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アニラブ-animal love-  作者: もふじ
第1章 狐編
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狐編 下ーanother storyー

蓮が酔って、眠ってしまう。


でも、蓮の優しさに心を打たれる菫であった。

 お客さんは入れ替わっていて、空は茜色に染まった。窓から光が入ってきて、店の中も茜色に染められる。

 私は仕事は終わって、蓮君を見に行くとまだ気持ちよさそうに眠っていた。

 よく眠ってる。きっと疲れちゃったっていうのもあるよね。

 私は蓮君の向かいの席に座って、蓮君と同じようにテーブルにうつ伏せになる。蓮君の手に当たってしまい、戻そうとするとキュッと手を握られてしまった。

 !?

 蓮君を見てもまだ眠っている。でもさっきまでの寝顔とは少し違う気がした。

 何か、すごく寂しそう……。

 私はゆっくり蓮君の手を手で包んでみる。その手はとても温かかった。私は蓮君の手からゆっくり放してから、蓮君の肩をポンポンと叩く。


「……蓮君、起きて。蓮君、蓮君」

 蓮君は勢いよくガバッと体を起こす。私は、ニコッと笑ってよく寝てましたねと言う。

 さっきのことは言わないでおこう。

 蓮君は窓の方を見てから、私を見る。まだ寝ぼけているのか、ボーっとしている。


「ごめん、寝ちゃってた。もしかして、僕のせいで帰れなかった?」

 まだ酔っているのか、蓮君はだるそうに片手で頭を支える。私は笑顔を見せながら首を横に振る。

 正直悪いのってお父さんだし……。


「大丈夫ですよ。今終わったところです。あ、そういえば、父さんが次はもっと話しながら飲みたいって……」

 私の言葉に反応して、蓮君はガタッと勢いよく立ち上がる。ぱっちりと目が覚めてしまったようだ。私は驚いて、ついビクッと肩を上げてしまった。

 ビックリした……。


 蓮君は戸惑った顔で私を見た。

「え、あの、菫。銀之助さんって菫のお父さんなの?」


「はい、そうですよ。」

 私が頷くと、蓮君ははぁ、と深いため息をついてそっかと呟いた。


「父さんは、いつも昼はここで食べるんです。心配だ、とか言って」

 私は少し苦笑いを見せる。蓮君は、そうなんだと言ってクスクスと笑う。

 全然心配することなんてないのに。お父さんはいつまで私を子ども扱いするんだろう。


「ほら、お2人さん。さっさと帰り―や」

 秋さんは料理を持ってきたついでに、私たちに声をかける。私たちは、はーいと返事をして店の出口に向かう。私が先に店から出て、振り返ると秋さんが蓮君を引き止めていた。蓮君はチラッと私の方を見た。

 どうしたんだろう?

 私は首を傾げると、蓮君は秋さんに笑いかけて何かを言った。

 何を話していたんだろう。

 蓮君を見上げると優しく笑いかけてくれた。その笑顔で、何故かまぁいいかと思ってしまう。


「じゃあ、帰りましょうか」

 蓮君が店の戸を閉めると私は、少し首を傾けて小さな笑顔を見せてみる。蓮君は私の左隣にさりげなく駆け寄ってくれる。


「送るよ。暗くなってきたし」

 蓮君がニコッと笑ってみせると、私はありがとうございますと言う。

 あれ? 何でだろ。いつもなら申し訳ないからとか思って、断るのに……。今、一緒に帰りたいだなんて……。

 ちらっと蓮君を見ると、蓮君も私を見ていて目が合ってしまった。私はパチパチとまばたきをするとさっと目を逸らす。

 恥ずかしくて逸らしちゃった! どうしよう、傷ついちゃったかな? 何で逸らしちゃうの? 今の私おかしいよ。


 私が何を話せばいいか分からなくても、蓮君は話を盛り上げてくれる。どうでもいいはずの話でも、真剣に聞いてくれるし、楽しそうに笑ってくれる。蓮君が笑うたびにもっと話したくなる。蓮君と話すのは本当に楽しい。こんなに自然に笑えるのはいつぶりだろう。


 蓮君と話すのは、とても楽しくてすぐに時間は過ぎてしまう。


「ここ、私の家です。今日は、本当にありがとうございました」

 私の家の前につくと、私はペコリと頭を下げる。蓮君はいえいえ、と笑いかけてくれる。

 本当はもう少し話したいけれど、蓮君ももう帰らなきゃいけないもんね。家がもっと遠かったらよかったのに……。

 私は少し寂しく感じたけど蓮君に会釈をすると、家の中へ向かう。


「菫、ちょっと待って!」

家の中に入ろうとしている私を、蓮君は何かを決意したような表情をして引き止める。私は少し驚いた顔になってしまう。蓮君はグッと目を瞑り、少し手が震えているように見えた。

 蓮、君? どうしたんだろう。


 蓮君は少し悲しそうな表情で私を見る。

「ごめん、菫!僕、君に嘘をついているんだ」

 首を傾げてしまっている私を蓮君はしっかりと見つめている。

 嘘?


「僕は、本当は君とは初めましてじゃない。1度だけ会ったことがあるんだ。菫にも、……健太郎にも。」

 蓮君の口から健太郎が出てきたことに少し驚いてしまって、自然と手が反応してしまう。

 蓮君と私たちが会ったことがある? 

 私の反応に蓮君は申し訳なさそうに少しうつむいた。そして、ゆっくりと口を開く。


「僕と菫たちが出会ったのは1年くらい前……」


 蓮君は1年前の私たちとの出会いについて話してくれた。足を怪我をして、何も食べられなくて飢え死にしそうな蓮君を私たちが魚を分けてあげた。そして、足も治した。それから、蓮君は私たちを見守るようになって、笑わなくなった私にまたってほしかったという話だった。


「……だから、僕は君に、菫に会いに来たんだよ」

 蓮君はすべて言い終わると、不安そうに私に笑いかける。私は目を見開いてしまう。

 蓮君が話してくれた出来事は、記憶に残っている。確かにあったことだ。でも、私たちが助けたのは人間ではなかった。狐だ。健太郎が散歩から帰ってきたと思えば、その狐を抱えていた。

 じゃあ、もしかして……。


「待って、蓮君。それじゃあ、あなたは……」

 驚いた顔の私に蓮君はふぅと息を吐きながら悲しそうに笑顔をみせる。


PON!


 音と共に煙が少し出る。蓮君を見ると、耳と尾だけ出して羽織の袖に手を入れていた。私は、驚いて何度もまばたきをしてしまう。

 じゃあ、蓮君は本当にあの時の狐? それだけじゃない、毎日店の前に来ている狐なの? 

 蓮君の目を見ると、あの狐と同じ茶色の目をしていた。とても優しい瞳。その目で蓮君はずっと見守ってくれていた。


『 わらって、よ』

 

 これは私をいつも見守ってくれていた蓮君だからこその言葉。

 何で、あなたはそんなに優しいの?


「ごめん、菫。ごめんね。君を騙すようなことをして。でも、僕はこれからもずっと菫のことを見守りたい。だって、菫は僕の恩人でずっと幸せでいてほしい人で、大好きな人だから……。嫌だったら言って? 菫が嫌なら止めるから」

 蓮君が首を少し傾げて私を見る。

 何でそんなことを言うの? 私は今まで蓮君にずっと支えられてた。狐の蓮君を見て、今日も頑張ろうとも思えた。悩み事があっても、蓮君のおかげで解決できたこともあった。蓮君が見守ってくれていたから、少し辛いことがあっても笑うことができていた。

 嫌だなんて絶対にない、そう言いたかったけど声が震えそうで声は出さずにブンブンと首を横に振る。私を見て、蓮君は安心したように微笑む。その笑顔は私を優しく包んでくれる。何故か少し胸が締め付けられる気がした。


「ありがとう。今日はとっても楽しかった。菫を元気づけるために来たのに、僕の方がいっぱい楽しんじゃった。また、来たいな……」

 蓮君は頭を掻きながら恥ずかしそうに、でも無邪気に笑う。

 私も楽しかった。蓮君に会えてよかった。また話したい。もっと蓮君のこと知りたい。

 そう思っていると、勝手に体が動いてしまう。


「また、来て! またご飯食べに来て! お話しよ! 次はもっと、もっと蓮君のこと教えて!!」

 私は蓮君の両手を包み込むようにキュッと握る。蓮君は少し驚いた顔を見せたが、すぐに嬉しそうに笑ってくれる。


「うん、分かった。また遊びに行く。菫にこの姿で会いに行くよ」

 蓮君の言葉で私はパァッと表情が明るくなる。

 やったっ!!


 ギギギギ……


 掛けられていた扉の鍵が壊れ、扉の小さな隙間から光が差し込んでくる。


「じゃあ、今日は帰るね。バイバイ」


BON!!


 蓮君は軽く手を振ると完全に狐に戻って林の中へと入っていく。私も蓮君が見えなくなるまで、手を振って見送る。

 蓮君、今日は本当にありがとう。あなたに会えて良かった。また会ったらちゃんと言葉にして言いたいな。

 私は深呼吸をしてから、家の中に入る。


「ただいま!」


 明日、いつもの場所、蓮君来てくれるかな?


 

爽やかな風が吹き、温かい日の光が照り、今日もいつも通り街はワイワイとにぎわっている。今はもうすぐお昼の時間。もうすぐあの子がここに来る。「秋」という私が働いている飲食店の前の草の茂み。茂みの陰から、いつも通り茶色の目をした狐の蓮君が顔を出す。


「菫、ちゃんと働いてるか?」


「うん、もちろん!」

 お父さんが昼食を食べに来た。

 相変わらず来るの早いなぁ。

 「秋」には次々とお客さんが来て、店に入っていく。私も店の前の掃除が終わるといつもなら店に入る。私は箒を片付け始める。

 いつもならこれで終わりなんだけど、今日はすることがもう一つ。

 蓮君はくるっと方向転換をして林の中へ戻ろうとしている。私は急いで蓮君の方に行く。すると、蓮君は首だけ振り返ると、私を見て目を見開いた。


「また明日ね、蓮君。いつも見守ってくれてありがとう」

 私はしゃがんで蓮君と目線を合わし、ニコッと笑うと立ち上がって仕事へと戻って行った。私は店に入り、ピシャンと戸を閉めるとふぅ、とため息をついた。鼓動が早い。顔が熱い。蓮君の笑顔が頭から全然離れない。そっと胸に手を当てる。


 ドクンドクン


 そう、これはきっと恋の音。


 ギイィィィー!


 恋の音と共に扉が開く音が聞こえ、世界が明るくなったのが分かった。



これで狐編は終了です。

ありがとうございました!

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