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アニラブ-animal love-  作者: もふじ
第1章 狐編
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狐編 上ーanother storyー

狐編の菫視線です!

「いらっしゃい!」

 私はいつも昼から夕方まで「秋」という飲食店で働いている。この仕事は私に合っていて毎日楽しく働いている。

 私は最初の仕事がすごく好き。その仕事は、店の前を箒で掃き、それをしながらお客さんの呼び込みをすること。呼び込みだけじゃなく、この町の人とは皆顔見知りだから世間話もよくするというのが理由の1つ。もう一つが……。


 ……あ、今日も来てる。


 私は店の向かいにある林を見る。少しだけ背の高い草の茂みに綺麗な茶色い目を持った狐がこちらをじっと見ている。

 か、かわいい!なでなでしたい。でも、隠れているんだし、近づいたら逃げちゃうか……。

 私は狐の可愛さについ笑みがこぼれる。そう、最初の仕事が好きなもう1つの理由は可愛い狐が見れるから。

 よーし! やる気が出てきた!! 今日も、頑張るぞ!

 私はさっさと箒で砂やほこりを掃き、辺りを綺麗にする。でも、掃き終わると深いため息が出る。今の私には、1つ心配事がある。

 それは、私の幼馴染の健太郎について。健太郎は少し前から、戦に出ている。健太郎は13くらいの頃からの私の想い人。家が隣で、同い年で一緒に成長していく私たちは、自然と一緒にいることが多かった。兄妹みたいな関係で喧嘩をするときもあった。そんな仲だったから、健太郎は私を妹としか思ってないと思っていたんだけど……。


 「秋」での仕事が終わって、空も町も茜色に染まっていた帰り道で健太郎は私を真剣な目で見つめた。


『お前は俺のこと、ただの兄妹としか思ってないかもしれない。でも俺は、菫が好きだ。愛してる』

 いつも笑っている健太郎が、少し不安そうに私を見ていた。

 

 健太郎からの告白を、断るわけないでしょ。健太郎の……バカ。

 あの時のことは絶対に忘れない。思い出していると、ボンっと顔が赤くなる。

 はわわわわ! 何1人で赤くなってるの!?


「菫ちゃん、掃き終わったら、こっちも手伝ってちょうだい!」


「は、はーい」

 私はぶんぶんと首を振り、箒を片付けて店に入る。


 早く帰ってきてね、健太郎。



  でも、現実はそう上手くいかなくて……。


「うそ……。うそよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 家に、健太郎が死んだという知らせが入ってきた。私はその知らせを聞いた玄関で泣き崩れる。涙が止まらない。

 もう、立てないよ。


 健太郎、健ちゃん……。


 「秋」の仕事は、数日の間姉さんがしてくれることになった。私は、ずっと布団の中でうずくまる。ずっと健太郎の顔が浮かび出てくる。黒髪と少し茶色が入った優しい瞳。私の大好きな健太郎。

 いつも見せてくれていたあの笑顔、喧嘩した時の怒った顔、私にだけ見せてくれた真っ赤な顔も、優しい微笑みも……。忘れるなんて無理だよ。


 もう1度、会いたいよ。健太郎。


 姉さんも父さんもまだ休んでいいって言ってくれたけど、これ以上皆に迷惑をかけるわけにはいかない。

 それに、健太郎ならこんなに仕事休んだら怒るよね。

 「秋」に行くと、皆が優しくて泣きそうになった。


 でも


 大丈夫、ちゃんと笑えてる。


 私は、皆に笑顔を見せる。皆まで暗くなってしまうのは嫌だから。


 「菫ちゃん、買い出しお願いできるかしら?」

 秋さんは私に買い物かごを渡す。私はコクッと頷き、買い出しに行く。

 大根や人参などの野菜と、旬の魚などを買い終わり、「秋」に向かって歩く。この道は、いつも健太郎と一緒に歩いていた道。1人なんだと思うと、涙が出てきそうになる。

 私、こんなにも健太郎に支えられていたんだ。会いたいな、健太郎に。

 ボーっとして歩いていると、誰かにぶつかり、私は反動でしりもちをついてしまう。荷物は抱きしめていたから何とか無事のようだ。

 あ、危なかった……。


「す、すみません。大丈夫ですか?…っ!!」

 顔を上げると、黒髪でとても顔も体型も整った男の人が私に手を差し伸べ、顔を真っ赤にしている。

 男の人の綺麗な茶色の目は、印象に残る。

 わぁ、すごい綺麗な人。でも、この目の色どこかで……。気のせいかな?

 

「大丈夫です、ありがとうございます」

 私は男の人の手を取って立ち上がると、ニコッと笑ってみせる。

 私が立ち上がると男の人は驚いたようにパチパチとまばたきをすると、ブンブンと首を振る。

 どうしたんだろう。


「あの、お詫びにその荷物、僕が持つよ。重いでしょ、それ」

 男の人は、私が持っている荷物を指す。

 え?

 次は私がまばたきをしてしまう。私が抱きしめている荷物のことだと気づくのに、少し時間がかかった。私は慌てて首を振る。


「いえいえ、大丈夫です! 私がぼーっとしていたのが悪いので」

 私が困ったように笑うと、男の人は私が何を言うか分かっていたかのように小さくため息をついた。そして、男の人はじゃあ、と口を開いて、買い物かごの持ち手の片方を持つ。

 わっ!


「片方だけ、持たせてよ。僕が余所見していたのも原因の1つだしさ」

 男の人は私にふんわりとした笑顔を見せると、歩いていく。


「え!?」

 私はは驚いた顔を見せながら、男の人に引っ張られてついていく。

 そういえば、父さんが知らない男にはついて行くなって言ってったっけ?

 私は、ちらっと男の人を見上げる。前を歩いていて後ろ姿しか見えないが、耳まで赤くなっているのが分かった。

 大丈夫、かな?

 私はクスッと笑ってから、男の人の隣を歩き始める。


 隣りで歩いていると、男の人はバッと私を見る。

 え、何かしちゃったかな?

「えっと、菫ちゃん…たよね? 秋で働いている」

 男の人は緊張した様子で、私を見つめる。

 この町の人じゃないな。じゃあ、私のことを知ってるということは「秋」のお客さんか。でも、こんな人来てたっけ? お客さんの顔は忘れないのにおかしいな……。この人だけ忘れてたらどうしよう!!


「はい。秋にいらしたことありましたっけ?」

 私が、首を傾げると、男の人は顔を少し青ざめる。

 あれ、訊いちゃいけないことを聞いちゃったかな?


「い、いや、秋の前はよく通ってたから知ってるんだ。……それに、菫はずっと笑顔だったから覚えてるんだよ」

 男の人は、はにかんで頭をかく。そして少し顔を赤くして私から目を逸らした。その姿はまるで、健太郎にそっくりだった。


『菫はいっつも笑顔だから、俺はお前に惹かれる。……菫に目が行ってしまう』

 あの時の健太郎もはにかむと、今思えばいつからだったかなー、と照れ隠しをしながら目を逸らしていた。

 健、ちゃん?

 男の人は目線を私に戻すと、ぎょっと目を見開く。その後にかぁっと顔が赤くなっていった。その様子を見て、自分の顔が赤くなっているのに気付いた。

 あぁ! 何で赤くなってるの!? 


「ご、ごめんなさい。ちょっと、ある人のことを思い出しちゃって」

 私は自分の顔の前で片手をブンブンと振り、手を真っ赤な頬に持っていき、小さなため息をついたりした。

 はぁ、ダメだな。健太郎のことになるとすぐこれなんだから……。もう、会えないのに。


 うつむいていると男の人がひょこっと私の顔を覗き込んでくる。

「え?僕と話しているのに他の男のこと考えていたんだ」

 男の人は拗ねたように口を尖らさせた。


「え、えぇ!?」

 な、何で他の男の人って分かったんだろう。それより、え? どういうこと?

 私はあわあわと手を泳がせた。


「あはは、冗談だよ」

 男の人は楽しそうにクスクスと笑う。私は呆然と男の人を見る。

 じょ、冗談って……。本当に驚いちゃったじゃない!


「もう!」

 私は少し怒った表情を見せてみるが、男の人が笑っているのを見るとつい一緒に笑ってしまう。

 さっきまで少しもやもやしていたものが、何処かに飛んでいったような気がする。こうやって自然に笑えるの久しぶりだな……。


 2人で笑っていると、男の人はハッとして私の方を見る。

「僕、蓮っていうんだ。よろしくね、菫」

 「蓮」と名乗った男の人は少し照れながら笑顔を見せる。

 蓮、かぁ。私はどんな風に呼べばいいのかな? 見た目同じ歳くらいだから、蓮さんよりは蓮君? 


「…はいっ!よろしくお願いします、蓮君!」

 私も笑顔を見せる。蓮君は私の笑顔を見ると、安心したようなすごく優しい笑顔を見せた。そして蓮君はボソッと呟く。


  「少しずつでいいんだよ」

 え?

 私は蓮君の顔を見たけど、無意識に声にしていたみたいで私と目が合うと蓮君は首を傾げた。


 少しずつでいい。


 蓮君の独り言みたいだたけど、私の心には響いた。


 健太郎が急に手の届かないところに行ってしまって、とても悲しい。でも、ずっと泣いていると笑っていないと、皆が悲しそうな顔をするから私はずっと笑顔を絶やさなかった。でも、急がなくてもいいの? 少しずつ戻していけばいいの?


 ううん、やっぱり無理だよ。私は急いでしまう。だって皆の笑顔が好きだから。


 でも、その言葉は私を支えてくれる。その存在があるだけで、全然気持ちが楽になる。


 私は、あの時のような笑顔に戻れるかな…。

 

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