が涼太君の前につくと、涼太君は慣れた手つきで私を抱き上げる。

 近くから見ると、やっぱり表情は見えないけどとても優しく抱いてくれている。

 動物好きなのかな?


「こいつ、利香の?」

 涼太君が首を傾げると利香ちゃんはコクコクと頷く。すると、涼太君は私を利香ちゃんの腕の中に返す。利香ちゃんはギューッと私を強く抱きしめた。

 不安にさせてごめんね、利香ちゃん。でも、これでちゃんと仲直りできるかな?

 利香ちゃんは涼太君を見てゴクっと息を飲んでから、口を開く。体に力が入っていて、緊張しているのが伝わってくる。

 頑張れ、利香ちゃん。


「あ、あの、涼太君。……あの、学校でひどいこと言っちゃって、その……ごめんなさい」

 利香ちゃんはペコッと頭を下げる。涼太君は少し考える表情を見せてから、え?と首を傾げた。


「何で利香が謝るの?」


「へ?」

 涼太君の言葉に利香ちゃんは目を丸くして、首を傾げる。


「あれは、僕が冷たいこと言っちゃったから怒ったんでしょ? じゃあ利香は悪くないよ。僕の方こそごめん」

 涼太君は少し困ったように少し笑顔を見せる。利香ちゃんの手をキュッと握ると、ブンブンと首を横に振った。涼太君は安心したように息を吐くと近づいてきて、私の頭を優しく撫でくれた。やっぱり私を撫でているときの涼太君は表情が柔らかくなる。

 やっぱり動物が好きなのかな?


「僕の家にもうさぎがいるんだ。黒いうさぎ」


「……そ、そうなの!? 見たい!! また、涼太君のうさぎ抱っこさせて!」

 利香ちゃんの目がパァッと輝く。涼太君はやっぱり笑ったりはしないけど、いいよと優しい声で答えてくれる。利香ちゃんは嬉しそうに笑う。涼太君は真顔のまま、グッと拳を握ってよしっと小さくつぶやいた。

 ……あれ?


「どうしたの?」


「いや、何でもない」

 涼太君は不思議そうに見る利香ちゃんからふいっと視線をそらした。涼太君は私たちから背を向けて、ポリポリと頬をかいている。耳が少し赤い。

 もしかして、もしかして!! 涼太君も利香ちゃんのこと好きだったりして……。


 ま、まさかの両想い!?


 これは、希望が見えてきました。利香ちゃん、頑張って!!


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